血と束縛と

北川とも

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第1話

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 ひたすら気持ち悪くて仕方なく、吐き気すらしてくる。男を犯すことだけが目的なら、こんな行為は不要だ。ようは、必要な場所に、必要なものを突っ込めば済む話なのだ。
 機械の手に弄られているような錯覚を覚え、この程度の行為なら耐えられるかもしれないと和彦が思ったとき、和彦の一瞬の油断を嘲笑うように、もう一本の手に柔らかな膨らみをまさぐられ、やや力を込めて揉まれる。
「うっ、うっ……」
 意識しないまま腰が震える。感じる、感じないの問題ではない。一番の弱みを無防備に晒して、弄られ、無反応でいられるわけがなかった。
「い、やだ……。やめろっ――……」
 和彦がようやく洩らした言葉に対する返答のつもりか、握られたものの先端にローションが垂らされ、括れをきつく擦り上げられる。
「ああっ」
 ビクリと背を反らして、腰を揺らす。追い討ちをかけるように柔らかな膨らみを揉みしだかれ、和彦は喉を鳴らす。恐怖も嫌悪感も、しっかりと和彦の体を支配している。しかし、こんな形で体を攻められると、感情だけの問題ではなくなるのだ。
 和彦の体を弄っている人間は、明らかに快感を引きずり出そうとしていた。だからこそ、体が刺激に反応するという醜態を見せられないと頭ではわかっているのに――。
 柔らかな膨らみをさんざん刺激した手に、当然のように内奥の入り口をまさぐられ、またローションがたっぷり振りかけられる。
「うっ、あっ、あっ、ううっ」
 内奥に容赦なく指を挿入され、和彦はビクビクと腰を震わせる。痛みや異物感を覚える前に、ローションの滑りを借りた指が内奥から出し入れされ、犯される。その間も和彦のものは上下に擦られ続け、ときおり先端を撫でられる。
 痺れていた体が、いつの間にか熱くなって汗ばんでいた。鈍くなっていた感覚も元に戻るどころか、鋭敏さを増している気さえする。自分を取り戻そうと足掻くように、肩を動かしてみるが、背後から和彦の両足を抱え上げて押さえている人間はびくともしない。
 和彦の気力を奪い尽くそうとしているのか、内奥を擦り上げていた指に、ふいに浅い部分を強く押し上げられ、強烈な感覚が腰に広がった。
「うあっ……」
 わざと濡れた音を立てるように内奥を掻き回され、否応なく反応させられて熱くなったものも強く扱かれる。顔を背けた和彦は、屈辱と羞恥と、否定できない快感に呻き声を洩らす。
 容赦なく和彦は攻め立てられ、的確な刺激を与えられて快感を自覚させられる。
 目隠しをされているのは、実はせめてもの救いなのかもしれない。少なくとも、どんな人間に自分の痴態を見られているのか知らなくて済むし、そもそも、自分自身の痴態を見なくて済む。
 胸の突起を二つとも抓るように弄られながら、和彦は内奥にゆっくりと、指とは比較にならない大きさのものを挿入されていく。淫らにくねるそれは、見なくても、どこよりも感じやすい内奥の粘膜と襞でなんであるか知ることができた。性器を模った道具だ。
「んんっ、うっ、くうぅっ……ん」
 意識しないまま、内奥を押し開くようにして挿入される道具を締め付ける。異常な状況での異常な行為によって、次第に和彦の理性も危うくなっていた。このまま何もわからなくなれば楽かもしれないという、本能の逃避なのかもしれない。体が積極的に快感を貪りだしている。
「ううっ、うっ、うっ、ううっ――」
 捩じ込まれた道具が内奥深くで大胆に動き、さんざん掻き回されたあと、引き抜かれる。次に挿入されたのは指で、和彦は自分ではどうすることもできずに締め付けていた。
 指と道具で交互に内奥を犯されながら、欲望の高まりを忠実に表している熱く反り返ったものを扱かれ、胸の突起も執拗に弄られる。
 和彦は息を喘がせながら、何人の人間に体に触れられているのだろうかと頭の片隅で数えていた。ラテックスの手袋越しでは、同じ人間の手だと判断するのは不可能で、混乱してしまう。それに、さらに思考力を奪う事態になっていた。
「嫌、だ……。もう、やめろ……」
 弱々しく訴えたときにはもう遅く、両足を大きく開かされ、内奥を道具で突かれながら、和彦は半ば強引に高みへと押し上げられていた。ローションですでに濡れている下腹部に、自分が放った絶頂の証が飛び散る。
 今この瞬間なら、殺されても抵抗しないかもしれない――。
 ふっとそんなことを考えたとき、突然、目隠しが取り去られた。
 絶頂の余韻でぐったりとした和彦は、すぐには何が起こったのか呑み込めなかった。ただ、自分を見下ろしている男たちの姿を緩慢に見回してから、開いた両足の間にいる男に目を止める。
 あごにうっすらと残る細い傷跡が印象的な、精悍な顔立ちをした三十代半ばの男で、ワイシャツ姿だ。そのワイシャツの袖を捲り上げ、手にはラテックス手袋をしているのを見て、和彦は納得した。自分の内奥を指と道具で犯していたのは、この男なのだ。
 次の瞬間、和彦はおそろしいものを見て目を見開く。男の隣に、もう一人男が立っており、手にはビデオカメラを持っていた。何を撮っていたか、考えるまでもない。道具はまだ、和彦の内奥深くに収まったままで、淫らにうねり続けている。それを内奥は懸命に締め付けており、その様子を男たちに晒しているのだ。
 ずっと和彦の両足を背後から抱え上げ続けていた男の顔も、振り返って確認してから、改めて自分が置かれた状況に混乱する。
「――どっちなのかと思っていたが、尻にそんなおもちゃを突っ込まれてよがりまくっている姿を見ていると、入れられるほうが専門らしいな」
 腹にズンと響くようなバリトンが、声に似つかわしくない卑猥な言葉を紡ぐ。和彦の死角に立っていたらしく、重々しい足音がして、ようやく和彦はバリトンの声の主を見ることができた。それは一方で、和彦の痴態も見られるということでもある。

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