王道くんと、俺。

葉津緒

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第五章

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人がいる場所は疲れる。
静かで落ち着けるとこが良い。

そうだ、温室へ行こう。
中庭にある生徒会役員専用の温室なら誰も来ない。一般生徒は誰も入れないし、他の役員たちは生徒会室にいるから一人になれる。

そう思って校舎内を歩いていたらスマホにメッセージが届いた。誰?


『郁人、危険』の一言と、ここからほんの少し離れた場所にある中庭を示す地図。

いたずら……じゃない。
急いで走り出せば遠くから小さく、郁人の悲鳴が聞こえてきた。

嫌だ離して止めて、助けて――。
聞いてるこっちが苦しくなるような、ひどく怯えた悲しい声。


「チッ、おい静かにしろよ!」


苛ついた声と何かをバチンと打つ音。
茂みを抜け、駆けつけたそこには二人の生徒に襲われている最中の、郁人がいた。


「……お前ら、郁人から離れて」


「……ノ、ア?」

「郁人、もう大丈夫。もうひどいことさせないから」


仰向けで倒れたまま俺を見る郁人。
衣服が乱れ、胸や下腹部も露出している。
青ざめた表情は恐怖と混乱。それと微かにホッとしたような笑みとも呼べない口許の歪み。
息が荒い……過呼吸にならないと良いけど。

抱き起こそうとして肩に手が触れた途端、郁人の体がびくりと震えた。
なるべく、直接肌に触れないよう気を付けながら腕の拘束を外し、乱れた衣服を直す。
座り込んだままぼんやりと、俺にされるがままの郁人。少しずつ呼吸が落ち着いてくるのが分かった。


「この件は風紀と、学園側にも通報する」

「何のことですかー。これは合意の上での遊びですよぉ会計様。俺たち三人で楽しくふざけあってただけなんだし、ねぇ千賀くん?」


少し離れた場所からふざけた言い訳をしてきたのは……ああ、俺でも知ってる。
こいつ、三年の要注意人物『美濃岡巧』だ。
瑞穂が大嫌いなタイプらしくて、時々怒りながら話してる。ただ、その度に同列で郁人の名前を出すのは止めてほしい。


「ま、待ってノア。ごめん、俺びっくりして騒いじゃって。あの……多分ちょっと誤解があっただけだから、通報はしないで」

「郁人」


おかしなことを言い出す郁人にも腹が立つ。
ねえ、何でそいつを庇うの?
誤解ってなに。合意の筈がない。だって郁人の悲鳴は演技じゃなかった。

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