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11.OCEAN IS CALLING
ハァ……。
テーブルにむけて吐き出されたため息。
「あ、あの。だ、大丈夫?」
ため息だけじゃない。
終業間際、社長に呼び出された新崎くん。
遅くにマンションに帰ってきた彼の表情はとても暗く、こうして食卓についても、スプーンを片手に、ため息をくり返す。
(もしかして偽装がバレた?)
ありえないこともない。
新崎くんだけ呼び出されたのは、事の真偽を問い詰めるためだったのかも。偽装までして結婚したくないの!? 姉を騙して楽しいの!?
あれだけ、新崎くんと私の婚約を喜んでくれたんだもん。こってりみっちり叱られてそう。
(それとも今日の料理が気に入らない?)
今日作ったのは、クラムチャウダーと鶏むね肉のチーズ挟みソテー。ちょっと淡白な印象の料理ばかり。
――キョウハ、ニクノキブンダッタノニ。
そういうことかな。
「作り直そうか?」
料理が気に入らないなら、もっと別のものを。クラムチャウダーって、結構好き嫌いの分かれる料理だし。私は好きだけど。
「ああ、すみません。そういうんじゃないんです。ゴハン、すごく美味しいですよ」
言って、スプーンをすすめる新崎くん。クラムチャウダーも、ソテーも食べてくれる。
けど、しばらくすると、また箸が止まった。
「ねえ、祥子さん」
覚悟を決めたように、私の名前を呼んだ新崎くん。
「今度の週末、僕と旅行に行ってくれませんか?」
「え?」
私のナイフがソテーの真ん中で止まる。
旅行って……ナニ?
「姉が、次の週末に僕と祥子さんで伊豆に行ってこいって」
「伊豆? なんでそんなとこに」
社長に呼び出されたのは、それを命じるため?
偽装がバレたわけじゃないことに、とりあえずはホッとするけど。
「姉の夫、義兄さんの先輩があちらのホテルで料理長に就任したんです。その就任祝いに、僕たちで行って来いって」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って!」
情報多すぎ。サラッと言ったけど、いろいろ情報過多。
「あのお姉さん、社長って結婚していらっしゃるの?」
「ええ。三年前に」
「お相手は、コックさんかなにか?」
「そうですよ。今は自分の店、居酒屋を経営してます」
そ、そうなんだ。
社長、新崎くんのお姉さんは、私より年上、三十代半ば。結婚しててもおかしくない歳だけど。
「お義兄さん、蓮見さんとの間には、子供もいますよ。僕の義理の姪ですね」
「うえええっ!?」
そ、それは知らなかった。
社長が結婚して、子供もいるなんて。
それを知らなかった私、社員としても、副社長の秘書としてもダメダメなんじゃないの?
「姉は、蓮見さんとの結婚を公表してませんから。式も身内だけでしたし、今でも仕事では〝倉橋佐奈恵〟を名乗ってますからね」
私の心を読んだように、新崎くんが付け加えた。
「誰にも、馴れ初めを知られたくないんだそうです。なんたって、社長に就任して溜まった愚痴を、飲んだ酒と一緒に吐き出した相手が義兄さんですから」
「それって、物理的に吐き出したってこと?」
「そうです……って、すみません。食事中に」
「え、あ。うん」
確かに食事中に出すネタじゃないけど。でも、驚きのが大きすぎて、マナー違反とかどうでもよくなってた。
「義兄さんが以前勤めてたのが、そのホテルの調理場で。店を持ちたいって思ってた義兄さんの背中を押してくれたのが、今回料理長に就任した先輩なんだそうです」
社長が不満を(ゴニョゴニョと一緒に)、ぶちまけたことが縁で結婚した夫婦。夫が店を持ってなければ、そんな出会いも起きず、結婚もなかったはず。
だから、その数奇な運命のキッカケを与えた先輩のお祝いに、義弟に行って来いと。そういうこと?
