英雄テイマーの後継者~無能と罵られて追放されたテイマー、伝説の勇者と同じスキルを覚醒させて巨悪に立ち向かっていく。本物のテイムを見せてやる~

友理潤

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第83話 流星砕き

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「ガアアアア!!」

 ニックと入れ替わるようにしてガルーが襲いかかってくる。

「ピートさん、私に任せてください」
「ああ、頼んだよ」

 いつもなら無理をしてでも俺の方が前に出るのだが、今はサンにすべてをゆだねたい気持ちに駆られている。
 何と言うべきか。
 確かに彼女は究極進化を遂げてステータスは大幅にアップしたに違いないが、精神的に強くなったような気がしてならないのだ。

「グガアアアア!!」

 ガルーが鎌のような鋭い爪を振り下ろしてきた。
 しかし、

「えいっ!」

 サンはそれを左手一本でいなす。
 だがガルーは驚きもせず、今度はブレスを至近距離から放つ。

「ふんっ!」

 そのブレスも何でもないように右手で弾くと、ガルーの大きな腹を蹴り飛ばした。
 ボコンと鈍い音がして、くっきりと足の形に腹の中央が凹む。

「ウグッ……」

 思わずよろめくガルー。サンは見逃さない。

「サン、行きます!!」

 追撃の体勢に入る。
「させるか!!」と剣を振り上げたのはニックだ。
 しかしサンは彼の方を見向きもしない。
 サンは信じてるんだろうな。
 俺がニックを止めてくれることを。

『ステータス同化発動。防御力が大幅にアップ――』 

 無機質な声が脳裏をよぎる中、俺は手にした短剣でニックの剣を受け止めた。

 ――カンッ!!

 勢いよくぶつかり合う俺とニック。
 だがついさっきまでとは違い、俺が力負けすることはなかった。

「なにっ!?」

 驚きをあらわにするニックをしり目に、彼の横に回り込む。
 ニックは「無駄なことを」と言わんばかりに、あきれ顔で俺の顔をちらりと見てきた。
 彼の脇腹に向かって拳を突き立てる。

 ここまでは今までとまったく同じだった。
 しかし……。

 ――ドゴォッ!!

 拳が腹にめり込んだ音からして、さっきまでとは全く違っていた。

「ぐっ……はぁぁぁ……!」

 目をむき出しながら悶絶するニック。
 ここで初めて自分のステータスを確認してみたところ、スピードと魔力は変わらないが『腕力:4000』『防御力:10000』と表示されている。
 ニックの防御力は2000程度だ。
 そりゃまともに一撃を食らえば、ただじゃすまないよな。

「くそ……」

 膝をついたまま、腹を抑えて俺を見上げるニックは涙目になっている。
 これで彼のことは無力化した。

「さあ、サン。あとはおまえの番だ! 思いっきりぶっ飛ばしてやれ!!」
「はいっ!!」

 快活に答えたサンの右こぶしがオレンジ色に光る。
 踏み出した左足を軸に、まるで弓を引くように右手を背後に持っていく。

「はあああああああ!!」

 腰が竜巻のように回転しはじめ、ギリギリまで引いた右手が大きな弧を描きながらガルー目がけて飛んでいく。

流星砕きメテオクラッシャー!!」

 鉄拳に帯びた光が一筋となってガルーの胸に突き刺さったその瞬間。

 ――ズガアアアアアアアン!!

 目の前で雷が落ちたかのような音が耳につんざいた。

「グアアアアアア!!」

 ガルーの叫び声が空気を震わせる。
 彼の肉体は極限の一撃で生じた衝撃波で塵となって消え、むき出しになったコアが紫色に光る。

「これで終わりです!!」

 サンは返す刀のように今度は左拳をコアに向かって地面すれすれから振り上げた。

「やめろ!!」

 ニックが悲痛な叫びをあげる。
 だがサンの勢いは止まらない。

 ――ガンッ!

