イエス伝・底辺からの救世主! -底辺で童貞の俺に神様が奇跡の力をくれたんだが-

中七七三

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10話:会堂(シナゴーグ)でデビュー! メジャー路線へ

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「神の国が来るぞ、来るぞぉぉ! マジ! マジだぁぁ! マジで来るぜぇ! オマエら裁かれるんだよよぉぉ! バカ! 悔い改めるんだぁ! 神に祈れ! 魂の救済のために俺はここにいるのだぁ!! イエーイ!!」

 ガリラヤ湖から吹く風にのって、俺の説法が鳴り響く。

 俺は、なんか説法にも慣れた。街中での街宣活動は結構好調になってきた。
 やはり、弟子ができたという部分で自信ができたのかもしれんなぁと思う。
 人の上に立つということは、人を成長させるものだ。

 弟子たちは、俺の説法を聞いている。
 元漁師のペドロ(シモン)とアンデレの兄弟。
 それと何人か。全員、貧乏人つーかならず者みたいな面構え。

 それでも、弟子たちが聞いているので、何人かが立ち止って聞くことも多くなった。
 ときどき、食べ物とかお金をくれることもある。マジ、ありがたい。
 食物連鎖ヒエラルキーで、野良猫と地位を争うところから脱したのである。さすが俺。神の子。

 しかし、俺の話を聞いているのは貧乏人が多い。貧乏人の集会のようだ。
 当たり前だ。現状に満足してないから、神の国を望むのだ。
 神の国がきて、全部チャラになればいいと思うのは貧乏人だ。死ね金持ちなのである。

 でも、時々金持ちもくる。
 金持ちの中にも「今の古代ユダヤ社会って、ちょっとまずいんじゃね?」って思っているのもいるんだ。
 ヨハネの洗礼を受けにきた金持ちだっていた。ヨハネは「毒蛇! 死ね!」といって追い払ったが。
 俺は違う。それはしない。大いなる愛で受け入れる。

「先生、金持ちの家の前で、大声で説法したら、結構お金くれますね」

 弟子のペドロが言った。鼻の大きいハゲ。生際が後退しているハゲ。

「そうだなぁ。俺の説法の説得力だろうなぁ~」

「さすがですぜ、先生!」

 最近分かったというか、説法にはコツがある。
 まず、金を持ってそうな家の前で大声で説法をすることだ。絶叫だ。渾身の絶叫。
 そうすると、なぜか金持ちの家の者が金をくれる。

 使用人らしき者が来て「どうか、これをお納めして、もっと広く、そのお言葉を伝えてください。ここは十分です」と褒めてくれる。
 とりあえず、金はいるのでもらって他に行く。
 これを繰り返すのである。

 しかし、所詮は富める者である。本当に神のありがたさを分かっているかは疑問なのだ。
 どうも底辺大工の時代から、俺は金持ちが嫌いなのだった。
 俺が本当に救いたいのは、社会的弱者な。マジで。これは本当だ。

「イエス先生、こんどはどこで、街宣活動しますかね?」
「まだ、回ってない金持ちの家はありますぜ! 先生」
「オレ、ハラ減った」

 弟子たちが俺に言うわけだよ。もう俺は先生(ラビ)と呼ばれている。
 底辺大工(テクトーン)から先生(ラビ)にクラスチェンジ。
 
「先生、もうこの街の会堂(シナゴーグ)でぶちかましましょうぜ! 先生の説法を!」

 俺の最初の弟子。漁師のシモン(ペドロ)が言った。
 なんか、シモンというと頭の中に「まさと」って浮かぶのだけど、意味が分からない。
 だから、今後はペドロとよぼうかなと思う。意味不明だけど。

「そんなの、貸してくれるの? 俺たちに」

「会堂長のヤイロが、先生にぜひ来てほしいって言ってましたぜ!」
 
「マジ?」

「マジですぜ、先生!」

「マジかぁ……」

 会堂長のヤイロといえば、金持ちでなのである。

 会堂(シナゴーグ)というのはユダヤ教の教会なのである。
 でかい街のシナゴーグであれば、市民文化ホールくらいな感じなのだ。2000年後くらいの感覚では。
 実際に、地域のコミュニティの中心なのだ。

