英雄テイマーの後継者~無能と罵られて追放されたテイマー、伝説の勇者と同じスキルを覚醒させて巨悪に立ち向かっていく。本物のテイムを見せてやる~

友理潤

文字の大きさ
66 / 88

第66話 【閑話】新米ドラゴンの悩み

しおりを挟む
◇◇

 俺は第53層のモンスターハウスでウロウロしていたグリーンドラゴンの1体。
 『グリーンドラゴンA』とか呼ばれたこともある。
 そんな俺に新しい主人ができた。
 もともと誰とつるむつもりもなかった。
 いわゆる一匹狼ってやつ? ドラゴンだけど。
 そういうのに昔から憧れてたからな。
 けど、バーベキュー? あれは反則だった。

「よぉし! 次が焼けたぞー!! おい、そこのドラゴン! まだ一枚も食ってないだろ? 遠慮するなって。うっまいぞー!」

 これが俺と新しい主人との出会い。
 初めて人間から話しかけられた瞬間だった。
 もっと言えば人間を間近に見たのも生まれて初めてだった。
 
 ――人間は敵。人間は食べ物。人間は殺さねばならないもの。

 生まれた時からそういうものだと刷り込まれていたからな。
 まさかあんな眩しい笑顔を向けられるとは思ってもいなかった。
 だが俺は断った。当然だよな。人間は憎むべき相手なんだから。

「そんなものいらない」

 しかしなぜだろう……。
 両手がずいっと人間の前に差し出されたのは……。

「ん? やっぱり欲しいのか?」
「ふざけるな! 敵から施しを受けるなんて……1切れだけだぞっ」

 この時ほど意志の弱い自分を憎んだことはなかった。
 だって『こんがり肉』なるものは敵のワナなのは分かっていた。
 分かっていたのに……。

「うっめぇぇぇ……」

 思わず顔がにやけてしまったのだから。

「どうだ? 俺たちの仲間にならないか? 悪いようにはしない。約束する」

 調子に乗るなよ。人間。お前の魂胆はよく分かってる。
 俺をだまして背後からズブリと剣を突き刺すつもりなんだろ!?
 そうはさせるか――。

「ふざけるな! ……約束だからな」

◇◇

 あれから早5日が経った。

「だが俺は本当にこれでよかったのか……?」
「ん? どうしたの? セクメンド」

 俺に話しかけてきたのは、隣でこんがり肉をむしゃむしゃ頬張っているヘルグリズリー(♀)のジュンタン。
 同じ日に主人の仲間になった、いわば同期。
 なぜか彼女とは初日から馬があって、互いによく話しかけるのだ。

「いや、たいしたことないんだ」
「たいしたことないの? じゃあ、いいわー」

 こんがり肉を片手にその場を立ち去ろうとするジュンタンを、慌てて呼び止めた。

「ちょっと待ってくれ。そこは『そんな真剣な顔してたいしたことないって言うつもり?』と聞き返すものじゃないのか?」
「え? そうなの? じゃあ、聞き返してあげるわ。そんな真剣な顔してたいしたことないって言うつもり?」
「……心配かけてすまないな。でも本当にたいしたことないから――」
「んじゃあ、いいわー。セクメンド、またねー」
「またな。……って、だぁかぁらぁ! ちょっと待てって!! そこは『いいから話してみて。吐き出せば楽になるから』だろーが!」

 眉間にしわを寄せたジュンタン。
 めんどくせ、と言いたげなのは気のせいに決まってるよな。

◇◇

「ふーん。つまりセクメンドはご主人様の仲間になったことを後悔してるってわけね」
「俺は後悔するような生き方なんてしたことがない。だから後悔はしていない。しかし後々になって悔いが残ってるというか……」
「後々になって悔いが残るのを後悔って言うんでしょ?」
「…………とにかくだ! 俺は本当に主人の仲間になってよかったんだろうか? ジュンタンはどう思う?」
「どう思うって言われてもねぇ……」

 ジュンタンが再び難しい顔をする。
 そんなことどうでもいいわ、って言いたいのは分かってるさ。
 だが俺は真剣に悩んでいるのだ。
 彼女にも真剣に考えて欲しい。

「じゃあ聞くけどいい?」
「今は質問に答えられる自信がない。だからあまり難しい質問は避けてもらって、簡単な――」
「ええっと。住むところを一緒に作ってくれて、毎日美味しいご飯ももらえて、近い将来襲ってくる敵から身を守るために防御を固めてくれて、こうして身軽な人間の姿にしてくれて、素敵な名前までくれたのよ? これ以上、何を望むって言うつもり?」

