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第11話-3 悪役令嬢でしたね。

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王宮の庭園が見えるテラスに来た。
目の前には噴水がある。
丸い球のものが浮かんで光っている。
その色は水色だったり、オレンジだったり、黄色だったり。
「綺麗!」
ちょっと寒いですが綺麗なので許します。
「あれって魔法ですか?」
「ああ、あの付近には魔法石があるから昼間の光で充電されて明かりを灯しているんだ。ほらっ」
殿下が人差し指をふっと前にだして振るとその色が赤に変わった。
「え?今どうやったんですか?すごい!」
「君にもできるんじゃないか?色が変わるように念じてやってごらん。」
変われ!変われ!一生懸命に念じながら指を振ってみた。
眩し!!一斉に青白く明るく光りだした。
「ああ、君は氷属性だったね?この明かりはその人の魔力の属性によって色がかわるんだよ。
だから私は火。ほらっ」
もう一度殿下が指を振ると明かりは青と赤と半分半分くらいに光りだした。
「綺麗です。」
少し私たちはその灯りを見ていた。
風があり、寒かったから少し腕をさすってみた。
「ごめん。寒かったね。」

殿下は後ろから私を抱きしめてきた。
「少し暖かくない?」
肩が上がった。
私は固まってしまった。
こういう時は羽織るものを差し出すんじゃないですか?
何で抱きしめるって発想になるんですか!
「あ、あっ、た、あたたか...いですが・・・殿下が風邪を引いてしまいます。中に入りませんか?」  
「ラティア・・お願いがあるんだ。君がそのお願いを聞いてくれたら中に入ろうかな?」
「なんですか?殿下の頼みならできる限りはします。」

殿下に風邪をひかれたら困る。

さっさとお願いを聞いて中に入っていただこう。
「私を見てくれないか?」
「はい?」

寒い冬の王宮のテラスでエディシスフォード殿下は私にお願いがあると言った。
目の前には赤と青の灯りが幻想的に灯っている。
そうなんです・・・。少しこの危険なシチュエーションに緊張してしまっています。
少し赤くはにかむ金髪の人・・その人に後ろから抱きしめられている。
なんかすごい場面だ。
どうしよう・・・。

私は首だけ回して殿下の顔を見上げた。
「ひとまず見ましたがこれでいいですか?」

殿下が吹き出した。
「本当…雰囲気ぶち壊すね。はははっ。」

雰囲気ぶち壊すくらいボケなければやっていけない。
もうどうする。
私はごくりと唾をのみ込んだ。

「ラティア・・・」
少し掠れた声で私を呼ぶ。
彼は私の肩に顔を埋めた。

「少しお願いだ。私を許して欲しい。」
エディシスフォード殿下は言った。
「許す?」
「君を見ていなかっ私を・・。そして…」

彼は私の腰に回された手にギュッと力を入れた。

「君の心に私を入れてくれないか。ラティア・・。」

その捨てられた子猫のような少し力の無い声に流されてしまってもいいかもしれないと思ってしまった。

しかし…殿下に謝らなきゃいけないのは私の方だ。

「殿下・・・私こそ許してください。」

受け入れるとか・・・許すとか・・・。
殿下に嫌われるようにしていた私が全て悪かったのだ。

「殿下が謝る必要は・・ないです。」
「君を信じなかったのは私だ。いくら理由があったとしても私が君を信じていれば、ちゃんと見ていればこんなことにはならなった。」
「殿下・・・。」
「本当に王太子という地位に押しつぶされそうだったんだ。君のことまで気が回らなかった。申し訳なかった。」
「いえ、私が悪かったんです。謝るのは私です。申し訳ありませんでした。」
「もうやめよう。」
「でも・・・」
「過去のことで考えるのはやめないか。私も君もいろいろあったんだ。お互い様だ。」
「そうですね・・・。」
「わからなくてもいいんだ。記憶が無くてもいい。そんなことどうでもいい。今があればいいんだ。未来を考えていってくれないか?私はラティアに隣にいて欲しい。私と一緒にいることを考えてくれないか。」

どうしよう・・・わたしはこの手を取ってしまっていいの?
彼を好きだと思っていいの?
手が震えていた。

私が婚約破棄したかった。だから悪役を演じていた。
結果殿下は私が嫌になってダリア様を好きになった。

私が引き起こした事だ。

ここで私が殿下の手をとってしまっていいわけない。
私に対して謝っている殿下、殿下に別れを切り出されたダリア様に申し訳ない。そこにどんな理由があるにせよすべて悪いのは私。みんなを苦しめたのは私だ。

やっぱりだめだ…。自分だけ・・・。
そんな都合の良いことできない。

私は両手を下におろした。
「ラティア・・・?」
「ごめんなさい・・私は私は・・・。」
「ごめん・・・泣かせてしまったね。」

殿下がスッと私の体から離れた。
「私の気持ちだけ言いたかったんだ。
 ラティア・・・ごめんね。さあ寒くなったから部屋に戻ろうか。」

殿下が私に背中を向けた。
嫌だ・・・。嫌だ。
行ってしまうのは嫌だ。私は何てわがままなんだろう。
自分で殿下を拒否したくせにいざとなると手放したくない。
すごく悲しい。

私がそうさせたのに。
私は悪役令嬢・・・。

そう、私は悪役令嬢だったんだ。
悪役令嬢は幸せになってはいけない。

「ラティア、ほらもう風邪ひくよ。」
振り返ったエディシスフォード殿下は少し寂しそうな顔でほほえみながら言った。

そんな優しくしないで・・。
これ以上私の気持ちがあなたにいってしまったら戻ってこれなくなる。

『君は君の思うように生きていけばいいんだよ。』

私の思うように・・・って?
私の気持ちを言ってもいいの?

