ボクの妹は空を飛べない。~父さんが拾ってきたのは“人間”の子どもでした~

若松だんご

文字の大きさ
22 / 42
四、風巻。 (しまき。激しく吹き荒れる風。雨や雪を混じえて吹く風)

(一)

しおりを挟む
 「まったく、なんなんだよぉ、人の宝ってぇ~~」

 つきの木の前の草原に戻ってくるなり、ゴロッとあお向けに転がったノスリ。かなり不満がたまっているのか、時折「あー、もう!」と頭をかきむしって、ジタバタ暴れる。

 「見つからないねえ」

 同じように戻ってきたカリガネは、普通に立って着地。二、三回羽根を震わせると、静かに翼をたたむ。

 「――――! ――――! ……そっか。見つからなかったか」

 二人と共に戻ってきた小鳥を手に止まらせて報告を受ける。それが終われば、別のことろから帰ってきた小鳥からの報告も受ける。けど、結果はどこも同じ。

 人の宝らしきものは見つからない。

 「なあ、本当に宝は山んなかにあるのかよ」

 「うーん、それは……」

 ノスリの疑問はもっともだ。なぜ、人の神宝かんだからが山のなかに?

 「ウソをつかれたって、可能性は?」

 「ないとは言えないけど。でもアイツの目は真剣だったから……」

 あごに手をあて思い出す。
 大君おおきみである父親に、命じられて捜しに来たという神宝かんだから。野山を何日も捜し回ったんだろう。その汚れた衣は、彼の真剣さを表していた。

 「でも、おかしな話だよね」

 「なにが」

 「考えてもみてよ。どうして十年も前に盗まれた宝を、ずっと放置してたのさ」

 カリガネが言った。

 「この山のどこかに宝があるってなったらさ、人だもん。大勢でやって来て、必死に捜すんじゃない?」

 「た、たしかに」

 人が、鳥人族の山だからって遠慮するとは思えない。そんな遠慮するような種族なら、山のふもとを切り開いて自分たちの里を作ったりしない。

 「それと、どうしてその忍海彦おしみひこって人間一人で来たのか。人って山に来る時って、いっつも複数で来ないかい?」

 「うん、来てる。たきぎを取りに来るのだってなんだって、必ず何人かでつるんで来る」

 おそらく、イノシシとか獣対策なんだろうけど。鳥人なら襲われても飛べばなんとかなるけど、人ではそうはいかない。だから、身を守るために何人か固まって山に入る。

 「大君おおきみの息子っていうのなら、ずっと身分の高い人間のはずなのにさ。それが一人で何日も山に入るって不自然だよ」

 「た、たしかに、そうだよな……」

 フームと、ノスリが腕を組んでうなった。

 「こっちが捜すのを手伝うって申し出てるのに、具体的にその宝がどんなものか、どこにあるのかも話さない。これってやっぱりおかしなことだよ」

 カリガネがキッパリ言った。

 「十年も前に盗まれて、取り返しにも来なかった。山にあるってわかっていても、やって来なかった。来たと思えば、身分の高い人間が一人だけ。こっちが協力するって言ってるのに、それがどんなものが説明しない。誰にも触れられたくないほど大事なものなのか。大事なものだとしたら、どうして今まで取りに来なかったのか。とにかく、全部がへんてこりんなんだよ」

