「今とっても幸せですの。ごめんあそばせ♡」 捨てられ者同士、溺れちゃうほど愛し合ってますのでお構いなく!

若松だんご

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13.眠れぬ夜の攻防戦

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 「――今日は、いろいろとごめんね。いっぱい気を使わせちゃったよね」

 夜。
 彼の寝室で、夜着姿の彼が謝罪する。
 昼間の、ユーフェン殿下のことを言ってるんだろう。

 「別にいいわよ。楽しいお話、いっぱい聞けたし」

 アナタの過去とか、ね。
 ちょっとイタズラっぽく言うと、暗い室でもわかるぐらい、サッとシオンが顔を赤らめた。
 
 (殿下の誘いを断って、この町に遊びに来てたこととか、ホントは知られたくなかったのかな~)

 わたしがこの町にいた時。
 シオンは、ユーフェン殿下の誘いを断ってまで、この町に来ていたという。
 わたしも、さすがにそれは驚いたけど。

 (それだけ、お祖母様のことを案じていたのよね?)

 ユーフェン殿下は勘違いなさってたけど。
 シオンは、この町にいたお祖母様のことが心配で、ここを訪れてただけよね? わたしと遊んだのは、そのおまけ――よね?
 そして、この町に来なくなって、苦手な人付き合いを始めたのは、おそらくだけど、その時期に奥様と婚約したんじゃないからしら。
 わたしが10歳で、セスティアンと婚約したように、わたしより年上のシオンも奥様と婚約したのかもしれない。そして奥様のために、家業を継ぐ足がかりとして学友との友好を深めていった。
 それなら、卒業してすぐに結婚したっていう、経緯とも辻褄が合う。
 奥様を愛してたんだ、シオンは。
 この町を訪れてたのは、彼がお祖母様を大切に思ってたから。わたしとのことは、そのおまけ。そして一転交流を頑張ったのは、婚約しただろう奥様のため。別々の人を、それぞれ大切にしてただけ。
 ユーフェン殿下が、この町に訪れてた時の理由と、その後の理由、学校卒業後すぐの結婚までを一本の線のようにして語るから、なんだか誤解しちゃいそうになるけど。――というか、わたし、なにを誤解しちゃいそうになってるの? 自分でもわからない。

 「アイツは、明日には王都に戻るって言ってるけど。今日は疲れただろう。もう、おやすみ」

 シオンが話題を変えた。
 けど。

 (寝るって、ここで?)

 夜着の彼と、背後にデデンと居座る寝台を何度も交互に見る。
 主寝室。
 屋敷の主が休む部屋。
 ここに寝台があるのも、夜着姿の彼がいるのも、おかしなことじゃないんだけど。

 (わたしも寝るの?)

 屋敷に宿泊しているユーフェン殿下。
 彼にわたしたちが夫婦だと思わせるために、アツアツ熱愛夫婦が寝室を別にするって変でしょってことで、わたしも夜着でここにいるんだけど。
 
 (寝るのっ!? 本当にっ!?)

 そりゃあ、子どもの頃は無邪気に、いっしょに寝たいとか言ってたけどね? もう今は、20歳と23歳。演技のためでも、いっしょに寝ていい年齡じゃないよね?
 二人で寝ても余裕の大きさの寝台だけど。そういう問題じゃないよね?

 (あわわわわわ……)

 わたしの夜の仕度をして。ソニエも退出した部屋。
 会話が途切れてしまうと、ことさら後ろの寝台が気になって気になって。

 (まさか、そういうことも演技でやる――とか?)

 男女のそういうことは、王宮で学んでいる。
 閨での作法。男女の交わりとはどういうものか。男の欲望に、女はどう応えるべきか。
 男の喜ばせ方。
 実践はしたことないけど、やり方は知っている。
 初めてであっても、女としてどう振る舞えばいいかぐらいは――。

 (って、そういうこと、考えるんじゃない!)

 いくら熱愛夫婦の演技だからって、シオンもそこまで求めてないでしょ! うん!
 思うのに、そう思い込みたいのに、全然うまくいかない。それどころか、顔も体もシュンシュンと沸騰してくる。王宮で見せられた、そういう教本の中身が、脳内でグルグルする。

 「――リューリア」

 不意打ちのような呼びかけに、体がビクンと跳ねた。その体の脇に、彼の腕が伸びてくる。

 「その枕だけもらう。僕はあっちのソファで寝るから」

 「――――へ? 枕?」
 
 わたしの横を通り過ぎた彼の手。掴んでいたのは、……枕? 枕だけ?
 ってか、ソファ?
 部屋の端っこに備えられた二人がけ用のソファ。枕を持ったシオンが、スタスタとソファに近づいていく。

 「じゃあ、おやすみ」

 ポンポンっと枕を整えて置いて。ソファに腰掛けたシオンが言った。

 「――ちょっと待って! シオン、そこで寝るのっ?」

 「そのつもりだけど?」

 キョトンとしたシオン。

 「ダメよ! それじゃあ休めないわ!」

 そのソファ、いくら二人がけ用のものだとしても、成人男性が寝台代わりに使うには小さすぎる。

 「ごめん。じゃあ、あちらの執務室で寝ることにするよ」

 シオンが、枕を持って立ち上がる。
 執務室なら、この寝室から廊下に出ずに行ける。部屋と部屋が中扉でつながっている。殿下にニセモノ夫婦だってバレずにすむ。けど。

 「そういう意味じゃないの!」

 それ、勘違い!
 「休めないわ」は、部屋に幼なじみであっても男性がいたら、「おちおち安心して休めない」って意味じゃなくて! そんなソファじゃあ、「シオンのが休まらない」って意味! 

