機姫想杼織相愛 ~機織り姫は、想いを杼に、相愛を織る~

若松だんご

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巻の九、「とまらない」を止める方法

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 「里珠リジュっ! しっかりしろ!」

 「アッ、ダメッ、ン、アッ、ハアッ……」

 出す気もないのに、勝手に溢れる嬌声。
 それは、寝台に寝かされても変わらず――ううん。寝台に寝かされてから、さらに悪化していく。

 「お願いっ、し、静かにっ、ンンッ!」

 「里珠リジュっ!」

 ダメなんだって! お願い、喋らないで! それで、わたしの視界に入らないで!
 でないと。でないとっ!

 「アッ、ダメッ、アアッ……!」

 体が熱い。目も潤んで、息も熱い。
 体がビクビクと跳ねて、紗の敷布を乱す。
 月のモノが来る日でもないのに、足の間が熱くて、ぬるみ出す。

 (なにこれ、なにこれぇっ……!)

 これが媚薬の効果ってやつ?
 わけのわからない熱さが、体中を駆け巡る。
 その熱を吐き出してしまいたくて、必死に口を開けるけど、ちっとも熱を追い出せなくて。それどころか。

 「アッ、フッ、アッ、アアッ!」

 敷布に触れている。それだけで、体がビクビクして、奥がドンドン熱くなってくる。風邪をひいたかのようなゾクゾクも、背中を駆け上がってくる。
 蛇のように渦巻き、うねる波のような衝撃。

 「里珠リジュっ! しっかり自我を保て!」

 た、保てって言われても。

 「お願い、離れ、て……」

 アンタがいると、蛇が暴れて、波がとんでもない大きさになるの!

 「里珠リジュっ!」

 ふ、触れないでっ!

 「アァンッ!」

 如飛ルーフェイの大きな手の熱さに、ひときわ大きな嬌声がこぼれ、フッと頭のなかが真っ白に染まった。同時に、体の奥から、なにかが溢れるような感触。

 (もう、ダメ――)

 その白い世界に、保てと言われた自我もなにもかも、吹っ飛んでいく。

          *

 (……あれ? わたし……)

 吹っ飛んでいった意識が戻って来る。
 けど、まだどこかボンヤリして、体に力が入らない。
 
 チュッ。チュッ。

 (なんの、音?)

 ボーっとしたままの頭で考える。
 わたしの体からしてる? ってか、体、少し寒い。けど、熱い部分もあって、それが気持ちよくて……。

 「気がついたか、里珠リジュ

 「如飛ルーフェイ……?」

 「そうだ。すまない。媚薬でお前を失うわけにはいかないからな。――許せ」

 何を?

 「ンンッ」

 如飛ルーフェイが動き、彼の頭がむき出しになってるわたしの胸に近づく。
 
 チュッ。

 「アアッ」

 あ、これ、如飛ルーフェイが、わたしの胸を吸ってる音だ。
 
 「アッ、んアッ、アアッ」

 吸ってるだけじゃない。もう片方の、尖ったまま放置されてた乳首を、彼の指がつまみ、弾く。
 普段なら、「なにするのよ、このスケベ!」ってとこなんだけど。

 (気持ちいい……)

 胸を吸われるたび、乳首を弄ばれるたび、体の奥で暴れまくってる衝撃が鎮まるような、心地いいものに変化していく。

 「すまない。媚薬の効果を抜くには、これしかないんだ」

 そっか。
 そうなんだ。
 わたしが飲んじゃった媚薬。彼はそれを解毒してくれようとしてるのか。

 「アッ、ハッ、んンッ、アアッ……」

 だったら、わたしもそれに従わなきゃ。わたしのためにやってくれてるのに、「なにするのよ、このスケベ!」、バチーンと頬叩きはない。やっちゃいけない。
 それよりも。

 「ね、え……、もっと……」

 熱い息とともにこぼれた言葉。
 お願い。もっとして。
 それ、すっごく気持ちいいの。

 「里珠リジュ……」

 如飛ルーフェイの触れるところ、そこにドンドン炎が灯っていくような感覚。炎が灯ると、そこから静かな波のように「気持ちいい」が広がっていくの。
 
 「如飛ルーフェイ、もっと……」

 気持ちいい。気持ちいいの。
 すごくいい匂い。すごく温かい。
 もっと如飛ルーフェイがほしい。
 無意識に動き、胸に口づけてる彼の髪に、首筋に手を伸ばす。
 お願い。もっとわたしに炎を灯して。気持ちよくして。わたしのなかの、暴れ狂う何かを鎮めて、気持ちよくして。

 「――ダメだ。里珠リジュ

 捕らえたと思ったのに。スルリと抜けて、身を起こす如飛ルーフェイ
 途端に、温かく気持ちよかった胸に冷たさが訪れる。

 「どう……して?」

 「こんな時でなければ、抱いてしまいたいが……」

 抱く? それって、男女のそういうことをするってことだよね?

 「い、いよ……」

 「里珠リジュ……」

 「如飛ルーフェイなら、いい、よ……」

 如飛ルーフェイなら。
 胸を吸われただけで、触れられただけで、あんなに気持ちいいんだもん。それ以上のことだって、きっと気持ちいいよね?
 そして、気持ちよければいいほど、体の辛いのも抜けていく気がするし。もっと気持ちよくなりたいし。
 
 「里珠リジュ

 身を起こした如飛ルーフェイ。その熱い手が、まだ身につけていた裳を脱がしにかかる。
 それを脱がすってことは、そういうことをしてくれるっていうことだよね?

