「今とっても幸せですの。ごめんあそばせ♡」 捨てられ者同士、溺れちゃうほど愛し合ってますのでお構いなく!

若松だんご

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11.お礼代わりの頼まれごと

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 「つ、つつつ、妻っ、妻ぁっ!?」

 シオンからの依頼に、声がひっくり返る。ついで感情もひっくり返る。

 ――僕の妻になってくれないか。

 妻って。妻って、あの妻よね?
 わたしの知ってる「妻」以外に、知らない「妻」はないよね?
 夫婦の片割れ。結婚した男女のそれ。その妻になるってことは、そのっ、そのっ……!

 「ああ、ゴメン。言い方が悪かった」

 目を白黒させてるわたしに、シオンが謝罪する。

 「キミに、僕の妻役を演じて欲しいんだ」

 「妻……やく?」

 「妻」じゃなくて、妻「役」? 演じる?

 「うん、妻役。僕の学生時代の友人がね、ここを訪ねたいと連絡があってね」

 もう一度、チラッと執務机の上に視線を向けたシオン。

 「僕が結婚したと聴いて。旅行がてら、それを祝いに来たいって言うんだよ」

 「えっと、それは……」

 さっきまで頭から湯気が出そうなぐらい熱くなってた体が、フシュンと一気に沈静化していく。

 「うん。彼、この国の人じゃないから。僕が離婚したこともまだ知らないみたいなんだ」

 なるほど。
 三年ほど前に、親の決めた相手と結婚したというシオン。
 けど、その奥様は結婚翌月に「真実の愛を見つけた」とかで出奔し、行方不明。最近になってあちらのご両親と協議の末、離婚が成立したと話してたけど。

 (そっか。他国の人だから、そのあたりの情報が古いままなんだ)

 だから、三年過ぎたけど、結婚の祝いをしようとしてる。
 王族の結婚離婚なら、もっと早く他国にも伝達されるだろうけど、シオンは商人の息子。その離婚の情報は、相手に伝わってなくても不思議じゃない。

 「じゃあ、その人を歓待する時だけ、妻役を演じろと?」

 「うん。彼にもキミにも申し訳ないけど……」

 せっかく遠くから祝いに来てくれる友人に、「実は僕、離婚したんだ」とは言いにくい。プライドがどうとか言うんじゃない。相手を気まずい気分にさせてしまうことを、申し訳なく思ってるんだろう。
 相手を傷つけたくない。
 シオンらしいやさしさだ。
 わたしを妻役にして、幸せな夫婦のフリをすることで、友達を傷つけまいとしている。
 そして、そんな無茶な依頼をわたしにお願いしてる。そのことも、シオンは申し訳なく思ってる。
 今のシオン、頼んでしまってから、やっぱり無茶だよなって後悔してるような顔してるもの。

 「いいわ。わたしでよければ引き受けるわよ」

 「いいのか?」

 「ええ。その人が来ている間だけでしょ? それぐらいの期間だったら、妻役、演じてみせるわよ」

 ドンッと胸を叩く。
 祝いに来た友人が滞在するって言ったって、そんな長い期間じゃないだろうし。数日、長くても一ヶ月ぐらい? それぐらいなら、大丈夫でしょ。
 今までだって、王宮でアイツの婚約者として接待などしてたんだし。シオンの友人の一人や二人、なんとかなるでしょ。

 「ありがとう、リューリア」

 不安から一転、彼らしく破顔したシオン。

 「じゃあ、早速だけど来週からよろしく頼むよ!」

 ら、来週っ!? って、明後日じゃない!
 
 「三年経っても熱愛してる夫婦ってことで、よろしく!」

 「ねっ、ねねっ、熱愛っ!?」

 「夫婦」ってだけでもまあまあ大変なのに、そこに「熱愛」もくっつくのっ!?

 「難しい? でも祝いに来てくれるのに、冷めた夫婦だと……」

 「わかった! わかったわよ! 熱愛夫婦、演じてあげるわよ!」

 なぜか、負けん気に火がついた。
 そこまで言うなら、熱愛でもなんでも、友人が満足するような立派な熱愛夫婦を演じてやるわよ! 
 
 「じゃあ、よろしくね」

 笑い近づくシオン。そして。

 ――チュッ。

 わたしの額からありえない音がした。

 (――――っ!)

 バッと慌ててその額を手で押さえる。
 今の! 今のって!

 「熱愛夫婦なら、これぐらいのこと、普通にできなきゃね。練習だよ」

 軽くわたしの髪をすくって楽しむと、いたずらっぽく彼が笑って、部屋から出ていく。

 キスが普通?
 練習?
 ボフンと、全身が沸騰する。

 (早まったかしら)

 彼の友人を傷つけたくないというやさしさに共感したこと。
 ドレスとかの御礼をしたいと思ったこと。
 妻役を引き受けたこと。
 売り言葉に買い言葉的になっちゃったこと。
 全部。全部早まったような気がした。

          *

 「やあ、久しぶりだな、シオン!」

 「ユーフェン……。相変わらず派手だな」

 シオンと並んで出迎えた彼の友人、ユーフェンさん。
 その出で立ち、その派手さ、豪華さ。
 
 (お友だちって、東央国の人だったのっ!?)
 
 屋敷の入口まで(勝手に)敷かれた赤い毛氈。その上を優雅に歩いてきたのは、スーツではない、不思議な前で身ごろを重ね合わせる形の衣装の男性。髪の色こそシオンと同じ黒だけど、その蜂蜜を混ぜたような肌色は、わたしたちとは全然違う、遠い異郷の人なんだと一目でわかる。
 その名前、衣装、顔立ち。
 わたしが学んだ記憶から、その人が東央国の人だと察する。けど。

 (東央国の人って、こんなに派手なのぉっ!?)

 門から続く毛氈だけじゃない。その左右には、ズラッと並んだ使用人らしき東央国人たち。なにかの彫像みたいに、全員同じ高さまで腰を曲げてる。
 こんな派手な登場、この国じゃ、国王陛下ぐらいしかやらないわよ。

 「派手か? これでも連れて来る者は厳選したんだぞ。お前が目立つのを嫌ってるのは知ってたからな。ちゃんとお忍びできた」

 軽くふり返るユーフェンさん。
 これで? これで厳選したの?
 だとしたら、元々はどれだけの使用人を引き連れてきてたんだろう。
 そして、厳選したわりに、思いっきり目立ってる気がする。これのどのへんがお忍び? 門の向こう、町の人たちが、「なにごとっ!?」ってかんじで集まってきてるし。

 「シオン、そちらが、キミの奥方かい?」

 「ああ。紹介が遅れて申し訳ない。妻のリューリアだ」

 シオンが、わたしの肩を抱き寄せて紹介する。
 そうだ。
 今のわたしは、彼の妻。だから。

 「ようこそ、遠いことろをお越しくださいました」

 淑女らしく。ニッコリと優雅に笑ってお辞儀する。
 彼に恥をかかせないように。ちゃんと妻らしく。

 「……ユーフェン?」

 わたしの挨拶を受けて固まったユーフェンさん。不審に思ったシオンが、彼に声をかける。

 「……ドゥマ、メイリィア」

 かすかに、風に乗って聞こえただけのような称賛。ユーフェンさんの呟き。

 ――本当に美しい。

 お世辞かもしれない。
 でも、今日のわたしはシオンが選んでくれたドレスを着ているから。彼の妻役だから。

 「シェシェ」

 彼の妻らしく、少しはにかみ、東央国の言葉で御礼を述べる。
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