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第1章 天然勇者の依頼事
隣町に来た目的は…
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◇◇
俺の住んでいる里の名は「シノビの里」という、何のひねりもない名前で、人口100人程度の小さな集落だ。
全ての家庭が忍者と何らかの関係があり、忍者としての修行を終えて、忍者としての「資格」を持つものが人口の八割を占めるのだから、いかに俺の里が特殊なところかが分かるであろう。
ちなみにその「資格」を持っていると、忍者に宛てた様々な仕事の依頼を受ける事が出来る。
もっとも先ほどの通り、今となってはしょぼい仕事の依頼ばかりで、「最強忍者」を自負する俺が受けてもよいと考える仕事など滅多に生じない。
しかも、魔王の侵攻に関する世界の国々をあげての諜報活動は、俺の大叔父であるコウガ・ハンゾーが率いる「コウガグループ」がその仕事を一手に請け負っており、そのグループに属していない俺のようなはみ出し者の忍者は、今となっては「忍者」として活動していないのが現状だ。
どうして親族が率いる大グループに属さないのか…って?
それはいわゆる「反骨精神」というやつで、俺の師匠であるじいちゃんの弟であり、犬猿の仲でもあった、ハンゾー大叔父さんの世話にはなりたくないという子供じみた理由だけだ。
それに「コウガグループ」の幹部であり、大叔父さんの片腕でもある、俺の姉ちゃんの「下」で働きたくない…という変なプライドも、「ない」と言えば嘘になる。
そんな「お偉い様」の姉ちゃんが、今は俺の左腕に自分の右腕を絡ませて、たいそう上機嫌で歩いている。
里の人たちは俺たちが姉弟である事は承知しているので、微笑ましい目で見送ってくれているが、一歩里の外を出ると、その視線は全く様相が異なる。
「どうしてあんな冴えない男に、こんなにも美人がベタベタとくっついているのか」
「しかもあの男は嫌そうにしているぞ」
「何様のつもりなんだ?あの男は!ムカツク」
…と、傾国の美女にベタつかれている冴えない男の俺に向けられる、男たちの視線が刺さるように痛い。
「姉ちゃん!もう少し離れてくれよ!実の姉弟でこんなにベタベタくっつくのはおかしいだろ!?」
冷たい視線を送ってくる男たちにも聞こえるように、俺は姉ちゃんに向かって懇願するのだが、
「あら?嫌なの…?お姉ちゃんのこと、そんなに嫌いなのね…?お姉ちゃん悲しい…」
と、さめざめと「嘘泣き」を始めるものだから、たまったものではない。
周囲の男たちは、「美人を泣かせるとは!弟とはいえ、許せん!」とカンカンに怒り狂い、俺に襲いかかろうとする者までいる。
「分かったよ!謝るから、もう『泣く』のはよしてくれよ!」
「あら?本当に!?お姉ちゃん嬉しい!」
と、腕をさらにギュっと強く絡みついてくる。
それを見て、男たちはさらにイラついているわけで…
「ちくしょう!策士め!人をたぶらかして、そんなに楽しいかよ!?」
「あら?忍たるもの、人をたぶらかしてなんぼのものでしょ?」
と、舌を出して笑顔になったと思えば、
「それに、あんたの腕を放したら、その場で逃亡するでしょ?そんなことしたら…殺すわよ」
と、ドスをきかせた低い声で、耳元にささやいてくる。
心臓が止まるほどの恐怖が俺の抵抗力を完全に奪っていった。
こうして、もはや俺は姉ちゃんの「傀儡(かいらい)」となって、歩くより他なかったのだった…
シノビの里の隣街―名はセントポリス。この世界は大きな一つの大陸で形成されているのだが、その大陸のちょうど真ん中に位置する街だ。
人口は50万人ほどの大きな街で、「全ての道はセントポリスにつながる」と言われるほどに、交通の要所としても知られ、あらゆる旅人たちは必ずこの街に立ち寄ってから、各地へ出立していく。
このように多くの人が集まる為に、商業地としても栄えており、様々な商店が並んでいる。
俺がこの街に拉致されてきた「目的」…それは俺が姉ちゃんの荷物持ちになる、という誰が見ても明らかな姉ちゃんの独善的な目的より他ならない。
そんな風に思っていた。
そして、そんな俺の目論み通りに、俺は姉ちゃんのショッピングにさんざん付き合わされて、グッタリしていた。
抵抗して逃亡する恐れがないと判断した姉ちゃんは、俺から離れて、あれやこれやと買い物をしている。
俺はそんな姉ちゃんの荷物持ちとして、後ろから大きな荷物を抱えて歩いていたのだが、我慢も限界に達した。ただでさえ人ごみが嫌いなのに、こんな大きな街の人の波の中にもまれているのだ。その上に重い荷物を持たされて、疲れないわけがない。
しかし、ここは反抗心むき出しよりも、可愛い子犬のような甘えた感じで、今の俺の気持ちを姉ちゃんに話すのが一番であると俺は策を巡らす。
「姉ちゃん…疲れたよ~、休もうよ~」
と、まるで雨に濡れて震える捨てられた子犬のような弱々しい声で、姉ちゃんに訴えた。
しかし、久々の休みにショッピングでテンションがマックスの姉ちゃんは、
「何を情けない事を言っているの!男の子なんだから、シャキっとしなさい!」
と、瀕死な俺に容赦なくムチをうって、俺のことなど見向きもせずに、次の店を物色し始めている。
くっそ…鬼め!悪魔め!地獄に落ちてしまえぇ!