 大都市カファルナウムのシナゴーグで説法をする。
 それは、2000年後の人間にも分かりやすく表現するならば「船橋市民文化ホールで独演会」レベルであろうと思う。
 なぜ、俺はそんな例えをしているのか、よく分からん。

 で、その管理をしているのがヤイロなのだ。
 ユダヤ社会の中でもそれなりに地位を持っている人間。
 ブルジョア階級。以前の俺なら絶対に口を聞ける人間ではない。

「凄いな、俺――」
「凄いですぜ、先生は」

 ちょっと、ウキウキな俺。
 しかしだ。まてよ……

「人集まるのか? 結構広いだろ? 会堂は」

「先生の説法なら、フルハウスで間違いなしですぜ! 立ち見でますぜ!」

「そうかぁ」

 確かにそうかもしれん。

「先生の説法は、シャウトがビンビンでノリノリですよ。イケイケでガンガンですぜ!」

「さすが、俺の弟子だな。よく分かっている」

「へへへへ、先生に褒められると照れちまうぜ。なあ、アンデレ」

 ペドロは弟のアンデレに同意を求めた。アンデレと「ヤンデレ」は似ているなと思った。
 でも「ヤンデレ」とはどんな意味なのか分からない。不思議だ。

「ハラ減った」

 アンデレは言った。コイツ2メートル30センチはあるんじゃないかと思う。

「しゃーねな。飯でも食いながら、話そうか」

 俺はそう言ったのである。
 俺の会堂(シナゴーグ)説法デビューに向け話を詰めるのだ。
 俺はやる気満々なのであるけどね。

        ◇◇◇◇◇◇

 パンを買って、弟子に分け与える。

「いいか! 3秒以内に食えよ。増えるからな! 増えたら、食えよ、絶対に残すなよ」

 俺は買ってきたパンを増やす。奇蹟の力だ。
 しかし、倍々ゲームで増える。食うと止まるのだ。
 もし、残すとそれが倍々に増えて、惨劇を招く。だから、増えた食べ物は絶対に残せない。

 パンが分裂して増えていく。
 弟子たちは最初はおどろいていたが、今は慣れたようだ。
 どんどん、増える。

「食え! 食うんだ! 残すな!」

 俺が言うと、一斉に弟子たちがパンを喰う。
 3秒以内に食わないと増える。

「がぁああ!! ああああ!!」
「ペドロどうした!!」

 ペドロが喉を押さえて悶絶。急いで食ってパンを詰まらせたようだ。
 突き抜けた青空のような顔色になって、痙攣しだした。

 俺は奇蹟の力で、のどのつまりを治す。しかし、秒数が経過――
 パンが増える。ヤバい!! 

「アンデレ! 頼む! 食うんだ! 全部、食え!」

「分かった。イエス先生」

 アンデレが一気に、増殖したパンを喰った。助かった。
 無学で底辺の俺だが、この奇蹟は一歩間違えると、この世界を破滅させるんじゃないという予感がある。
 ただ、全員を喰わせる金がないので、奇蹟に頼るしかないのだ。

「うーん。やはり金がいるな……」

 俺は思った。弟子をとれば弟子を食わさねばならない。
 人はパンのみに生きるわけではないが、パンが無いと死ぬのも真実だ。
 40日の絶食修行で思い知っている。

「もっと、金持ちの家の前で、説法しますか? ガンガンに」

 弟子のひとりが言った。

「いや…… やはり、会堂デビューしかねーだろ。実際」

「メジャー路線っすか?」

 ちょっと、不服そうに弟子のひとりが言った。

「ダメか?」

「なんか、先生が俺たちだけの先生じゃなくなりそうでな……」

 嬉しい言葉であった。しかし、俺には使命があるのだ。
 神の子として…… なんだっけ? 「人類救済計画?」それをやらねばならん。
 だから、デビュー。一気にメジャー路線に乗る。

「せ、先生は、俺たちだけで独占できるような器じゃないぜ……」

 パンをのどに詰まらせ、死にかけたペドロが言った。
 他の弟子たちも、それはそうかなという空気になる。
 よし、ここで俺がビシッと言うのだ。 

「よし! やるぜ! 会堂(シナゴーグ)デビューだ! 俺の説法でユダヤの大衆を救ってやるぜッ!」

 俺は力づよく宣言したのであった。
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