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第11話 タマモの変化

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「はぁ、なんなのじゃお主は。ケルベロスから聞いてはおるのじゃな。それならあとは実践なのじゃ。」

一通り叫んだ後、肩を落としながらサッサとやれとジェスチャーするタマモ。

「なんだか急に雑じゃないか?やればいいんだな。イメージして魔法にすると。俺の得意な魔法ってなんなんだろうな。」

シオンは日本でやっていたゲームや漫画などを思い出す。某有名RPGの魔法をイメージしてみる。

「オーソドックスな魔法って火魔法だよな。それからやってみるか。魔力を火に変えればいいのか?イメージ⋯」

「まずは手のひらから出してみるのじゃ。魔力を放出したことがあるなら出し方はわかるであろう?火魔法を出してみるのなら、まずは魔力を火に変換し魔法にするのじゃ。妾の世界ではファイヤーボールと言って火の玉を出すのが簡単な魔法に位置づけられておったのじゃ。」

「それなら僕も得意なんだな。あーん。」

シオンの頭の上で口を開くファイ。高圧縮されたサッカーボールほどの火の玉が口から飛び出していく。

「凄いなファイ!俺にもできるのか?とにかくやってみよう。」

「僕自体が火の玉だから簡単なんだな。シオンもすぐにできるんだな。」

ファイが出してくれたファイヤーボールをイメージしてみる。手を前方に突き出し指を広げる。

「何も無いとこに火をつけて球状にするのか。魔力を可燃体と考えればいいのか?どうやって着火すればいいんだろうか。難しいぞ⋯」

色々試行錯誤してみるが中々考えがまとまってこない。

「シオンは難しく考えるのが好きなんだな。火の玉出ろ~って感じでいいんだな。」

「そ、そんな簡単なことでいいのか?全ての現象を魔法でやればいいのかもな。イメージしたもの魔力を使って具現化するのを魔法ってケルさんが言ってたような⋯」

シオンは意を決して唱えた。

「火の玉よ出ろ!ファイヤーボール!」

手のひらからファイの出したファイヤーボールの10倍程の大きさの火の玉が前方に飛んでいく。

「で、できたぞ!」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

「シオンは凄いんだな。よくあんなに大きいの出たんだな。」

ファイは喜んでいるが、タマモはポカーンと口を開け火の玉の方向を見つめている。

「師匠?何かダメなところがあったのか?」

「なんなのじゃ!だからお主は本当になんなのじゃ!なんであんなにバカでかくなるのじゃ!あれはファイヤーボールとはいわんのじゃ!非常識なのじゃ!」

「そ、そうなのか?魔法の常識を知らないからな⋯なんだか申し訳ない。」

「それにあんな魔法を出しておいてお主はなんともないのか?疲れたりしておらんのか?」

タマモに言われ自分の体調を確認してみる。

「全く疲労感とかはないな。何発でも打てそうだ。ケルさんが言っていたよ。普通の魔法なら魔力が枯渇することはないって。」

「あの大きさは普通じゃないのじゃ!ケルベロスも異常であったが、お主もおかしいのじゃ!もう嫌なのじゃあああああ!」

タマモの叫びが冥界の空に木霊する。

「お、落ち着いてくれ。よく分からんが本当にごめんな。」

タマモの肩に手を置き宥めようとする。

「ぬああああ、なんじゃこれは!」

「どうした?痛かったのか?」

「手、手を離すのじゃ!」

シオンの手から魔力の残滓が残っていたようで、タマモに触れた途端、その魔力がタマモに流れ込んだ。

「大丈夫なのか?俺が何かしてしまったのか?」

「はぁ、はぁ、なんなのじゃ本当に⋯むっ?なんじゃこの感覚は⋯これは妾に魔力が⋯」

ゆっくり立ち上がるタマモ。先程のシオンと同じように手を突き出し唱えた。

「ファイヤーボール!」

ファイより大きい火の玉がタマモの手のひらから放たれる。

「妾の魔力が戻っておるのじゃ。しかもあの威力はなんじゃ?少ししか魔力を使っておらぬのじゃぞ。シオンの魔力のおかげなのか?」

「師匠も魔力が戻ったんだな。俺の魔力がタマモに注入されたのか?」

「もしかしたらそうなのかもしれぬのじゃ。お主が肩に触れた途端に電気が流れたかのような衝撃が身体全体を駆け巡ったのじゃ。お主はこんなに荒々しい魔力を制御しておったのじゃな。」

「そんなにおかしな事なのか?」

「妾も他人から魔力を直接注入されたことはないのじゃ。他人に魔力を受け渡すなんてことは出来ぬはずなのじゃがの。本当にお主は不思議な男なのじゃ。しかしこれで妾も戦力になれるやもしれぬ。」

