深窓の令嬢はダンジョンに狂う ~ハイエルフの姫に転生したけどなかなかダンジョンに行かせてもらえません~

吉都 五日

文字の大きさ
29 / 49
1章

幕間 カリナ様の華麗なる日常

しおりを挟む
「カリナ様?もう朝ですよ。カリナ様?起きてくださいカリナ様」

「あと5分……ぐー…うへへ…」

「まったくもう。そろそろアーシャ様を起こしに行く時間ですよ?」

「アーシャ様…ぐへへ。カリナは、カリナは…ぬふふふ。」


毎朝毎朝酷い醜態をさらしているが今日はいつもより酷い。
カリナの世話係であるイラーシュ伯爵家のメイドであるサラは主人のだらしない姿に呆れ半分、愛情半分というところだ。


「おきて下さいカリナ様……ふう、あっ!アーシャ様!」

「ふぇ?あーしゃたん?どこ?」

「おはようございますカリナ様。もうアーシャ様を起こしに行く時間ですよ」

「ふああ!もう遅刻じゃない!どうして早く起こしてくれなかったのよサラ!」

「何度も起こしましたが。夕べはアイーシャリエル様が帰って来たからといって、遅くまで記録水晶をご覧になっておりましたがそのせいでは?」

「何で知ってんのよ!あわわわ」


時間を確認する魔道具を見るともうほとんど時間が無い。いつももっと早く起こしてくれればと逆恨みしつつ、身だしなみを整える。そして身だしなみを整えながら並行しての口喧嘩。

急いで着替えをして髪を梳いて、身だしなみを整える。
起床から2分、すばらしいスピードだ。

毎朝の厳しい時間制限の中で磨き上げられた技術である。

そしてアイーシャリエル王女の元へ参る。
まだ眠っている王女の顔をしばし見つめる。これは一部の者にのみ許される至福の時である。


ゆっくりと声をかけて起こす。決して急がない。
寝ている王女もすばらしいが、寝起きの王女もまたすばらしい。

白銀の髪は朝日に照らされてキラキラと煌めき、母親譲りでワインレッドの瞳は未だ眠そうにウトウトとしている。

頑張って起きようと瞳をパチパチとさせるが、白銀の睫毛がそのたびにゆらゆらと揺れ動き、まるで光の精霊がダンスをしているようだ。


(ふわあああ!アーシャ様!カリナは、カリナはもうっ……!)


一人興奮のあまり失神しそうになるも、何とかこらえる。
そこへ目を覚ました神からの一言。


「おはよーカリナ。昨日はごめんね。探してくれてたんだって?」

「はい!アーシャ様が無事でカリナは安心しました!」

「今度は一緒に行こうね!楽しかったんだ。えへへ」

「是非ご一緒させてください。私も頑張って強くなります!」


親愛なる王女様に声をかけて頂く。
これほどの至福が世界にあるだろうか。いやない。

また昇天しそうになる自分を必死に支え、専属メイドとしての業務に戻る。


これがユグドラシル王国でアイーシャリエル王女に次いで、2番目に美しいと評価の高いカリナ様の毎朝の風景だ。1位と2位の間には超えられない壁があるという評価はカリナを含む国民の総意であるが。







カリナはアイーシャリエル王女の10歳年上だ。


ハイエルフの王女とは違い、エルフのカリナは人間とさほど成長速度に差がない。
だが、わずか10歳の時に王女が誕生することとなり、その筆頭侍女として彼女が指名された。


王妃であるシノブ様によってだ。

この国では王妃の発言は絶対に近い。
国王様も頭が上がらないとされているが、詳しいことは国のごくごく上層部にしか知らされていない。

カリナの父イラーシュ伯爵も引退した先代の父から王妃様には逆らうなと聞いただけしか知らない。
とにかく詳細は不明だが、カリナは王女が誕生する1ヶ月前から城で研修しつつメイドとして暮らしていくことになった。


カリナもカリナの父も母も不安でいっぱいだったが、王妃様が心配するなと太鼓判を押してくれた。
そのことで3倍程不安が増したが。

だが、カリナの不安は産まれてきた王女を見たときに一掃された。

今まで漠然と年上のカッコイイ男性がいいなと思っていたが、産まれてきた王女を見た瞬間に分かった。
私はこの方と共にいるために世に生を受けたのだと。



そんな彼女の日常は驚きの連続だ。
5歳くらいまではおとなしかった王女は突然おかしな方向に活発になった。
出かけるところは下街や冒険者ギルドといった、所謂お上品ではないところ。


