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春
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小春日和のいい天気だった。私は少し早めに起きて、弁当の準備をしていた。作るメニューはちらし寿司、アジの南蛮、鯖の竜田揚げ、鶏肉は唐揚げではなく焼いて照り焼きソースと絡める。ポテトサラダ、里芋と椎茸なんかの炊き合わせなど。
思ったよりも人が来るみたいなので少し多めに作る。
「あれ?もう作ってるの?」
二階から降りてきたのは光だった。いつもミニスカートなのに、今日は細身のジーパンを着ている。
「うん。十二時にってことだったから、早めにしないと。」
「手伝えること無い?」
「そうね…。じゃあ、卵割ってくれない?こっちとは別に。」
「いくつ割る?」
「そうね…。」
手を洗って、光は卵を割りだした。
「ねぇ。周は料理だけは上手よね。ずっとやってたの?」
「そういうわけじゃないわ。必要だったから覚えただけよ。都会にいたときは、買って食べてたこともあるけど飽きるのよね。」
「まぁ。同じような味付けだものね。」
「この卵は何にするの?」
「卵焼き。分けた分は甘い卵焼きとしょっぱいのを作るから。」
「あぁ。そうね。楓は甘いの好きだけど、律はしょっぱい方がいいもの。そこまで考えているの。すごいわね。」
「別に律と楓のためだけじゃないわ。田宮さんがお孫さんを連れてくるっていってたから。」
「そういえばそうだった。いくつぐらいだっけ?」
「まだ五歳と三歳っていってたかしら。」
他愛もない会話をしながら光と料理を勧めていく。
本当は他愛もないことをいわないと、空気が耐えられなかったから。
「ねぇ。他の人は何しているの?」
「楓は車を整理するって言ってたし、律はお酒とか飲み物を買ってくるって言ってたわ。」
「あの人に任せて大丈夫?強いお酒しか買ってこないわよ。」
「その辺はわかるでしょ。いくら何でも。」
そのとき、外で楓の声が聞こえた。何かあきれたような声のようだ。
「何?」
光は手を止めて外へ行ってしまった。戻ってくると笑いをこらえられないような表情立ったのはどうしてだろう。
「やっぱりそうだった。焼酎ばっかり買ってきてんの。律ってば。」
「水割りにすればみんな飲める。」
「ウーロン茶とかは?」
「花見の席で酒を飲まないヤツがいるのか。」
「いるわよ。楓は飲めないんだから。」
「つまんねぇやつ。」
「いいから。買い直しに行きましょ。ごめんね。周。ちょっと律と行ってくるわ。」
「気にしないで。行ってらっしゃい。」
そういってでこぼこなような二人は、再び行ってしまった。残された私はまた料理を再開する。
「あーあ。だから律に行かせるのは不安だっただ。」
楓が戻ってきた。そして冷蔵庫に近づくと、お茶を取り出してコップに注いだ。
「バーボンとか買ってこなかっただけまだましじゃないかしら。」
「まぁ。あいつなら買ってくるかもしれないな。」
卵に砂糖を入れて、だしで溶く。もう一つの卵にはだしと醤油を入れる。
「二つ作るの?卵焼き。」
「うん。甘いのと、しょっぱいの。」
「僕は甘いのが好きなんだけど。」
「そうね。でも律はしょっぱいのが好きだから。」
卵焼きのフライパンに油を敷いて、作ろうとした。そのとき楓が口を挟む。
「律のためにしょっぱい卵焼きを?」
「…別にそういうわけじゃないわ。みんなそれぞれ好みがあるだろうって思っただけ。」
それを聞いて楓はコップを流し台に置く。
「手伝えることはないかな。」
「そうね。もうだいたい終わってるんだけど…。」
「もう入れるだけなのかな。」
「そうね。ちらし寿司だけは桶でもって行くけど、あとは重箱に入れるわ。」
「そうか。だったらちょっと江口に電話をしてみよう。」
「場所取りをしてくださってるのよね。寒いのに。大丈夫かしら。」
「まぁ。大丈夫だろ。阿川がしっかりしているから何かしら持って行ってるだろうし。」
携帯電話を手に取り、電話を始めた。
卵焼きをくるくると巻き、甘い卵焼きができあがった。次はしょっぱいものだ。
「結構人がいるらしい。車が停められるかどうか怪しくなってきた。」
「そう。だったらみんな先に行ってるといいわ。」
「君は?」
「スクーターでもある程度は乗せられるから、もう持っていけるモノだけでも持って行ったら?」
「でも君は酒が飲めないんじゃないのか。」
「いいわよ。アル中じゃあるまいし。」
どれが持っていけるだろう。ちらし寿司と…。
「…周。そんな気は使わなくていいから。」
「え?」
「いいからみんなで行こう。どっちみち僕は飲めないんだし、飲む席で飲まないのは結構辛いよ。」
楓がお酒を飲まないのは彼がアルコールのアレルギーがあるからだった。蕁麻疹がでるらしい。
本当の立場だったら私たちの上になるし、本社に行けば飲むこともあるのだろうけどその帰りはとんでもないことになっているのを、私は知っている。
「今日は無理して飲む必要はないから、僕は飲まないよ。」
