ボクの妹は空を飛べない。~父さんが拾ってきたのは“人間”の子どもでした~

若松だんご

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二、明時。 (あかとき。夜が明けようとする時。夜明けの頃)

(四)

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 「で? 今日は連れてきたってわけ?」

 いつもの集合場所、つきの木の上。
 ちょこんと枝の根元に座らせたのは、ボクが連れてきた人の子。

 「へえ。よかったな、嬢ちゃん」

 人の子が座った枝の先に留まったのはノスリ。カリガネが座った時と違って、今回のノスリが枝を揺らしたりしない。

 「いい兄ちゃんやってるじゃねえか、ハヤブサ」

 「またきざはしに立ちっぱなしで、カゼをひかれたら困るからな。父さんにも叱られる」

 ニヤッと笑ったノスリから、プイッと顔をそむけた。

 「でもさ、ずっとここに座らせておくのも危なくない?」

 カリガネが言い出した。
 
 「僕たちは、落っこちそうになっても飛べるから問題ないけど、この子は落っこちたら大ケガするよ?」

 ボクたちの集合場所、つきの木。
 長くたくさん枝葉を伸ばしたその木は、ボクの背の何倍も高く、地面に立って見上げれば、首が痛くなるほどの大きさがある。

 「地面の上に置いとくわけにも……いかないよなあ。やっぱり」

 「蛇に噛まれたり、猪に襲われてもいいのならそうする?」

 「やめとく」

 ボリボリと頭をかく。

 「じゃあさ、ここに嬢ちゃんのために床を作ろうぜ」

 目を丸っと開いたノスリ。口角もこれでもかってぐらい上がってる。ノスリが、なにかひらめいた時の顔だ。

 「嬢ちゃんが落っこちないように、座っていられる床。それならいいだろ、ハヤブサ」

 「それは、まあ……」

 「ヨッシャ! あと下にも降りられるようにハシゴもいるかな? オイラ、ちょっとよさそうな枝とかツルとかさがしてくるよ!」

 言うなりバッと飛び立った。

 「アイツ、ホントに新しいこと始めるの、好きだよな」

 「だね」

 ノスリは、なんでも楽しそうなこと、新しいことにすぐに飛びつく。

 「じゃあ、僕もなにか集めてこようかな」

 カリガネも飛び立つ。

 「ハヤブサは、その子が落っこちないように、しっかり見張っててね」

 「おい、まっ――」

 一瞬、「ボクが行くから、カリガネが見ててくれ」って呼び止めそうになったけど、すぐにやめた。熱があっても、フラフラでもきざはしへ行こうとしたみたいに、ここで暴れられたら、それこそ枝から落っこちてしまう。

 (しかたない)

 軽くため息をついて、同じ枝に腰をおろす。
 見張ってろと言われたからには、いっしょにいるしかないけど。

 (だからって、何をしてたらいいんだ、ボクは)

 これが相手がノスリやカリガネ、それか鳥人の誰かなら、退屈しのぎにおしゃべりするか、森の中を飛んで追いかけっこでもするのに。
 しゃべれない、飛べない人の子相手じゃ、何もすることがない。しゃべりかけたって返事はないし、抱えて飛ぶのもなんか違う気がするし。

 (あ、そうだ)

 「ちょっと待ってろよ」

 少しだけ飛んで、別の木から、目当てのものを持ってくる。

 「ほら、これでも食べてろ」

 持ってきたのは木に巻きついたツルに成った赤い実。グミ。それを少し衣の裾で拭いてから、人の子に渡す。

 「なんだ。やっぱ自分じゃ食べないのか」

 グミを手にしても、それを口には持っていかない人の子。

 「ほら」

 自分の持ってたグミを口元に運ぶと、今度はパカッと口を開ける。

 「――まったく。ヒナ鳥かよ」

 自分では食べない。食べさせてもらう。ピーピー鳴かない人の子ヒナ鳥。
 モグモグとグミを咀嚼そしゃくした人の子が、喉を鳴らして飲み下す。
 すると、ホニャっていうのか、ヘニャっていうのか。ほんわりとほほをゆるめて、こっちを見てきた。

 (もしかして、これが『ありがとう』の代わりなのか?)
 
 持ってた勾玉にヒモを通してやった時もそうだった。熱のある時も、ボクを見て、一瞬だけこんな顔になった。
 これは、声が出ないほど心を砕かれるような目に遭ったコイツの、せいいっぱいの感情表現なのかもしれない。
 だとしたら。

 「うまかったんなら、もっと食べろ。いくらでも採ってきてやる」

 採ってきたグミを一粒づつ、その口に放りこんでやる。足りなければ、ちょっと飛んで新しいグミを摘んでくる。

 (ヒナにエサを運ぶ鳥の父さんや母さんって、こんな気分なのかなあ)

 なんとなく思った。
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