俺は、ありったけの呪いの言葉を姉ちゃんの背中に向けてかけた。
もちろん声には出さずに…
しかし、そんな姉ちゃんに愚痴の一つもこぼれるのが、普通ってもんだ。
「ちぇっ!怒ったら、男の父ちゃんやじいちゃんよりも、全然怖いくせに…」
その言葉にピクっと耳を動かした姉ちゃんが、ひきつった笑顔でこちらを振り返る。
「なんだと…?」
一瞬、般若の面になったぞ…怖すぎる…
こうして俺は限界を超えた体を引きずるようにして、姉ちゃんの後ろをついていくより他なく、重い荷物と重い体を引きずるようにして前へと進むだけだった。
そして…
「う~~ん!買ったぁ!お姉ちゃんは満足だよ!そろそろ休もっか!?疲れたでしょ?」
と、提案してきたのは、すでに夕暮れ時…
ちなみに街の着いたのは、昼過ぎだったから、たっぷり5時間以上は買い物に付き合わされたのだ。
俺の疲れはピークを越し、その提案に喜ぶ感情すらなくなっていたのである。
ただようやく荷物持ちという「目的」からは一時的とは言え解放される…それは安堵の涙となって、俺の乾いた頬を伝っていた。
◇◇
「いらっしゃい!…て、サイゾー!?」
姉ちゃんに連れられた場所の扉を開けた瞬間に聞き覚えのある明るい少女の声が飛び込んできた。
「お…おう」
俺はバツが悪そうに生返事をして、とにかく重い荷物を置く為に近くにある椅子に座った。
なんだ…この量の荷物は…
里までの帰り道も、この荷物を抱えて歩かねばならないと思うと、荷物以上に気が重くなる。
そんな俺の傷ついたハートに塩を塗りたくるような、言葉が容赦なくあびせられた。
「あんた、やっと外に出てきたのね!もうとっくに家の中でひからびちゃったかと思ってたわ!」
俺はむっとして、失礼な言葉を投げかけてきた声の持ち主の方を見る。
そこには一人の少女の姿―そばかすの残る可愛い顔立ちに、肩越しまでのふんわりした茶色い髪、まだ育ちきっていない体つきではあるが、着ている受付用の制服のおかげで大人っぽく見える。
彼女の名前はクララ・ノール、俺と同い年の幼馴染だ。
「こんにちは、クララちゃん!」
「あ!サユリお姉さま!ごきげんよう!」
クララは慌てるように、姉ちゃんに頭を下げる。
「パーフェクト」な姉ちゃんは、この街の女性の間でも憧れの的だ。
もちろん「忍者」である素性は隠してあるが、「大商会の筆頭秘書」という肩書になっているらしい。
もちろん古くからの付き合いであるクララにとっても、それは同様で、俺への態度と姉ちゃんへの態度は180度違うのが気に入らない。
「お買い物で少し疲れちゃったから、休憩させてもらうわね。何か冷たい飲み物を2ついただけるかしら?」
「はい!喜んで!お姉さまには、特製のフルーツジュースをお持ちしますね!サイゾーは…水でいいわよね」
輝く瞳で姉ちゃんのオーダーを聞いたと思えば、冷たい視線で俺を見下してくるクララ。
ここは断じて抗議せねばならん!