カリナは隠密としての訓練も受けていたし、人知れず護衛も付いている。
それでも荒くれ者ばかりと噂に聞く冒険者ギルドに初めて入るときには大層心細かった。


だが結果は杞憂に終わった。
ギルドにいる老若男女は全員が王女に骨抜きにされた。

無愛想な男も、キツイ目をした中年女性も、気難しそうな老人も、生意気そうな若者も、ヤンチャな子供たちも、その全てが骨抜きだ。

アイーシャリエルが歩くたび皆が彼女を目で追い、くしゃみをすれば心配し、転べばあちこちから治癒魔法が。
ふと空の鳥を見れば皆が天を仰いだ。

あの美しさ、聡明さ、それに加えて子供らしい可愛さ。誰も一切抵抗できずに彼女に魅了された。


カリナは嬉しい反面なんとも言えない気持ちがあった。
自分だけが知っている宝物がみんなに知られてしまったような気持ちになったのだ。

でもその宝物は誰にも盗られる事なく自分の所にいてくれる。その事が何とすばらしい事か。
この宝物を私は一生守る。今度はオーク如きに後れはとらない。そう決意を新たにする。


アイーシャリエルが眠るところをじっくりと見守った後、彼女自身の厳しい特訓は深夜まで行われる。
そして特訓の後には何よりも大事な大事な記録水晶をチェックするための時間だ。

今日の王女の微笑を時間をかけてじっくり、ゆっくりと確認する。




……カリナは今日も寝不足である。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

《カクヨム様で15000PV達成‼️》悪魔とやり直す最弱シーカー。十五歳に戻った俺は悪魔の力で人間の頂点を狙う

なべぞう
ファンタジー
ダンジョンが生まれて百年。 スキルを持つ人々がダンジョンに挑む世界で、 ソラは非戦闘系スキル《アイテムボックス》しか持たない三流シーカーだった。 弱さゆえに仲間から切り捨てられ、三十五歳となった今では、 満身創痍で生きるだけで精一杯の日々を送っていた。 そんなソラをただ一匹だけ慕ってくれたのは―― 拾ってきた野良の黒猫“クロ”。 だが命の灯が消えかけた夜、 その黒猫は正体を現す。 クロは世界に十人しか存在しない“祝福”を与える存在―― しかも九つの祝福を生んだ天使と悪魔を封印した“第十の祝福者”だった。 力を失われ、語ることすら封じられたクロは、 復讐を果たすための契約者を探していた。 クロは瀕死のソラと契約し、 彼の魂を二十年前――十五歳の過去へと送り返す。 唯一のスキル《アイテムボックス》。 そして契約により初めて“成長”する力を与えられたソラは、 弱き自分を変えるため、再びダンジョンと向き合う。 だがその裏で、 クロは封印した九人の祝福者たちを狩り尽くすための、 復讐の道を静かに歩み始めていた。 これは―― “最弱”と“最凶”が手を取り合い、 未来をやり直す物語

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

最弱弓術士、全距離支配で最強へ

Y.
ファンタジー
「弓術士? ああ、あの器用貧乏な最弱職のことか」 剣と魔法が全てを決める世界において、弓は「射程は魔法に及ばず、威力は剣に劣る」不遇の武器と蔑まれていた。 若き冒険者リアンは、亡き叔父から譲り受けた一振りの弓「ストーム・ウィスパー」を手に、冒険者の門を叩く。周囲の嘲笑を余所に、彼が秘めていたのは、世界をナノ単位で解析する「化け物じみた集中力」だった。 リアンの放つ一矢は、もはや単なる遠距離攻撃ではない。 風を読み、空間を計算し、敵の急所をミリ単位で射抜く精密射撃。 弓本体に仕込まれたブレードを操り、剣士を圧倒する近接弓術。 そして、魔力の波長を読み取り、呪文そのものを撃ち落とす対魔法技術。 「近距離、中距離、遠距離……俺の射程に逃げ場はない」 孤独な修行の末に辿り着いた「全距離対応型弓術」は、次第に王道パーティやエリート冒険者たちの常識を塗り替えていく。 しかし、その弓には叔父が命を懸けて守り抜いた**「世界の理(ことわり)」を揺るがす秘密**が隠されていた――。 最弱と笑われた少年が、一張の弓で最強へと駆け上がる、至高の異世界アクションファンタジー、開幕!

剣ぺろ伝説〜悪役貴族に転生してしまったが別にどうでもいい〜

みっちゃん
ファンタジー
俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。 …しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた! 「元気に育ってねぇクロウ」 (…クロウ…ってまさか!?) そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム 「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが 「クロウ•チューリア」だ ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う 運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる "バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う 「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と! その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ 剣ぺろと言う「バグ技」は "剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ この物語は 剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語 (自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!) しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない

チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー
ファンタジー
 ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。  これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。 設定 この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。 その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

処理中です...