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第三章:パンゲア王国の危機

第二七話:美少女の許嫁と温泉に行こう!

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「ほらよ、しっかり味わって食えよ」
「すいません。お腹すいてるんで、もっとください」
「しかたねぇな、ほらよ」

 俺は炊き出しのシチューかスープのようなものを弁当箱に受け取った。
 食器かわりに使っていた奴だ。
 いい匂いだ。食い物の匂いがした。ダンジョン飯に比べれば、最高級の料理に思えた。
 だいたい、あれは人間の食う物じゃないし。

 俺は弁当箱に口をつけて、そのまま少し飲んだ。
「クソうめぇ…… 味がする」
 塩味が効いて旨かった。涙が出そうになった。

 俺は周囲を見た。クラスの奴らも「美味しい」と言いながら食っていた。中には、泣き崩れている奴もいる。
 まあ、あんだけクソまずい、モンスターのバケツ鍋だけを食い続けたのだ。今ならどんなものでも旨く感じるだろう。

 もちゃ、もちゃ、もちゃ――
 咀嚼音を響かせながら、エルフの千葉がやってきた。
 ハムスターのように口いっぱいにほおばっている。
 ガツガツと糞のようなダンジョン飯を食っていた千葉でも、さすがにこっちの飯の方が旨いのだろう。

「ふいおはったら、ふらふぇ、ひこふな!」
「口の中に物を入れて話すなよ。エルフが……」
 エルフとなった千葉が話しかけてきた。
 モチャモチャと口の中で咀嚼しながら話してくる。
 美しいエルフのこんな姿はあまり見たくない。中身が千葉だとしてもだ。

「シャラート」
「なんでしょうか?」
 
 長いサラサラ黒髪のお姉様。俺の許嫁1号のシャラートに俺は話しかけた。
 大きなおっぱいは地上で見るとまた、別の感慨があった。

「なあ、近くの村に温泉があるみたい――」
「本当ですか!」
 凄い勢いで食いついてきた。
「おう、俺は行きたいと、思ってるんだが、どうだ?」

「ひゃははははは! 温泉なのね! いいわね、すぐに入りたいのよ」
 エロリィが話に食いこんできた。
 金髪ツインテールが揺れる。じっと碧い眼で俺を見つめた。
 美しい少女というか幼女。まさしく「北欧幼女紀行」の表紙、グラビアレベルだ。
 ただ、その口の周りには食べかすがいっぱいついていた。食べ方は汚かった。
 彼女も俺の許嫁である。
 
「あはッ! いいね! 久しぶりに風呂入りたい!」
 ライサもやって来た。彼女も俺の許嫁。俺の周囲に許嫁連合が集結した。
 緋色の非対称の長い髪がキレイな、超絶美少女だ。
 でかい容器を持っていた。バケツだった。
 俺たちが使っていたバケツだ。「2-B」と油性マジックで書いてある。
 彼女は、これで飯を食っていたのだ。確か、2回列に並んでおかわりしていた。
 このスラリとした体のどこに消えるのか不思議だ。

「うむ、温泉といえば、絶対にラッキースケベのイベント発生だな」
『定番だわ―― ただ、アインの場合、もはやラッキースケベの段階を超えているわね』
 エルフの千葉とサラームだ。

 ビクンと、3人の許嫁がの言葉に反応した。
 千葉の方の言葉だ。 

「アイン、久しぶりに洗いっこしましょう」
 潤んだ瞳で俺を見つめるシャラート。
 俺の髪の毛を指でつまんできた。指先でもてあそぶ。

「ちょぉぉぉ!! なんですとぉぉぉ!!」
「はぁぁぁ!? なによ! それ?」
「なんだとぉ! てめぇ! 洗いっこ? 殺すぞ!」

 エルフの千葉、エロリィ、ライサが叫んだ。

「いや、だって、ほら、シャラートはメイドさんで、俺が小さい時の話だよ。2歳から5歳までの話だ」
「どれだけ、大きくなったか、お姉さんが確認してあげます―― 念入りに」
 シャラートが、俺のヤバい部分に手を伸ばしながら、フッと首元に息を掛ける。
 メガネの奥の瞳は完全に欲情モード。もはや、人目関係なしだった。
 
 ブヮン――
 
 凶悪な何かが風を切り裂き唸りを上げた。
 俺の眼の前を通過する。
 そして「ガッ!」と地面に食いこんだ。バットだ。釘バットだった。
 いつの間にかライサが釘バットを手にしていた。
 ファンタジー世界のヒロインが持つ武器としては、どーなのかと思う武器。
 メリケンサックと釘バットってチンピラごろつきだよ。
 月刊チャンピオンあたりの連載漫画じゃないんだから。