「おい!その扱いの違いはなんだ!?」
そんな俺の怒った顔を見て、クララは満足したように、満面の笑顔を向けてきた。
「ハハ!冗談よ!私の特製ジュースを、あんたにも作ってあげるから感謝しなさいよ!」
「うるせえ!こっちは金を払う客だぞ!もっと…って、痛っ!」
俺が文句を言った瞬間に、怪力の姉ちゃんが俺の頭をひっぱたく。
スパーンという気持ちのいいくらい、乾いた音とともに、普通の人なら首の骨が折れるんじゃないかと思うほどの衝撃で、俺の意識が一瞬だけ飛んだ。
その一瞬で俺が見た光景が、じいちゃんの手招きだったのだから、その破壊力はシャレにならない。いつか確実にこの姉に俺は殺されるであろうと、この時ひそかに覚悟を決めていた。
「サイゾーちゃん、お金を払うのは私でしょ?それに、せっかくクララちゃんが、丹精こめて作ってくれるんだから、文句なんて言ったら罰が当たるわよ」
「もうすでに罰なら当たったような気がするんだが…」
俺の愚痴など無視するように、姉ちゃんはクララにあらためてお願いすると、彼女は深いお辞儀をして、小走りで奥へと消えていった。
既に外は暗くなりはじめているということもあり、俺たちの他に客はいないようだ。
そこで俺は、肝心な質問をする事にした。
「姉ちゃん、なんで『ギルド』で休憩するんだ?確かに軽食は出してもらえるところだけど…」
そう、俺たちがいる場所は、「ギルド」と呼ばれ、旅人や冒険者が様々な仕事の依頼を受けるところだ。
言わば、仕事の紹介所である。夕暮れに仕事の依頼を受ける奇特な人などいないので、今は俺たちしかいないのだ。
そして休憩するなら、喫茶店やらレストランといった飲食店が一番いいと思うのだが…
そんな俺の疑問に「はぁ」と大きなため息をついた姉ちゃんは、
「あんたに仕事をしてもらう為に決まっているでしょ…?あんた、今日どんな『目的』でこの街に来たのよ…まったくもう…」
と、さらっととんでもない事を俺に告げた。
俺の顔はみるみる青ざめていき、
「はぁぁぁぁぁ!!???」
と、口から出てきた言葉は驚きの叫びだけであった。
どうやら姉ちゃんが俺をこの街に拉致してきた目的は、俺の仕事を探しにきたことらしい。
…であれば、ショッピングなんてしなくていいだろ…と俺は肩を落とすしかなく、疲労困憊の心は呪詛する言葉すら失っていたのだった。
そしてこの後、俺は運命的な仕事と出会うことになる。
…もちろん「悲運」の方の運命だが…
俺の住んでいる里の名は「シノビの里」という、何のひねりもない名前で、人口100人程度の小さな集落だ。
全ての家庭が忍者と何らかの関係があり、忍者としての修行を終えて、忍者としての「資格」を持つものが人口の八割を占めるのだから、いかに俺の里が特殊なところかが分かるであろう。
ちなみにその「資格」を持っていると、忍者に宛てた様々な仕事の依頼を受ける事が出来る。
もっとも先ほどの通り、今となってはしょぼい仕事の依頼ばかりで、「最強忍者」を自負する俺が受けてもよいと考える仕事など滅多に生じない。
しかも、魔王の侵攻に関する世界の国々をあげての諜報活動は、俺の大叔父であるコウガ・ハンゾーが率いる「コウガグループ」がその仕事を一手に請け負っており、そのグループに属していない俺のようなはみ出し者の忍者は、今となっては「忍者」として活動していないのが現状だ。
どうして親族が率いる大グループに属さないのか…って?