 鈍い音ともにコアにひびが入り、紫の光は消えた。

 エンシェント・ブラックドラゴンのガルーの命が消えたその瞬間、俺たちの勝利が決まった――。

 サンと俺は目を合わせ、互いにニコリと微笑みあう。
 だがまだ終わりじゃない。やることは残ってる。
 視線をニックに戻す。
 彼は頬を紅潮させて叫び出した。

「うそだ……。うそだ! うそだ! うそだぁぁぁ!!」

 半狂乱になるニック。
 だが彼は自分の身の危険を察知することだけは誰にも負けない。
 はっとなって俺たちから距離を取り、取り巻きの鎧をまとったゾンビたちを盾にして大声を張り上げた。

「イライザ! ダンジョン・エスケープだ!! ここは一時撤退する!!」

 ところがイライザはぴくりとも反応しようとしない。

「なにをぼさっとしてるんだ! 早くしろ!! 犬のくせに言うこと聞けないのか!?」

 その言葉にイライザが「くくく」と不敵な笑みを漏らした。

「何がおかしい?」
「あんた、まだ気づいてないの?」
「何に?」
「あんたの奴隷のガルーが死んだ。つまりあんたとガルーの主従契約は無効となった。となるとあんたと私の主従契約もチャラってことよ」
「なんだと……!?」

 ニックの顔色がさっと青くなる。
 一歩、二歩と後退し始めた。
 ある程度距離をとったら、走って逃げるつもりなのだろう。

 だが簡単に逃げられると思ってるなら、ほんとめでたいヤツだよ。

 俺は2体のゾンビを一蹴してから、彼の首根っこをつかんだ。

「な、何をするんだ!! 冒険者が他の冒険者のことを傷つけたら大罪なのは君もよく知ってるだろう。だったらその手を離すんだ。今すぐに!」

「さんざん暴れておきながら、どの口がそれを言うか……」

「やめろ! 離せ!! 僕にはやらなくちゃいけないことが山ほどあるんだ!! こんなところで捕まってたまるか!!」

「そうだよな。お前にはやらなくちゃいけないことがある。ここじゃない場所でな」

 ぱっと俺の顔を覗き込んできたニックが、ニヤリと口角を上げる。

「分かってるじゃないか。だったら――」

 と言いかけて彼は何かに気づいたように再び顔を歪ませる。
 今度は俺が笑みを浮かべる番だった。

「ダンジョン・エスケープを使って欲しかったんだろ? じゃあ、俺が連れていってやるよ。ギルドにな」

「やめっ……! やめてくれ!! 頼む!!」

 ニックが懇願するのはよく分かるよ。
 今や大罪人だもんな。
 ギルドに突き出されたら、どうなることか……。

「ダンジョントンネル」

「やだああああああああ!!」

 泣き叫ぶ彼の首を掴んだまま、俺はギルドに戻った。


◇◇

 
「ピートさん! それにその人はもしや……。あわわ! ええっと、ど、どうしましょう! ギルド長!!」

 またしてもエイミーさんの気を動転させてしまったのは申し訳ないと思う。
 あとで謝っておかなくちゃ。

「おお、ピート。どうした? ん? ほほう。ニックを捕まえおったか! やっぱりおまえはわしの見込んだ通りの男じゃ! ガハハハッ!!」

 こうしてニックは王国の警備隊にその身を確保された。
 世界一監視が厳しいと名高い『あかつきの監獄塔』のあろうことか30階、つまり最上階に投獄されることになるらしい。

 そこは凶悪な犯罪者だけが収容されてるって噂だ。
 しかもみな死刑か終身刑を言い渡された者たちばかり。
 ニックの行く末もおのずと同じか。

「僕はあきらめない。どこで監禁されようとも必ず逃げ出して、次こそは君をぶちのめしてやる! それにサンは僕のものだからな!」

 はいはい。
 逃げ出したところで30階から地上に向かって投身するしか道がないと言われてるんだぜ?
 せいぜい処分が下るまで、己の愚かさを恨めばいいさ。

 さてと……。
 これで面倒は1件片付いた。
 残された面倒はあと2件といったところだな。
 
 もう1件、とっとと片付けるとするか。


 
 
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