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第7話-1 悪役令嬢を包囲しよう。

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今日も執務室に缶詰めだ。
ハーデスがたまに書類の進み具合を確認しに来るが全くもって進まない。
書類の中にはだらだらと内容が書かれているだけのものがあったり、計算間違いやら、結局何が言いたいのか分からないものまである。
その書類でかなり時間を取ってしまう。
勘弁してほしい。

今日もまた何時間机に向かっているのだろう。
しかしもう何時間座っていても終わりそうにない。
1日が100時間くらい欲しい!

ドアがノックされた。
ハーデスが急かしにきたのか。はぁ…。
全然減ってないぞ!

「あー!入っていいぞ。」
「失礼します。」

ドアが開いた。
そこには両手にお茶の用意を持ったラティディアが入ってきた。
両手にお茶の用意を持っていて今にも傾きそうだ。
そんなんでどうやってドアのノブを回したんだ。

私はあわてて椅子から立ち上がりドアを持った。
「ありがとうございます。助かりました。ハーデス様からそろそろ限界だろうからお茶を持って行って欲しいと頼まれました。」

確かに少し、いやかなり疲れたな。
しかしラティディアを寄こすなんてハーデスのやつ、何を考えているんだ。
まあいいか。
「ありがとう。君も付き合ってくれるだろう?
少し疲れたから一緒に話でもしていてくれないか。」
「はい…っ。」

ラティディアがお茶を入れてくれた。
あのラティディアがお茶を入れている?
記憶を失う前は絶対になかったことだ。
しかしお茶の入れ方はしっかりしている。
わたしの前でしていなかっただけでちゃんとやっていたのか。
服も華美ではなく落ち着いたものだし、
髪の毛も軽く止めてかわいい髪留めを止めている。
化粧もしていないのか?
本当にこれは誰だと言わんばかりの変わりようだ。
しかしこの前もその前もこの服じゃなかったか?
この10日くらいで2着くらいしか見ていない・・・?

ミィが彼女の足元にくっついて離れない。
彼女はミィに向かって優しく声をかける。
「少し待ってね。あなたにもあげるからね。」
そういえば動物は好きだとか言っていたな。
これが本当のラティディアなんだろう。
ミィがあんなに懐いている。私とジェイデン以外には割と誰も受け付けないんだけどな。
ダリアには毛を逆立てて怒っていたな。
そうだ彼女には前から懐いていたな。まあ彼女が助けた猫だからな。
それでも彼女の本質を分かっていたのか・・・。

彼女は私の分の紅茶と自分の分の紅茶を用意していた。
記憶をなくす前は何も入れないで飲んでいたのに
今はミルクを混ぜて砂糖を入れる。
本当に全く違う人だ。
今までの彼女は誰だったんだ。
もう彼女を腕の中に入れてしまいたい。

彼女が仕事机の横のソファの前のローテーブルに紅茶を置いた。
「こちらに置かせていただきますね。」
もうラティアのその顔を見ているだけで疲れが無くなっていく。

彼女が笑って私の前で紅茶を飲む。
ほらほら猫舌なんだからよく冷まして。
ラティアはミルクを入れて混ぜた後にフーフーと一生懸命に紅茶を冷ます。
それでも熱いと言って舌を少し出す。
いけない。いけない。まだまだ仕事は残っているんだ。
そのラティアの少し出した舌を見ていたら落ち着かなくなってきてしまった。

一目ぼれしてから8年。いろいろあって途中横道にそれてしまったこともあったが
彼女が目の前で微笑んでいると幸せで胸がいっぱいになる。

「エディシスフォード殿下?どうしましたか?」
可愛らしく首をかしげる?
「私のせいでいろいろ手をかけさせてしまい仕事が溜まってしまったんですね。申し訳ありません。」
可愛く謝る。
「このクッキーおいしい。あらミィ、もう食べたの?」
可愛く笑う。
「エディシスフォード殿下、何かお疲れですか?
本当に私のせいでいろいろ申し訳ありませんでした。」
可愛く私の心配をしてくれる。
何かすべてが愛しく思えてきた。

あ、おかしい。
今までこんな風になったことないのに。
あ・・・我慢できない。

頭を抱えて自分を抑えていた。

「頭が痛いのですか?」
違う。君が可愛すぎて我慢できないのだが、頑張って耐えているところだから話かけないでくれ。
本当に笑ってしまうな。
先日まであれだけ嫌っていたラティアディアだが今はすごく愛しい。
本当に人間って勝手な生き物だな。
いや私が勝手なのか・・・。

彼女は記憶をなくしてくれたままでいい。
記憶なんて戻らないでいて欲しい。

もし記憶が戻ってしまったら…。
それは困る。
このままの彼女を私の手の中に入れておくにはどうしたらいい?

