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第三幕 伝言ふたつ
21.私はどうしたい?
しおりを挟む飼い主とペットが互いにお話ししたくないなんて……。
じゃあ、何のために楓庵にきたのよ!?
思わずそうツッコミたくなるのを抑えながら、彼らの注文をうかがう。
おじいさんはカレーライスと食後にコーヒー、美憂さんはBLTサンドとアイスレモンティー、そしてフクはマグロのピューレ。相変わらず無言のままのおじいさんとフクから背を向けてカウンターの方へ向かう。
余計な口出しは控えるべきよね……と分かっていながらも、彼らの様子が気になって仕方ない。
喉のあたりがモゾモゾしているのは、今にも声が飛び出しそうになっているから。
とにかくキッチンへ急ごう。今は誰もいないはずだから、気持ちを落ち着かせるには一番だわ。
途中、カウンターで美憂さんと目が合う。
呼吸をすれば吐いた息と一緒に「おじいさまとフク君はなんで仲が悪いの?」と言葉が出てしまいそうだ。
だから息を止めた私は、頬を膨らませたまま、キッチンへ早足で飛び込んだのだった。
「ぶはぁっ!」と息を吐きだすとともに、「もう。いったい何なのよ。あの人たちは……!」と愚痴っぽい独り言が口をついて出てくる。でもキッチンの中には誰もいないから大丈夫よね。そう思っていたのだが……。
「美乃里さん、どうしたんだい?」
既に昼食を取り終えていた八尋さんが、洗った手をタオルで拭きながら私に穏やかな笑みを向けているではないか!
私は慌てて話題をそらした。
「ご、ご飯食べるのが早すぎます! よく噛まないと胃に悪いですよ!」
声が完全に裏返ってしまった……。何か別のことを考えていたのはバレバレよね……。
けど八尋さんはまったく気にする素振りすら見せずに、いつも通りの優しい口調で言った。
「ごめんよ。一人でここを切り盛りしている時のクセでね」
「そ、それなら仕方ありませんね。じゃあ、お客様からのオーダーです――」
うん、我ながら自然な形で注文を伝えられたわ。
しかも八尋さんのナイスなスマイルのおかげで気持ちもちょっとは落ち着いたし。
あとはドリンクを作りながら様子をうかがってみよう――。そう考えて踵を返した瞬間だった。
「ところでお客様に何かあったのかい?」
八尋さんの口から悪魔のささやきのような質問が飛び出したのは――。
◇◇
これまで見聞きしたことを洗いざらい八尋さんに話した私。
やっぱりたまったものを吐き出すと、すっきり爽快な気分になるわね。
すっかり心が軽くなったところで、再びキッチンを後にしようとした。
しかし料理を準備しながら黙って話を聞いてくれた八尋さんが、さらに一歩踏み込んできたのである。
「美乃里さんはどうしたいんだい?」
「えっ? 私?」
八尋さんは手を止めて、じっと私を見つめる。
その視線は思いのほか鋭くて、私はごくりと唾を飲みこんだ。
でもなんて答えたらいいのか分からず、言葉が出てこない。
二人の間に重い沈黙が流れ、カレーの入った鍋のぐつぐつという音だけがキッチンの中に響いていた。
すると先に声をあげたのは八尋さんの方だった。
「ごめんね、呼び止めちゃって。料理はもうすぐできるからね。先にアイスレモンティーを作っておいてくれるかな?」
「へっ? あ、はい!」
私は弾けるようにしてキッチンを後にした。
結局さっきの質問は何だったんだろう?
疑問に思いながらもカウンターの中でアイスレモンティーを用意する。
「お待たせしました! アイスレモンティーです!」と努めて明るい口調で告げながら、円筒型のグラスを美憂さんの前に置いた。
けど彼女の浮かない顔が目に入ったとたん、八尋さんの質問が脳裏をよぎったのだ。
――美乃里さんはどうしたいんだい?
困ったように眉を八の字にしている美憂さんを前にして、私は何をしたいのだろう……。
考えるまでもないか。
私がしたいことは、はじめからたった一つ。
ここに来たお客様に笑顔で帰ってもらうことだ――。そう確信すると同時に、私の口は勝手に言葉を並べていた。
「美憂さん。おじいさまとフク君の間で何があったのですか?」
さあ、これからよ!
フクとおじいさんの間に吹く冷たい風を、私が吹き飛ばしてやるんだから!
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