乙女ゲームの悪役令嬢に転生しましたが、公式カプ(ヒロイン×王子)を全力で推しますわ!

朝月夜

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12. 「ちょっと二人で話せねぇか?」

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「よ! 兄さん! シュル!」
「……フェラン?」
「フェラン君?」

 学園の休み時間。
 中庭へ続く廊下で、俺――フェラン・ド・クレルモンは、レオナール兄さんと兄さんの友人であるシュルを見つけ、声をかけた。

「フェラン……何の用だ?」
 兄さんは目を細め、探るように俺を見る。

「なんだよ。義姉ねぇさんみたいなリアクションしやがって……弟の俺が、用もなく話しかけちゃ駄目か?」

 最近になって、俺と兄さんは少しずつ会話をするようになった。
 ――いや、正確には、今まで俺の方が兄さんを避けていただけなんだけど。

「ちょっと二人で話せねぇか?」

 そう言って、俺は親指を立て、そのまま横へ倒す。
 指の先が示したのは、人気の少ない坂道の途中にある一本の木のもとだった。
 兄さんは一瞬だけ考える素振りを見せ、やがて俺の意図を察したようだった。

「シュル……すまないが、先に行っててくれ。少し弟と話をしてくる」

「うん……いいよ。気にしないで。兄弟で、ゆっくり話して」
 シュルはそう言ってコクンと頷く。

りぃね……シュル、兄さん借りるわ。この埋め合わせはいずれするから」

 シュルは遠慮がちに首を振ったが、それで俺の気が済むわけがねぇ。
 この埋め合わせは、今度学食で奢ってやらないとな。
 やがてシュルはその場を離れ、俺と兄さんは木のもとへと移動した。

「ふぅ……最近、俺ら話すようになったよな……」
「ああ……」

 兄さんは俺を見ず、真っ直ぐどこか遠くを見つめたまま答えた。
 まだ、俺と兄さんの距離は遠い。
 兄さんは、俺とどう距離を縮めればいいのか悩んでいる。そして俺も、まだ兄さんとの間に、どこか壁を作っている。
 別に意地張ってるとかそんなんじゃねぇ。
 ただ、長年兄弟でいがみ合ってきて、俺は兄さんに負け続けてきた。プライドなんて、とっくにズタボロだ。
 そんなわけで、俺は兄さんにどうしても苦手意識が残ったままだった。
 女の子となら距離を詰める自信があるのに。兄弟となると、どうも勝手が違う。
 そんな俺と兄さんの、ぎこちない関係の架け橋になったのは――

義姉ねぇさんとは最近どうよ?」
「フェラン……お前、最近本当にセレスティンの話をするようになったな」

 そう、兄さんの婚約者であるセレスティン嬢の存在だった。
 まだ結婚はしてねぇから、正確には義姉ねぇさんではない。だが、いつの間にか俺は彼女のことを自然とそう呼ぶようになっていた。

 幼少の頃、兄さんの婚約者として紹介された義姉ねぇさん。
 第一印象は、クレルモン家に憧れるミーハーな女の子で、事あるごとに兄さんにべったりくっつこうとしていた。
 兄さんは露骨にうざがっていた――そんな印象が強い。
 だが、いつからか、義姉ねぇさんは兄さんから距離を取るようになった。
 それと入れ替わるように、今度は兄さんのほうが義姉ねぇさんを気にかけているように見えた。
 一見すると、義姉ねぇさんが兄さんに愛想を尽かしたようにも思える。
 けど、面白ぇのはそこじゃない。
 
 最初は、人前でいちゃつくのが恥ずかしくなる年頃になったんだろう、くらいに思っていた。
 だが、兄さんの態度や、周囲から人づてに聞く話を総合すると、どうやらそんな単純な話でもないらしい。
 四六時中、常に距離を取っている。
 婚約者の立場で、しかも両想いだというのに、だ。
 おかしい、何をそんなに遠慮しているのか。
 あれが、女心ってやつなんだろうか。
 この頃の俺はまだ幼く、義姉ねぇさんの気持ちなんて、さっぱりわからなかった。
 そして、十五歳になった現在。
 それなりに女の子と遊ぶようになり、多少は女心がわかるようになった今でも――
 唯一、どうしても理解できない女の子がいる。
 それが、義姉ねぇさんだった。

「兄さん……俺は正直今ほど兄さんが羨ましいと思ったことがない。
 俺が気になっている子は兄さんと結ばれる運命にある」
「……」
「それなのに、兄さんはどこかその人のことで苦しんでいるように見える。一体どうしたんだ?」
「フェラン……いきなりどうしたんだ? お前らしくない言動だな」
「兄弟だからこそ話せることってあるだろう?」
「兄弟だからこそ話したくないこともあるだろう?」

