イエス伝・底辺からの救世主! -底辺で童貞の俺に神様が奇跡の力をくれたんだが-

中七七三

文字の大きさ
10 / 44

10話:会堂(シナゴーグ)でデビュー! メジャー路線へ

しおりを挟む
「神の国が来るぞ、来るぞぉぉ! マジ! マジだぁぁ! マジで来るぜぇ! オマエら裁かれるんだよよぉぉ! バカ! 悔い改めるんだぁ! 神に祈れ! 魂の救済のために俺はここにいるのだぁ!! イエーイ!!」

 ガリラヤ湖から吹く風にのって、俺の説法が鳴り響く。

 俺は、なんか説法にも慣れた。街中での街宣活動は結構好調になってきた。
 やはり、弟子ができたという部分で自信ができたのかもしれんなぁと思う。
 人の上に立つということは、人を成長させるものだ。

 弟子たちは、俺の説法を聞いている。
 元漁師のペドロ(シモン)とアンデレの兄弟。
 それと何人か。全員、貧乏人つーかならず者みたいな面構え。

 それでも、弟子たちが聞いているので、何人かが立ち止って聞くことも多くなった。
 ときどき、食べ物とかお金をくれることもある。マジ、ありがたい。
 食物連鎖ヒエラルキーで、野良猫と地位を争うところから脱したのである。さすが俺。神の子。

 しかし、俺の話を聞いているのは貧乏人が多い。貧乏人の集会のようだ。
 当たり前だ。現状に満足してないから、神の国を望むのだ。
 神の国がきて、全部チャラになればいいと思うのは貧乏人だ。死ね金持ちなのである。

 でも、時々金持ちもくる。
 金持ちの中にも「今の古代ユダヤ社会って、ちょっとまずいんじゃね?」って思っているのもいるんだ。
 ヨハネの洗礼を受けにきた金持ちだっていた。ヨハネは「毒蛇! 死ね!」といって追い払ったが。
 俺は違う。それはしない。大いなる愛で受け入れる。

「先生、金持ちの家の前で、大声で説法したら、結構お金くれますね」

 弟子のペドロが言った。鼻の大きいハゲ。生際が後退しているハゲ。

「そうだなぁ。俺の説法の説得力だろうなぁ~」

「さすがですぜ、先生!」

 最近分かったというか、説法にはコツがある。
 まず、金を持ってそうな家の前で大声で説法をすることだ。絶叫だ。渾身の絶叫。
 そうすると、なぜか金持ちの家の者が金をくれる。

 使用人らしき者が来て「どうか、これをお納めして、もっと広く、そのお言葉を伝えてください。ここは十分です」と褒めてくれる。
 とりあえず、金はいるのでもらって他に行く。
 これを繰り返すのである。

 しかし、所詮は富める者である。本当に神のありがたさを分かっているかは疑問なのだ。
 どうも底辺大工の時代から、俺は金持ちが嫌いなのだった。
 俺が本当に救いたいのは、社会的弱者な。マジで。これは本当だ。

「イエス先生、こんどはどこで、街宣活動しますかね?」
「まだ、回ってない金持ちの家はありますぜ! 先生」
「オレ、ハラ減った」

 弟子たちが俺に言うわけだよ。もう俺は先生(ラビ)と呼ばれている。
 底辺大工(テクトーン)から先生(ラビ)にクラスチェンジ。
 
「先生、もうこの街の会堂(シナゴーグ)でぶちかましましょうぜ! 先生の説法を!」

 俺の最初の弟子。漁師のシモン(ペドロ)が言った。
 なんか、シモンというと頭の中に「まさと」って浮かぶのだけど、意味が分からない。
 だから、今後はペドロとよぼうかなと思う。意味不明だけど。

「そんなの、貸してくれるの? 俺たちに」

「会堂長のヤイロが、先生にぜひ来てほしいって言ってましたぜ!」
 
「マジ?」

「マジですぜ、先生!」

「マジかぁ……」

 会堂長のヤイロといえば、金持ちでなのである。

 会堂(シナゴーグ)というのはユダヤ教の教会なのである。
 でかい街のシナゴーグであれば、市民文化ホールくらいな感じなのだ。2000年後くらいの感覚では。
 実際に、地域のコミュニティの中心なのだ。

