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第1章 劣等生の復讐 第1部 新たなる可能性

第2話 召喚魔術の授業

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 降魔が第1練習場に着くと、そこには先程と同じ教師の朝倉しかいなかった。
 またこの先生か……と思いながらも、特に気にすることなく学園から支給された魔導バングルを身に着け、1人マナ操作の練習に励む降魔。

 やはり先程とはえらい違いだ。
 しかしこの真面目に自主練する降魔の姿は、意外に教師からも評価されている。
 その御蔭もあって授業をサボっても何も言われないのだ。

(それにしても他の奴ら来るの遅くないか? みんな大好き、召喚魔術の時間だぞ?)

 降魔は周りを見渡して自分以外いないのを確認して首を傾げているが、皆んなが遅いのではなく降魔が早すぎるのだ。
 確かに召喚魔術の授業は学園でも1番の人気を誇るが、今はまだ休憩時間。
 授業が始まるまであと10分ほどある。
 
 因みにこの学園は、敷地が広すぎるため移動は無料のバスや電車が一般的だ。
 しかしお金を払えば転移陣を利用することも出来るが、これはお金持ちの名家ぐらいしか使わない。
 先程までいた教室と第1練習場は約5km離れており、降魔はバスに乗ってここまで来た。

 このように移動に時間がかかるため、授業の合間の休憩は30分ほどとってある。
 なので2回目だがもう一度言おう。降魔が早すぎるのだ。
 降魔が着いたのが開始の15分前。
 そして第1練習場に行く最短時間でも15分。
 と言う事は、降魔は常に最短時間でこの場所に来ていることになるのだから、他の生徒がいなくて当たり前だ。

 案の定、授業開始5分前になってくると、続々と生徒達が集まってきた。
 召喚魔術の授業は予め決められたクラスで行うため、学園内で最も敷地の広いこの第1練習場に集まっているのだ。
 
 今回この第1練習場に集まっているクラスは、S、B、D、F、H、J、L、N、P、R、U、W、X、Y、Zの15クラスで、人数は約1万5000人。
 1クラスに約100人ほどの生徒がいるため、結構な数になる。
 実際にはクラスが下にいくほど人数が増えるのだが。

 現在のSクラスは15人程だ。
 しかしXやYなどは何百人もいる。
 それに比べて降魔のいるZクラスは、適合率が低すぎる人間が集まっているので、30人ほどしかいない。
 ある意味特別とも言えるだろう。

 授業開始の時間となり、朝倉が話し始める。

「よし、全員揃っているな。これから召喚魔術の授業を始める。今回が初めての召喚魔術の授業だろうが、皆んな召喚魔術については既に知っているだろう?」

 コクコクと全ての生徒が首を縦に振る。
 流石は最も有名な魔術と言えるだろう。
 その反応を見た朝倉は、機嫌良さそうにうんうんと頷き、適当な生徒を当ててどう言うものかを答えさせる。

「召喚魔術とは、神話や伝承などの生き物達の中から自分にあった生き物を召喚して契約し使役する魔術です!」
「その通りだ、よく分かったな。しかし今君達の殆どは契約はおろか、召喚魔術を使ったことのない者達ばかりだろう。そんな君達には今から召喚獣と契約してもらう!」

 途端に生徒達から喜びの声が上がる。
 しかしそれと同時に不安の声もあるようだ。

 それも当たり前のことだろう。
 これからの人生を左右するかもしれないと言う大事なことなのだから不安になって当然だ。
 
 幾ら他の魔術に優れていようと、人間の身で出来ることなど限られており、そのためどうしても召喚獣に頼らざるを得なくなる。
 実際に召喚術士で使役している召喚獣が下級程度の場合、A級以上になった人は存在しておらず、歴代でB級になった人も僅か2人しかいない。
 更に現在は1人もいないと言うのが現状なのだから。

 そのため階級を上げるには、如何に強力な召喚獣と契約できるかが今後の人生に大きく関わって来る。
 因みに召喚獣は、最下級、下級、中級、上級、最上級、超級の6つに分けられており、最下級が1番弱く、超級が1番強い。
 朝倉は教師ということもあって上級召喚獣の烏天狗を使役しており、階級はA級召喚術士だ。

「静かに! これでは召喚魔術を教えることができないぞ」

 ざわざわしていた生徒達だったが、朝倉が話し始めるとすぐに静かになる。
 
「もうこの2ヶ月で殆どの生徒がマナ操作ができるようになっただろう。なので、早速召喚獣を召喚して契約してもらう! マナ操作がちゃんと出来ていると教師に判断された生徒は俺の前で召喚魔術を使ってくれ。それじゃあ各自始めてくれ」

 朝倉がそういうと、中間から上のクラスの生徒達は続々と教師に自身のマナ操作を見せ出した。
 一方で下のクラスはまだまだ召喚魔術を使用できる程上手くはなっていない人が殆どのようで、教師の元に行っているのは何千人の中でも僅か数十人程度だ。

 その中には降魔も含まれている。
 これでも降魔はマナ操作は得意な方だ。
 それに留年を繰り返しているため、既に教師に見せなくてもよく、そのまま朝倉のところへ向かう。

 するとそこには既に何人かの生徒達がいた。
 多分入る前から訓練していた生徒か、既に実践を経験したことのある生徒だろう。
 
(今年は例年に比べて、人が多いな。それにマナ操作がある程度できる俺だからわかるが、あの女はヤバそうだ。めちゃくちゃ美人だが、出来れば関わりたくはないな)

 降魔が言ったヤバそうな人物とは、日本初の適合率100%の龍川双葉だ。
 キリッとした目つきに、透き通った赤い瞳。
 人間離れした綺麗な顔は精巧な人形にも見え、この世の女性の理想を体現したかの様な体付き。
 双葉は普段美人にも対して興味を示さない降魔でさえ、思わず見惚れてしまうほどの美貌を持っていた。
 その証拠に男女問わず多くの生徒が見惚れているが、当の本人はどこ吹く風である。
 だが降魔は、これ以上見るのは失礼だし目をつけられたくないのでやめておこうと視線を外した。
 
 しかし降魔が視線を外したと同時に、双葉は誰かに観察されるように見られていることに気づく。
 双葉は周りを見回すが、下卑な目で見ている者以外の視線を感じなかった。

(おかしいわね。確かに私の力を観察していたものがいた気がしていたのだけれど……ん?)