 「アァンっ!」

 裳に触れた。紐を解かれた。
 それだけなのに。ゾクリと背筋が震え、ドクリと温かいものが足の間から溢れる。

 「ア、アアっ……」

 裳を脱がせてくれるのも、もどかしい。
 早く。早く触れて。わたしを気持ちよくして。
 誰にも見せたことない、誰にも触れさせたことない大事なところだけど、如飛ルーフェイなら、如飛ルーフェイなら――

 「アァンっ!」

 「すごい、濡れてるな……」

 見られてもいい。
 そう思ってたのに。
 膝頭を持たれ、開かれた足の間を見られただけで、また体が震え、嬌声がこぼれた。
 恥ずかしい。
 でも、見て。
 ううん。見るだけじゃない。触って。

 「赤く……、腫れてる」

 「あゔっ……!」

 チョンと触れられただけなのに。敷布を握りしめなければ耐えられないほどの衝撃が、脳天まで貫き襲いかかってくる。

 (ナニコレ……)

 ハァハァと、熱い息をこぼしながら考える。
 如飛ルーフェイの触れた、わたしの大切な所。
 月のものが来た時とか、自分で触れることもあるのに。
 
 「あっ、そっ、そこっ、そこぉっ……!」

 苦しいほどの快感。それが凄まじい勢いで体中を駆け巡る。

 「気持ちいいのか?」

 「アッ、う、うんっ! ひうっ……!」

 頷こうと持ち上げた首。けどすぐに背を反らし、快感にのたうつ。
 そこがそんなに感じる所だなんて。触れられると気持ちいい場所だったなんて。

 「もう少しだけ、するぞ」

 なにを?

 「アッ、アアッ、ヒッ、アッ、アアッ……」

 「腫れてる」と言われた場所だけじゃない。自分でも触れたことのない所に、硬いものが突き立てられる。

 (指? 如飛ルーフェイの……?)

 考えようとするけど、思考がまとまらない。
 それどころか。

 「アッ、イッ、イイッ……! 気持ち、いいっ!」

 思考も理性もなにもかも打ち砕くように襲ってくる「気持ちいい」。その「気持ちいい」に、体もなにもかも呑み込まれていく。

 「如飛ルーフェイっ! 如飛ルーフェイっ!」

 自分の体のことなのに! わたしの体のなかで起きてることなのに!

 (怖いっ!)

 大きな津波のような「気持ちいい」に呑み込まれる。

 (お願い、助けて!)

 涙で滲んだ視界で、必死に彼の姿を捜す。名前を呼んで手を伸ばし、如飛ルーフェイという存在にすがる。

 「大丈夫だ、里珠リジュ。イけ」

 わたしを抱き起こし、ギュッと力強く抱きしめてくれた如飛ルーフェイ
 でも、その奥に潜り込んだ指の動きは止まらなくて。

 「アッ、アアッ、アア――っ!」

 悲鳴じみた声を上げ、体を強張らせる。

 「アッ、アッ、アアッ……」

 震える唇。上手く息を吸えない。
 
 「アッ、ンンッ」

 ズルリと抜け落ちた彼の指。追いかけるように、わたしのなかからドロリと溢れた液。その液のぬるみに、弛緩しかけた体がブルリと震えた。

 「いい顔だ。もっと感じさせたくなる」

 (もっと? 感じさせてくれるの?)

 如飛ルーフェイの漏らした言葉に、また体の奥で、なにかが渦巻き始め、ザワリと波立ち始める。

 「いい、よ……。感じさせて」

 「里珠リジュ

 その手で、もっと、わたしを……。
 わたしに、如飛ルーフェイをちょうだい。

 「ダメだ。こんな状況でお前を抱くわけにはいかない」

 ダメだって。そんな……。

 「ヒドい……。もっと欲しい、の」

 わたし、まだ熱いの治まらないの。熱くて、熱くて、まだ苦しいの。

 「許せ。代わりに、溜まった気が治まるまで、何度でもイかせてやる」

 「ほんと?」

 「ああ」

 「あっ、アアッ!」

 再び、ズプンと奥に沈んだ彼の指。同時に、尖ったまま放置されてた胸を吸われ、それだけで体がビクンと跳ねた。

 「何度でもイって、気を散じよ」

 「アッ、アアッ、イッ、いいっ、アアッ!」

 気持ちいい。気持ちいい。
 胸と奥。どっちも気持ちいい。

 「如飛ルーフェイ如飛ルーフェイ……!」

 またわたしを呑み込もうと、津波のような衝撃が襲ってくる。

 「大丈夫だ」

 わたしを抱きとめる如飛ルーフェイの腕に力がこもる。

 「お前がすべての気を散じるまで。つき合ってやる」

 うれしい。助かる。――けど。

 「アッ、アアアッ――!」

 ドクンと跳ねた心臓。同時に、目の前で弾けるように散ったなにか。
 強張った体。放り出された足先は、ピンっと反り返って、ピクピクと小刻みに震える。

 (こんなの。もう……、ダメ……)

 強く彼の衣を握りしめた手から力が抜ける。手だけじゃない。足も体も。何もかもから力が抜けて、体がクタリと、彼の腕の中に崩れ落ちてく。

 「里珠リジュ?」

 ごめんなさい。
 わたし、もう限界です。
 かすかに残っていた意識が、体から去っていく波とともに、遠く霞んで消えていった。
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