「今とっても幸せですの。ごめんあそばせ♡」 捨てられ者同士、溺れちゃうほど愛し合ってますのでお構いなく!

若松だんご

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10.鮮やかな青色ドレス

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 「ホンット、良い方ですわね、シオン様って」

 今日だけで何度目だろうか。
 わたしの着替えを手伝ってくれてるソニエがシオンを称賛する。

 「お嬢様のお部屋だけでも、こんなに素晴らしいのに、こんなにドレスまで用意してくださって!」

 今着替えているのは、真新しいドレス。
 シオンの家にお邪魔して一週間。彼がわざわざ王都から仕立て屋を呼んで用意させたもの。
 「本当は、ちゃんとキミに合ったドレスを用意したかったんだけど」
 で、とりあえずの既製品なんだけど。
 「次は、キミに合うドレスを贈るから」
 で、仕立て屋に採寸させた。
 まあ、既製品は採寸されてあつらえてないから、ところどころ余ったりキツかったりする部分もあるから、採寸して仕立てられるのはうれしいんだけど。

 (どうしてそこまでしてくれるんだろ?)

 疑問が残る。
 屋敷のこともそうだけど、ドレスまで用意してもらうのは、さすがに。

 (みすぼらして、見てられなかった――とか?)

 修道院に入るつもりだったし。王都から持ってきたドレスはどれもこれも着古した日常使いのドレスばかりで、体には合ってるけど、流行とかそういうのには合ってなかった。
 それでもソニエは丁寧に扱ってくれてたし、くたびれてても悪い状態じゃなかったんだけど。
 屋敷と同じで我慢ならないみすぼらしさだったとしたら。……落ち込む。

 「はい。これでようございますよ」

 最後のボタンを留め、わたしを完成させたソニエが満足そうにわたしの背を押す。

 「やはり、お嬢様には、これぐらいハッキリしたお色が似合いますね」

 「そうかしら?」

 「ええ。お嬢様はキレイなお顔立ちをしていらっしゃいますから。淡い色ではその良さが半減してしまいます」

 「キレイ? わたしが?」

 アイツには、「キツイ」って散々言われてたのに?
 笑えば「なにを企んでいる」、黙れば「ふてくされるな」だったのに?

 「お嬢様は、スッとしたお鼻立ちとか、キリッとした目とか、一つ一つ均整が取れててとてもお美しいんでございますよ。そのへんのこと、シオン様はよくご理解なさってます」

 「シオンが?」

 仕立て屋が持ってきたなかから、このドレスがいいと選びだしたのはシオンだけど。

 「ええ。こんなに色鮮やかなドレス、ちょっとやそっとの『カワイイ』、『愛らしい』では着こなせませんもの」

 ソニエの言葉。
 それは、あのマリアルナを当てこすってるんだろうか。あの子は、こんなハッキリとした色のドレスは着てなかったように思うけど。

 (似合ってる……のかな?)

 目の前に用意した鏡に、完成した自分を映してみる。
 ソニエが頑張って結い上げてくれた、いつものわたしの髪。
 ソニエが褒めてくれた、青のドレス。さすがに青だけでは印象がきつすぎると思ったのか、白の襟が胸元に使われている。袖口も同じ白。
 似合ってるのかどうかは、見てもわからない。わかるのは、髪をまとめてくれたソニエの腕の良さと、既製品でも仕立てのいいドレスだなってこと。

 「では、お嬢様。シオン様に、きちんと御礼を申し上げて来てくださいませ」

 「うん」

 「アタシは、ちょっとあの人に会ってきます」

 「うん、わかった。わたしからも来てくれてありがとうって伝えておいて」

 「はい!」
 
 わたしと同じく部屋を出たソニエ。
 だけど、ウキウキしてるのは、歩幅が大きいのはソニエの方。
 階下に向かう彼女は、スキップでもするんじゃないかって勢い。鼻歌混じりだし。

 (まあ、恋人に会うってなったら、そうなるよね)

 一足どころじゃない速さで前を行くソニエ。
 階下の使用人たちの部屋で待っているのは、彼女の恋人、ベン。
 
 ――屋敷の修繕ができたとして。女性二人での暮らしは危険だよ。

 言い出したのはシオン。

 ――誰か、信用できる男性使用人を用意したほうがいい。

 その言葉に、「では、ベンを呼んでもいいですか?」と提案したのはソニエじゃなく、わたし。
 ソニエは驚いていたけど、わたしのせいで、ベンと別れて暮らすことになっちゃったんだもん。誰かを用意するってのなら、ソニエの恋人を呼び寄せてあげたいじゃない。
 無骨で大柄で、その背の高さから従者として雇われてたけど、ニコリともしない無愛想な男、ベン。彼なら、用心棒的な役割も果たしてくれるだろう。
 ベンを雇う費用は、自分が言い出したことだからと、強引にシオンが請け負ってくれた。申し訳ない気持ちなんだけど、ソニエがあれだけいそいそと嬉しそうにしているのを見たら、シオンに感謝だなとも思っている。