いろいろな画策が頭をぐるぐる駆け回る。

「大丈夫ですか?少し疲れたのでしょう。ジェイデン殿下からお薬を持ってきてもらってきますね。ほらミィ、私は立つから殿下の方に行ってね。」
ミィはニャンと鳴いて私の膝に乗ってきた。
私は頭をなでてやった。
気持ちよさそうい喉を鳴らしていた。

そうしていると彼女はソファを立ってドアの方に向かった。

「ラティディア。」
自分の隣を通りすぎる時ラティディアの腕をつかんだ。
彼女は少し驚いたように目を丸くして私を見た。
「お薬は必要ないですか?」
「ああ。」
「でも少し休んだ方がいいですよ。顔色がよくないです。」
「大丈夫だ。」
「本当にですか?無理しないでください。」

彼女は心配した顔をする。
私を心配してくれている。彼女が愛しい。
いくら私のためだからと言って彼女をジェイデンのところなんていかせたくない。
他の男のことろなんかにいかせたくない。
特にジェイデンのところには。

銀の柔らかそうな髪、水色の大きな瞳、白い手、赤い唇・・・。
何もかも愛しく感じてしまう。
触れたい…。

「ラティア・・」

優しく笑う彼女を私だけのものにしたい。

私は頭の中でぐるぐる回る考えから一つを選んだ。

私はグイっと強く彼女の手を引っ張った。
「きゃっ!エディシスフォード殿下!何を・・・。」
彼女は体勢を崩して私の上に倒れかかってきた。
「す!すみません!!すぐにどきます!」

真っ赤になってる彼女が可愛い。
記憶が戻ったら怒るだろうか…。
しかし私は今の状況を使わせてもらおう。
そう、記憶が戻っても君が引き返せれないくらいに君を私のものにしてしまえばいい。
起き上がろうとするラティアディアの腰に手を回して自分の方に引き寄せた。

「ははっ、驚いた?」
「もう!驚きました!」

少し拗ねた顔をする彼女も可愛いと思ってしまう。
本当に全く私は都合の良い男だな。
フッと笑ってしまった。
反対の手をラティディアの頬に置いた。
一瞬ピクリと彼女が動いた。

「ラティア・・・。」

私はなるべく優しく頬に置いた手で彼女の顔の輪郭をなぞった。
やわらかな、しっとりとした肌が手に吸い付く。
顎に親指がかかった時に少し力を入れて彼女の顔の向きを自分に向けた。
そして腰に回していた手を頭に置いた。
柔らかな銀の髪が指に絡みつく。
彼女の肩に力が入るのがわかった。

ミャア!
突然ミィが鳴いた。
しまった・・・私の膝にいたミィがラティディアと私の間に挟まっていた。

「ごめんなさい!ミィ!大丈夫。」
彼女は赤くなりながらミィを抱き上げた。

しまった・・・。欲望に勝てなかった自分が情けなく感じた。
まだダリアの事が解決していない。
ラティディアに対して何も伝えていない。
これではいけない。
少し助かったという思いがあった。

ひとまず無理やりはダメだ。
彼女の気持ちが私にむかなければいけない。
そのためにこのやり方はダメだ。

しかし忘れてしまっているのなら都合がいい。
もし他に好きな人がいようと、私を好きでなくでも関係ない。
だって彼女は忘れているのだから。
記憶を思い出さないうちに私を好きだという感情を植え付けてしまえばいい。
記憶が戻った時それが打ち消すぐらい周りを固めてしまえばいい。

私は決めたんだよ。
ラティディア・・・。
君を離しはしないよ。
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