乙女ゲームの悪役令嬢に転生しましたが、公式カプ(ヒロイン×王子)を全力で推しますわ!

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15.「ミレーヌ先生×ポルナレフ先生カプ成立作戦」

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「では、どうやって“ミレーヌ先生×ポルナレフ先生カプ成立”作戦を成功させましょうか……」
 セレスティンは顎に手を当て、じっくりと思案する。

「……ミレーヌ先生。その、ポルナレフ先生がどんな趣味をお持ちか、ご存じありませんか?
 やはり共通の趣味があれば、そこからお互い話しやすくなると思いますし」
 エリナからの質問。

 だが――これは、正直に言って痛いところを突かれた。

「……いや。私は、いつも遠くから眺めていただけだから……
 ポルナレフ先生の趣味も、どんな女性が好みかも、今、恋人がいるのかどうかも……ほとんど知らないんだ。日常で話す機会も、挨拶を交わすくらいで……」

 そう。私はポルナレフ先生に恋していながら、彼のことをほとんど知らない。
 普段、どんな風に過ごしているのか。
 今、恋人はいるのか――いや、もしかしたら、すでに結婚している可能性だってある。
 知りたい気持ちは、高度な錬金術への探究心にも匹敵するほどあるのに、そこへ踏み込む勇気を、私はこれまで一度も持てなかった。

「すまない。役に立てそうになくて……」

 自信なさげにそう告げると、セレスティンとエリナは、わずかに表情を曇らせた。

「なら――」
 その沈黙を破ったのは、シュルだった。

「――最も効率的な方法を選ぶなら、効果は短時間ですが、“惚れ薬”を使うという手もあります。
 厚労省に黙っていてくれるなら、僕が調合しますし。
 それをポルナレフ先生に服用させ、ミレーヌ先生に惚れている間に、恋人関係や婚姻届を提出して既成事実を――」

 無表情のまま淡々と語るシュルに、セレスティンの顔色がみるみる変わった。

「そんなやり方……駄目に決まっていますわ! 恋愛は相手を操るものではなく、自分の魅力で惚れさせるものです!! それにそんなやり方、ミレーヌ先生だって賛成するはずが――」
「……惚れ薬ね……正直、そのやり方も考えなかったわけじゃない……」
「いや、考えていたんかい!!」

 セレスティンのツッコミを受け流しながら、私はそのまま話を続ける。

「……でも、やっぱりそんなやり方は取りたくない。
 今まで、普通の女の子みたいな、恋愛らしい恋愛をしてきたわけじゃないけど……それでも、ポルナレフ先生には、きちんと“私自身”を見て、好きになってほしいんだ」

「……ミレーヌ先生」
 エリナが、どこか安心したように微笑んだ。

「それなら、やっぱり正面突破ですわ! ポルナレフ先生に、ありのままのミレーヌ先生で行ってみましょう!」
 セレスティンは、ぱん、と小さく手を叩き、はっきりと言い切った。

「……正面、突破だと……?」
 あまりに率直な答えに、戸惑う。

「ええ! 片思いなら、まずは気持ちを伝えなければ始まりませんわ。
 遠くから見ているだけでは、何も変わりませんもの」
「馬鹿を言うな……それができているなら、初めからそうしている。
 挨拶を交わすだけで精一杯なのに……いきなり想いを伝えるなんて……」

「……怖いですよね」
 そう言って、エリナはそっと私の隣に歩み寄り、肩に触れるほどの距離で微笑んだ。

「いきなり正面から告白するなんて……簡単なことじゃありません。
 好きだからこそ、嫌われたらどうしようとか、気まずくなって、今の関係さえ壊れてしまったらどうしようとか……考えてしまいますもの」
「……エリナ」
 優しく、否定せずに寄り添うエリナの言葉に、胸の奥が少しだけ緩む。