 釘バットが食いこんだ位置にさっきまで立っていたシャラートは既にそこにはいない。
 後方に飛んでかわしていた。
 その両手にはチャクラムが握られている。欲情モードから殺戮モードへの切り替えが終了していた。
 ペンギン凍死レベルの目でライサを見ている。
 この目で見つめられたバナナは釘が打てるレベルになる。

「てめぇ、ベロチュウだけじゃなく…… 風呂まで一緒か? 殺すぞ」
「私とアインは幼なじみで姉弟で許嫁の3冠王状態です――」
「なにが言いてぇんだ? 殺してやるから、その前に言え」
「身を引きなさい。そうすれば、命は助けます」
「誰に向かって、物言ってんだ? 死ぬか? このビッチがぁぁ!」

 次の刹那、2人が地を蹴った。 
 交差する2人。
 シュパーン。
 チャクラムを握った腕と釘バットを握った腕の軌道が逸らされていた。
 千葉だ。両手をクロスして飛んだ千葉が2人の間に入っていた。
 エルフとなった千葉が2人の間に入って止めていた。
 髪の毛で二人の腕をからめ取って、逸らしていた。
 「美少女は争ってはいけない――」
 荘厳なエルフの声が響く。心が清浄になる声音だ。
 千葉だけど。

『ああ、ナウ〇カのユ〇様じゃない…… なんという再現性…… さすがね』
『俺、「うる星〇つら」でこんなシーンあったなと思った』
『ああ、あったわね~ 竜〇介とオ〇ジと〇たるのシーンね』
『よく覚えているなぁ……』
『もう、どーでもいいから、早くアニメみたい!』
『待てよ、太陽充電システムだからな、今は無理だろ』
 すでに、日は沈んでいた。
 天が焼けるような残照だけがあった。

「てめぇ…… てめえから殺すぞ! クソエルフがぁ!」
「離しなさい、このバカの息の根を止めます――」
 ギリギリと音を立てて空間に殺意と暴力の匂いが充満してくる。

「まて、私の話を聞いて欲しい」
「話? なんですか?」
「ほう~ 言いたいことがあるのか?」
「エロリィちゃん!」
「ん、なによ?」

 両手を広げ、禁呪の準備をしていたエロリィが言った。
 彼女も戦闘態勢に入っていたのだ。
 すでに、全身から魔力光が立ち上がっていた。

「作戦だ! 作戦タイムだ! 許嫁連合集合!」
 ビシッと千葉が言った。
 なに、オマエしきってんの?
 
 俺の思いはガン無視で、4人は円陣を組んでなにか話し始めた。
 なに話してんだ?
 俺は残照の下、この光景を見つめていた。

 すっと、円陣が解かれた。

「行きましょう! 温泉の村に」

 シャラートが笑みを浮かべていった。
 他の許嫁たちもウンウンとうなづいてやがる。
 なにを言ったんだ? 千葉……

        ◇◇◇◇◇◇
 
「夜なのに明るい村だな」
 魔力を使った松明のような炎が道の脇に並んでいる。街灯みたいな感じだ。
 まあ、日本の夜ほど明るくはないが、真っ暗闇ということもない。
 歩くのには支障がなかった。
 結構、人がいる。

「お泊りかい? お兄さん! ウチの宿に泊まってくれ! 温泉でかいよぉぉ! ああ、こっちか? こっちもばっちり」
 小指を立てて、客引きをする村人だ。
 コイツだけではなく、道にそってびっしりと客引きがいた。
 この村は温泉の旅館街のようになっていた。村という表現が過小な感じで賑わっている。

「ああ! うちなんか、これだから! ね! こっちとまろうよ!」
 隣の建物の前で、客引きをしている男は、拳骨をつくり、親指を人差し指と中指の間から突き出していた。
 なんか、凄いサービスがあるんだろうなと思った。
 しかし、クラスメートを連れているのにそんな宿は無理っぽい。
 この人数で一度に全員泊まれる宿がいい。

 村は冒険者のキャンプから、それほど遠くないところだった。
 俺たちはすぐに到着した。
 クラスのメンバーと俺の両親と許嫁の美少女たちと。担任の池内先生も当然一緒だ。

