終着駅 もしくは 希望(スペランツァ)の物語(2021)

ろんど087

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第3話 魔女 Maga

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     ***


 夢が悪夢に変わったんだよね。

 天国から地獄。
 そんな言葉、実感としては全然わからなかったんだけど、あの時、わかった。
 まあ、そんな経験、したくないけども。
 思い出したくもないけども。
 あ、ごめん。
 大丈夫。ちょっと涙が出ただけだから。
 ふう。
 らしくないよね?
 うん、大丈夫。
 続けるね。

 祭りの翌日、だったかな。町を歩いていると声をかけられたんだよ。
 男の子たち三人。
 たぶん、大学生くらいじゃないかな。
 少しだけ、アブナイ雰囲気、不良っぽい雰囲気はあったんだけど、真昼間だったし、広場のど真ん中だったし、ジプシーでもなかったし……。
 だから、あたし、何かと思って話に乗っちゃったんだよね。

 彼ら、結構、話上手でね、あたしたち、近くのバルに行ったんだ。
 別に普通のバルだよ。
 どっちかと云えば『スペランツァ』のが、よっぽどいかがわしい雰囲気。
 昼間っから営業している普通のバル。
 けど、それがいけなかったんだ。

 そう云う意味では、あたし、まだこの町に慣れてなかったのかも知れない。
 この町がうわべとは違うものをその中に隠していることを、その時には思いもしなかったんだ。

 そりゃ、そんなの、この町だけじゃないだろうけども。
 ほら、だって絵描きさんの母国にしても、世界一治安が良いとか云われてるけど、年に何度も殺人事件だって起こっているだろうし、人の失踪だってあるだろうし、ギャングも――ヤクザ、とか云うんだっけ? そんなのもいるんだろうし……。
 だからどんな町でも油断しちゃ、いけなかったんだ。

 それは……。
 今だから云えることなんだけど。
 今さらだけど。

 ともかく、そんなこんなで男の子たちと意気投合しちゃったあたしはそのバルに入って行った。
 その時、あの夏祭りの話題になって、彼らもあたしのことを知っていて――それで、三人ともあたしのことを、すげー、あの時の人? おれ、ファンだったんだよ、な~んて、うまいこと云ってた。
 あたしも、バカだからそれに乗せられちゃってさ。
 昼間っから、ワイン、がぶ飲みしちゃったんだよ。
 それでも、こう見えても小学生の頃からテキーラとか飲んでたから、全然、酔っ払うなんて思ってもいなかった。

 けど。

 それが油断だったんだよね。

 どうやら奴ら、こっそりあたしの飲み物に薬を入れていたらしいんだ。
 気づいた時は後の祭りって奴?
 夏祭りの後の祭り……。
 まったく、馬鹿馬鹿しくて涙が出ちゃうよね。

 目を醒ました時、あたしは縛られて、薄暗い部屋のベッドに寝かされてた。
 あたまがボーっとしちゃっててさ。
 周りにあの三人がいた。

『目を醒ましたぜ』
 ひとりがそう云って、にやにや笑いながらあたしを見下ろしていた。
『んじゃ、まず、例の奴を射っちまおうぜ。兄貴からもらった奴』

 そいつは手に注射器を持っていた。
 あたしは縛られたまま必死に暴れたけど……。

 ……。
 ごめん、また涙が出てきちゃったよ。
 え? もういい? 無理しなくていいって?
 うん、ありがと。
 でもね、最後まで話をさせてよ。
 そうしなきゃいけないんだ、って、そう思うんだ。
 だってせっかく絵描きさんがあたしの絵を描いてくれるんだもん。
 あたしのこと、全部、知ってもらいたいから。 

 しばらくしたら、あたしを縛っていた縄が解かれたのがわかった。
 だけど、その時のあたしは注射された薬のせいで、ぼんやりしていて、もう動く気力もなかった。
 心の中では、このままじゃダメだ、と、思っていたんだけど、体が云うことを聞いてくれなかった。
 男たちがそんなあたしを見て納得したような顔をして、あたしの服を脱がせ始めたんだけど、あたしにはそれを拒絶する力もなくて、むしろ――今考えても嫌でたまらないんだけども――服を脱がされる時に、奴らの手が触れただけで頭の中が爆発しそうに気持ちが良くて……。

 その後はあんまり憶えていないんだ。
 それはそれで、不幸中の幸い、かな?
 憶えていたら、あたし、頭がおかしくなっていたかも知れない。

 断片的に、自分の上に被さって来る男の子たちの顔は記憶に残っているし、その時、自分が凄くいやらしい声を上げていたのをぼんやりと思い出すけども、それ以外はほとんど憶えていないんだ。
 次に気づいた時には、あたしは裸でベッドの上に寝転がっていて、体中が何だかべたべたして、吐き気がして、頭が痛くて、それで……裸の三人の男たちが、満足そうな顔であたしを見下ろしていた。

 それから――。

『どうする?』
 男のひとりが云ったんだ。

『このままにしとけないよな』
『……だよな』

 そんな相談をしていた。

 あたしはそれをまだ朦朧としている意識の中で、聞いているだけだった。
 ああ、あたし、こいつらに、と、思ったら、悔しさと悲しさといろんな感情が入り混じって、どうにもならなかったけれど、何故か涙は出てこなかった。
 もう、どうにでもなれ、って、そう思ってたよ。
 ほんと、バカだよね。
 そう思うでしょ、絵描きさん?
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