 コンコンコン。

 軽く叩扉。
 扉の向こうは、シオンの執務室。

 「どうぞ」

 その声を聴いて、扉を開ける。

 「やあ、リューリア」

 執務机に向かい、なにやら熱心に読んでいた書類から、シオンが顔を上げ、こちらを見てくる。
 ベンを雇ってくれたことの御礼。ソニエが喜んでいることの御礼。
 それと。このドレス、――どうかな? の無言の問いかけ、なんだけど。
 書類を片手にわたしを見て。そのまますべての動作を止めたシオン。視線だけが、まっすぐに不躾にわたしに注がれるけど。

 (どっちなの?)

 似合う? 似合わない?
 やっぱりこのドレスは間違いだった? どう評価すれば、わたしを傷つけずにすむか、悩んでる?

 「シオン?」

 その沈黙が辛くて、小さく彼の名を呼ぶ。
 お願い。似合ってないなら、似合わないって言って。プッて笑ってもいいから答えをちょうだい。

 「ああ、ごめん」

 あわてたように書類を机に置いて、シオンが立ち上がる。

 「驚いた。とってもステキだ」

 え? そうかな? そうなのかな。

 扉近くに突っ立ったままのわたしに近づいてくるシオン。
 あまりに真っ直ぐな感想に、彼が近づいてくることに耐えられなくなって、頬が熱くなってるのを自覚してうつむく。

 わたし、このドレス、似合ってる?

 「キミには、やっぱりそれぐらい鮮やかな色がよく似合う」

 そう……なのかな?
 ソニエにも似たようなことを言われたけど、シオンから言われると、その……。心臓がおかしなぐらいキュッと締めつけられて、耳までジンジンと熱くなってくる。

 うれしい。

 そうやって褒めてくれることが。
 「ステキ」とか、「似合ってる」とか。よくある褒め言葉だけど、シオンに言われると、素直に称賛として受け入れられる。飾り気のない言葉だからこそ、ストンと受け入れられる。

 うれしい。
 
 そうやって見つめてくれることが。
 近づいてマジマジ見るなんて、マナーもなにもあったもんじゃないけど、でも、そうやって見られること、見て微笑んでくれること。恥ずかしいけどとってもうれしい。

 「あ、あのね、シオン」

 うれしくて、胸がドキドキしてどうにもならなくて。思い切って口を開く。

 「このドレスのこととか、ベンを雇ってくれたこととか、本当にありがとう」
 
 この部屋を訪れたのは、それが目的。
 ドレスとベンのこと、ちゃんと御礼を言おう。ってことで、初志貫徹。

 「別に、それぐらい……」

 「ううん。それぐらいじゃないよ! だから、『ありがとう』って言いたいの!」

 ちょっと強気に前に出る。
 このドレスも、ベンを雇うことも。シオンにしてみればたいしたことないかもしれないけど、わたしにとってはたいしたことあるものだったから。

 「ベンが来てくれて、ソニエが喜んでたわ。わたしのせいで、彼女たちを引き離してしまってたから」

 わたしの境遇に同情して、この町まで着いてきてくれてたソニエ。
 わたしの実家で、従者として働いてた恋人のベン。
 寡黙な人物だから、口には出さなかったけど、ベンも、もしかしたらソニエといっしょでわたしに同情してたのかもしれない。だから、恋人ソニエがわたしが修道女になるまでと、着いていくことに賛成してくれてたのかもしれない。
 やさしい似た者同士の二人。
 その二人をわたしの都合で離れさせてたのは心苦しかったから。こうしてこちらで雇い入れられて、いっしょに働ける環境を作ってもらえたのは、ソニエたちだけじゃなく、わたしもうれしい。

 「そんなたいしたことしてないのに……」

 「たいしたことあるってば!」

 視線を彷徨わせ、ポリポリと頬を掻くシオン。照れてるのはわかるけど、ちゃんと正面から素直にお礼を受け止めなさいよ!

 「――じゃあ、さ」

 チラッと、シオンが執務机に視線をやる。

 「お礼代わりに、一つ、頼まれてくれないか?」

 「頼まれる?」

 なにを?
 わたしでできることなら、なんでもするけど?

 「――僕の妻になってくれないか?」

 「は?」

 シオンの頼まれごと。それにものすごく大きな「は?」が出た。
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