「今とっても幸せですの。ごめんあそばせ♡」 捨てられ者同士、溺れちゃうほど愛し合ってますのでお構いなく!

若松だんご

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5.眠れぬ夜の思い出

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 「リューリア。明日は暇?」

 自室で寝ているはずの主が隣りにいます。迎えに来てください。
 そんな連絡に、慌てて飛び起きただろう。青ざめたまま迎えに来たソニエに毛布でくるまれて、シオンの家を後にしようとしたことろで、声をかけられた。

 「明日は……暇、だけど」

 ガレット食べに行こうかな。
 それぐらいの予定は考えてたけど、別に明日じゃなきゃダメってわけでもないし。急遽、暇ということにしておく。

 「なら、明日、また会えないか?」

 「明日?」

 「うん。今日はちょっと驚いちゃったけど。もう一度、改めてゆっくりキミに会って話がしたいなって。ダメかい?」

 「そんなことない!」

 わたしこそ、今日は一方的に泣すがるだけで。全然シオンの気持ち聴いてあげられてないもん!
 シオンだって、離婚して、色々辛いはずなのに。
 わたしだけ、散々泣いて、散々甘やかされてしまった。――ちょっと恥ずかしい。

 「じゃあ、明日」

 「うん」

 門のところで、見送る彼と別れる。いっぱい泣いた恥ずかしさで、ふり返るのはちょっとだけにしたけれど。

 (明日。明日かあ)

 「――よい方ですね、お嬢様」

 「えっ!? あ、うん! そうね、いい人よね!」

 ちょっとワクッてしかかってたからか。ソニエの感想になぜか慌てる。

 「お嬢様のお知り合いですか?」

 「うん、そうね。わたしの幼なじみ」

 そっか。
 ソニエは、わたしの王宮入りについてきてくれた侍女だけど、ここで暮らしていた時から仕えてくれてたわけじゃないから、シオンのこと知らないんだっけ。
 長く仕えてくれていたから、そのへんのこと、忘れてたわ。

 「シオンはね、この屋敷の女主だった人の孫よ。商家の長男として普段は王都で暮らしてるんだけど、時折この町を訪れてたの」

 一人で暮らしているお祖母様に会うために。
 そして、そのたびに、わたしとも遊んでくれていた。
 彼の祖母とわたしの祖母。
 二人が仲良しで、家が隣同士だったからと言っても、三つも年下の女の子と遊ぶのは、彼にとって、面倒くさいことだったかもしれない。でも、彼は一度も嫌そうな顔をしなかった。いつでもニコニコと、「リューリア、久しぶり」と遊びに来てくれていた。
 お祖母様に預けられっぱなしで、同世代の友達がいなくて、ちょっと退屈しかかってたわたしにとって、彼の来訪はちょっとした楽しみだった。お祖母様はおやさしかったし、お祖母様との暮らしが嫌だったわけじゃないけど、やっぱり「友達」という遊び相手が欲しかったのだと思う。

 「友達というか、兄妹というか。ちょっと不思議な関係だったように思うわ」

 言いながら、空を見上げる。
 三つも違う。性別だって違う。育つ環境も。
 けど、彼は嫌な顔一つしないで、わたしにつき合ってくれていた。
 お互いの家の庭を探検したり、花を摘んでみたり。知らない花の実を摘んで、お互い「すっぱ! まっず!」ってなって、お祖母様たちに叱られたり。
 いっしょに本を読んだり。チェスなんかのゲームをしたり。日がな一日、ずっといっしょに遊んでた。
 ああ、そういえば、あの調子外れのヴァイオリン。あれに合わせてわたしがピアノを弾いたこともあったっけ。聴いてたお祖母様や使用人たちは、そそくさとその場を離れていったけど。
 食事もいっしょにとって。
 ずっといっしょにいたくて、夜になって「いっしょに寝る!」ってワガママ言ったこともあった。
 でもさすがに。
 さすがに、放任気味だったお祖母様も、それだけは許してくれなかった。もちろん、シオンも。朝になったら、一番に会いに来るからと、なだめられたけど。今ならわかる。兄妹のように仲のいい幼なじみであっても、昼間は一緒に駆け回って転げ回っていても、夜いっしょに寝るのはさすがにマズい。わたしがどれだけグズっても、ダメを譲らなかったお祖母様たちに感謝。

 (懐かしいなあ)

