王道くんと、俺。

葉津緒

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終章

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今、何が起きたのか俺も頭が追いつかなくて。
キスをされたのだと理解したのは数十秒後。
静まり返った辺り一帯が、爆発的な雄叫びや悲鳴に包まれてからだった。


「は、はああ!? テメ、何して」

「ふざけんな、この野郎!」

「ごふうっ!!」


ぶち切れた優ちゃんよりも先にバ会長を殴り飛ばしたのは、真っ赤な顔で少し涙目になった歩くんでした。
思ったよりも吹き飛ばされ、地面に倒れ伏す会長。
驚いたまま呆然とする俺。

え、今の何。
もしかして会長ってキス魔なの?
こないだお昼休みにトイレでされそうになったり、温室では睨まれて噛みつかれたし。歩くんにも……いや、待てよ。もしやこれって威嚇?
王道くんに対する定番の『面白いなお前』からのキス。
そして

『あいつは俺様の獲物だ、チャラ男には渡さねぇよ。お裾分けくらいならしてやっても良いがな』ニヤリ

的な嫌がらせのキス=恋敵への宣戦布告というか。
まぁ、普通に挨拶がキスの国もあるわけだからね。挨拶ならするのも当たり前だよねっ。ちょっぴり唇噛まれた気もするけど、うん。(※混乱中)


「だ、大丈夫ですか郁人様!? クソ会長め、死にさらせ。あああっ今すぐ消毒しなきゃ」

「うぶっ、やめて痛っ、こすらな……ひいっ、俺の口に除菌スプレー噴射しようとしないで優ちゃんッ」


「大丈夫か郁人、な、なんなら俺が消毒してや」

「何しようとしてるお前! 郁人様に近寄るなッ」


なぜか頬を染めて、つま先立ちしながら俺の顔を見上げてくる歩くん。それを優ちゃんが押しのける。


「お、おい歩っ」

「こちらへ来なさい歩。何バカな真似をしようとしているんですか。飛鳥も飛鳥です、一体どうして……。ハッ、まさか飛鳥までお前の毒牙にかけたというのですか千賀郁人!」

「えっ、お、俺?」

「なんておぞましい……。以前から私は疑問に思っていました。“美濃岡巧”といい、学園側はなぜこんな奴等を退学処分にしないのか。その理由や裏にどのような絡繰からくりがあるのか、本当に不思議でなりません」

「副会長様!」「瑞穂にぃ!?」


ビクリと肩が揺れた。
落ち着け、大丈夫。副会長はただ名前を言っただけで別に本人が目の前にいるわけじゃない。だから震えるな、俺。


「郁人様?」
「だ、大丈夫ですか」
「ひどい、副会長様……」


守るように俺の前や隣に立った親衛隊の三人が、心配そうな表情を浮かべてる。


「あ」「えっ」「嘘!」


それが急に驚いたような顔になって――。



「おはよう郁人」

「……ノア?」

「うん。風邪が治って良かった、郁人。会いたかった」


後ろからぽん、と俺の肩を叩いたのは笑顔のノアでした。笑顔なんだけどちょっと怖いような。あの、なんか怒ってる?
それに他の生徒がいる前で声をかけられたのは初めてなんだけど、えっと、良いのかな。


「朝早くから騒がしいぞお前達。年端の行かない子供じゃないんだ、もう少し静かに登校できないのか?」


どんどん人が集まり大騒ぎする周囲に、そう言って解散を促すのは風紀委員長のりっちゃん先輩だ。
ギャラリーをかき分けて現れた先輩が、慈愛(?)に満ちた眼差しを俺に向ける。


「おはよう、体調はもう良いのか郁人?」

「う、うんっ。ありがと、りっちゃん先輩」


生徒会会計のノアが俺の(優ちゃんとは反対側の)隣に並び立ち、相対する副会長達との間には風紀委員長のりっちゃん先輩が。
なんだかまるでドラマや映画の重要な役の人の登場シーンみたいでかっこいいねっ。


「……どういうつもりです、埜吾。まさか貴方まで千賀郁人に籠絡されたのですか? それに風紀委員長も。清廉潔白なはずの貴方がなぜ、その男と親しげに接しているのです!」

「俺と郁人は、仲良しの友達だから。瑞穂には関係ない」

「どのような噂があろうと、俺は一生徒に対する当然の対応をしているまでだ。非難されるいわれはない」


「なっ……!」


ザワザワザワ、と少しだけ声をひそめた周りの生徒達が騒ぎだす。
不運か幸運か。自分は今、決して見逃せない場面の目撃者となっているのだという興奮。そして不可思議な現状に対する困惑。
不安と期待が入り交じり、ますますボルテージは上がっていく。

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