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第2話 起死回生の石。
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「グリュウッ!!」
バァンッ!!と、壁に叩きつけるように開かれた扉。いつかこの扉、壊れる。
「ん~、師匠ぉ。今、何時だと思ってるんですかぁ」
音に飛び起きたものの頭は眠い。机に突っ伏したまま寝てたオレは、目をこすりながら文句をたれる。
だって今、多分だけど真夜中だし。もしかすると夜明け前かもだし。
「あの石を使うぞ!!」
「あの石ぃ?」
勢いづいた師匠は、オレの苦情なんて聞いちゃいない。
師匠の頭のなかは宝石のことでいっぱいいっぱいのようだった。
ズカズカと原石の並んだ棚に近づくと、お目当ての石を取り出した。
「これだ」
ゴトリと机に置かれた石。
「これを使う。これならあのクソババアも文句を言わんだろう」
「え? これを使うんですか?」
ロウソクの灯りに照らされた、エメラルドの原石。大きさは掌に収まるほどだけど、密度は高く、ズッシリと重い。
「ああ、これなら純度もかなり高そうだし、なにより大きいのがいい」
いや大きいって。そりゃあ原石だから大きいっしょ。
普通、ここからカットしてキレイ研磨していくから、宝石になった時はもうちょっと小さくなる。
純度に関しては、削ってみないとわからない。パッと見、透明感のある石に見えても、実際はそんなことないクズ石だったってこともある。
「祖父さんが残した石だからな。悪い石じゃない」
片目をつむり、石を持ち上げ観察する。
祖父の目利きを信用しているのだろう。そして自分の目も。石を見た師匠の顔に不満の色はない。
「これにどんな加工をするんですか?」
「ペンダントにしようと思う。銀で縁取って、削った欠片も残さず利用して……、おい、ペンと紙だ、早くっ!!」
「あ、はいはいっ!!」
デザインが思い浮かんだのだろう。慌てて紙とペンを師匠に差し出す。
「よっしゃあぁっ!!」
夜中に似つかわしくない雄たけびを上げて、師匠がペンを走らせる。
これ、このまま徹夜する気だな。
調子に乗った師匠が、寝食を忘れて没頭することは珍しいことじゃない。そのうち、寝食どころかオレのことも忘れて没頭するんだ。そのくせ、「腹減った!!」とか、「寒い!!」とかでオレをこき使うんだよな、絶対。
デザインが出来上がれば、次は石の研磨、エンハンスメント。そして地金の溶解。
ペンダントになるまでには、いくつもの工程がある。
どんな宝飾品になるんだろうな。
師匠の作る品だから、上品なデザインになるといい……んだけ、ど……。
でも、それを身に着けるのは、あのケバケバオバサンなんだよな。あのたるんだ顎肉の下、埋もれるように着けられたペンダント。
光を反射してこそその美しさが際立つのに、肉で光がカットされそうな。
ブルブルブルブル……。
思わず身震いしてしまう。
頼むから、お買い上げはあのケバケバオバサンでいいから、身に着けるのはその娘とかそういう人にしてくれないかな。
そんなことを思いながら、オレは頑張る師匠を残してもうひと眠りすることにした。
* * * *
「できたぞ、グリュウッ!!」
「ん~、なにがですかぁ」
寝起きの間抜けな質問に、「バカヤロウ!!」と師匠の叱責(ゲンコツ付き)が飛んできた。
「デザインができたんだよ!! さっそく仕事に取り掛かるぞっ!!」
う~~。はいはい。
仕事に憑りつかれた師匠は、オレの言うことに耳を貸さない。
たとえここで、「街一番の美人が師匠の妻になりたいって来てますけど」なんて言っても、「うるさい」もしくは、「待ってもらえ」で終わらされちゃうと思う。
それぐらい仕事に夢中になる、仕事中毒の仕事バカなんだよな、うちの師匠。
「ああ、でもその前に腹ごしらえしたい。グリュウ、メシの用意をしろ」
あ、「食べる」っていう本能だけは残ってたんだ。
感心しながら、戸棚から硬すぎるパンと、なけなしのチーズを取り出す。
「これだけか?」
「これだけですよ」
パンにチーズがあるだけマシと思ってください。薄い塩味豆だけスープは夜用です。
「ふむ」
食事に一応の文句はつけたものの、それ以上特に何も言わない。
というか、食事中も石に夢中でそれどころじゃないんだろう。
「うん、やはりこの石はいい。表面からはわかりずらいが、なかの純度は高そうだ。透明度も悪くない」
右手にパン、左手に原石。
食事中だというのに、片方の目に拡大鏡をつけて、ずっと石を眺めてる。
光にかざして石を確認してるんだろうけど、いつか、パンと間違えて、石、齧っちゃうんじゃねえのか?