それはいわゆる「反骨精神」というやつで、俺の師匠であるじいちゃんの弟であり、犬猿の仲でもあった、ハンゾー大叔父さんの世話にはなりたくないという子供じみた理由だけだ。
それに「コウガグループ」の幹部であり、大叔父さんの片腕でもある、俺の姉ちゃんの「下」で働きたくない…という変なプライドも、「ない」と言えば嘘になる。
そんな「お偉い様」の姉ちゃんが、今は俺の左腕に自分の右腕を絡ませて、たいそう上機嫌で歩いている。
里の人たちは俺たちが姉弟である事は承知しているので、微笑ましい目で見送ってくれているが、一歩里の外を出ると、その視線は全く様相が異なる。
「どうしてあんな冴えない男に、こんなにも美人がベタベタとくっついているのか」
「しかもあの男は嫌そうにしているぞ」
「何様のつもりなんだ?あの男は!ムカツク」
…と、傾国の美女にベタつかれている冴えない男の俺に向けられる、男たちの視線が刺さるように痛い。
「姉ちゃん!もう少し離れてくれよ!実の姉弟でこんなにベタベタくっつくのはおかしいだろ!?」
冷たい視線を送ってくる男たちにも聞こえるように、俺は姉ちゃんに向かって懇願するのだが、
「あら?嫌なの…?お姉ちゃんのこと、そんなに嫌いなのね…?お姉ちゃん悲しい…」
と、さめざめと「嘘泣き」を始めるものだから、たまったものではない。
周囲の男たちは、「美人を泣かせるとは!弟とはいえ、許せん!」とカンカンに怒り狂い、俺に襲いかかろうとする者までいる。
「分かったよ!謝るから、もう『泣く』のはよしてくれよ!」
「あら?本当に!?お姉ちゃん嬉しい!」
と、腕をさらにギュっと強く絡みついてくる。
それを見て、男たちはさらにイラついているわけで…
「ちくしょう!策士め!人をたぶらかして、そんなに楽しいかよ!?」
「あら?忍たるもの、人をたぶらかしてなんぼのものでしょ?」
と、舌を出して笑顔になったと思えば、
「それに、あんたの腕を放したら、その場で逃亡するでしょ?そんなことしたら…殺すわよ」
と、ドスをきかせた低い声で、耳元にささやいてくる。
心臓が止まるほどの恐怖が俺の抵抗力を完全に奪っていった。
こうして、もはや俺は姉ちゃんの「傀儡(かいらい)」となって、歩くより他なかったのだった…
シノビの里の隣街―名はセントポリス。この世界は大きな一つの大陸で形成されているのだが、その大陸のちょうど真ん中に位置する街だ。
人口は50万人ほどの大きな街で、「全ての道はセントポリスにつながる」と言われるほどに、交通の要所としても知られ、あらゆる旅人たちは必ずこの街に立ち寄ってから、各地へ出立していく。
このように多くの人が集まる為に、商業地としても栄えており、様々な商店が並んでいる。
俺がこの街に拉致されてきた「目的」…それは俺が姉ちゃんの荷物持ちになる、という誰が見ても明らかな姉ちゃんの独善的な目的より他ならない。
そんな風に思っていた。
そして、そんな俺の目論み通りに、俺は姉ちゃんのショッピングにさんざん付き合わされて、グッタリしていた。
抵抗して逃亡する恐れがないと判断した姉ちゃんは、俺から離れて、あれやこれやと買い物をしている。
俺はそんな姉ちゃんの荷物持ちとして、後ろから大きな荷物を抱えて歩いていたのだが、我慢も限界に達した。ただでさえ人ごみが嫌いなのに、こんな大きな街の人の波の中にもまれているのだ。その上に重い荷物を持たされて、疲れないわけがない。
しかし、ここは反抗心むき出しよりも、可愛い子犬のような甘えた感じで、今の俺の気持ちを姉ちゃんに話すのが一番であると俺は策を巡らす。
「姉ちゃん…疲れたよ~、休もうよ~」
と、まるで雨に濡れて震える捨てられた子犬のような弱々しい声で、姉ちゃんに訴えた。
しかし、久々の休みにショッピングでテンションがマックスの姉ちゃんは、
「何を情けない事を言っているの!男の子なんだから、シャキっとしなさい!」
と、瀕死な俺に容赦なくムチをうって、俺のことなど見向きもせずに、次の店を物色し始めている。
くっそ…鬼め!悪魔め!地獄に落ちてしまえぇ!
