好きです、今も。

めある

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夏、昼休み。

それからというもの、俺は必死に「いい先輩」をやってきた。気づけば、その期間、約一年半。
上手くやれてるか、自信はなかった。けれど、俺なりになんとかやってこれたと思う。


例えば、ある夏の日――


窓から覗く空には入道雲。耳を刺す蝉の鳴き声と調和するような生徒のはしゃぎ声。
午後からも授業があるというのに元気なものだ。
昼休み、俺は朝練の時に忘れた筆箱を取りに、人気ひとけのない道場へとやってきた。
午前中は友達に借りて事なきを得たものの、流石に午後も借りるのは忍びない。

中に入ると、むわっとした道場特有の暑さが襲ってくる。
……早くここから出たい、死んでしまう。
幸いにも、すぐに目当てのものは見つかった。ほっと胸を撫でおろす。
さぁ、早く教室に戻ろう。

そう思った矢先、道場の裏、少し影になっている場所に見慣れた人影を見つけた。

「……安達?」

思わず声に出すと、その人影はゆっくり、こちらへと体を向けた。
俺を視界に捉えたそいつは、少し目を見開いた後、ぺこり、と頭を下げる。
胡坐をかいた足には弁当箱、手には箸。
その風景に自ずと何をしていたかが分かってしまって。

「えー…あー……?なんでそんなとこで飯食ってんの?」

と、つい、眉をひそめて首をかしげてしまう。
安達は、不思議そうに瞬きをした後、

「……食うとこないんで。」

と零した。その仕草に頭を抱えてしまった俺は悪くないと思う。

「いや、食うとこないからってこんなあっつい場所で食うなよ。……教室は?」
「教室は……なんか居辛くて……。それに、ここ、案外風が通って涼しいですよ。」

そう言って目線を弁当に落としたこいつに、俺は頭をがしがしと掻いて、

「はぁ……ちょっと待ってろ。」

と、駆けだした。

・・・・

「ほれ。やる。」

ぽん、とペットボトルが宙を舞う。
孤を描いたそれは、ぽすりと安達の手へと収まった。

「……アク〇リ?いいんですか、貰って。」
「やるっていっただろ、熱中症になられるよりましだ……よいしょ。」

ミッションを達成した俺は、体育座りで安達の横に収まる。
ふいに心地よい風がすっと通り抜けた。
確かに、多少は涼しいかもしれない。……暑いけど。

「……お前、一人で食ってんの?」
「悪いですか?」
「いや、悪かねぇけどさ……。友だちいないのか。」
「…ちょっと黙ってください。」

そう言って、安達はおにぎりを大きく頬張る。
口いっぱいに米を詰め込んでもぐもぐしている姿はハムスターみたいでちょっと可愛い。
思わず笑ってしまった俺に、安達はむっとした顔でこちらを睨んでくる。

「いやっ、すまんすまんっ。ふふっ。いやぁ、意外と豪快な食い方するんだなって思ってさ。」
「笑いすぎです。」

すまんすまん…そう返しながらも、ツボに入ってしまったのか笑いが止まらない。
笑い続ける俺と、黙々食べ続ける安達。端から見ると大分変な二人組だろう。
ひとしきり笑った後、一つ息を吐いて呼吸を整える。


「はぁ……お前、寂しくねぇの?」


安達はちらりとこちらに視線を寄越した後、箸の先をじっと見つめた。
沈黙。蝉の鳴き声だけがこの場に響く。
数秒後、ようやく安達は口を開いた。

「寂しいとか……考えたことなかった…です。…ずっと一人だったんで。」

そう呟いたこいつの声は平坦で感情がない。けれども、顔はどこか陰って見えた。
目には何も映っていない。誰も……この場にいる俺さえも。
見ているこっちが寂しくなりそうなその姿に、ぎゅっと胸が締め付けられる。

「……そうか。」

二度目の沈黙。蝉の声がやけにうるさく感じる。

「…毎日、ここで食ってんの?」

安達はちらりと視線を寄越す。その瞳に俺が映って、何故か少し安心した。

「え、あ…はい。」
「そうか、…よし。」

ばっばっとズボンをはたいて立ち上がった。

「じゃあ、俺行くから。あ、ちゃんとそれ飲んどけよ。」
「…え、はい。」

小さく返事をした安達を横目に、俺は道場を後にした。
……本当に手のかかる後輩だ。
放っておけるわけ、ないだろ。

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