 双葉は視線を感じた方向を見ていると、不思議な雰囲気を纏った1人の男子生徒が目に入る。
 奇しくもその生徒は先程彼女を見ていた降魔だった。

 降魔は双葉が自身を見ていることに気付き、バレたのではないかと冷や汗を流しながら必死に双葉の方が気になるのを無視する。
 そのお陰か双葉は降魔が犯人だとは気づいていないが———

(あの人……不思議ね。マナの操作は私と同程度なのに、強者の感じがしない……少し観察してみましょうか)

 バッチリ目をつけられていた。
 
 そしてそれに気づいた降魔は態度には出さないものの、心の中で焦っていた。

(何で俺見られてるんだよ……。 もしかしてバレたのか? もしそうならしくじった……関わりたくないとか言いながら、自分から関わりに行くとかバカじゃないのか? もしかして俺って自分が思っている以上にバカなのでは?)

 目をつけられないように距離を置くと決めた瞬間に目をつけられてしまい気を落とす降魔。
 そんな降魔が双葉に気を取られているうちに、1人のいかにもプライドの高そうなSクラスの男子生徒が朝倉に教わりながら召喚魔術を発動させようとしていた。

「《我、契約を願う者。我が召喚に応え給え———》【召喚サモンクリーチャー】ッッ!!」

 男子生徒がつけている魔導バングルから空中に魔術陣が描き出される。
 それと同時に地面にも同じ魔術陣が描き出され、2つの魔術陣が共鳴して輝き出す。
 その輝きで現実に戻ってきた降魔は、

(何度見ても不思議な光景だ……。これが魔術———ッッ!)

 目を子供のようにキラキラと輝かせながら男子生徒の召喚魔術をじっくり観察する。

(マナの量は十分。制御能力もまぁ及第点。これならちゃんと発動するだろう。まぁ俺が言えることではないんだが)

 観察しながら肩をすくめる降魔。
 完全に自分が見られていることを忘れているようだ。
 その証拠に双葉は不気味な人を見るような目で降魔を見ていた。

(なんなのあの男は……。魔術が好きなのだろうけど、突然目にマナを留め出した時はびっくりしたわ。まさかあそこまで制御できているなんて……! 今の私でもそう易々とできないのだけれど……)

 いやどちらかと言うと少し尊敬しているようにも見える。
 だが結果的に降魔が余計なことをしたせいで、降魔の望みとは逆で目をつけられるようになってしまっている。
 そのことを降魔はまだ知らないのだが……。

 閑話休題話を戻そう

 男子生徒が発動した召喚魔術の輝きが収まる。
 するとそこには体長7、8mほどの赤いドラゴンがいた。

 見ていた生徒達が歓声を上げる。
 そして朝倉も生徒と一緒に驚いていたがそれもしょうがないことだろう。
 
 ドラゴンは最低でも上級に分類される種族で、今回召喚されたレッドドラゴンは、竜種でも弱い方だが、それでも上級上位の実力がある。
 烏天狗は上級の中位ほどのため、ドラゴンがどれほど強いかが分かるだろう。
 
 しかしまだ呼び出しただけで、契約ができるとは限らない。

「レッドドラゴンよ。どうか僕と契約をしてくれないかい?」

 男子生徒が優雅に礼をする。
 この瞬間に、こいつめちゃくちゃ腹立つし気持ち悪いんだけど、と降魔は思った。
 しかしそれは降魔だけではないのだろう。
 周りを見てみると何人もの男子がおえっと言いそうな顔をしている。

 しかし男子生徒はそんなこと知りもしないので、そのままの体制を維持している。

『……いいだろう。その代わり面白くなかったら契約は破棄させてもらう』

 レッドドラゴンがそう言うと、男子生徒はパッと顔を上げて笑顔になる。

「も、勿論さ! 《我、契約を願う者。名は鏡結希斗かがみゆきと》」

『《我、レッドドラゴンが一族【フレア】、契約を承諾する》―――これからよろしく頼むぞ主』

 召喚された時と同程度の光が放たれたと思うとその光は収束し、希斗とフレアの体に入っていった。
 無事契約成功と言うわけだ。

 周りの生徒達が響めきだし、拍手や歓声が上がる。
 それも仕方ないことだろう。
 初っ端から上級上位の召喚獣と契約ができたのだから。

 降魔も例にもれず小さく拍手を送っていた。

(まさか本当に契約してしまうとは。竜族はプライドが高いから中々契約ができないんだよな……去年もドラゴン召喚した生徒はいたけど、契約はできていなかったし。それに比べて行動はギザっぽくてちょっと気持ち悪かったけど、どうやら実力はあるようだな……。よし、次は俺の番だな……さぁ去年に比べてどの程度成長できたか楽しみだ)

 降魔はドキドキと高鳴る胸の鼓動を感じながら結希斗と入れ替わるようにして先生の前へと向かった。



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 ではではまた次話で。
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