俺は、ありったけの呪いの言葉を姉ちゃんの背中に向けてかけた。
もちろん声には出さずに…
しかし、そんな姉ちゃんに愚痴の一つもこぼれるのが、普通ってもんだ。
「ちぇっ!怒ったら、男の父ちゃんやじいちゃんよりも、全然怖いくせに…」
その言葉にピクっと耳を動かした姉ちゃんが、ひきつった笑顔でこちらを振り返る。
「なんだと…?」
一瞬、般若の面になったぞ…怖すぎる…
こうして俺は限界を超えた体を引きずるようにして、姉ちゃんの後ろをついていくより他なく、重い荷物と重い体を引きずるようにして前へと進むだけだった。
そして…
「う~~ん!買ったぁ!お姉ちゃんは満足だよ!そろそろ休もっか!?疲れたでしょ?」
と、提案してきたのは、すでに夕暮れ時…
ちなみに街の着いたのは、昼過ぎだったから、たっぷり5時間以上は買い物に付き合わされたのだ。
俺の疲れはピークを越し、その提案に喜ぶ感情すらなくなっていたのである。
ただようやく荷物持ちという「目的」からは一時的とは言え解放される…それは安堵の涙となって、俺の乾いた頬を伝っていた。
◇◇
「いらっしゃい!…て、サイゾー!?」
姉ちゃんに連れられた場所の扉を開けた瞬間に聞き覚えのある明るい少女の声が飛び込んできた。
「お…おう」
俺はバツが悪そうに生返事をして、とにかく重い荷物を置く為に近くにある椅子に座った。
なんだ…この量の荷物は…
里までの帰り道も、この荷物を抱えて歩かねばならないと思うと、荷物以上に気が重くなる。
そんな俺の傷ついたハートに塩を塗りたくるような、言葉が容赦なくあびせられた。
「あんた、やっと外に出てきたのね!もうとっくに家の中でひからびちゃったかと思ってたわ!」
俺はむっとして、失礼な言葉を投げかけてきた声の持ち主の方を見る。
そこには一人の少女の姿―そばかすの残る可愛い顔立ちに、肩越しまでのふんわりした茶色い髪、まだ育ちきっていない体つきではあるが、着ている受付用の制服のおかげで大人っぽく見える。
彼女の名前はクララ・ノール、俺と同い年の幼馴染だ。
「こんにちは、クララちゃん!」
「あ!サユリお姉さま!ごきげんよう!」
クララは慌てるように、姉ちゃんに頭を下げる。
「パーフェクト」な姉ちゃんは、この街の女性の間でも憧れの的だ。
もちろん「忍者」である素性は隠してあるが、「大商会の筆頭秘書」という肩書になっているらしい。
もちろん古くからの付き合いであるクララにとっても、それは同様で、俺への態度と姉ちゃんへの態度は180度違うのが気に入らない。
「お買い物で少し疲れちゃったから、休憩させてもらうわね。何か冷たい飲み物を2ついただけるかしら?」
「はい!喜んで!お姉さまには、特製のフルーツジュースをお持ちしますね!サイゾーは…水でいいわよね」
輝く瞳で姉ちゃんのオーダーを聞いたと思えば、冷たい視線で俺を見下してくるクララ。
ここは断じて抗議せねばならん!
「おい!その扱いの違いはなんだ!?」
そんな俺の怒った顔を見て、クララは満足したように、満面の笑顔を向けてきた。
「ハハ!冗談よ!私の特製ジュースを、あんたにも作ってあげるから感謝しなさいよ!」
「うるせえ!こっちは金を払う客だぞ!もっと…って、痛っ!」
俺が文句を言った瞬間に、怪力の姉ちゃんが俺の頭をひっぱたく。
スパーンという気持ちのいいくらい、乾いた音とともに、普通の人なら首の骨が折れるんじゃないかと思うほどの衝撃で、俺の意識が一瞬だけ飛んだ。
その一瞬で俺が見た光景が、じいちゃんの手招きだったのだから、その破壊力はシャレにならない。いつか確実にこの姉に俺は殺されるであろうと、この時ひそかに覚悟を決めていた。
「サイゾーちゃん、お金を払うのは私でしょ?それに、せっかくクララちゃんが、丹精こめて作ってくれるんだから、文句なんて言ったら罰が当たるわよ」
「もうすでに罰なら当たったような気がするんだが…」
俺の愚痴など無視するように、姉ちゃんはクララにあらためてお願いすると、彼女は深いお辞儀をして、小走りで奥へと消えていった。
既に外は暗くなりはじめているということもあり、俺たちの他に客はいないようだ。
そこで俺は、肝心な質問をする事にした。
「姉ちゃん、なんで『ギルド』で休憩するんだ?確かに軽食は出してもらえるところだけど…」
そう、俺たちがいる場所は、「ギルド」と呼ばれ、旅人や冒険者が様々な仕事の依頼を受けるところだ。
言わば、仕事の紹介所である。夕暮れに仕事の依頼を受ける奇特な人などいないので、今は俺たちしかいないのだ。
そして休憩するなら、喫茶店やらレストランといった飲食店が一番いいと思うのだが…
そんな俺の疑問に「はぁ」と大きなため息をついた姉ちゃんは、
「あんたに仕事をしてもらう為に決まっているでしょ…?あんた、今日どんな『目的』でこの街に来たのよ…まったくもう…」
と、さらっととんでもない事を俺に告げた。
俺の顔はみるみる青ざめていき、
「はぁぁぁぁぁ!!???」
と、口から出てきた言葉は驚きの叫びだけであった。
どうやら姉ちゃんが俺をこの街に拉致してきた目的は、俺の仕事を探しにきたことらしい。
…であれば、ショッピングなんてしなくていいだろ…と俺は肩を落とすしかなく、疲労困憊の心は呪詛する言葉すら失っていたのだった。
そしてこの後、俺は運命的な仕事と出会うことになる。
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