「ですが、だからこそ――」
 そのとき、それまで黙っていたシュルが一歩前に出た。

「――だからこそ、“段階的正面突破”が最適解だと思います」

「段階的……?」
「段階的ですって?」
 セレスティンと声が重なる。

「うん。駆け引きや小手先の恋愛テクニックは、ポルナレフ先生には通じないでしょう。
 むしろ、生半可な好意や曖昧な態度ほど、すぐに見抜かれる可能性が高い」

 淡々とした口調だが、その分析には妙な説得力があった。

「ならば最初から、誠実に。
 一気に告白するのではなく、会話を増やし、関わる時間を少しずつ増やしていく。
 その延長線上で、正面から想いを伝える――それが“段階的正面突破”です」

 シュルはちらりと私を見る。

「それに……ポルナレフ先生なら、ミレーヌ先生の真剣な想いを、軽んじることはしないはずです。
 たとえ答えがどうであれ、きちんと受け止めてくれる可能性は高い」

 その言葉に、セレスティンが満足そうにうなずいた。
「ええ。私もそう思いますわ。だからこそ、“正面突破”なのですもの」

 エリナも、私の方を見て、にっこりと笑う。
「怖くても……一人じゃありませんよ、ミレーヌ先生」

 三人の視線が、静かに私へ集まる。

「……」

 胸の奥で、不安と期待がせめぎ合う。
 それでも――逃げ続けてきた想いに、初めて向き合う覚悟が、少しだけ芽生えた気がした。
 それに、今までのやり方では、何も進まなかったのは確かだ。
 私は、ゆっくりと息を吐いてから答える。

「……分かった正面突破だ……段階的、ではあるがな」

 こうして、セレスティン発案の“ミレーヌ先生×ポルナレフ先生カプ成立”作戦は、段階的正面突破の方針で行くことになった。

 ***

 それからの私は、三人の助言を胸に、少しずつ――本当に少しずつだが、ポルナレフ先生に自分から声をかけるようになった。

 ある日では。

「あ、あら? ポルナレフ先生……お、お疲れさまです」
「おや、ミレーヌ先生? 今日はいつもと雰囲気が違いますな」
「そ、そうでしょうか。す、少し……気分転換と思いまして」

 私はセレスティンの案に従い、学園で許される範囲内でおしゃれを意識して廊下に立った。
 ぼさぼさだった自分の髪を整え、ポルナレフ先生の前で、さりげなく髪をかき分ける。

『恋を成立させるには、やっぱりおしゃれが一番! こっちの世界では流行っていないかもしれませんが、“垢抜け”ってやつですわ』

 セレスティンのその言葉のもと、私は少しずつ、おしゃれの指南を受けていたのだ。
 正直、ありがたかった。
 学生時代からおしゃれとは無縁で、どこか淋しい青春を送ってきた私にとって、こうした変化は新鮮で、少し誇らしい気分さえあったから。

「なるほど。悪くありませんよ。我々教師も、ときにはそういう変化が必要でしょう……」

 意外にも悪くない反応をもらい、心の中でセレスティンに感謝の言葉を送ろうとした、そのとき――

「ですが、あまり身だしなみを整えすぎるのも考えものですな……まあ、ミレーヌ先生なら、その線引きは大丈夫でしょうが」
「ははは……はい、そうですね」

 穏やかな笑みとともに返される、いつもの厳格な教育者らしい言葉。
 胸の奥では、期待と不安が入り混じった、複雑な感情が渦巻いた。
 それでも――ポルナレフ先生から、ほんの少しでも良い感触をもらえた。
 それだけで、その日は十分だった。

 またある日では。
 ポルナレフ先生の職員室へ、私は少し緊張しながら足を踏み入れる。

「ポルナレフ先生。少し……お時間、よろしいでしょうか」
「これはこれはミレーヌ先生。どうしました?」
「さ、最近、お菓子作りを始めまして……練習で作ったものなのですが、よろしければ、お、お味見を……」
「ほほう。これはこれは、ちょうど糖分を取りたかったところなのですよ。ではお言葉に甘えまして――」