 ……確かに言われてみればその通りだ。
 主人は俺にすべてを与えてくれる。しかもいつも俺たちのことを気遣ってくれる。
 でも、だからこそ、逆に不安なのだ。
 主人は何か重大な秘密を隠しているのではないか。
 その秘密のせいで、俺やジュンタンが酷い目にあわされるのではないか、と……。

「ねえ、そんなに不満があるならご主人様に直接言ってみればいいんじゃない?」
「しゅ、主人にだって? いや、それは、その、おそれ多いと言うか……」
「その気持ちはなんとなく分かるわ。ご主人様はとても気さくな人間だけど、私たちにしてみれば雲の上の方だもんねー。こっちから話しかけるのはなかなか勇気いるわよね。だったらサン様はどう?」
「サン様……」

 確か主人と常に行動を共にしているプラチナゴーレムだったな。
 数千体いる仲間の中で主人がもっとも信頼を置いているといっても言い過ぎじゃない。
 二人はこっそり付き合ってる、なんて噂もあるくらいだからな。
 でもサン様は主人のお気に入りであることを鼻にかけるようなタイプでは全然ない。
 いつだって明るくて、優しくて、よく気配りがきいて――言うなれば母親のような存在なのだ。

「いや、ダメだ。彼女に弱みを見せるわけには――」
「あ、ちょうどサン様がお見えになったわ! サンさまぁ! こんにちはー!」
「ちょっと待て! 俺はまだ心の準備が……って、サン様、こ、こんにちは」

 俺たちが挨拶をするなり、サン様はニコリと微笑みかけてくれた。
 
「こんにちは。ええっと……ジュンタンさんにクセメンドさんね。ふふ。私のことは『サン』って呼び捨てでいいからね」
「はい! では、サン。クセメンドが何か言いたいことがあるって」
「おい、ジュンタン! サン様相手にいきなり呼び捨てはないだろ! それに俺は別に言いたいことなんかないし!」
「ええー!? だってついさっき『ご主人様の仲間になって本当によかったのだろうか』って悩んでたじゃない」

「おい、ジュンタン! 余計なことを言いやがって!」
「はぁ? だってほんとのことじゃない!」
「もし今のことが主人に知られてみろ。俺はここを追放されてしまうじゃないか! そんなの嫌だ! 俺はここが好きなんだよ! たったの5日しか経ってないけど、主人のことも、ジュンタンのことも、みんな好きで好きでたまらないんだよ! 追い出されるのだけはごめんだ! だから余計なことは言わないで欲しかったんだよ!!」

 そう言い切った直後。
 ジュンタンとサン様は黙ったまま、俺をじーっと見つめている。
 な、なんなんだ?
 なんで二人とも黙ったままなんだ!?

「……何か言ってくれよ」

 ぼそりとつぶやくように促すと、サン様が俺の手を取って笑いかけてきた。

「安心して、クセメンドさん。ピートさんはあなたたちを大切な仲間だと思ってる。だから絶対に追い出したりなんかしないから。ふふ。それにあなたの気持ちが聞けて嬉しかったわ。ピートさんにもしっかり伝えておきますね!」
「え? いや、それは困ります!」
「どうして? ピートさんが聞いたら絶対に喜んでくれるのに」
「だって違うからです! 好きって言ったのは、嫌いじゃないって意味なだけで――」

 懸命に弁解を試みる俺。
 だってそうだろう?
 俺は一匹狼。
 誰かに心を許すなんてまだ早いのだから。

 おや?
 サン様とジュンタンが渋い顔をしてるのはなぜだろう?
 まるで「あなたって本当にめんどくさいのね」と言わんばかりに……。
 うん、気のせいだよな。俺ほど単純なドラゴンなんていないと断言できるし――。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

荷物持ちを追放したら、酷い目にあった件について。

しばたろう
ファンタジー
無能だと思い込み、荷物持ちのレンジャーを追放した戦士アレクス。 しかし―― 彼が切り捨てた仲間こそが、 実はパーティを陰で支えていたレアスキル持ちだった。 事実に気づいた時にはもう遅い。 道に迷い、魔獣に襲われ、些細な任務すらまともにこなせない。 “荷物持ちがいなくなった瞬間”から、 アレクスの日常は静かに崩壊していく。 短絡的な判断で、かけがえのない存在を手放した戦士。 そんな彼と再び肩を並べることになったのは―― 美しいのに中二が暴走する魔法使い ノー天気で鈍感な僧侶 そして天性の才を秘めた愛くるしい弟子レンジャー かつての仲間たちと共に、アレクスはもう一度歩き出す。 自らの愚かさと向き合い、後悔し、懺悔し、それでも進むために。 これは、 “間違いを犯した男が、仲間と共に再び立ち上がる” 再生の物語である。 《小説家になろうにも投稿しています》