「本来なら姉夫婦が駆けつけるべきなんですが、まだ子供も小さいし、義兄も店があるからって、手が離せないらしくって」
「なるほど」
ホテルのレストラン。
小さい子連れだと、敷居が高いかもしれない。うっかりしたら、就任祝いに駆けつけたんじゃなくて、就任迷惑をかけに行った結果になりかねない。
「部屋もとってある、ついでにゆっくりして来いって言われたんですが。無理なら、その、祥子さんは具合が悪くなったとか言い訳して僕だけで行ってきますけど」
「いいですよ。一緒に行きましょう」
「いいんですかっ!?」
少し俯いてた新崎くんが、パアッと明るく顔を上げる。
なるほど。
これに悩んでいたから、ため息ついてたのか。
一緒に、伊豆まで行ってこい。
社長が部屋をとってくれたって、それ、絶対相部屋だし。ツインでとってくれたらいいけど、それがダブルだったとしたら……。
偽装婚約なんだから、一緒に寝るだけでも大問題なのに、それがダブルベッドだったとしたらって、いろいろ考えてたんだろうな。
(新崎くんらしいな)
どこまでもやさしくて、どこまでも私を大事にしてくれる。
こうして一緒に暮らしても、指一本触れてこようとしない。
あくまで契約。あくまで偽装。
「あ、でも、部屋は別になるように、僕も手配して――」
「ダメですよ。そんなことしたら、社長に偽装がバレちゃいますよ?」
婚約者が別々の部屋を使ったなんて知られたら、偽装を疑われてしまうかもしれない。
「ここは一つ、旅行先で、メチャクチャラブラブバカップルを演じてきましょう!」
「ラブラブバカップル……ですか」
「うん。いや~、あの二人、熱々すぎて見てらんないわってぐらいのラブラブですよ。お義兄さんの先輩がいらっしゃるのなら、その方の前で思いっきり。そうしたら、『あの二人、ラブラブですよ~』って、お義兄さん経由でお姉さんたちにも知れて、安心してもらえそうですし」
疑いを挟む余地を消去。
「わかりました。偽装を完璧にするためにも。頑張りましょう」
「はい!」
それで、少しでも新崎くんを支えることができるなら。
「それにしても、このクラムチャウダー、美味しいですね」
やっと人心地ついたのか。新崎くんが料理の感想をくれた。
私の好きなクラムチャウダー。彼も気に入ってくれたらうれしい……って、なんで? なんで私、そう思うの?
「今日の片付けは僕がやりますよ。祥子さんは、先にお風呂入ってください」
片付けを申し出てくれた新崎くん。キッチンに立った彼の元に、使い終わった食器を運んでいく。
「じゃあ、先にいただくね」
「はい」
テーブルを拭き終え、沸かしたてのお風呂に向かう。
……ハァッ。
一瞬、キッチンから聞こえたため息。
どうしたの? まだ悩み事? ってふり返ったけど、そこにあったのは、黙々と食器を洗う新崎くんの姿。特に悩んでる、困ってる感じはしない。
(幻聴?)
食器を洗う音が、そう聞こえただけ?
首を傾げ、お風呂に向かう。
週末は旅行。となると勉強に割ける時間は平日だけ。
(早くお風呂を済ませて勉強しなくちゃ)
旅行に少しだけ浮かれた心を引き締める。けど。
(伊豆かあ……)
やっぱりポヨンと心は弾む。
テーブルにむけて吐き出されたため息。
「あ、あの。だ、大丈夫?」
ため息だけじゃない。
終業間際、社長に呼び出された新崎くん。
遅くにマンションに帰ってきた彼の表情はとても暗く、こうして食卓についても、スプーンを片手に、ため息をくり返す。
(もしかして偽装がバレた?)
ありえないこともない。
新崎くんだけ呼び出されたのは、事の真偽を問い詰めるためだったのかも。偽装までして結婚したくないの!? 姉を騙して楽しいの!?
あれだけ、新崎くんと私の婚約を喜んでくれたんだもん。こってりみっちり叱られてそう。
(それとも今日の料理が気に入らない?)
今日作ったのは、クラムチャウダーと鶏むね肉のチーズ挟みソテー。ちょっと淡白な印象の料理ばかり。
――キョウハ、ニクノキブンダッタノニ。
そういうことかな。
「作り直そうか?」
料理が気に入らないなら、もっと別のものを。クラムチャウダーって、結構好き嫌いの分かれる料理だし。私は好きだけど。
「ああ、すみません。そういうんじゃないんです。ゴハン、すごく美味しいですよ」
言って、スプーンをすすめる新崎くん。クラムチャウダーも、ソテーも食べてくれる。
けど、しばらくすると、また箸が止まった。
「ねえ、祥子さん」
覚悟を決めたように、私の名前を呼んだ新崎くん。
「今度の週末、僕と旅行に行ってくれませんか?」
「え?」
私のナイフがソテーの真ん中で止まる。
旅行って……ナニ?
「姉が、次の週末に僕と祥子さんで伊豆に行ってこいって」
「伊豆? なんでそんなとこに」
社長に呼び出されたのは、それを命じるため?
偽装がバレたわけじゃないことに、とりあえずはホッとするけど。
「姉の夫、義兄さんの先輩があちらのホテルで料理長に就任したんです。その就任祝いに、僕たちで行って来いって」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って!」
情報多すぎ。サラッと言ったけど、いろいろ情報過多。
「あのお姉さん、社長って結婚していらっしゃるの?」
「ええ。三年前に」
「お相手は、コックさんかなにか?」
「そうですよ。今は自分の店、居酒屋を経営してます」
そ、そうなんだ。
社長、新崎くんのお姉さんは、私より年上、三十代半ば。結婚しててもおかしくない歳だけど。
「お義兄さん、蓮見さんとの間には、子供もいますよ。僕の義理の姪ですね」
「うえええっ!?」
そ、それは知らなかった。
社長が結婚して、子供もいるなんて。
それを知らなかった私、社員としても、副社長の秘書としてもダメダメなんじゃないの?
