ボクの妹は空を飛べない。~父さんが拾ってきたのは“人間”の子どもでした~

若松だんご

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二、明時。 (あかとき。夜が明けようとする時。夜明けの頃)

(五)

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 「よーっしゃ。これでいいな」

 ノスリが言った。

 「そうだね。なかなか頑丈がんじょうに出来たんじゃないかな」

 出来上がったそれを、足で踏んで、何度も確認するカリガネ。

 「ちゃんと草葉を間に挟んだから、座っても痛くないよ」

 グラグラしないか、足で確認するだけじゃなく、最後は座り心地まで、自ら腰かけて確かめた。

 「さあ、ハヤブサ。その子をここに座らせてあげて」

 カリガネがうながす。

 「どうだ? どうだ?」

 ワクワクした顔で、ノスリが座った人の子を見る。
 最初、腰をおろした人の子は、自分を包むように作られた木の枝の集まりを不思議そうに見てたけど、そのうちちゃんと腰かけても大丈夫と思ったのか、グッと体重をかけるようにして座るようになった。

 「よっしゃ!」

 「成功だね!」

 二人が喜ぶ。

 「これで、いつでも遊びに来られるね!」

 「そうだな!」

 「おいちょっと待て! そんなひんぱんに、連れてこなきゃいけないのか?」

 「当たり前だろ? せっかく作ったんだし」

 「置いてきちゃかわいそうだよ、ハヤブサ」

 二人の言い分にガックリと肩を落とす。今日連れてくるのだって、特別の特別の特別だと思ってたのに。

 「さて、嬢ちゃんの腰かけも出来たことだし。なあ、ハヤブサ、あれをやってくれよ、あれ!」

 ノスリが言い出した。

 「そうだね。あれ、やってほしいな、僕も」

 カリガネまで言い出す。

 「あれって。……あれか?」

 「そうだよ、あれだよ、あれ! ハヤブサにしかできないやつ!」

 「お祝いだからね。頼むよ、ハヤブサ」

 期待をこめた二人の目。
 しかたない。
 ハアッと肩を落とし、それから。

 「わかったよ」

 閉じた唇に二本の指を押し当てる。

 「――――――! ――――――!」

 耳ではとらえられない不思議な音を鳴らす。

 「――――――! ――――――!」

 森の中、遠くまで響くように。はばたき、宙にとどまりながら、あちらこちらへ音を飛ばす。

 「おっ! 来た、来た、来た!」

 「さすがだね、ハヤブサの〝鳥寄せ〟!」

 二人が興奮する。

 つきの木に向かってやってくるのは、たくさんの小鳥。
 ヒタキ、ヒバリ、ヤマガラ、ウグイス、メジロ、ホオジロ、ヒワ。他にもたくさんの鳥たち。
 それらが森のあちこちから飛んでくると、つきの木の枝にとまったり、人の子の周りを飛び回ったり、さえずったり。一気に騒がしくなった。

 「〝鳥寄せ〟はね、鳥人族のなかでも族長とその家族にしかできない技なんだ。なんたって野生の鳥たちを呼び寄せる技だからね。お祝いの時だけ使っていいって決められてるんだ」

 集まった鳥の大群に、顔をキョロキョロさせてた人の子へ、カリガネが説明した。

 「ハヤブサの〝鳥寄せ〟は最高だぜ。普通はちょっとそのあたりの鳥を呼び寄せるだけなのに、ハヤブサは森中から鳥を集められちまう。それも、ほら。見てみろよ」

 ノスリがうながす。

 「アイツが呼び寄せたのは、みんな小さな鳥ばっかだろ? 適当に呼び寄せるんだから、ワシやタカが混じっててもおかしくないのに、小さな鳥だけを選んで呼び寄せた。アイツは、そういう芸の細かいこともできるんだよ」

 宙にとどまるボクの周りにもたくさんの小鳥。そのなかの一羽を手にとまらせると、こちらを見る人の子と目線があった。

 「――!」

 短く、目の前の小鳥に命じる。
 小鳥は軽くはばたき、命にしたがい飛び立った。
 それを見たカリガネが、人の子の両手を、何かをすくうような形にする。
 
 「コガラだ」

 ボクも近づいて説明する。
 黒い頭に、灰褐色の羽根。お腹は白くて、小さな体。

 チーチーチーチーツーチー、チーチーチーチーツーチー。

 手の中にとまり、人の子を見上げ、さえずりをくり返しては首をかしげるコガラ。

 「あいさつしてるんだから、返事してやれ」

 そう言うと、カリガネたちが「無理言うなよ」って顔をした。けど。

 「うわっ、嬢ちゃん笑えるのかよ!」

 ノスリが驚く。
 実際は、ニコッと笑うのではなく、ホニャっていうのか、ヘニャっていうのか。ほんわりとほほをゆるめただけなんだけど。

 チーチーチーチーツーチー、チーチーチーチーツーチー。

 人の子の反応に気をよくしたのか、コガラが何度もさえずりをくり返す。すると、他の小鳥たちもさえずりながら、いっせいに人の子にまとわりつきにいった。

 「わわわわっ!」

 その勢いに押されたカリガネが枝から飛び出す。

 「ハヤブサが命じたのか?」

 ノスリも、枝にとまっていられなくて飛んでくる。

 「違う。ボクはただコガラに、あそこに行けって命じただけだ」
 
 ボクだって驚いてる。
 あんなふうに、いっぱい飛んでいけ、まとわりつけだなんて命じてない。それなのに、勝手に人の子のもとに集まった小鳥たち。まるで、小鳥が自分から人の子にたわむれに行った、そんなかんじ。
 たくさんの小鳥に取り囲まれた人の子。腕にとまる小鳥や、すぐそばで羽ばたく小鳥。いくつものさえずり。
 そのくすぐったさからか、人の子がさらに口角を上げ――。

 「おい、今の!」

 グイグイと、ノスリがボクの衣を引っ張る。

 「あ、ああ……」

 言われなくても、ボクだって驚いてる。
 声こそ上げてないけど、くすぐったそうに身を軽くよじったり、肩をふるわせたり。ホニャとか、ヘニャとは違う、体の底から笑ってる姿。

 「かわいいよねえ、あの子」

 「……あれで声が聞けりゃあなあ」
 
 カリガネの感想にノスリが頷く。
 たくさんの小鳥のさえずりに囲まれて、声なきままに笑う人の子。その騒々しいまでの場所に、笑い声が混じらないことが残念に思えた。
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