『捨てられシスターと傷ついた獣の修繕日誌』~「修理が遅い」と追放されたけど、DIY知識チートで壊れた家も心も直して、幸せな家庭を築きます

エリモコピコット
ファンタジー
【12/6 日間ランキング17位!】 「魔法で直せば一瞬だ。お前の手作業は時間の無駄なんだよ」 そう言われて勇者パーティを追放されたシスター、エリス。 彼女の魔法は弱く、派手な活躍はできない。 けれど彼女には、物の声を聞く『構造把握』の力と、前世から受け継いだ『DIY(日曜大工)』の知識があった。 傷心のまま辺境の村「ココン」に流れ着いた彼女は、一軒のボロ家と出会う。 隙間風だらけの壁、腐りかけた床。けれど、エリスは目を輝かせた。 「直せる。ここを、世界で一番温かい『帰る場所』にしよう!」 釘を使わない頑丈な家具、水汲み不要の自動ポンプ、冬でもポカポカの床暖房。 魔法文明が見落としていた「手間暇かけた技術」は、不便な辺境生活を快適な楽園へと変えていく。 やがてその温かい家には、 傷ついた銀髪の狼少女や、 素直になれないツンデレ黒猫、 人見知りな犬耳の鍛冶師が集まってきて――。 「エリス姉、あったか~い……」「……悔しいけど、この家から出られないわね」 これは、不器用なシスターが、壊れた家と、傷ついた心を修繕していく物語。 優しくて温かい、手作りのスローライフ・ファンタジー! (※一方その頃、メンテナンス係を失った勇者パーティの装備はボロボロになり、冷たい野営で後悔の日々を送るのですが……それはまた別のお話)

追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る

夏見ナイ
ファンタジー
貴族の三男に転生したカイトは、【鑑定】スキルしか持てず家からも勇者パーティーからも無能扱いされ、ついには追放されてしまう。全てを失い辺境に流れ着いた彼だが、そこで自身のスキルが万物の情報を読み解く最強スキル【万物解析】だと覚醒する! 隠された才能を見抜いて助けた美少女エルフや獣人と共に、カイトは辺境の村を豊かにし、古代遺跡の謎を解き明かし、強力な魔物を従え、着実に力をつけていく。一方、カイトを切り捨てた元パーティーと王国は凋落の一途を辿り、彼の築いた豊かさに気づくが……もう遅い! 不遇から成り上がる、痛快な逆転劇と辺境スローライフ(?)が今、始まる!

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

帝国の王子は無能だからと追放されたので僕はチートスキル【建築】で勝手に最強の国を作る!

雪奈 水無月
ファンタジー
帝国の第二王子として生まれたノルは15才を迎えた時、この世界では必ず『ギフト授与式』を教会で受けなくてはいけない。 ギフトは神からの祝福で様々な能力を与えてくれる。 観衆や皇帝の父、母、兄が見守る中… ノルは祝福を受けるのだが…手にしたのはハズレと言われているギフト…【建築】だった。 それを見た皇帝は激怒してノルを国外追放処分してしまう。 帝国から南西の最果ての森林地帯をノルは仲間と共に開拓していく… さぁ〜て今日も一日、街作りの始まりだ!!

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

「お前の戦い方は地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん、その正体は大陸を震撼させた伝説の暗殺者。

夏見ナイ
ファンタジー
「地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん冒険者アラン(40)。彼はこれを機に、血塗られた過去を捨てて辺境の村で静かに暮らすことを決意する。その正体は、10年前に姿を消した伝説の暗殺者“神の影”。 もう戦いはこりごりなのだが、体に染みついた暗殺術が無意識に発動。気配だけでチンピラを黙らせ、小石で魔物を一撃で仕留める姿が「神業」だと勘違いされ、噂が噂を呼ぶ。 純粋な少女には師匠と慕われ、元騎士には神と崇められ、挙句の果てには王女や諸国の密偵まで押しかけてくる始末。本人は畑仕事に精を出したいだけなのに、彼の周りでは勝手に伝説が更新されていく! 最強の元暗殺者による、勘違いスローライフファンタジー、開幕!

処理中です...