オレの師匠は職人バカ。~ル・リーデル宝石工房物語~

若松だんご

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第4話 師匠と石。

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 「……気づいたか」

 目を覚ますと、ベッドの傍らに師匠が椅子に腰かけてオレを見ていた。

 「なんか飲むか?」

 返事をする間もなく、師匠が立ちあがって飲み物を用意してくれた。

 「すみません、オレ……」

 冷たい水の入ったコップを受け取りながら謝る。
 あんだけ夢中になって石に向き合っていた師匠に、看病させてしまった。仕事を中断させてしまったことを申し訳なく思う。

 「いや、俺も夢中になりすぎてた。お前にムリさせてたんだな。すまない」

 「いえ……」
 
 師匠は悪くない。
 
 「起きられるか?」

 「え、はい……」

 ちょっとふらつくけど、動けないほどじゃない。

 「じゃあ、今日は久々に外に食べに行くか」

 「えっ、でもお金は?」

 ウチに今、そんな余裕あったっけ?
 
 「質屋に寄ってきた。あんなものでも多少はなんとかなった」

 あんなものって。

 その言い方に、なにを質屋に持っていったのか察する。
 この間の売れなかった宝石たち。宝飾品としてのデザインがイマイチだと思われても、石は決して悪くない。石は加工され直して、新しい宝飾品になることもできるから、それなりの金額にはなっただろう。
 けど……。

 「あんなもの・・・・・って、言わないでください」

 「グリュウ?」

 「オレ、師匠の作るヤツ、大好きです。落ち着いてて、でも石の輝きを損なうことなく充分に魅力を引き出してくれてて、その……、石もきっと喜んでるって、そう思うんですっ!!」

 うまく言葉にならない。
 でも、「あんなもの」扱いされることにガマンがならなかった。なにより師匠に「あんなもの」と言ってほしくなかった。

 「グリュウ……」

 悔しくてうつむいたオレの頭を、師匠がポンポンッと叩いた。

 「確かに、あれはいい作品だったな」

 「師匠……」

 見上げた師匠の顔は笑ってくれていた。

 「メシ、なにが食べたい?」

 「えと……」

 言われてすぐには思いつかない。

 「じゃあ、具だくさんのスープ!! 肉とかいっぱい入ってるやつ!!」

 「ははっ、わかったわかった。具だくさん、な」

 師匠に連れられて、近所の店に向かう。
 オレもだけど、師匠にも腹いっぱい食って欲しい。
 どうせ師匠のことだから、また石に没頭して寝食を忘れちまうもん。今のうちに栄養を摂って、体力をつけておいて欲しい。
 陽気で騒がしい店内で、腹いっぱいにスープを食べる。スープだけじゃない。柔らかいパンも、ワインも、果物も。師匠もオレも上機嫌でメシにありついた。
 棚からいなくなった宝石たち。
 このすべてが彼らのおかげだと思うと、胸が少しだけ苦しい。
 彼らが、いい買い取り手に出会えることを、オレはコッソリ天に願った。

*     *     *     *

 腹いっぱいメシを食ったせいか、家に戻ると、グリュウはすぐにベッドで眠ってしまった。
 寝息を聴くかぎり、体調に問題はなさそうだ。
 起こさないように、静かに寝室のドアを閉め、工房に一人で戻る。

 祖父じいさん、なんてスゴイ石を持ってたんだ。

 ゴトリと机の上に置いた石。
 石に向かうたび、あらためて祖父の目利きに驚かされる。
 スターエメラルド。
 金紅石ルチルが内包されたエメラルド。
 スターはルビーやサファイアなどの鋼玉によくみられる現象で、逆にエメラルドやアクアマリンなどの緑柱石では滅多に見ることができない。
 その上、オイルの処理も熱処理も必要ないほど傷がなく、色が濃いなど。職人として、そのような石に出会えるかどうか、おそらく一生に一度あれば幸せなほうだろう。
 
 こんな素晴らしい石だとわかっていたから、これだけは売るなって言ってたのか?

 この石の素晴らしさをわかる人物はそういないだろう。
 この街では皆無かもしれない。
 それに。

 この俺に、この石の魅力を引き出せるのか?

 南で修行してきたとはいえ、俺にそこまでの技量があるとも思えない。
 この石の魅力を最大限に引き出すには?
 どんな加工をしたらいい?
 どんな装飾を施したらいい?
 俺の腕次第で、石の魅力を半減どころか、消し去ってしまうかもしれない恐怖。
 その反面、俺の手でこの石を至高の宝石へと作り上げたいという職人としての欲。
 どちらとも言えない感情のまま、何度も図面を描き、構想を練り直す。
 石と向き合い、石に没頭する。
 石が何を求めているかを知り、石に何を求めるかを知る。
 周りの音などなにも聞こえない。見えているのはただこの石だけ。
 俺は、緊張と興奮に押し流されるように、石と向きあい続けていった。
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