のみ込んだら洒落にならない。
「本当にいい石だ。祖父さんが売るなって言った意味がよくわかる」
「先代、そんなことを言ったんですか?」
「ああ、この石だけは売るなって。最後の手紙にそう書いてあった。なぜかは知らんがな」
そっか。
先代はそんな風に言ってたんだ。
「でも、この工房を存続させるためだ。祖父さんも納得してくれるさ」
最後のパンを飲み下すと、師匠が作業机に向き直した。
「それに、石だってキレイに加工されて、誰かの身を飾ったほうが幸せだろう」
「あのさ。削って、キレイな石になるとは……その、限らないじゃん」
原石ではキレイでも、削ってみればただのクズ石だってこともある。
「いいや、これは絶対キレイになる。磨いて宝飾品になるにふさわしい、素晴らしい石に間違いない」
その自信はどこから来るんだ?
そう思ったけれど、石を相手に集中し始めた師匠が答えてくれるはずもない。
オレはため息とともに、身の回りの世話に専念することにした。
が。
「師匠っ!! せめて仕事の前に、その酒臭い服、着替えてくださいっ!!」
ウッカリすると、このまま同じ服を着続ける師匠から、強引に服を引っぺがした。
下手するとこのまま一か月とかざらにあるからな。
やれやれ。危なかった。
バァンッ!!と、壁に叩きつけるように開かれた扉。いつかこの扉、壊れる。
「ん~、師匠ぉ。今、何時だと思ってるんですかぁ」
音に飛び起きたものの頭は眠い。机に突っ伏したまま寝てたオレは、目をこすりながら文句をたれる。
だって今、多分だけど真夜中だし。もしかすると夜明け前かもだし。
「あの石を使うぞ!!」
「あの石ぃ?」
勢いづいた師匠は、オレの苦情なんて聞いちゃいない。
師匠の頭のなかは宝石のことでいっぱいいっぱいのようだった。
ズカズカと原石の並んだ棚に近づくと、お目当ての石を取り出した。
「これだ」
ゴトリと机に置かれた石。
「これを使う。これならあのクソババアも文句を言わんだろう」
「え? これを使うんですか?」
ロウソクの灯りに照らされた、エメラルドの原石。大きさは掌に収まるほどだけど、密度は高く、ズッシリと重い。
「ああ、これなら純度もかなり高そうだし、なにより大きいのがいい」
いや大きいって。そりゃあ原石だから大きいっしょ。
普通、ここからカットしてキレイ研磨していくから、宝石になった時はもうちょっと小さくなる。
純度に関しては、削ってみないとわからない。パッと見、透明感のある石に見えても、実際はそんなことないクズ石だったってこともある。
「祖父さんが残した石だからな。悪い石じゃない」
片目をつむり、石を持ち上げ観察する。
祖父の目利きを信用しているのだろう。そして自分の目も。石を見た師匠の顔に不満の色はない。
「これにどんな加工をするんですか?」
「ペンダントにしようと思う。銀で縁取って、削った欠片も残さず利用して……、おい、ペンと紙だ、早くっ!!」
「あ、はいはいっ!!」
デザインが思い浮かんだのだろう。慌てて紙とペンを師匠に差し出す。
「よっしゃあぁっ!!」
夜中に似つかわしくない雄たけびを上げて、師匠がペンを走らせる。
これ、このまま徹夜する気だな。
調子に乗った師匠が、寝食を忘れて没頭することは珍しいことじゃない。そのうち、寝食どころかオレのことも忘れて没頭するんだ。そのくせ、「腹減った!!」とか、「寒い!!」とかでオレをこき使うんだよな、絶対。
デザインが出来上がれば、次は石の研磨、エンハンスメント。そして地金の溶解。
