「今とっても幸せですの。ごめんあそばせ♡」 捨てられ者同士、溺れちゃうほど愛し合ってますのでお構いなく!

若松だんご

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28.魔法の言葉

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 「――ごめんね、リューリア。あんなことになって」

 シオンの元嫁、アデリアが従僕と迎えに来た両親に(半ば無理やり)ひきずられていってしばらく。
 後事を済ませていた彼が、別室、客用寝室で控えていたわたしのもとに戻ってきた。

 「別に。それよりお義父様のご容態はどう?」

 わたしたちが王都に来たのは、階段から落ちて(二、三段。本人談)足を捻って寝込んでいるシオンの父を見舞いが目的。シオンの元嫁に会いに来たわけじゃない。
 あの乱入で、お義父様の容態が悪化してなければいいのだけど。

 「ああ、それは問題ないよ」

 わたしの心配に、ものすごく軽くシオンが請け負う。

 「だって、アデリアをあそこに呼び寄せたのは父さんだから」

 「――は?」

 ナンデスッテ?
 わたしの耳、おかしくなった? 聞き違い?

 「父さんは、予め餌を撒いておいたんだよ。僕が国王夫妻と懇意にしている。家の事業は国王の後ろ盾がついたことで、さらに繁盛するだろう。そして、僕が新たに結婚するってね。僕のお金を持って逃げたアデリアが、彼女がお金を使い切って困窮してることも把握してたし。僕のそういう情報をそれとなく流せば、必ず戻ってくるだろうって。まあ、半分は賭けみたいなものだったらしいけど」

 「そ、そうなの」

 「僕がキミと結婚するにあたって、本当にアデリアと別れられるのか。そのへんを試したかったらしい。僕があそこでちょこっとでもアデリアに想いを残してるようだったら。……きっと結婚を許してもらえなかっただろうし、最悪、勘当もありえたって言ってた」

 パクパク。
 開いた口の閉じ方忘れた。

 「まあ、父さんからすれば、あれだけアデリアを大切にしてた僕が、キミと結婚して彼女への想いを捨てられるかどうか不安だったんだろうね。だから、わざと呼び寄せるようなことをして試した。本当にキミだけを愛してるかどうか、見てみたかったんだろうね」

 シオンは、アレと結婚して、アレを愛そうと努力していた。
 いろいろ買い与えていたみたいだし。すぐに離婚には踏み切れてなかったみたいだし。
 お義父様から見れば、不安な部分もあったのだろう。

 「それと、父さんが言ってたよ。『いいお嫁さんをもらったな』って」

 「いいお嫁さん?」

 「うん。僕のためにアデリアと戦ってくれる、いいお嫁さんだって。褒めてたよ」

 「そ、それは……」

 褒めてもらえるほど、いいことだったんだろうか。

 「許せなかったのよ」

 「リューリア?」

 「アレがアナタを捨てていったことも、シレッと戻って来るつもりだったことも、全部許せなかったの! わたしの大切なアナタを、弄ぶようなアレが大ッキライだったの!」

 だからあれを「怒った」というのなら、それは義憤じゃなくて、私憤!

 「アレがお金を持って逃げたことより、お金目当てに戻ってきたことより、なによりアナタを弄んでる、あの態度が許せないの!」

 怒りに任せ、ソファから立ち上がる。

 「愛そうと頑張ってたアナタを捨てたことも許せないけど、わたしからアナタを奪おうとする、自分なら奪えるって思い上がってる、そういうのが許せなかったの!」
 
 「リューリア……」

 セスティアンの時は、マリアルナに盗られても、そこまで思わなかった。
 今まで頑張ってきたのにと、絶望はしたけど、ここまで悔しいとか腹立つとか思いもしなかった。
 けど、シオンは違う。
 なにがあっても、絶対盗られたくなかった。
 シオンの誠実を、彼の努力を踏みにじっていったような女に! シオンをバカにしたような女に!

 「リューリア、ありがとう……」

 握った拳を震わせていたわたしを、彼が近づき、そっと抱きしめる。

 「キミを愛して、キミに愛されて。僕、とても幸せだよ」

 「し、シオン……っ!」

 我慢していた涙が、ブワッと溢れ出した。抱きしめられるだけじゃない。わたしから彼にしがみつく。

 「ほ、本当は怖かった!」

 「うん」

 「シオン、盗られるっ、んじゃないかってっ!」

 「うん」

 「怖かっ、たん、だからっ!」

 「うん」

 泣きじゃくり、嗚咽まみれの言葉だけど、それでもシオンは静かに受け入れてくれた。

 怖かった。
 シオンはわたしを愛してくれたけれど、だからって、元嫁を愛してないとは言い切れない。
 嫁が戻ってきたらどうしよう。嫁に想いを残していたらどうしよう。
 わたし、また誰かに盗られるの? そして、わたし、また捨てられるの?
 セスティアンの時は、人生を自棄になっただけで終わったけど、きっと次のシオンの時は、自棄どころじゃすまない。絶望して、命を絶つぐらいじゃすまない気がする。

