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春
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一日挟んで、また次の日から変わらない仕事をする。
企画会議で決まっている温泉企画。日帰り温泉から、湯治の出来る宿まで、私たちはそれを取材していた。といっても私が取材するわけではないのだけど。
律や光たちが取材にいっている間は、私と田宮さんは読み物コーナーの編集をする。アンケートの集計、投稿してくれた写真の選定などの仕事をしていた。
「ただいま帰りましたー。」
仕事場に帰ってきたのは光だけだった。
「あれ?北川は一緒に行ったんじゃないのか。」
「日帰り温泉のところの写真を撮ってくると言ってました。今責任者の方がいらっしゃらないので、日を改めてあたしが行くことになってます。」
「そう、わかった。」
外を見る。春の日差しが降り注いで言い天気になっている。おそらく写真を撮るのに、今日は絶好のコンディションなのだ。
「時間ね。お昼にしましょ。」
「はい。」
田宮さんがそういって、私は席を立った。ずっと座りっぱなし立ったから腰が痛い。
「そういえば、来週は花見に行くって言ってたわね。」
「はい。都合はいかがですか。」
「うちの孫も連れてきていいかしら。」
「是非とも。」
そのとき一本の会社用の電話が鳴る。それを取ったのは、事務の阿川さんだった。
「はい。お電話ありがとうございます。「シーサイド」で御座います。」
阿川さんの顔色がわずかに変わった。そして保留のボタンを押して、楓に声をかける。
「社長。印刷会社から電話がかかっています。」
「え?」
楓は驚いた表情で電話を取った。
「はい、変わりました。社長の西原です。」
楓はこう言うときわかりやすい。何かあったのか手に取るようにわかる。
「はい…。わかりました。すぐに送ります。申し訳ありませんでした。」
電話を置くと、私の方をみた。何だろう。私のミスだろうか。
「南沢。入稿した原稿のページに抜けがあるらしいが、チェックをしてくれないか。」
「え?ページが?」
さっという血の気が引いていく音を聞いた。倒れそうだ。だけど倒れるわけにはいかない。
急いでパソコンを開き、私はパソコンのフォルダーを開いた。
入構した原稿…。これは先々月。こっちは先月。
震える手で、マウスをクリックしていく。でも見つからない。
「落ち着いて。南沢さん。」
心配そうに横にいた田宮さんも声をかけてくれる。でも心臓は相変わらずどくどくと音を立てているのが聞こえる。後ろに楓がいたから。彼の無言の圧力があったのがプレッシャーになったのかもしれない。
「ただいま。」
そのときちょうど、律が帰ってきた。その社内の空気に驚いたようだったが、すぐに光から事情を聞かされたらしい。
「…ありました。」
送った原稿のファイル。それをクリックする。
一ページ、一ページ、丁寧に開いていくが、原稿の抜けは無いように思える。
「…確かにあるね。僕がこれを受け取って印刷会社に送ったんだ。」
「社長のパソコンにいくとき、何かのバグがあって抜けたんですかね。」
「そんなことはないと思うけどね。ちょっと僕のも見てみる。みんなはお昼休憩していいよ。」
「はい。わかりました。」
そのぴりぴりした社内の空気を感じたくなかったのか、みんなはオフィスを出て行った。ここに残ったのは、私と楓だけになる。
楓はパソコンを開き、そのデータを探した。私はそれを後ろで見ていた。
「うん…。僕のパソコンのデーターもページの抜けはないみたいだ。だとしたら、ネットで送ったときに抜けたとしか言いようがないね。」
「…。」
「心配することじゃない。君の責任じゃないし、無いって言うんならまた送ればいいんだから。」
「…はい。」
「そんなに心配しないで。」
元気づけてくれるのかもしれないけど、どうしても私のミスにしか思えない。
楓がデータをまた改めて印刷会社に送る。そして電話を始めた。
「今、データを送りました。チェックをお願いします。また抜けがあったらお知らせをお願いします。」
電話を切り、彼は私を見上げて微笑んだ。
「南沢さん。大丈夫。気にしないで。たとえ君のミスであっても僕は君を責めないし、ミスがあってもあとの対処はいくらでも出来るから。」
「はい…。」
すると彼は立ち上がり、私の頭を撫でた。まるで小さな子供にするように。
「でも君が気にするんなら、一つ、僕の頼みを聞いてくれないか。」
「社長の頼み?」
「うん。今度の休みの時の花見。弁当を作ってくれないか。」
「え?」
「一応会社の行事に組み込んだけれど、この時期は弁当屋も仕出し屋も予約が一杯でね。君が作ってくれればいいと思っている。」
そんなことでいいの?
