【完結】悪意か、善意か、破滅か

野村にれ

文字の大きさ
175 / 196

愚か者の語らい3

「死ねるような数なのか?」

 当時は、可哀想だろうと思っていたので、詳しく聞くことはなかった。

 だが今となっては、どのような薬なのか、何錠を服用すれば死ねるのか、バトワスはありのままを訊ねた。

「シャーリンは、死ぬことはないと思うが、絶対ではないと…」
「どちらが死のうなどと、言い出したのだ?」
「シャーリンです…縁談を迫られていると言われて、実際はなかったようですけど」
「っ」

 当時は、お門違いの子どもが出来ないことで、追い詰められていたジェフとシャーリンは、もう死ぬしかないという結論に達していた。

「薬はシャーリンが用意したのか?」
「私も用意していたのですが、シャーリンが持って来た物を服用しました…」
「ジェフが用意したのは、どのような薬だ?」
「名前は覚えていませんが、1錠以上、服用してはならないという薬でした」

 マクローズ伯爵家の侍医に、考えることが多くて、眠れなくて困っていると話して、服用せずに二人分を用意した。

「死ぬ気はなかったということか?」
「生き残れば、それが運命だと…目覚めることが出来たら、きっと良い方に進むはずだと言われて…」
「確かにお前たちには良いように進みはしたが、あったはずのものがなくなっていたのだろうな…」
「はい…」

 バトワスは二人が平民になって一緒になるように動くべきだったと、今聞くとなんて滑稽な話なのだと、改めて思うことになった。

 おそらく、シャーリンは眠るだけのような薬を用意したのだろう。

「ジェフの用意した薬を、服用したと言ったのか?」
「先に目を覚ましていたシャーリンが、そう言っていたようです…」
「そうか…」
「申し訳ございません…おかしいとは思いましたが、両親も理解してくれるようになって、舞い上がっておりました。愚かだったとしか言いようがありません」

 ジェフはバトワスには嘘を付けないと、誰にも両親にも話していないことだったが、事実をありのまま話した。

「ベリック・ガルッツは、レオラッド大公閣下から罰を受けた際に、これが当時だったら、フォンターナ家に慰謝料を払い、足りない分はシャーリンをお金になる相手に嫁がせるか、身売りさせていたと思うと言っていた」
「それが、正しいと思います…」

 当時だったら受け入れられなかっただろうが、それが婚約を壊した子爵令嬢への当然の報いであっただろうと思える。

「誰にも話していませんでした…」
「そうか」

 正確には誰にも話せなかったという方が正しいだろうと、バトワスは思った。

「二人とも不貞で離縁し、エルム夫人は愚かだと思うだろうな」
「はい…オリビア様はどうされているのですか?」
「よく知らないが、侯爵家で幽閉のような形になっているのだろう」

 オリビアはズニーライ侯爵家で、静かに過ごしている。高飛車に振舞っていたオリビアは、男娼と不貞行為をしたと皆が知っている状況で、人に会いたくないと思うようになっていたからである。

 両親も兄も訪ねて来ることはない。

 シャーリンとは違い、自分自身で過ちを犯して、このような状況になっていることも理解しており、受け入れている。

「そうですか…」
「あれも、エルム夫人に随分と偉そうにしていたからな。会うことはないだろうが、頭を擦り付けて謝罪すべき存在だろう」
「私こそです…」

 一番、謝罪をしなければならないのはジェフで間違いないだろう。

 だが、その機会すら与えられることはない。ある意味、無意味な謝罪をされたくなくて、出て行ったのかもしれない。

「息子の婚約者は見付かったか?」
「はい…どうにか、息子の人柄に嫁いでくれそうな令嬢が見付かりました」
「そうか…良かったな」
「はい」

 そうは言っても、アジェル王国の水準は下がったままで、この先も見えない状況である。

あなたにおすすめの小説

【完結】遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
【残り数話を持ちまして3月29日完結!!】 夫にも子どもにも、私は選ばれなかった。 長年の裏切りを抱え、離縁状を置いて家を出た――。 待っていたのは、凍てつく絶望。 けれど同時に、それは残酷な運命の扉が開く瞬間でもあった。 「夫は愛人と生きればいい。  今さら縋られても、裏切ったあなたを許す力など残っていない」 それでも私は誓う―― 「子どもたちの心だけは、必ず取り戻す」 歪で、完全な幸福――それとも、破滅。 “石”に翻弄された者たちの、狂おしい物語。