「姉は、蓮見さんとの結婚を公表してませんから。式も身内だけでしたし、今でも仕事では〝倉橋佐奈恵〟を名乗ってますからね」
私の心を読んだように、新崎くんが付け加えた。
「誰にも、馴れ初めを知られたくないんだそうです。なんたって、社長に就任して溜まった愚痴を、飲んだ酒と一緒に吐き出した相手が義兄さんですから」
「それって、物理的に吐き出したってこと?」
「そうです……って、すみません。食事中に」
「え、あ。うん」
確かに食事中に出すネタじゃないけど。でも、驚きのが大きすぎて、マナー違反とかどうでもよくなってた。
「義兄さんが以前勤めてたのが、そのホテルの調理場で。店を持ちたいって思ってた義兄さんの背中を押してくれたのが、今回料理長に就任した先輩なんだそうです」
社長が不満を(ゴニョゴニョと一緒に)、ぶちまけたことが縁で結婚した夫婦。夫が店を持ってなければ、そんな出会いも起きず、結婚もなかったはず。
だから、その数奇な運命のキッカケを与えた先輩のお祝いに、義弟に行って来いと。そういうこと?
「本来なら姉夫婦が駆けつけるべきなんですが、まだ子供も小さいし、義兄も店があるからって、手が離せないらしくって」
「なるほど」
ホテルのレストラン。
小さい子連れだと、敷居が高いかもしれない。うっかりしたら、就任祝いに駆けつけたんじゃなくて、就任迷惑をかけに行った結果になりかねない。
「部屋もとってある、ついでにゆっくりして来いって言われたんですが。無理なら、その、祥子さんは具合が悪くなったとか言い訳して僕だけで行ってきますけど」
「いいですよ。一緒に行きましょう」
「いいんですかっ!?」
少し俯いてた新崎くんが、パアッと明るく顔を上げる。
なるほど。
これに悩んでいたから、ため息ついてたのか。
一緒に、伊豆まで行ってこい。
社長が部屋をとってくれたって、それ、絶対相部屋だし。ツインでとってくれたらいいけど、それがダブルだったとしたら……。
偽装婚約なんだから、一緒に寝るだけでも大問題なのに、それがダブルベッドだったとしたらって、いろいろ考えてたんだろうな。
(新崎くんらしいな)
どこまでもやさしくて、どこまでも私を大事にしてくれる。
こうして一緒に暮らしても、指一本触れてこようとしない。
あくまで契約。あくまで偽装。
「あ、でも、部屋は別になるように、僕も手配して――」
「ダメですよ。そんなことしたら、社長に偽装がバレちゃいますよ?」
婚約者が別々の部屋を使ったなんて知られたら、偽装を疑われてしまうかもしれない。
「ここは一つ、旅行先で、メチャクチャラブラブバカップルを演じてきましょう!」
「ラブラブバカップル……ですか」
「うん。いや~、あの二人、熱々すぎて見てらんないわってぐらいのラブラブですよ。お義兄さんの先輩がいらっしゃるのなら、その方の前で思いっきり。そうしたら、『あの二人、ラブラブですよ~』って、お義兄さん経由でお姉さんたちにも知れて、安心してもらえそうですし」
疑いを挟む余地を消去。
「わかりました。偽装を完璧にするためにも。頑張りましょう」
「はい!」
それで、少しでも新崎くんを支えることができるなら。
「それにしても、このクラムチャウダー、美味しいですね」
やっと人心地ついたのか。新崎くんが料理の感想をくれた。
私の好きなクラムチャウダー。彼も気に入ってくれたらうれしい……って、なんで? なんで私、そう思うの?
「今日の片付けは僕がやりますよ。祥子さんは、先にお風呂入ってください」
片付けを申し出てくれた新崎くん。キッチンに立った彼の元に、使い終わった食器を運んでいく。
「じゃあ、先にいただくね」
「はい」
テーブルを拭き終え、沸かしたてのお風呂に向かう。
……ハァッ。
一瞬、キッチンから聞こえたため息。
どうしたの? まだ悩み事? ってふり返ったけど、そこにあったのは、黙々と食器を洗う新崎くんの姿。特に悩んでる、困ってる感じはしない。
(幻聴?)
食器を洗う音が、そう聞こえただけ?
首を傾げ、お風呂に向かう。
週末は旅行。となると勉強に割ける時間は平日だけ。
(早くお風呂を済ませて勉強しなくちゃ)
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(伊豆かあ……)
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