 エリナの指示のもとで作ったクッキーを、そっと差し出す。

『やはり何と言っても、古今東西、人の心を掴むには胃袋からでしょう。美味しい食事を食べさせて、悪い気がする人なんていませんわ!!』

 その言葉とともに、エリナは自信満々に私の背中を押した。
 普段は料理などほとんどせず、外食や簡単な食事で済ませていたため、正直なところ自信はない。
 というか、改めて考えると、自分の女子力の低さが、悲惨なほどだと痛感してしまう。
 ポルナレフ先生は、クッキーをひとつ口に運び、もぐもぐと味わう。

(……気になるお味は? あと、ほほに頬張るポルナレフ先生、マジ天使)

 そんなことを考えながら、私はただ、ポルナレフ先生の感想を待っていた。

「うむ……悪くありませんな。甘さも程よく、香りも申し分ない。私好みですな」
「……ほ、本当ですか!?」
「ええ! ミレーヌ先生、こんな美味しいクッキーをありがとうございます!!」

 ポルナレフ先生の満面の笑み。
 セレスティン流に言うなら、これが“推しからの愛”というやつだろうか。

(ああ……たしかにこれは素敵な瞬間だ。まるで天に上りそうな……いや、このまますでに上っているような――)

 さらにまたある日では。
 廊下でポルナレフ先生とすれ違った、その時だった。

「……うん?」 

 低く抑えた声が、背後から聞こえる。

「この香りは……まさか。ミレーヌ先生?」

 珍しくポルナレフ先生から呼び止められ、私は振り返った。

「はい?」
「その香り、今朝の香りとは僅かに違う……なにか特殊な魔法式を含んでいますな?」
「え、ええ。気付きましたか。はい、時間帯で成分が大きく変化する香水をつけていまして……」

「……“時間帯で成分が変化する香水”?」
 一瞬、ポルナレフ先生の表情が固まる。

「ま、まさか……その香水は――“ルール・ブルー”ではありませんか?」
「えっ……!?
 香水名まで当てるなんて……流石ポルナレフ先生。本当に、何でもご存じなんですね……!」

 本日身につけているのは、シュルが調合した魔法の香水だ。

『惚れ薬が駄目なら……この魔法の“香水ルール・ブルー”はどうでしょうか? 冷静に考えれば、ポルナレフ先生ほどの理知的な方なら、惚れ薬は見破られるかもしれない。
 それなら、香りで惚れさせるのではなく、集中力を高め、気持ちを落ち着かせる方向の効能を持たせた香り――
 複雑な魔法式を組み込んだ香水ルール・ブルーなら、良い反応を示すかもしれません』

 シュルの予測通り、ポルナレフ先生は男としてというより、純粋に香水に組み込まれた魔法式そのものに興味を示し、自然と話が広がっていった。
 心なしか、いつも以上にポルナレフ先生は楽しそうに見える。
 気づけば会話は、香水の話から調合理論、持続時間、魔力反応の話へと発展していた。

「やはり、ミレーヌ先生は話していて楽しい。理屈が通っている……そして、その香水は、ミレーヌ先生によく合っていますぞ」
「あ……ありがとうございます//」

 クッキーの件以来、ポルナレフ先生は以前よりも、私に柔らかな笑顔を向けてくれるようになった。
 その笑顔を向けられるだけで、胸の奥がぶわっと熱くなる。
 これは……ひょっとして、恋の予感が来ているのだろうか?
 少なくとも、挨拶を交わすだけだった関係は、確実に変わり始めていたと思う。

「……それに、その香りはどこか懐かしい……」
 意味深な表情でそう呟くと、ポルナレフ先生はそのまま、廊下の奥へと歩いていった。

(今回は、いつも以上にポルナレフ先生と話せちゃった……// ――これが、“段階的正面突破”! もしかして……本当にもしかして、ポルナレフ先生……と……!!)