 「ソファは、わたしが使うわ!」

 ズカズカと彼に近寄り、手にしてた枕を奪い取る。
 そのソファ、シオンには小さいけど、わたしにはちょうどいい大きさだもの。
 
 「ダメだよ。キミをソファでなんて寝かせられないよ!」

 シオンに枕を奪い返される。

 「偽装は、こちらが頼んだことだし。リューリアは、そこでゆっくり休んで」

 意外と、シオンって頑固。
 えーい。こうなったら。

 「じゃあ、二人で寝台を使いましょう!」

 「りゅっ、リューリアッ!?」

 「二人で寝ても問題ない広さだし! それだったらお互いゆっくり休めるでしょ?」

 休めないかもしれないけど。
 少なくとも、わたしはドキドキして寝るどころじゃない気がするけど。

 「……男女がいっしょの寝台って。意味わかってる?」

 ハアッと、深くため息を漏らしたシオン。うつむき、乱暴に髪を掻き上げる。

 「意味? 知らないわよ」

 知ってるけど、知らないことにしておく。

 「ユーフェン殿下にお会いして楽しかったけど、疲れているのは、シオンも同じだわ。だから、ゆっくり休める方法を提案してるだけよ」

 それ以上でもそれ以下でもないの。
 男女の云々よりも、休んで疲れをとることを優先。

 昔の、王宮にいた頃のわたしなら、絶対こんな提案はしなかった。
 あんなヤツでも婚約者は婚約者。
 体面と操のために、男性と二人きりになるなんて、昼間であっても絶対しなかった。不貞を疑われるようなこと、疑惑を持たれるようなことは絶対やらなかった。
 でも、今は違う。
 それは、シオンを「二人っきりでも手を出してこない紳士」と信用しているからか。それとも、「手を出されてもいいかもしれない。守らなくちゃいけない体面もないし」と、開き直ってるのかもしれない。
 シオンの体が心配ってのもあるけど。
 もしかして。もしかしたら、そういうことも淡く期待しているのかもしれない。

 「……わかった。いっしょに寝よう」

 シオンの言葉に、強く心臓が跳ねた。
 要望が叶って、うれしいのだけど。満足より先に、心がソワソワしてしまう。
 シオンが枕を寝台に置き直す。その姿を見て、思わずギュッと胸の前で手を握る。

 「――おいで」

 モソモソと、先に寝台に入ったシオン。続いてわたしも寝台に上がって、いっしょに上掛けにくるまるけど。

 「じゃあおやすみ、リューリア」

 それだけ言うと、クルッと背中を向けたシオン。
 しばらくすると、彼の方から規則正しい寝息が聞こえてきた。

 (いや、そういうこと期待してたわけじゃないけどね!)

 自分で自分に弁明。
 いっしょに寝たからって! 男女のそういうのがあるって決まってるわけじゃない!
 幼なじみなだけだもの! 偽装夫婦なだけだもの!
 疲れてるだろう彼を労りたかったのは本当だもの! 疲れて、そんなに早く寝ちゃうのは、ちょっと(かなり?)予想外だったけど! でも、それでも!

 (そこまで疲れてる彼を、ソファで寝かせないで正解だったな)

 強引にそう思い込むことにする。そして。

 (ほらね。シオンは、わたしのことなんてなんとも思ってないのよ)

 思ってたら、ここではいそうですかって、眠らないでしょ。どれだけ疲れてたって、なにかしら、そういうことをするもんじゃない? 好きだったら。

 ――愛されてるな、御内儀。

 (別にいいわよ)

 心のなかで、ユーフェン殿下に反論。
 どうせ、わたしはニセモノ妻だし。ただの幼なじみだし。
 愛されてなんかいないんだし。
 シオンが、わたしのこと、そういう相手としてこれっぽっちも思ってないこと、これで立証できちゃったわよ。
 いっしょに寝るのをためらったのは、わたしの体面とかそういうのを慮っただけ。でなきゃ、こんなふうに平然と寝たりしないっての。

 「おやすみなさい、シオン」

 規則ただしい寝息を立てる彼に背を向け、わたしもまぶたを閉じる。
 わたしはただの幼なじみ。十年ぶりに会っただけの、妹のような存在。
 こんな状況でもすぐ寝ちゃうぐらい、なんとも思われていない。
 わたしだって、とっても疲れているはずなのに。
 彼の熱を背中に感じて。その寝息に耳をそばだてて。
 色んな感情が、なぜかグルグルと渦を巻いて。

 こんなの。こんなの、眠れるわけないじゃない。
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