ペンダントになるまでには、いくつもの工程がある。
どんな宝飾品になるんだろうな。
師匠の作る品だから、上品なデザインになるといい……んだけ、ど……。
でも、それを身に着けるのは、あのケバケバオバサンなんだよな。あのたるんだ顎肉の下、埋もれるように着けられたペンダント。
光を反射してこそその美しさが際立つのに、肉で光がカットされそうな。
ブルブルブルブル……。
思わず身震いしてしまう。
頼むから、お買い上げはあのケバケバオバサンでいいから、身に着けるのはその娘とかそういう人にしてくれないかな。
そんなことを思いながら、オレは頑張る師匠を残してもうひと眠りすることにした。
* * * *
「できたぞ、グリュウッ!!」
「ん~、なにがですかぁ」
寝起きの間抜けな質問に、「バカヤロウ!!」と師匠の叱責(ゲンコツ付き)が飛んできた。
「デザインができたんだよ!! さっそく仕事に取り掛かるぞっ!!」
う~~。はいはい。
仕事に憑りつかれた師匠は、オレの言うことに耳を貸さない。
たとえここで、「街一番の美人が師匠の妻になりたいって来てますけど」なんて言っても、「うるさい」もしくは、「待ってもらえ」で終わらされちゃうと思う。
それぐらい仕事に夢中になる、仕事中毒の仕事バカなんだよな、うちの師匠。
「ああ、でもその前に腹ごしらえしたい。グリュウ、メシの用意をしろ」
あ、「食べる」っていう本能だけは残ってたんだ。
感心しながら、戸棚から硬すぎるパンと、なけなしのチーズを取り出す。
「これだけか?」
「これだけですよ」
パンにチーズがあるだけマシと思ってください。薄い塩味豆だけスープは夜用です。
「ふむ」
食事に一応の文句はつけたものの、それ以上特に何も言わない。
というか、食事中も石に夢中でそれどころじゃないんだろう。
「うん、やはりこの石はいい。表面からはわかりずらいが、なかの純度は高そうだ。透明度も悪くない」
右手にパン、左手に原石。
食事中だというのに、片方の目に拡大鏡をつけて、ずっと石を眺めてる。
光にかざして石を確認してるんだろうけど、いつか、パンと間違えて、石、齧っちゃうんじゃねえのか?
のみ込んだら洒落にならない。
「本当にいい石だ。祖父さんが売るなって言った意味がよくわかる」
「先代、そんなことを言ったんですか?」
「ああ、この石だけは売るなって。最後の手紙にそう書いてあった。なぜかは知らんがな」
そっか。
先代はそんな風に言ってたんだ。
「でも、この工房を存続させるためだ。祖父さんも納得してくれるさ」
最後のパンを飲み下すと、師匠が作業机に向き直した。
「それに、石だってキレイに加工されて、誰かの身を飾ったほうが幸せだろう」
「あのさ。削って、キレイな石になるとは……その、限らないじゃん」
原石ではキレイでも、削ってみればただのクズ石だってこともある。
「いいや、これは絶対キレイになる。磨いて宝飾品になるにふさわしい、素晴らしい石に間違いない」
その自信はどこから来るんだ?
そう思ったけれど、石を相手に集中し始めた師匠が答えてくれるはずもない。
オレはため息とともに、身の回りの世話に専念することにした。
が。
「師匠っ!! せめて仕事の前に、その酒臭い服、着替えてくださいっ!!」
ウッカリすると、このまま同じ服を着続ける師匠から、強引に服を引っぺがした。
下手するとこのまま一か月とかざらにあるからな。
やれやれ。危なかった。
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