ボクの妹は空を飛べない。~父さんが拾ってきたのは“人間”の子どもでした~

若松だんご

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四、風巻。 (しまき。激しく吹き荒れる風。雨や雪を混じえて吹く風)

(一)

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 「まったく、なんなんだよぉ、人の宝ってぇ~~」

 つきの木の前の草原に戻ってくるなり、ゴロッとあお向けに転がったノスリ。かなり不満がたまっているのか、時折「あー、もう!」と頭をかきむしって、ジタバタ暴れる。

 「見つからないねえ」

 同じように戻ってきたカリガネは、普通に立って着地。二、三回羽根を震わせると、静かに翼をたたむ。

 「――――! ――――! ……そっか。見つからなかったか」

 二人と共に戻ってきた小鳥を手に止まらせて報告を受ける。それが終われば、別のことろから帰ってきた小鳥からの報告も受ける。けど、結果はどこも同じ。

 人の宝らしきものは見つからない。

 「なあ、本当に宝は山んなかにあるのかよ」

 「うーん、それは……」

 ノスリの疑問はもっともだ。なぜ、人の神宝かんだからが山のなかに?

 「ウソをつかれたって、可能性は?」

 「ないとは言えないけど。でもアイツの目は真剣だったから……」

 あごに手をあて思い出す。
 大君おおきみである父親に、命じられて捜しに来たという神宝かんだから。野山を何日も捜し回ったんだろう。その汚れた衣は、彼の真剣さを表していた。

 「でも、おかしな話だよね」

 「なにが」

 「考えてもみてよ。どうして十年も前に盗まれた宝を、ずっと放置してたのさ」

 カリガネが言った。

 「この山のどこかに宝があるってなったらさ、人だもん。大勢でやって来て、必死に捜すんじゃない?」

 「た、たしかに」

 人が、鳥人族の山だからって遠慮するとは思えない。そんな遠慮するような種族なら、山のふもとを切り開いて自分たちの里を作ったりしない。

 「それと、どうしてその忍海彦おしみひこって人間一人で来たのか。人って山に来る時って、いっつも複数で来ないかい?」

 「うん、来てる。たきぎを取りに来るのだってなんだって、必ず何人かでつるんで来る」

 おそらく、イノシシとか獣対策なんだろうけど。鳥人なら襲われても飛べばなんとかなるけど、人ではそうはいかない。だから、身を守るために何人か固まって山に入る。

 「大君おおきみの息子っていうのなら、ずっと身分の高い人間のはずなのにさ。それが一人で何日も山に入るって不自然だよ」

 「た、たしかに、そうだよな……」

 フームと、ノスリが腕を組んでうなった。

 「こっちが捜すのを手伝うって申し出てるのに、具体的にその宝がどんなものか、どこにあるのかも話さない。これってやっぱりおかしなことだよ」

 カリガネがキッパリ言った。

 「十年も前に盗まれて、取り返しにも来なかった。山にあるってわかっていても、やって来なかった。来たと思えば、身分の高い人間が一人だけ。こっちが協力するって言ってるのに、それがどんなものが説明しない。誰にも触れられたくないほど大事なものなのか。大事なものだとしたら、どうして今まで取りに来なかったのか。とにかく、全部がへんてこりんなんだよ」

 言われてみれば。

 「じゃあ、宝があるってのは、ウソで、別の目的で山に来てたってことか?」

 ノスリがたずねた。

 「う~~ん。それもよくわからないんだよねえ」

 カリガネが首をかしげる。

 「人がさ、山に入る目的ってなんだと思う? ノスリ」

 「お、オイラにきくのかよ」

 問われたノスリがあわてた。

 「え……っと。たきぎを取りに来たり、獣を狩りに来たり? あとは、木を切ったり、キノコや山菜を採りに来る……か?」

 「そうだよね。そういう生活に必要なものを奪うためにやって来るよね。逆に言えば、それ以外の理由で人は山に入ってこない」

 「危険な獣もいるからな」

 「そうなんだよ。鳥人にとってはなんでもない森や山でも、人にとったら危険な場所なんだ。それをわざわざ一人で分け入ってくるとなると……」

 「なると?」

 「ごめん。それらしい理由が思いつかない」

 カリガネの謝罪に、ガックリと首を落とす。

 「なんだよぉ、カリガネ。期待させといて、わかんねえのかよぉ」

 ノスリが、ブーブーとくちびるをとがらせた。

 「思いつくわけないだろ。理由は、あくまで人の側にあるんだから。人じゃない僕には想像もつかないよ」

 そりゃそうだ。
 鳥には鳥の、魚には魚の考えがあるように、人の考えることは人にしかわからない。

 「あー、もう! 考えるの、疲れた! もうヤだ!」

 ノスリがさらに髪をかき乱す。おかげで、彼の頭は鳥の巣よりもグシャグシャだ。

 「それよりさ! 今夜の歌垣かがい、どうすんだよ、二人とも。参加するのか? やっぱ」

 「え? あー、そういえば、今夜だっけ」

 すっかり忘れてた。
 年に一度の、歌垣かがい
 年頃の男女が、たき火の炎の周りで踊り、相手を探す。いっしょに踊って、自分と息の合う相手かどうか、一生をいっしょにしてもいい相手かどうか見極める。の鳥がの鳥の贈り物を受け取ったら、その二人はつがいとして認められる。鳥人のつがいは一生変わらない。だから、の鳥もの鳥も、ものすごく真剣に相手を探す。

 「オレは、ちょっといいかな」

 「の鳥に興味がないのか?」

 ……なんかイヤだな、その「の鳥に興味がない」ってやつ。まるで、「の鳥なら興味がある」って言われてるみたいだ。

 「そうじゃなくて。人の神宝かんだから捜しとかなんとかで、疲れてるんだよ。今のところ誰かとつがう気もないし。だから参加を見送ろうって思っただけ」

 連日の鳥たちを使っての神宝かんだから捜し。呼び寄せるのも、命じるのも、声を聞くのも、すべて秘伝の力を使ってのことだから、なんだかんだで結構疲れる。

 「そっか。ハヤブサが参加しねえのなら、オイラとつがってくれるの鳥もいるかもしれねえな」

 「だね。つがいを見つける絶好の機会だよ」

 うれしそうなノスリとカリガネ。
 そのうち、二人だけで、贈り物はどうするかとか、どんな相手がいいとか、そういう話題で盛り上がり始めた。

 (のん気なヤツら……)

 つきの木の上。二人をながめながら、幹にもたれて座る。
 初夏の日ざしは厳しいけど、こうして木陰で身を休めれば、森を吹き渡る風はとても心地よい。

 (ふぁ~~あ。あー、眠い……)

 疲れはトロンとまぶたを落とし、二人の騒がしさはいつしか子守唄となっていった。

 (ホント、人の神宝かんだからってどこにあるんだろうな)

 そんなことを考えながら、眠りに落ちた。
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