「そうね。わかったわ。ありがとう。気を使ってくれて。」
「いいんだ。さ、どうやって詰める?」
「卵焼きからにしようかな。待ってて。すぐ切るから。」
できあがった二つの卵焼きは、見た目は変わらない。だからわかるように詰めなきゃ。
思ったよりも人が来るみたいなので少し多めに作る。
「あれ?もう作ってるの?」
二階から降りてきたのは光だった。いつもミニスカートなのに、今日は細身のジーパンを着ている。
「うん。十二時にってことだったから、早めにしないと。」
「手伝えること無い?」
「そうね…。じゃあ、卵割ってくれない?こっちとは別に。」
「いくつ割る?」
「そうね…。」
手を洗って、光は卵を割りだした。
「ねぇ。周は料理だけは上手よね。ずっとやってたの?」
「そういうわけじゃないわ。必要だったから覚えただけよ。都会にいたときは、買って食べてたこともあるけど飽きるのよね。」
「まぁ。同じような味付けだものね。」
「この卵は何にするの?」
「卵焼き。分けた分は甘い卵焼きとしょっぱいのを作るから。」
「あぁ。そうね。楓は甘いの好きだけど、律はしょっぱい方がいいもの。そこまで考えているの。すごいわね。」
「別に律と楓のためだけじゃないわ。田宮さんがお孫さんを連れてくるっていってたから。」
「そういえばそうだった。いくつぐらいだっけ?」
「まだ五歳と三歳っていってたかしら。」
他愛もない会話をしながら光と料理を勧めていく。
本当は他愛もないことをいわないと、空気が耐えられなかったから。
「ねぇ。他の人は何しているの?」
「楓は車を整理するって言ってたし、律はお酒とか飲み物を買ってくるって言ってたわ。」
「あの人に任せて大丈夫?強いお酒しか買ってこないわよ。」
「その辺はわかるでしょ。いくら何でも。」
そのとき、外で楓の声が聞こえた。何かあきれたような声のようだ。
「何?」
光は手を止めて外へ行ってしまった。戻ってくると笑いをこらえられないような表情立ったのはどうしてだろう。
「やっぱりそうだった。焼酎ばっかり買ってきてんの。律ってば。」
「水割りにすればみんな飲める。」
「ウーロン茶とかは?」
「花見の席で酒を飲まないヤツがいるのか。」
「いるわよ。楓は飲めないんだから。」
「つまんねぇやつ。」
「いいから。買い直しに行きましょ。ごめんね。周。ちょっと律と行ってくるわ。」
「気にしないで。行ってらっしゃい。」
そういってでこぼこなような二人は、再び行ってしまった。残された私はまた料理を再開する。
「あーあ。だから律に行かせるのは不安だっただ。」
楓が戻ってきた。そして冷蔵庫に近づくと、お茶を取り出してコップに注いだ。
「バーボンとか買ってこなかっただけまだましじゃないかしら。」
「まぁ。あいつなら買ってくるかもしれないな。」
卵に砂糖を入れて、だしで溶く。もう一つの卵にはだしと醤油を入れる。
「二つ作るの?卵焼き。」
「うん。甘いのと、しょっぱいの。」
「僕は甘いのが好きなんだけど。」
「そうね。でも律はしょっぱいのが好きだから。」
卵焼きのフライパンに油を敷いて、作ろうとした。そのとき楓が口を挟む。
「律のためにしょっぱい卵焼きを?」
「…別にそういうわけじゃないわ。みんなそれぞれ好みがあるだろうって思っただけ。」
それを聞いて楓はコップを流し台に置く。
「手伝えることはないかな。」
「そうね。もうだいたい終わってるんだけど…。」
「もう入れるだけなのかな。」
「そうね。ちらし寿司だけは桶でもって行くけど、あとは重箱に入れるわ。」
「そうか。だったらちょっと江口に電話をしてみよう。」
「場所取りをしてくださってるのよね。寒いのに。大丈夫かしら。」
「まぁ。大丈夫だろ。阿川がしっかりしているから何かしら持って行ってるだろうし。」
携帯電話を手に取り、電話を始めた。
卵焼きをくるくると巻き、甘い卵焼きができあがった。次はしょっぱいものだ。
「結構人がいるらしい。車が停められるかどうか怪しくなってきた。」
「そう。だったらみんな先に行ってるといいわ。」
「君は?」
「スクーターでもある程度は乗せられるから、もう持っていけるモノだけでも持って行ったら?」
「でも君は酒が飲めないんじゃないのか。」
「いいわよ。アル中じゃあるまいし。」
どれが持っていけるだろう。ちらし寿司と…。
「…周。そんな気は使わなくていいから。」
「え?」
「いいからみんなで行こう。どっちみち僕は飲めないんだし、飲む席で飲まないのは結構辛いよ。」
楓がお酒を飲まないのは彼がアルコールのアレルギーがあるからだった。蕁麻疹がでるらしい。
本当の立場だったら私たちの上になるし、本社に行けば飲むこともあるのだろうけどその帰りはとんでもないことになっているのを、私は知っている。
「今日は無理して飲む必要はないから、僕は飲まないよ。」
「そうね。わかったわ。ありがとう。気を使ってくれて。」
「いいんだ。さ、どうやって詰める?」
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