 大都市カファルナウムのシナゴーグで説法をする。
 それは、2000年後の人間にも分かりやすく表現するならば「船橋市民文化ホールで独演会」レベルであろうと思う。
 なぜ、俺はそんな例えをしているのか、よく分からん。

 で、その管理をしているのがヤイロなのだ。
 ユダヤ社会の中でもそれなりに地位を持っている人間。
 ブルジョア階級。以前の俺なら絶対に口を聞ける人間ではない。

「凄いな、俺――」
「凄いですぜ、先生は」

 ちょっと、ウキウキな俺。
 しかしだ。まてよ……

「人集まるのか? 結構広いだろ? 会堂は」

「先生の説法なら、フルハウスで間違いなしですぜ! 立ち見でますぜ!」

「そうかぁ」

 確かにそうかもしれん。

「先生の説法は、シャウトがビンビンでノリノリですよ。イケイケでガンガンですぜ!」

「さすが、俺の弟子だな。よく分かっている」

「へへへへ、先生に褒められると照れちまうぜ。なあ、アンデレ」

 ペドロは弟のアンデレに同意を求めた。アンデレと「ヤンデレ」は似ているなと思った。
 でも「ヤンデレ」とはどんな意味なのか分からない。不思議だ。

「ハラ減った」

 アンデレは言った。コイツ2メートル30センチはあるんじゃないかと思う。

「しゃーねな。飯でも食いながら、話そうか」

 俺はそう言ったのである。
 俺の会堂(シナゴーグ)説法デビューに向け話を詰めるのだ。
 俺はやる気満々なのであるけどね。

        ◇◇◇◇◇◇

 パンを買って、弟子に分け与える。

「いいか! 3秒以内に食えよ。増えるからな! 増えたら、食えよ、絶対に残すなよ」

 俺は買ってきたパンを増やす。奇蹟の力だ。
 しかし、倍々ゲームで増える。食うと止まるのだ。
 もし、残すとそれが倍々に増えて、惨劇を招く。だから、増えた食べ物は絶対に残せない。

 パンが分裂して増えていく。
 弟子たちは最初はおどろいていたが、今は慣れたようだ。
 どんどん、増える。

「食え! 食うんだ! 残すな!」

 俺が言うと、一斉に弟子たちがパンを喰う。
 3秒以内に食わないと増える。

「がぁああ!! ああああ!!」
「ペドロどうした!!」

 ペドロが喉を押さえて悶絶。急いで食ってパンを詰まらせたようだ。
 突き抜けた青空のような顔色になって、痙攣しだした。

 俺は奇蹟の力で、のどのつまりを治す。しかし、秒数が経過――
 パンが増える。ヤバい!! 

「アンデレ! 頼む! 食うんだ! 全部、食え!」

「分かった。イエス先生」

 アンデレが一気に、増殖したパンを喰った。助かった。
 無学で底辺の俺だが、この奇蹟は一歩間違えると、この世界を破滅させるんじゃないという予感がある。
 ただ、全員を喰わせる金がないので、奇蹟に頼るしかないのだ。

「うーん。やはり金がいるな……」

 俺は思った。弟子をとれば弟子を食わさねばならない。
 人はパンのみに生きるわけではないが、パンが無いと死ぬのも真実だ。
 40日の絶食修行で思い知っている。

「もっと、金持ちの家の前で、説法しますか? ガンガンに」

 弟子のひとりが言った。

「いや…… やはり、会堂デビューしかねーだろ。実際」

「メジャー路線っすか?」

 ちょっと、不服そうに弟子のひとりが言った。

「ダメか?」

「なんか、先生が俺たちだけの先生じゃなくなりそうでな……」

 嬉しい言葉であった。しかし、俺には使命があるのだ。
 神の子として…… なんだっけ? 「人類救済計画?」それをやらねばならん。
 だから、デビュー。一気にメジャー路線に乗る。

「せ、先生は、俺たちだけで独占できるような器じゃないぜ……」

 パンをのどに詰まらせ、死にかけたペドロが言った。
 他の弟子たちも、それはそうかなという空気になる。
 よし、ここで俺がビシッと言うのだ。 

「よし! やるぜ! 会堂(シナゴーグ)デビューだ! 俺の説法でユダヤの大衆を救ってやるぜッ!」

 俺は力づよく宣言したのであった。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~

bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

処理中です...