「…だめかな。」
「いいえ。大丈夫です。お重を出しておかないといけませんね。」
そういって私が微笑むと、彼はまたさらなる笑顔を見せた。あくまでさわやかなその笑顔を。
企画会議で決まっている温泉企画。日帰り温泉から、湯治の出来る宿まで、私たちはそれを取材していた。といっても私が取材するわけではないのだけど。
律や光たちが取材にいっている間は、私と田宮さんは読み物コーナーの編集をする。アンケートの集計、投稿してくれた写真の選定などの仕事をしていた。
「ただいま帰りましたー。」
仕事場に帰ってきたのは光だけだった。
「あれ?北川は一緒に行ったんじゃないのか。」
「日帰り温泉のところの写真を撮ってくると言ってました。今責任者の方がいらっしゃらないので、日を改めてあたしが行くことになってます。」
「そう、わかった。」
外を見る。春の日差しが降り注いで言い天気になっている。おそらく写真を撮るのに、今日は絶好のコンディションなのだ。
「時間ね。お昼にしましょ。」
「はい。」
田宮さんがそういって、私は席を立った。ずっと座りっぱなし立ったから腰が痛い。
「そういえば、来週は花見に行くって言ってたわね。」
「はい。都合はいかがですか。」
「うちの孫も連れてきていいかしら。」
「是非とも。」
そのとき一本の会社用の電話が鳴る。それを取ったのは、事務の阿川さんだった。
「はい。お電話ありがとうございます。「シーサイド」で御座います。」
阿川さんの顔色がわずかに変わった。そして保留のボタンを押して、楓に声をかける。
「社長。印刷会社から電話がかかっています。」
「え?」
楓は驚いた表情で電話を取った。
「はい、変わりました。社長の西原です。」
楓はこう言うときわかりやすい。何かあったのか手に取るようにわかる。
「はい…。わかりました。すぐに送ります。申し訳ありませんでした。」
電話を置くと、私の方をみた。何だろう。私のミスだろうか。
「南沢。入稿した原稿のページに抜けがあるらしいが、チェックをしてくれないか。」
「え?ページが?」
さっという血の気が引いていく音を聞いた。倒れそうだ。だけど倒れるわけにはいかない。
急いでパソコンを開き、私はパソコンのフォルダーを開いた。
入構した原稿…。これは先々月。こっちは先月。
震える手で、マウスをクリックしていく。でも見つからない。
「落ち着いて。南沢さん。」
心配そうに横にいた田宮さんも声をかけてくれる。でも心臓は相変わらずどくどくと音を立てているのが聞こえる。後ろに楓がいたから。彼の無言の圧力があったのがプレッシャーになったのかもしれない。
「ただいま。」
そのときちょうど、律が帰ってきた。その社内の空気に驚いたようだったが、すぐに光から事情を聞かされたらしい。
「…ありました。」
送った原稿のファイル。それをクリックする。
一ページ、一ページ、丁寧に開いていくが、原稿の抜けは無いように思える。
「…確かにあるね。僕がこれを受け取って印刷会社に送ったんだ。」
「社長のパソコンにいくとき、何かのバグがあって抜けたんですかね。」
「そんなことはないと思うけどね。ちょっと僕のも見てみる。みんなはお昼休憩していいよ。」
「はい。わかりました。」
そのぴりぴりした社内の空気を感じたくなかったのか、みんなはオフィスを出て行った。ここに残ったのは、私と楓だけになる。
楓はパソコンを開き、そのデータを探した。私はそれを後ろで見ていた。
「うん…。僕のパソコンのデーターもページの抜けはないみたいだ。だとしたら、ネットで送ったときに抜けたとしか言いようがないね。」
「…。」
「心配することじゃない。君の責任じゃないし、無いって言うんならまた送ればいいんだから。」
「…はい。」
「そんなに心配しないで。」
元気づけてくれるのかもしれないけど、どうしても私のミスにしか思えない。
楓がデータをまた改めて印刷会社に送る。そして電話を始めた。
「今、データを送りました。チェックをお願いします。また抜けがあったらお知らせをお願いします。」
電話を切り、彼は私を見上げて微笑んだ。
「南沢さん。大丈夫。気にしないで。たとえ君のミスであっても僕は君を責めないし、ミスがあってもあとの対処はいくらでも出来るから。」
「はい…。」
すると彼は立ち上がり、私の頭を撫でた。まるで小さな子供にするように。
「でも君が気にするんなら、一つ、僕の頼みを聞いてくれないか。」
「社長の頼み?」
「うん。今度の休みの時の花見。弁当を作ってくれないか。」
「え?」
「一応会社の行事に組み込んだけれど、この時期は弁当屋も仕出し屋も予約が一杯でね。君が作ってくれればいいと思っている。」
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「いいえ。大丈夫です。お重を出しておかないといけませんね。」
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