 言われてみれば。

 「じゃあ、宝があるってのは、ウソで、別の目的で山に来てたってことか?」

 ノスリがたずねた。

 「う~~ん。それもよくわからないんだよねえ」

 カリガネが首をかしげる。

 「人がさ、山に入る目的ってなんだと思う? ノスリ」

 「お、オイラにきくのかよ」

 問われたノスリがあわてた。

 「え……っと。たきぎを取りに来たり、獣を狩りに来たり? あとは、木を切ったり、キノコや山菜を採りに来る……か?」

 「そうだよね。そういう生活に必要なものを奪うためにやって来るよね。逆に言えば、それ以外の理由で人は山に入ってこない」

 「危険な獣もいるからな」

 「そうなんだよ。鳥人にとってはなんでもない森や山でも、人にとったら危険な場所なんだ。それをわざわざ一人で分け入ってくるとなると……」

 「なると?」

 「ごめん。それらしい理由が思いつかない」

 カリガネの謝罪に、ガックリと首を落とす。

 「なんだよぉ、カリガネ。期待させといて、わかんねえのかよぉ」

 ノスリが、ブーブーとくちびるをとがらせた。

 「思いつくわけないだろ。理由は、あくまで人の側にあるんだから。人じゃない僕には想像もつかないよ」

 そりゃそうだ。
 鳥には鳥の、魚には魚の考えがあるように、人の考えることは人にしかわからない。

 「あー、もう! 考えるの、疲れた! もうヤだ!」

 ノスリがさらに髪をかき乱す。おかげで、彼の頭は鳥の巣よりもグシャグシャだ。

 「それよりさ! 今夜の歌垣かがい、どうすんだよ、二人とも。参加するのか? やっぱ」

 「え? あー、そういえば、今夜だっけ」

 すっかり忘れてた。
 年に一度の、歌垣かがい
 年頃の男女が、たき火の炎の周りで踊り、相手を探す。いっしょに踊って、自分と息の合う相手かどうか、一生をいっしょにしてもいい相手かどうか見極める。の鳥がの鳥の贈り物を受け取ったら、その二人はつがいとして認められる。鳥人のつがいは一生変わらない。だから、の鳥もの鳥も、ものすごく真剣に相手を探す。

 「オレは、ちょっといいかな」

 「の鳥に興味がないのか?」

 ……なんかイヤだな、その「の鳥に興味がない」ってやつ。まるで、「の鳥なら興味がある」って言われてるみたいだ。

 「そうじゃなくて。人の神宝かんだから捜しとかなんとかで、疲れてるんだよ。今のところ誰かとつがう気もないし。だから参加を見送ろうって思っただけ」

 連日の鳥たちを使っての神宝かんだから捜し。呼び寄せるのも、命じるのも、声を聞くのも、すべて秘伝の力を使ってのことだから、なんだかんだで結構疲れる。

 「そっか。ハヤブサが参加しねえのなら、オイラとつがってくれるの鳥もいるかもしれねえな」

 「だね。つがいを見つける絶好の機会だよ」

 うれしそうなノスリとカリガネ。
 そのうち、二人だけで、贈り物はどうするかとか、どんな相手がいいとか、そういう話題で盛り上がり始めた。

 (のん気なヤツら……)

 つきの木の上。二人をながめながら、幹にもたれて座る。
 初夏の日ざしは厳しいけど、こうして木陰で身を休めれば、森を吹き渡る風はとても心地よい。

 (ふぁ~~あ。あー、眠い……)

 疲れはトロンとまぶたを落とし、二人の騒がしさはいつしか子守唄となっていった。

 (ホント、人の神宝かんだからってどこにあるんだろうな)

 そんなことを考えながら、眠りに落ちた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

星降る夜に落ちた子

千東風子
児童書・童話
 あたしは、いらなかった?  ねえ、お父さん、お母さん。  ずっと心で泣いている女の子がいました。  名前は世羅。  いつもいつも弟ばかり。  何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。  ハイキングなんて、来たくなかった!  世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。  世羅は滑るように落ち、気を失いました。  そして、目が覚めたらそこは。  住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。  気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。  二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。  全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。  苦手な方は回れ右をお願いいたします。  よろしくお願いいたします。  私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。  石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!  こちらは他サイトにも掲載しています。