 この時の私は、気持ちが舞い上がって自分のことしか見えていなかった。
 それが、のちに……。

 ***

 セレスティンたちに、ポルナレフ先生への想いを打ち明けたあの教室。
 最近では授業が終わった後になると、そこは当たり前のように“ミレーヌ先生×ポルナレフ先生カプ成立”の作戦会議室と化していた。

「ミレーヌ先生! もう十分、距離は縮まったんじゃないでしょうか!!」
 まるで自分のことのように、興奮気味に迫ってくるセレスティン。

「ええ! セレスティン様のおっしゃる通りです! 今なら、告白してもよろしいんじゃないでしょうか?」
 すかさずエリナも続く。

「あら……そう?」

 表面上は、なるべく落ち着いた態度を装う。
 けれど内心では――

(ううん! やっぱりそうよね! よかった……っ! 私の勘違いじゃ、なかったのね!!)

 と、すっかり舞い上がっていた。
 主観だけだと、私の思い違いという可能性もあるが、こうして、セレスティンやエリナの目から見ても、私とポルナレフ先生の関係は順調に映っているようだった。
 当の本人であるポルナレフ先生の気持ちは、まだわからない。
 それでも、恋が成就する可能性は、確実に高くなっていると考えてもいいだろう。
 ……とはいえ、念のため、の意見も聞いておきたい。

「……シュル。君はどう思う? ポルナレフ先生は私に気があると思うか?」

「……」
 顎に手を当て、じっくりと思案するシュル。
 私だけでなく、セレスティンもエリナも、固唾を飲んで彼の答えを待っていた。

「……正直、何とも言えない、というのが感想です。
 ポルナレフ先生がミレーヌ先生を好いているとしても、それが異性としてなのか、人柄としてなのか……僕には判断できません」

 その言葉に、先ほどまで盛り上がっていた空気ムードが、少しずつ落ち着いていく。

「だけど――」
 シュルは言葉を続けた。

「前にも言った通り、ポルナレフ先生なら、ミレーヌ先生の真剣な想いを、軽んじることはしないはずです……たとえ、今告白して、フラれたとしても、好きだと伝えることになんのデメリットはないと思います」
「……シュル」

 相変わらず、シュルらしい淡々とした口調。
 それなのに、不思議と胸に力が湧いてくる言葉だった。
 いや、むしろ――必要以上に励ましや忖度そんたくがないからこそ、かえって信じたくなるのかもしれない。

「……ええ! シュルさんの言う通りだと思います! 告白しても、何も悪いことはありません!」
「……エリナ」
 そこから、エリナの後押しがあり――

「やらない後悔よりやる後悔ですわ! ミレーヌ先生! それに今まで通りもたもたしていると、そのうち他の泥棒猫にポルナレフ先生が取られちゃいますよ!!」
「……セレスティン」
 セレスティンの、さらなる一押し。

 私は今一度、セレスティン、シュル、エリナの顔を見渡した。
 どの表情も、優柔不断で、なかなか決断できない私を見守るように、ニッコリと微笑んでいる。
 そして――

「……わ、わかった。今度……会う時に……つ、伝えてみる……よ//」
 その瞬間、セレスティンとエリナは、ぱっと花が咲くように笑顔になり、シュルは安堵したように、小さく息をついた。

 もし、告白して拒絶されたら。
 もし、これまで築いてきたポルナレフ先生との関係が、壊れてしまったら。
 そんな不安は、今も確かに胸にある。
 きっと、私一人だけだったなら――これまでと同じように、決断できず、何も変えられないままだっただろう。
 けれど、今の私には、セレスティン、シュル、エリナがいる。
 この三人の可愛い生徒たちの後押しがあったからこそ、弱い私は、ようやく一歩踏み出す勇気をもらえたのだった。
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