幼馴染しか見えない婚約者と白い結婚したので、夜明け前にさよならしました

ゆぷしろん
恋愛
公爵令嬢レティシアは、家同士の都合で伯爵アルフレッドに嫁ぐ。 けれど夫は結婚後もずっと幼馴染のシルヴィばかりを優先し、婚礼の夜から夫婦として触れ合おうともしなかった。名ばかりの妻として伯爵家を支え、領地経営まで立て直しても、彼にとってレティシアは“都合のいい伯爵夫人”でしかない。 やがて結婚一周年の夜、アルフレッドが自分を手放す気はない一方で、幼馴染を屋敷に迎え入れようとしている会話を聞いてしまったレティシアは、ついに決意する。 ――もう、この結婚には見切りをつけよう。 夜明け前、彼女は離縁の準備を整え、伯爵邸を出奔。 身を寄せた北の港町で薬舗を手伝いながら、自分の力で生きる穏やかな日々を手に入れていく。そこで出会ったのは、身分ではなく一人の女性として彼女を尊重してくれる青年医師ノアだった。 一方、都合よく尽くしてくれる妻を失ったアルフレッドは、ようやく自分が何を失ったのかを思い知ることになる。 幼馴染ばかりを優先する婚約者との白い結婚に終止符を打ち、傷ついた公爵令嬢が新天地で本当の幸せを掴む、離縁から始まる逆転ラブストーリー。

「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~

水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」 夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。 王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。 「左様でございますか」 彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。

「離縁状の印が乾く前に、王太子殿下から花束が届きました」〜五年間「置物」と呼ばれた侯爵夫人、夫が青ざめるのは王家との縁が切れてからでした〜

まさき
恋愛
侯爵夫人として過ごした五年間、夫に名前を呼ばれたことが一度もなかった。 愛人を夜会に連れてきた翌朝、私は離縁状を置いて屋敷を出た。 夫は「すぐ戻る」と思っていたらしい。 でも届いたのは、王太子殿下からの白薔薇だった。 「五年、待ちすぎました。今度こそ私の隣に」 幼馴染の殿下は、いつも私を「アメリア」と呼んでくれた。 ただそれだけで、五年分の何かが、ほどけていった。 夫が全てを失うのはこれからの話。 私が本当の笑顔を取り戻すのも、これからの話。

大人しい令嬢は怒りません。ただ二年間、準備していただけです。――婚約解消の申請が受理されましたので、失礼いたします

柴田はつみ
恋愛
婚約者に、誕生日を忘れられた。 正確には、忘れられたわけではない。 エドワード・ヴァルト公爵はちゃんと覚えていた。 記念のディナーも、予約していた。 薔薇だって、一輪、用意していた。 ただ――幼馴染のクロエ・アンセル伯爵令嬢から使いが来た瞬間、全部置いて行ってしまっただけだ。 「すぐ戻る」 彼が戻ったのは、三時間後だった。 蝋燭は溶け切り、料理は冷え、ワインは乾いていた。 それでもリーゼロッテ・フォン・アルテンベルクは、笑顔で座って待っていた。 「ええ、大丈夫でございます。お気遣いなく」 完璧な微笑みで、完璧にそう言った。

【完結】婚約破棄、その後の話を誰も知らない

あめとおと
恋愛
奇跡によって病を癒す存在――聖女。 王国は長年、その力にすべてを委ねてきた。 だがある日、 誰の目にも明らかな「失敗」が起きる。 奇跡は、止まった。 城は動揺し、事実を隠し、 責任を聖女ひとりに押しつけようとする。 民は疑い、祈りは静かに現実へと向かっていった。 一方、かつて「悪役」として追放された令嬢は、 奇跡が失われる“その日”に備え、 治癒に頼らない世界を着々と整えていた。 聖女は象徴となり、城は主導権を失う。 奇跡に縋った者たちは、 何も奪われず、ただ立場を失った。 選ばれなかった者が、世界を救っただけの話。 ――これは、 聖女でも、英雄でもない 「悪役令嬢」が勝ち残る物語。

文句を言わない婚約者は、俺の愛する幼馴染みを許していなかった【完結保証】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
幼馴染を優先しても、婚約者アウローラは何も言わない。だから、これからも幼馴染みとイチャイチャできる── 侯爵令息トリスタンは、そんな甘い幻想を信じていた。 だが婿入りした瞬間、彼の“軽んじた態度”はすべて清算される。 アウローラは冷徹に、トリスタンの傲慢と欲望を1つずつ暴き、労働と屈辱を与える。 そして最後に残ったのは、誰にも必要とされない現実だけ。 「どうして……俺は、こんなにも愚かだったんだ」 これは愛を勘違いし、身分を過信し、自分の価値を見誤った男の終焉を描くダークドラマ。 ⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています。 4/1「エステルに対する殺意」の内容を一部変更しました。

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。