エディシスフォード殿下ははちゃんと私に向かい合ってくれた。
自分の気持ちをちゃんと言ってくれた。
なのに私はちゃんと考えていなかった。
この人が前を向いているのなら同じ目線で考えないといけない。
失くした5年間にとらわれずにちゃんと考えなきゃいけなかったんだ。

そうか。そうだ。
ありがとう・・・。
ふふふっ。

「ラティア?もう行くよ。早くおいで。」

殿下は扉の前まで進んでいた。
そして私に背中を向けて扉に手をかけた。

私は悪役令嬢だった。
わがままで嫌な子だった。
じゃあ最後まで演じてみせようか・・・。

何だかそう思ったら笑えて来た。
本当におかしいわ。おかしい子で上等だわ。
このままわがままを通させてもらいましょう。。
そう、私はわがままな悪役令嬢なんだから。
自分勝手にさせていただきましょう。

「エディシス様!」
「えっ?」
エディシスフォード殿下が足を止めて振り返った。
かなり驚いた顔をしていた。
今までで一番驚いた顔じゃないかしら?
また固まってる。

扉の前の殿下まで急いで走った。
そして思いっきり彼に飛びついてみた。
殿下は私を抱きとめてくれた。

「ラ、ラティア??」
「私はわがままだったんですよね?」
「ああ・・・?」
「みんなに迷惑かけていたんですよね?」
「たぶん・・・。」
「私は他人の迷惑も考えない子だったんですよね?」
「そうだったかな・・・?」
「じゃあここでわがままを言ってもいいんですよね?」
「は?」

なんかこの殿下の「は?」って驚く顔、見すぎて慣れてしまったわ。

「悪いことをしたので良い子の場合はエディシス様の手をとってはいけないんですよね?」
「あっ?へっ?」
「わがままで周りのことを考えない悪い子なら自分の思った通りに行動してもいいんですよね?」
「えっ?」

少し殿下が微笑んだ。

「私は自分勝手な子なんですよね?」
「そう。君はわがままで自分のことしか考えないんだ。」
「そんな悪役令嬢の私ならその手をとってもいいんですよね?」
「いいんじゃない。」
「じゃあ、私が殿下と一緒にいたいとわがままを言ってもいいんですよね?」
「いいよ。本当にわがままばかりで困った子だ。」
殿下が笑った。私はこの笑顔が好きだ。

私よりはるかに背の高い殿下が少し屈んだ。
私のあごに手をかけて上を向ける。
私はエディシスフォード殿下の顔を見た。
少し潤んだごげちゃ色の瞳。優しくてやわらなか表情。
「ラティア・・・。」
私の名前を呼ぶ甘い声。
少し殿下の口が開いた。
私はその色気にゾクリとした。
私は無意識に殿下の腕に自分の手を合わせてぎゅっと握った。
ごく自然流れで私たちはお互いの冷たくなった唇を合わせた。
ひんやりした殿下の唇は次第に暖かくなった。

「ラティア・・・ラティア・・」
何度も呼ぶ私の名前に心が温かくなる。
「今回は騙されてくださいね。」
「でも今回だけだよ。」
「これが最後です。」
彼は目を少し細めて頬を赤くして私を見つめていた。

少しの間私たちは抱き合っていた。
冷たい風がたまに吹いていたが寒さは感じなかった。
さっきまで赤と青に光っていた灯りはまた元のようにオレンジや緑に光っていた。
噴水から出る水が灯りに照らされて幻想的な色合いを演出していた。


「で、どうなっているのでしょうか?」
私はあの後くしゃみをしたため強制的に部屋に連れ戻された。
「寒かっただろう?すまなかった。」
部屋はきちんと暖められていた。
「もう暖かいので大丈夫そうです。」
で、何で私の部屋に殿下がいらっしゃるんですか?
というかいつから私の部屋が殿下の部屋のお隣に引越しをしたんですか?
「カーラ!!」
カーラが部屋の淵でヒッと肩を上げた。
「お嬢様に内緒で申し訳ありません・・・。しかし…。」
「ここは王太子妃に与えられる部屋なんだよ。私の隣だ。」
「そんなの見ればわかります!!じゃあ殿下の部屋はお隣なんですよね?
ではご自分の部屋にお帰り下さい。」
「嫌だな。今私は王太子妃の部屋だっていったよね?」
「ええ。聞きました。」
・・・ってもしかして!
私は部屋を見渡した。カーラがいる出入り口。もう一つ扉がある。
そろりとドアを開けた。チラリと中を見た。
そしてバタンと扉を閉めた。
「どういうことでしょうか!」
「今見たとおりだよ。」
「じゃあ私は着替えてくるからね。」
「さあお嬢様も寒かったでしょう。寝着に着替えましょうか?」
「カーラ!えっ?ちょっと!!」

エディシス様は、ふっと笑った。
「私の部屋はここからでも行けるから心配しなくていいよ。
じゃあ着替えてくるね。ラティアも着替えてね。後でね。」

そう言って殿下は先ほどの扉に入っていかれました。
・・・そうです。
王太子妃専用の部屋にはなぜかベッドがありません。
先ほどチラリと除いた隣の部屋にありました。
しかしその奥にも扉がありました。
つまり王太子殿下のお部屋はそこなんですね。
寝室を挟んで両隣に部屋があるようです・・。
私は今日はどこで寝るのですか?


ちなみに私がさっきあなたを受け入れなかったらどうしたんですか!
「自分の部屋のソファで寝ようと思っていたよ。」
なんて簡単に言われた。
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