 そっくりそのまま兄さんに返された。
 だがしばらくすると――

「……フッ。フフフ……フハハハハハ」
 突如兄さんは大笑いした。

「な、なんだよ……なんで笑うんだよ」
「いや……本当に変わったな、フェラン。
 僕が知っている弟なら、僕を出し抜いて、セレスティンに遠慮なくアプローチしているはずだと思っていた」
「いやいや、さすがに兄さんの婚約者に手を出すほど、俺は節操なくはねぇよ!」

 兄さんの中の俺は、そこまで軽い男に見えていたのか。
 少し憤慨する気持ちはある。
 ……が、もし義姉ねぇさんが彼氏も婚約者もいないフリーだったなら、たしかにとっくにナンパしていたとは思う。

「……だが、フェラン。お前の疑問は正しい。
 たしかに僕は、セレスティンのことで悩んでいる。
 薄々、自分でもおかしいと思うときがある。
 この気持ちは――“愛”と呼べるのか?」
「……愛?」
「ああ……セレスティンが僕から距離を取りたいと思うなら……
 彼女の意思を尊重して、引き下がるべきだと理性(あたま)ではわかっている。
 だが、彼女を目の前にすると……」

 どうやら、俺の想像以上に兄さんは義姉ねぇさんのことで悩んでいるみたいだ。
 こんなとき、どんな言葉をかければいいのだろう。
 優しく寄り添うように声をかけるべきなのか。それとも、ただ黙って兄さんの言葉を聞いてやるのが、その人のためになるのか。
 そう俺も悩んだとき――

 ――たとえ不器用でも、どんなことにもひたむきに頑張る人の方が、ずっとかっこいいわよ!

 そのとき、あの不器用な義姉ねぇさんの説教を思いだした。
 そうか……そうだよな。

「……ったくよ! 兄貴らしくねぇな! そうやってウジウジ考えやがって!」
「……フェラン?」
 兄さんは、ぱちりと目を見開いて俺を見る。

「兄さんは、いつも糞真面目で俺と違ってひねくれてねえで、素で真っ直ぐぶつかることができる……文字通り素直な人間じゃねぇのかよ!」

 そうだ。きっとあの義姉ねぇさんならこうやって説教する。
 俺もあのうるせぇ説教でようやく目が覚めた気分になれたのだから。

「真っ直ぐぶつかる……?」
 そうポツリと呟き、兄さんはしばらく考える素振りを見せる。

 そして――

「……そうかもしれないな……僕はどうやら悩みすぎていたみたいだ。
 ……いや、きっと本心では、セレスティンの本音を知るのが怖くて話し合うのを避けていたのだろう……
 だから、この気持ちをセレスティンにぶつけてみよう」

 そう言った兄さんの表情は、俺に何度も完敗を味わわせてきた、あの自信満々ないつもの兄さんのものに戻っていた。
 そうだよ。それがアンタらしい。
 あの憎たらしくて、嫌になるほど……それでも、俺の憧れの兄さんはこうでなくちゃな。

「おうよ……実際腹を割って話せば、案外お互いに小せぇことや杞憂だったことあるあるだぜ」
「それもそうだな」

 憑き物が落ちた――と決めつけるのは、まだ早いかもしれない。
 それでも、さっきまで何かを思い詰めていた兄さんよりは、ずっと肩の力が抜けたように見えた。

「まさか、お前に気づかされるとはな……ありがとうフェラン」
「いや、いいってことよ」

 そろそろ次の授業が始まる時間だ。俺と兄さんは並んで、教室へ向かって歩き出した。

「ところでさ……俺、学園寮の兄さんの部屋まだ行ったことないけど、今日行ってもいい?」
「……いや、それは断る」
「なんでだよ。几帳面な兄さんなら、部屋だっていつも片付いてるだろ?」
「……いや、……」
「あっ、もしかしたら、エッチな本が置いているとか? ああ、兄さんもついに、そういう年頃に――」
「……」
「いやいや、冗談だって。本気にすんなよ……」
「……」
「あれ? 兄さん? なんでさっきから黙ってんの? ちょっと怖いんだけど」
「フェラン……世の中に知らない方がいいこともある。命が欲しいなら……それ以上、詮索しないことだ」

 兄さんは、マジトーンで釘を刺すように告げた。
 そこまで言われると、逆に気になって仕方なくなるが……兄さんの雰囲気から、本当に弟に手をかけかねない気配を感じたので、ここは大人しく引き下がることにした。
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