イエス伝・底辺からの救世主! -底辺で童貞の俺に神様が奇跡の力をくれたんだが-

中七七三

文字の大きさ
9 / 44

9話:シモンっぽい弟子が出来た

しおりを挟む
 俺はカファルナウムをウロウロする。

「ああ、腹減った……」

 40日の絶食修行をしてから、逆に俺は空腹に弱くなった気がしている。
 俺は、漁師のいる湖畔に向かって歩き出した。
 なぜというに、食事をするためである。

 飯はガリラヤ湖の漁師が落していった、魚を拾って喰う。
 金が無いので仕方ない。
 漁師も黙認しているのだ。落ちた魚は売り物にならぬからだ。

 食物連鎖ヒエラルキーの中で、野良猫とニッチの座を争う存在。
 それが、今の俺。
 
 よく考えてみたら、底辺大工(テクトーン)だったときより生活水準が下がってるんじゃね? って思った。
 有名な預言者であるヨハネも主食はバッタだったし……
 どうなんだろうな、この生活……
 
 元々栄養失調ギリギリだった身体は、更に絞り込まれ、エッジが効いた骨と皮だけのようになっている。でも、魚は好きだ。
 
「俺も、あの物乞いと大差ないのかもしれんなぁ……」

 あの足の悪い物乞いのことを思った。
 なんか、怒りが消えている。腹の方が減って、今はそっちが最優先になっているからだと思う。
 よー考えると、 俺自身も、あのみすぼらしい物乞いと大差ない生活をしているわけだ。

 なんでだろう? この街は豊かなのだ。
 物は溢れている。人が分け合うには十分な量があると思うのだ。
 人の胃袋の大きさなど、金持ちも貧乏人も大差ない。
 
 つーか、どこに行っても、貧乏人はいるのだ。バッタくらいどこにでもいる。
 この街だってそうだ。一見栄えた街だが。貧乏人はいっぱいいる。

「よくばりが多いからだな。これは――」

 俺なりの結論だ。
 貧乏人が多いのは、豊かになった分をみんなで分け合うことがないからだ。
 だって、豊かな奴は、もっと豊かになりたいからだ。
 
 その点は学のない、元大工の俺でも分かる。
 大邸宅に住んで、良い物を喰っている奴らは、たいていロクなもんじゃねぇ。
 親から引き継いだ、財産やら地位やらを独占してやがるのだ。クソだ。

 大地主。
 金貸し。
 祭祀階級のやつら。
 
 こいつらは、言うだろう。
 貧乏なのは自己責任であると。
 しかし、古代ユダヤ社会では、自己責任を越えた社会の中で固定された貧困があるのだ。矛盾なのだ。

 だいたい、自己責任とか言う奴はクズ。
 古代ユダヤ社会に巣食うガンである。
 ローマ帝国の支配の中で同じユダヤ人を喰らっているクズなのだ。

「神に断罪されて、滅ぶべきである」

 思わず声にでる。心の言葉。

 俺が、底辺大工時代からずっと思っていたことだけどな。
 あの物乞いの男だって、この街の不平等な社会状況がなければどうなっていたのか?
 クソ野郎ではあるが、そうしなければ食っていけない現実もあるのだろう。

