【完結】クリスマス・ナンバー・ナイト

野村にれ

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亀川梨沙(ニホン)7

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『理由についての遺書はなかったようなんですけど、死ぬ準備をして亡くなられたみたいです』
『死ぬ準備?』
『はい……財産とか葬儀とか、お墓とか、会社のこととか全部です。デスクにも今後の資料がパソコンの中にまとめてあるって、塔子さんらしいねって……会社はずっとお通夜状態ですよ。それで……実は家族にずっとお金をたかられていたようで……両親、妹と弟ですよ。いくら塔子さんは高給取りでも、毒家族ですよ』

 後輩はやるせなさと、怒りでいっぱいという口調であったが、梨沙は心臓の早打ちが止まらなかった。

『たか、られて……?』
『そうです。酷かったのは母親と妹だったそうです。ATMだとでも思っていたのでしょう』
『そんな……』
『会社までも来ていたこともあるみたいで、知っていた人もいたようですけど、塔子さんは大丈夫って言っていたそうです。でも、お金があると思われているようでって言っていたそうなんです』

 梨沙の心臓は電話相手にも聞こえるのではないかと言うほど、バクバクと張り裂けそうだった。

『ただ、今はご両親もごきょうだいも亡くなっているのですけど』
『だったら』

 原因ではないのではないかという希望を込めたが、すぐに打ち砕かれた。

『数週間前に弟さんの妻と子どもが会社に来て大騒ぎしたんです……それを気にされたのではないかと』
『騒ぎを?』
『しかも、話を聞いたら、妻はもちろん他人で、その子どもも連れ子で、血の繋がりもなかったんですよ?それなのに、困っているの、家族なのに助けてくれないの、薄情者って、胸糞でしょう?』
『酷い、ね……』

 両親と妹と弟も亡くなっても、その家族にまで迷惑を掛けられたら、もう無理だったのかもしれないと梨沙も苦しくなった。

『はい、胸糞ですよ。しかも、その後も退職金があるはずだとか言って会社にやって来て、それも塔子さんが弁護士に頼んでいたんですけどね』
『弁護士を……』

 弁護士まで頼んでいたことに、塔子の覚悟を感じた。

『万が一のためにって、だからあの家族には一円も入りません』
『それは、良かったわね』
『はい、皆もそれは良かったと言っています。香典とか辞退されているので、というか、その香典も受け取る人がいませんから、それでも梨沙さんには知らせた方がいいかと思って』
『ありがとう』

 電話が終わり、梨沙はしゃがみ込んでいた。涙は出ていなかったが、上手く息ができなかった。

『私のせいだ……とう、こちゃ、ん、ごめん、な、さい……』

 実際、今の今まで忘れていたが、首吊りと言っていたことから、思わず首に手を当てており、息ができないほど苦しくなった。

 後輩も実は自分が吹き込んだことを知っていて、連絡して来たのではないかと怖くなり、スマートフォンが鳴る度にビクリとするようになり、音が出ないようにした。

 お前のせいだと言われていると思うようになり、後輩の声と、あの頃の塔子の顔がずっと頭の中を占めていた。

 仕事にも支障が出るために、メンタルクリニックにも通ったが、もうどうにもならないことに、薬を服用すれば一時的には良くなるが、どうにか仕事ができるという状態だった。

 暗い部屋にいる方が息ができる、食事の味もしなくなり、そんな状態で、何とか52歳まで生きていた。

 何度も、塔子と同じように死んでしまおうかと考えたか分からない。その度に、怖くなって踏み止まる、そんなことを繰り返していた。

 だからこそ、梨沙は覚えていないが、クリスマス・ナンバー制度に選ばれた時、喜んでいたのである。

 友人のことも、恵介のことも気にはなっていた。

 だが、この世界で戻りたいとこだわり、後悔していたのは何十年も会っていない、もう二度と会えない敷田塔子のことだった。
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