ふんすと両手で握り拳を作り、気合を入れるポーズを取った。そんなタマモの肩にまた手を置くシオン。先程より多めに魔力を流してみる。

「もう少し渡しておくか?ほら、これでどうだ?」

「ななななななな、おおおおおおお!ややややややめるるるるのじゃあああああああああ!」

「なんだ?やりすぎか?すまん!」

咄嗟にタマモの肩から手を離す。手を離しても数秒程痺れている様子で地に手をついて肩で息をしている。

「はぁはぁ、はぁはぁ、お主はいきなり何をするのじゃ!そんな荒々しい魔力を大量に流すでない!死ぬかと思うたのじゃ!」

「そんなになのか?たくさんあげた方がいいのかと思って。すまん師匠。」

「もういいのじゃ。しかしなんじゃこの力の漲りようは。全盛期より力が湧いてくるのじゃ。」

「力がついたならいい事じゃないか。良かったな師匠。」

「呑気なもんじゃな。ふん!」

掛け声とともに飛び上がるタマモ。はるか上空まで飛び上がり地上に戻ってきた。

「な、なんて跳躍力なんだ?それとも飛んだのか?」

「これはただの脚力のみのジャンプじゃ。足に魔力を集中させればお主もできるのじゃ。まずはこのように魔力で身体強化をできるようにならぬのじゃ。魔法の打ち合いだけじゃなく、体術も武器による攻撃も身につける方がいのじゃ。」

本格的に始まるであろう修行に尻込みしそうになるが、グッと身体に気合を入れるシオン。

「わかった。よろしく頼むよ師匠。まずは魔力を練ることに慣れる。そして魔力での身体強化、魔法を使えるようになり、そして武器と体術だな。」

「そうじゃな。冥界の神々は妾よりも強い。ハーデスなんぞ妾がボコボコにしてやろうかと思うたのじゃがの。今のままでは無理じゃ。エリュシオンで暴れた際はすぐにケルベロスが呼ばれあやつに鎮圧されたからハーデスに会ったのはさっきが初めてじゃったのじゃ。ケルベロスを見た時も震えたもんじゃが、ハーデスにもエリーニュスにもネメシスにも勝てる見込みが未だに見えんのじゃ。」

「まだまだ神様は冥界にたくさんいるんだな。それらを全員敵に回すんだな。シオン、頑張るんだな。」

ニコニコと笑いながら激励するファイ。

「ありがとな、しかし骨が折れそうだ。まだ冥界での基盤もしっかりしてないのにな。それにしてもクライム・キャニオンってどんなとこなんだろうな。そこで俺は何をやればいいのか。わからないことだらけだ。」

冥界の王になる。その道が険しいことを再認識する。そして冥界での生活に不安感を抱くシオン。

「妾の力も戻ったしの、さっさとシオンを強くして全員ボコボコにするのじゃ!」

「そんな簡単に行くか分からないが、やるしかないな。」

気持ちを新たに歩を進める一行。目指す先はクライム・キャニオン。

シオンは魔力を練ることに集中し歩き続ける。しかしふとあることに気づいた。

「師匠、なんか違和感を感じるんだが。身長伸びてないか?それに⋯尻尾が増えてるのは気のせいじゃないと思うんだが⋯」

「何をバカな⋯」

シオンに言われ自分の尻尾を確認してみる。

「ぬあああああ、なんじゃ!妾の尻尾が9本に増えておるのじゃ!なんなのじゃこれは!」

タマモは身長が150cmほどに伸び、1本だった尻尾が9本に増えていた。容姿も幼かったのが、大人の顔つきに変わってきていた。

「それに、顔も大人っぽくなってるぞ?俺が魔力を渡した影響か?」

「な、な、な、な、なんでなのじゃ!プリティな童顔が妾の良さなのに⋯背も本当に伸びているのじゃ!嫌なのじゃ妾は幼女の姿が気に入っておったのじゃ!」

タマモは自分の変化を嫌ったのか駄々をこね始める。

「嫌じゃ嫌じゃ!お主は本当に何をしてくれるのじゃ!元に戻すのじゃああああ!」

タマモの絶叫が冥界の空に木霊する。しかし上空で荒れ狂っている雷に掻き消されてしまうのだった。

「落ち着け師匠。幼女の師匠はとても可愛らしかったが、大人びた師匠は凄い美人だぞ?スタイルもとても女性らしく⋯」

顔を真っ赤にし両手で慌てて胸を隠すタマモ。

「お、お主はどこを見ておるのじゃ!破廉恥なのじゃ!セクハラなのじゃあああああああ!」

「いや、本当にすまん、そういう意味ではないんだ。純粋に綺麗だと思ったから⋯」

「なんなのじゃ!真顔でそういうことを言うでないのじゃ!お主という男は⋯お主という男⋯もう知らぬ!」

「でもその姿だと抱き抱えるのも頭を撫でるのもしない方がいいな。」

時が止まったかのように動かなくなるタマモ。

「な、なんで、なのじゃ?」

「そりゃあ、俺が恥ずかしいじゃないか。美人な女性にそんなこと。それこそ破廉恥だろ?」

しょんぼりするタマモ。

「そ、そうじゃな。破廉恥じゃ。仕方ないのじゃ。」

再度シオンは魔力を練りながら歩き出し、項垂れたまま力なくついていくタマモ。

順調に魔力を練るスピードが速くなっていくのがわかる。さらに練度をあげるため集中しクライム・キャニオンに歩を進めるのだった。



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