 とまあ、こんなこを考えつつ、俺はガリラヤ湖の湖畔まで来た。
 薄汚い。ボロ船が並んでいる。
 俺は船の周囲をさがす。落ちている魚がないかなって。

 多少痛んでいても、40日の断食を耐えた俺の消化器官は耐えきることができるのだ。
 野良猫が喰わない魚でも俺は喰える。さすが、神の子だった。 

「ないな…… 魚がないな…… なんで?」

 今日は魚が落ちてないのだ。
 これは困る。
 俺は落ちている魚が主食なのだ。いや、命綱。無ければ、生命の危機になる。

「おい、なにしてんだ? 兄ちゃん?」

 俺に声をかけてきた者がいた。
 ボロくさい船の上で、網をかたずけている男だ。
 仕事はもう終わりってのが分かる。
 
「いや、救いを求めている魚がいるかぁなって思って探してた」

 俺は言った。俺が魚を拾って食べるということはそういうことなのだ。
 神の救いである。だって、魚は人に食われるために神が作ったから。

「魚は落ちてねーよ。今日はダメだな。全然とれねぇ」

「マジか?」

「マジだよ。ダメだな」

 気さくな感じで俺に話しかけてくる漁師。
 若禿げで、妙に鼻のデカイ男だった。

「あんた、最近、街中で説教している預言者かい?」

「うーん…… まあ、似たようなもんだな」

 俺は預言者なのかどうか、自分でもよく分からん。
 神の子らしいが、最近は、主と交信ができていない。
 まあ、パパも忙しいんだろうとは思う。

「マジで魚いないのか?」

「今日は全然ダメだな。仕事にならねーよ」

 男は苦笑いする。
 
「困ったな……」

 俺の腹が鳴る。ぐーって鳴る。

「最近は獲れる魚も減ったな。まあ、獲りすぎなんだよな。欲かきすぎだぜ」

「ほう」
 
 なるほど、乱獲によって漁獲量が減っているということか。
 まあ、大消費地のティベリアスがあるのだからな。
 そういう事態もあるだろう。

 で、俺は良いことを思いついた。

「なあ、俺が魚を獲ってきていいか? 網かしてくんね?」

 周囲には、人がいない。いるのはこのハゲで鼻の大きい漁師だけ。
 
「なに? おまえさんが、獲るの? 魚を?」

「まあ、獲れると思うんだけど。なんか、獲れる気がする。網があれば」

「漁師なめんなよ。そんな簡単なもんじゃねーよ」

 ムッとして男は言った。
 
「ダメか?」

「まあ、やるなら勝手にやってみな。ほらよ」

 そう言って、漁師は俺に網を渡した。

「船を使うのかい? だしてやってもいいぜ。どうせ、獲れねぇだろうけどよ」

「いや、俺には必要ねーよ」

 そう言って俺は、ガリラヤ湖に足をふみいれる。
 水面で足が止まる。俺は水面をトコトコと歩くのだった。
 神のくれた奇蹟の力だ。

「え!! マジか!! マジかよぉぉ!! すげぇぇ!! 魔法か? おまえさん、魔術師なのか!」

「奇蹟だよ。神の奇蹟――」

 俺は言った。でもって、適当なとこで、網を放り投げた。
 で、引き上げる。
 やっぱりだった。網には魚がいっぱいかかっている。
 人を救うことが出来るならば、魚をすくうことができないはずがないのだ。

 俺は戻って、魚ごと漁師に渡した。

「すげぇ、すげぇ! なあ、おまえさん、何て名前なんだい?」

「イエス。ナザレのイエスだよ」

「あ、俺は、漁師のシモンっていうんだ。ペドロでもいい」

 目をキラキラさせながら、シモンとかペドロと名乗った漁師は俺を見ている。
 なんか、いけるんじゃね?
 コイツを俺の弟子にできるんじゃね?

「なあ、魚獲るより、いいことやらねぇか?」

「え? なんだい? それは?」

「この世界を変える。救うのさ。人間をとる漁師になるんだよ」

「人間をとる漁師……」

 ハゲで鼻デカの漁師は網を持って固まった。
 頭があまりよくないので、理解できないのか?

「俺の弟子になれってことだよ」

「おい! アンデレ! アンデレ! 起きろ!」

 男は船の中で声を上げた。なんだ? もうひとりいたのか?
 むっくりと起きあがった男。
 でかいな。
 アンデレ・ザ・ジャイアントって名前か?

「なんだい? 兄ちゃん?」

「なんか、面白いぞ。なあ、弟子になれってさ」

「へえ、面白いならいいよ」

 兄弟か?
 漁師の兄弟だ。

「なあ、いいぜ。面白そうだし、こんなクソみたいな漁師つづけるより楽しそうだ」

「よっしやぁぁ!!」

 俺はグッと拳を握る。

 俺に弟子ができたのであった。
 
 美少女ではない。
 ハゲで鼻のデカイ男。それに、なんか「アンデレ・ザ・ジャイアント」て感じの男。
 でも、まあ悪くはない。

 これが、俺の底辺からの成り上がりが始まる、その一歩なのだから。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~

bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

処理中です...