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

レイルーク公爵令息は誰の手を取るのか

宮崎世絆
児童書・童話
うたた寝していただけなのに異世界転生してしまった。 公爵家の長男レイルーク・アームストロングとして。 あまりにも美しい容姿に高い魔力。テンプレな好条件に「僕って何かの主人公なのかな?」と困惑するレイルーク。 溺愛してくる両親や義姉に見守られ、心身ともに成長していくレイルーク。 アームストロング公爵の他に三つの公爵家があり、それぞれ才色兼備なご令嬢三人も素直で温厚篤実なレイルークに心奪われ、三人共々婚約を申し出る始末。 十五歳になり、高い魔力を持つ者のみが通える魔術学園に入学する事になったレイルーク。 しかし、その学園はかなり特殊な学園だった。 全員見た目を変えて通わなければならず、性格まで変わって入学する生徒もいるというのだ。 「みんな全然見た目が違うし、性格まで変えてるからもう誰が誰だか分からないな。……でも、学園生活にそんなの関係ないよね? せっかく転生してここまで頑張って来たんだし。正体がバレないように気をつけつつ、学園生活を思いっきり楽しむぞ!!」 果たしてレイルークは正体がバレる事なく無事卒業出来るのだろうか?  そしてレイルークは誰かと恋に落ちることが、果たしてあるのか? レイルークは誰の手(恋)をとるのか。 これはレイルークの半生を描いた成長物語。兼、恋愛物語である(多分) ⚠︎ この物語は『レティシア公爵令嬢は誰の手を取るのか』の主人公の性別を逆転した作品です。 物語進行は同じなのに、主人公が違うとどれ程内容が変わるのか? を検証したくて執筆しました。 『アラサーと高校生』の年齢差や性別による『性格のギャップ』を楽しんで頂けたらと思っております。 ただし、この作品は中高生向けに執筆しており、高学年向け児童書扱いです。なのでレティシアと違いまともな主人公です。 一部の登場人物も性別が逆転していますので、全く同じに物語が進行するか正直分かりません。 もしかしたら学園編からは全く違う内容になる……のか、ならない?(そもそも学園編まで書ける?!)のか……。 かなり見切り発車ですが、宜しくお願いします。

村から追い出された変わり者の僕は、なぜかみんなの人気者になりました~異種族わちゃわちゃ冒険ものがたり~

楓乃めーぷる
児童書・童話
グラム村で変わり者扱いされていた少年フィロは村長の家で小間使いとして、生まれてから10年間馬小屋で暮らしてきた。フィロには生き物たちの言葉が分かるという不思議な力があった。そのせいで同年代の子どもたちにも仲良くしてもらえず、友達は森で助けた赤い鳥のポイと馬小屋の馬と村で飼われている鶏くらいだ。 いつもと変わらない日々を送っていたフィロだったが、ある日村に黒くて大きなドラゴンがやってくる。ドラゴンは怒り村人たちでは歯が立たない。石を投げつけて何とか追い返そうとするが、必死に何かを訴えている. 気になったフィロが村長に申し出てドラゴンの話を聞くと、ドラゴンの巣を荒らした者が村にいることが分かる。ドラゴンは知らぬふりをする村人たちの態度に怒り、炎を噴いて暴れまわる。フィロの必死の説得に漸く耳を傾けて大人しくなるドラゴンだったが、フィロとドラゴンを見た村人たちは、フィロこそドラゴンを招き入れた張本人であり実は魔物の生まれ変わりだったのだと決めつけてフィロを村を追い出してしまう。 途方に暮れるフィロを見たドラゴンは、フィロに謝ってくるのだがその姿がみるみる美しい黒髪の女性へと変化して……。 「ドラゴンがお姉さんになった?」 「フィロ、これから私と一緒に旅をしよう」 変わり者の少年フィロと異種族の仲間たちが繰り広げる、自分探しと人助けの冒険ものがたり。 ・毎日7時投稿予定です。間に合わない場合は別の時間や次の日になる場合もあります。

エマージェンシー!狂った異次元学校から脱出せよ!~エマとショウマの物語~

とらんぽりんまる
児童書・童話
第3回きずな児童書大賞で奨励賞を頂きました。 ありがとうございました! 気付いたら、何もない教室にいた――。 少女エマと、少年ショウマ。 二人は幼馴染で、どうして自分達が此処にいるのか、わからない。 二人は学校の五階にいる事がわかり、校舎を出ようとするが階段がない。 そして二人の前に現れたのは恐ろしい怪異達!! 二人はこの学校から逃げることはできるのか? 二人がどうなるか最後まで見届けて!!

処理中です...