 「アレ、わたしに、にっ、似てたからっ! わたしっ、身代わりだったらどうしよう、って……!」

 「似てる? 彼女がキミに?」

 「うんっ! 似てた! 髪の色とか、そういうの、にっ、似てた!」

 シオンがやさしく抱きしめて、なんでも受け止めてくれる気がするから。心の奥に隠しておきたかった感情まで吐露してしまう。
 昔から、シオンが愛してたのはわたしで、アンタは身代わり。
 そう言い切ったけど、それが本当かどうかわからない。
 わたしが身代わりだったかもしれない。そう思うと、不安で不安でたまらなかった。

 「似てるかなあ……。僕は全然似てないと思うけど」

 わたしを抱きしめ、シオンが天井に向けて嘆息する。

 「ねえ、リューリア。キミは黒髪碧眼の妙齢の男性がいたとしたら、無条件に好きになったりするの?」

 「――へ?」

 驚きで、涙が止まった。

 「そんなことあるわけないじゃない。わたしは、シオンがシオンだから好きになったのよ」

 黒髪碧眼の二十代ってだけで好きになるなら、わたし、いったい何人の男性を好きになればいいのかしら。その条件に当てはまる人物なら、この国にどれだけいると思ってるの?

 「だったら、僕も同じ。僕は、リューリアがリューリアだから好きになったんだよ」

 「シオン……」
 
 「僕はね、キミの容姿だけじゃなく、そのすべてを好きになったんだ。やさしく真面目で、お人好しで努力家で。そばにいると、楽しい、安らげる、幸せだって思える。そんなキミだから妻にしたいと思えるほど、好きになったんだよ」

 シオンの、いつもの柔らかい微笑みと、温かい視線がわたしに注がれる。

 「キミとこうしているだけで、自然と『愛しい』って感情が湧き出てくる。もし、『真実の愛』ってのがこの世に存在するのだとしたら。それはキミとの間にしか存在しないと思ってるよ。そしてこの『真実の愛』は終わりがない、とめどなく溢れ続けているんだ」

 「シオン……」

 「ねえ、リューリア。他に心配なこと、ない?」

 「心配なこと?」

 「うん。心配、不安なこと。悲しいこと。なんでもいい。僕には隠さず伝えてくれないか?」

 少しだけ笑みを抑え、真剣な顔に戻るシオン。

 「僕は、キミに笑っていて欲しい。泣いた顔も愛らしいけど、笑ってくれるともっと愛らしい、僕の好きなリューリアになる」

 えっと……。

 「笑って、リューリア。僕はキミを僕の手で幸せにしたい。幸せに笑っていてほしいんだ」

 「シオン……」

 「ああ、なんでそこで泣くのさ」

 「し、知らないっ! 勝手に、溢れて、来たのっ!」

 ボロボロと流れ落ちる大粒の涙。

 「でも、これ、うれしっ、泣きだ、からっ!」

 ここまで愛されて。ここまで大切にされて。
 うれしくて、うれしくて、涙が止まらないの!

 「じゃあ、仕方ないか」

 「うん」

 今は、このまま泣かせて。悲しくて泣いてるんじゃないから。

 「でも、ごめん――」

 へ?

 グワッと体が動く。
 シオンがわたしを抱き上げたからだ。そして、ノシノシと大股で歩いていく。

 「キャッ!」

 フワッと背中から包みこまれるような感覚。――って、ここ、寝台っ!?

 「同じ『なく』なら、別の『なく』がいいかな?」

 シオンの青い瞳が、鮮やかに別の色に染まる。

 「ちょっ、待っ、ここ、お義父様のお屋し……、アァン!」

 最後まで言わせてももらえない。
 性急に始まった口づけ。

 「夫婦になるんだから、問題ないよ」

 いや、問題あるって! 誰かに聞かれたら!
 
 「父さんに、早く孫を見せてあげなくちゃだもんね」

 いやいや、孫って! 

 スルスルと、慣れた手つきで、わたしを脱がせ、顕になった素肌に愛撫を重ねていく。

 「アッ、ンウッ、し、シオンッ……」

 言いたいことはいっぱいあるのに。愛撫に体を震わせて、喘ぐしかなくなる。彼だけを求めて、それ以外のことを考えられなくなる。
 ――なんてチョロいの、わたしの体。

 「愛してるよ、リューリア」

 いつのもように、わたしとつながった彼が言う。

 「僕が愛してるのはキミだけだ。これまでも、これからも」
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