 どうも金のある冒険者は、キャンプ地ではなくこの村にとまっているらしい。
 まあ、野宿よりはこっちの方がいいだろう。

「なあ、千葉。さっきの作戦ってなんだよ?」
 俺は前を歩くエルフの千葉に話しかけた。

 千葉がシャラートとライサのバトルを止めたのは感謝している。
 しかし、作戦というのが気になった。
「ああ、簡単な話だ」
「だから、なんだ?」
「俺はエロリィちゃんと仲良くしたい――」
「知っているよ」
「しかし、シャラートさんも、捨てがたい。あのおっぱいは凄い」
「てめぇ、あれは俺専用、予約済だ!」
「ああ、分かっている―― それに、ライサちゃんも凄まじい美少女だ」
「そうだな」
「俺は、オマエの許嫁として、全員が仲よくして欲しいのだ――」
 ぐっと力のこもった声だった。
 エメラルドグリーンの瞳が俺を見つめる。
「そ、そうか……」
「オマエだって、全員と仲良くしたいよな?」
「お、おお! したいぞ。絶対にしたい」
「そういうことだ。私の作戦とはそういうことだ」
「よー分からん」
「いいのだ。今は分からなくていいのだ」
 どうせ千葉は詳細を明かす気が無いのだろう。
 まあ、バトルにならないなら、それでいいか。

 俺は、空を見上げた。
 まるで、降ってきそうなほどの星だった。
 光りの川のようなものが、空にあった。
 空気がキレイなせいか、日本よりずっと星の数が多い。
 もしかすると、天体の位置が違うからかもしれないが。
 この世界にも、月のような衛星があった。
 地球と同じくらいの大きさに見える。 

「エロリィ、星の並びはどうだ?」
 エロリィも空を見上ている。
「うーん、転移が使えるまで、3日くらいなのよ。天測で現在位置も分かったし、大丈夫なのよ」
 星明りの下で金色のツインテールが、夜の闇の中にフォトンを拡散していた。
「そうか…… それまで、ここに滞在するかぁ」
 宿泊となると、問題は金である。しかし、金の心配は無かった。
 俺の母親のルサーナが持っていた。俺の親はセレブだ。

「おおおおお!! 魔王様じゃぁぁ! 魔王様の降臨じゃぁぁぁ! 御出になったぞ! 魔王様が!」
 声が響いた。
 池内先生を見て、村の住人が声を上げたのだ。ジジイだ。よろよろのジジイがすがりつくように池内先生の前に出た。

「あらあら、誰のことかしら? もう、わたしは『まおう』ではなく『まお』なのよ、うふ(ああん、そんな、いけないわ。でも、大人の女は誰でも魔の部分を持っているものなの
、どうしましょ、天成君に、教えてあげないとダメなの? 私が導いてあげないといけないのかしら、うふ)」

 デスコミュニケーションの権化である英語教師が内面描写をダダ漏れにする。

「なに? 魔王様? 魔王様だと?」「どこだ! おい! ご利益(りやく)があるぞ!」「ウチに来てくれ! 魔王様!!」と客引きから騒然とした声が上がる。
 池内先生の周りに客引きの人垣ができた。
 なんだこれ?

「おい、爺さん、なにこれ?」
 俺は、最初に飛び出してきた爺さんに訊いた。
 結構、良い身なりをした爺さんだ。

「古の言い伝えにある魔王様じゃぁぁぁ~、ダンジョンからお出になったのじゃぁぁ~、ご利益があるのじゃぁぁ」
 狂ったような目をして、絶叫するジジイだった。
 唾が飛び散る。
 首の筋が切れるほど、首を伸ばし、ブンブンと振っている。

「だから、なんだそれ? と訊いているんだが?」
 ビシッと、ジジイは指を差した。その先に、お土産物屋みたいなものがあった。温泉街に定番だった。
「あ…… これか?」
 そこには、焼き物の人形があった。金髪で角が生えて、ボンテージで、背中に羽があって、巨乳の人形。
 確かに、池内先生そっくりだ。

「タダでいいのじゃぁ!! 魔王様御一行はタダじゃ! ウチの温泉は村で一番でかいのじゃ! 全員泊まれるのじゃ!」
 ぐっと、魔王先生の手を握る。しわしわの手だ。

「あらあら、いいのかしら、どうしましょう? 天成君?(ああん、ほいほい誘いに乗ってしまう、軽い女と思われないかしら、ああ、天成君が誘ってくれるなら…… だめ、私は教師なのに、うふ)」
「いいんじゃないですかね。デカイしタダっていうなら」
 俺は先生の内面描写を無視して答えた。
 俺たちの宿が決まった。
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