 思い出すと、恥ずかしさで顔から火を吹きそうになるのもあるけど。
 でもまあ、どの思い出も懐かしく感じる。
 いつもは、王都で暮らしていたシオン。
 彼がこの町を訪れて。彼に会えるのが、うれしくって、楽しくて。
 彼が王都に戻った時は、彼が約束してくれた、次に会える日を指折り数えて待っていた。

 (そういえば、あの時も、シオンはこの町にいたんだっけ)

 わたしがアイツの婚約者になることが決まって。王都から両親の使いが来た時も、彼は、この町にいた。
 シオンが普段暮らしているという王都。
 両親と妹が暮らしているという王都。
 そこに行けば。お祖母様との別れは淋しいけど、わたしも王都で暮せば、いつでもシオンと遊べると浮かれてた。王都に行けば。王都で暮せば。
 でも。

 ――王子殿下の婚約者が、他の男性と会うことは許されません。

 たとえ、まだわずか10歳と13歳であっても。婚約者となる王子以外の異性と会うのは醜聞になる。王子の許可なく異性に会うことは許されない。 
 王都に行けば、またシオンとも会えると思ってたわたしは、彼に会うことを禁じられ、「それなら王都に行かない!」と泣いて駄々をこねた。
 両親と暮らす喜びより、彼と会えない絶望が勝った。

 ――これを、リューリア。

 泣いて泣いて。明日には王都に向けて出立だっていうのに、今日みたいに生け垣を抜けて彼の家に走っていったわたしに、彼が贈ってくれたもの。

 菫の花で作った指輪。

 ――これを僕だと思って。

 たしか、そんなことを言われたような気がする。
 菫の指輪。
 王宮で、色褪せてカサカサになっても捨てられなくて。ずっと宝物として箱にしまっておいた。実は、今もここに持ってきている、その箱。
 泣いて王都行きを嫌がる幼なじみを励ますために贈った菫。泣きじゃくるわたしをなだめるために、そのへんで生えていただけの菫で作った、即席の指輪。
 わずか13歳で、女の子に指輪を贈るだなんて、おませさん――じゃなくて。
 とっても大人な対応だと思う。「僕も会えないの淋しいよ」で、いっしょにオイオイ泣くんじゃなくて、指輪で泣き止ませるんだもん。
 そして、指輪一つで、涙が引っ込んじゃうわたしは単純。お手軽。

 (でも、宝物だったのよねえ)

 だから、今も持っている。
 そのことを彼が知ったら驚くかな。まだそんなものを、後生大事に持っていたのかって。あれは、泣きじゃくって、どうにも手のつけられない幼なじみを、慰めるために渡しただけのものだって。
 でもあれが当時のわたしの心の支えだったって言ったら、――笑うかしら。
 彼は王子妃(許嫁)として頑張ってたわたしを褒めてくれたけど、あそこで頑張れたのはあの菫があったからだって言ったら、――どんな顔するのかしら。菫一つでって、呆れるかしら。

 「そうだ、ソニエ。明日、彼が来てくれるそうだから。忙しいところ申し訳ないけど、お菓子とか用意してもらえるかしら」

 今のわたしの屋敷には、ソニエぐらいしか使用人がいない。料理人や、それまでの管理人など、通いできてくれる人もいるけど、それ以上の人手は、すぐにでも修道院に入るつもりでいたから、連れてきていない。
 だから、今日だってソニエが屋敷を整えて、頑張ってくれていたのだけど。
 ゆっくり話がしたいってことは、家でお茶を用意しておいたほうがいいわよね。それとお菓子も。お腹が空いた、喉が乾いたじゃ、ゆっくりとお話できないし。
 わたしもこんな夜着じゃなくて、ちゃんと淑女らしく装わなきゃ。髪もそれらしく結い上げて。ああ、ソニエは忙しいだろうから、そのへんは自分でやるとして、あとは――。

 「わかりました。ご用意いたします」

 言って、クスクス笑い始めたソニエ。
 なんで、そこで笑うの?
 訪問客をおもてなしするのは、淑女として当然でしょ?
 
 「明日、楽しみですわね」

 その言葉に、「うん」と頷きたいけど頷けない、自分でもよくわからない自分がいた。
 なかなか寝つけなくて、庭をうろついて。その結果、彼の家を訪れて、十年ぶりに彼に会えたんだけど。
 
 (これ、眠れるかな)

 明日は色々あるのに。
 明日が気になって、眠れそうにない。
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