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愚か者の語らい3
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「死ねるような数なのか?」
当時は、可哀想だろうと思っていたので、詳しく聞くことはなかった。
だが今となっては、どのような薬なのか、何錠を服用すれば死ねるのか、バトワスはありのままを訊ねた。
「シャーリンは、死ぬことはないと思うが、絶対ではないと…」
「どちらが死のうなどと、言い出したのだ?」
「シャーリンです…縁談を迫られていると言われて、実際はなかったようですけど」
「っ」
当時は、お門違いの子どもが出来ないことで、追い詰められていたジェフとシャーリンは、もう死ぬしかないという結論に達していた。
「薬はシャーリンが用意したのか?」
「私も用意していたのですが、シャーリンが持って来た物を服用しました…」
「ジェフが用意したのは、どのような薬だ?」
「名前は覚えていませんが、1錠以上、服用してはならないという薬でした」
マクローズ伯爵家の侍医に、考えることが多くて、眠れなくて困っていると話して、服用せずに二人分を用意した。
「死ぬ気はなかったということか?」
「生き残れば、それが運命だと…目覚めることが出来たら、きっと良い方に進むはずだと言われて…」
「確かにお前たちには良いように進みはしたが、あったはずのものがなくなっていたのだろうな…」
「はい…」
バトワスは二人が平民になって一緒になるように動くべきだったと、今聞くとなんて滑稽な話なのだと、改めて思うことになった。
おそらく、シャーリンは眠るだけのような薬を用意したのだろう。
「ジェフの用意した薬を、服用したと言ったのか?」
「先に目を覚ましていたシャーリンが、そう言っていたようです…」
「そうか…」
「申し訳ございません…おかしいとは思いましたが、両親も理解してくれるようになって、舞い上がっておりました。愚かだったとしか言いようがありません」
ジェフはバトワスには嘘を付けないと、誰にも両親にも話していないことだったが、事実をありのまま話した。
「ベリック・ガルッツは、レオラッド大公閣下から罰を受けた際に、これが当時だったら、フォンターナ家に慰謝料を払い、足りない分はシャーリンをお金になる相手に嫁がせるか、身売りさせていたと思うと言っていた」
「それが、正しいと思います…」
当時だったら受け入れられなかっただろうが、それが婚約を壊した子爵令嬢への当然の報いであっただろうと思える。
「誰にも話していませんでした…」
「そうか」
正確には誰にも話せなかったという方が正しいだろうと、バトワスは思った。
「二人とも不貞で離縁し、エルム夫人は愚かだと思うだろうな」
「はい…オリビア様はどうされているのですか?」
「よく知らないが、侯爵家で幽閉のような形になっているのだろう」
オリビアはズニーライ侯爵家で、静かに過ごしている。高飛車に振舞っていたオリビアは、男娼と不貞行為をしたと皆が知っている状況で、人に会いたくないと思うようになっていたからである。
両親も兄も訪ねて来ることはない。
シャーリンとは違い、自分自身で過ちを犯して、このような状況になっていることも理解しており、受け入れている。
「そうですか…」
「あれも、エルム夫人に随分と偉そうにしていたからな。会うことはないだろうが、頭を擦り付けて謝罪すべき存在だろう」
「私こそです…」
一番、謝罪をしなければならないのはジェフで間違いないだろう。
だが、その機会すら与えられることはない。ある意味、無意味な謝罪をされたくなくて、出て行ったのかもしれない。
「息子の婚約者は見付かったか?」
「はい…どうにか、息子の人柄に嫁いでくれそうな令嬢が見付かりました」
「そうか…良かったな」
「はい」
そうは言っても、アジェル王国の水準は下がったままで、この先も見えない状況である。
当時は、可哀想だろうと思っていたので、詳しく聞くことはなかった。
だが今となっては、どのような薬なのか、何錠を服用すれば死ねるのか、バトワスはありのままを訊ねた。
「シャーリンは、死ぬことはないと思うが、絶対ではないと…」
「どちらが死のうなどと、言い出したのだ?」
「シャーリンです…縁談を迫られていると言われて、実際はなかったようですけど」
「っ」
当時は、お門違いの子どもが出来ないことで、追い詰められていたジェフとシャーリンは、もう死ぬしかないという結論に達していた。
「薬はシャーリンが用意したのか?」
「私も用意していたのですが、シャーリンが持って来た物を服用しました…」
「ジェフが用意したのは、どのような薬だ?」
「名前は覚えていませんが、1錠以上、服用してはならないという薬でした」
マクローズ伯爵家の侍医に、考えることが多くて、眠れなくて困っていると話して、服用せずに二人分を用意した。
「死ぬ気はなかったということか?」
「生き残れば、それが運命だと…目覚めることが出来たら、きっと良い方に進むはずだと言われて…」
「確かにお前たちには良いように進みはしたが、あったはずのものがなくなっていたのだろうな…」
「はい…」
バトワスは二人が平民になって一緒になるように動くべきだったと、今聞くとなんて滑稽な話なのだと、改めて思うことになった。
おそらく、シャーリンは眠るだけのような薬を用意したのだろう。
「ジェフの用意した薬を、服用したと言ったのか?」
「先に目を覚ましていたシャーリンが、そう言っていたようです…」
「そうか…」
「申し訳ございません…おかしいとは思いましたが、両親も理解してくれるようになって、舞い上がっておりました。愚かだったとしか言いようがありません」
ジェフはバトワスには嘘を付けないと、誰にも両親にも話していないことだったが、事実をありのまま話した。
「ベリック・ガルッツは、レオラッド大公閣下から罰を受けた際に、これが当時だったら、フォンターナ家に慰謝料を払い、足りない分はシャーリンをお金になる相手に嫁がせるか、身売りさせていたと思うと言っていた」
「それが、正しいと思います…」
当時だったら受け入れられなかっただろうが、それが婚約を壊した子爵令嬢への当然の報いであっただろうと思える。
「誰にも話していませんでした…」
「そうか」
正確には誰にも話せなかったという方が正しいだろうと、バトワスは思った。
「二人とも不貞で離縁し、エルム夫人は愚かだと思うだろうな」
「はい…オリビア様はどうされているのですか?」
「よく知らないが、侯爵家で幽閉のような形になっているのだろう」
オリビアはズニーライ侯爵家で、静かに過ごしている。高飛車に振舞っていたオリビアは、男娼と不貞行為をしたと皆が知っている状況で、人に会いたくないと思うようになっていたからである。
両親も兄も訪ねて来ることはない。
シャーリンとは違い、自分自身で過ちを犯して、このような状況になっていることも理解しており、受け入れている。
「そうですか…」
「あれも、エルム夫人に随分と偉そうにしていたからな。会うことはないだろうが、頭を擦り付けて謝罪すべき存在だろう」
「私こそです…」
一番、謝罪をしなければならないのはジェフで間違いないだろう。
だが、その機会すら与えられることはない。ある意味、無意味な謝罪をされたくなくて、出て行ったのかもしれない。
「息子の婚約者は見付かったか?」
「はい…どうにか、息子の人柄に嫁いでくれそうな令嬢が見付かりました」
「そうか…良かったな」
「はい」
そうは言っても、アジェル王国の水準は下がったままで、この先も見えない状況である。
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