婚約者の幼馴染に婚約者を奪われた前世を思い出した女の子の話他短編集

文月ゆうり

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ローズベルク王国の騎士物語

彼の気持ちは届くのか(騎士×街娘)

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 店の扉を開けて、外に出た。
 ローズベルク王国は、今日も平和なのだけど。
 王都に店を構える花屋の店員である私は、笑顔の道行く人々を見てため息をついた。
 あー、平和だなあ。店の売上も好調だ。
 なのに、私は心底困り果てている。

「はあ……また来るのかなあ」

 王家の姫君が婚姻式を挙げてから、半年。しばらく騒がしかった王都も、ようやく本来の姿に戻っていた。
 そんななか、私には悩みがあるのだ。
 またため息をつく私。

「そんなにため息ばかりだと、可愛い顔が台無しだよー?」
「ひっ!」

 横から顔をのぞき込まれて、思わず悲鳴が出た。
 飛び退くと、そこにはふわふわの金髪に優しそうな垂れ目を和ませた、騎士服を着た青年が笑っている。

「メルったら、相変わらず可愛い反応するね」
「ギルバート様……!」
「ギルって呼んでってば! メル」

 頬を膨らませても、可愛らしく見えるずるさのある青年騎士を私はめいいっぱい睨んだ。

「ならば、私もメルティナと呼んでください!」
「つれないなあ、メルは」
「メルティナです!」

 愛称を呼ぶ許可は出していない。
 そもそも、馴れ馴れしいのだ! この騎士様は!

「うーん、メルティナも良いけどー。メルの方が可愛いよ。ギルにメル! お似合いじゃん!」
「意味がわかりません……」

 何を言っても前向きな彼に、私は疲れを感じ始めてきた。
 出会った時から、彼はこんな様子で。人の話を聞かないのだ。
 ちらっ見れば、青年騎士は上機嫌に口笛を吹いている。

「……何か良いことありました?」
「わかるの!?」
「えっ」

 いきなり体ごと私を向いた彼は目がきらきらと輝いていた。
 まるで夜空に瞬くお星様みたいだ。

「え、と?」
「だって、メルと話せたんだもの! こんな嬉しいことないよ!」
「あの、毎日話してますよね……?」
「うん! だから、いつも幸せだよー!」

 ああ、本当に、本当に、質が悪い!
 私みたいな平凡な街娘をからかって楽しいのだろうか?
 騎士様などという高貴な立場の方に、平民の私が本気になったらどうするの! ならないけど! ならないからね!

「そろそろ忙しくなる時間ですので」
「あ、そうだったね。今日も頑張ってねー!」

 そう言って足取り軽く騎士様は去って行く。
 本当になんなのだろう。
 
「……本気になんか、しないんだから」

 雑踏のなかに消えた姿から目を逸らし、呟いた。


「まーた、口説いてたの?」

 巡回に戻ったギルバートに、小柄な赤髪の少年騎士が近づく。
 ギルバートは照れたように頬を染める。

「今日も、すっっっごくねー、可愛かったんだよー!」
「いつも言ってんね、それ」

 呆れたように言う同僚に、ギルバートはにへらとだらしなく笑った。

「だって、可愛いんだもん。ちっちゃいのに、頑張り屋でねー。王都には、出稼ぎで来たんだってー」
「ふうん」

 メルは小柄だが、十六歳である。ちっちゃいは言い過ぎだ。それを指摘するつもりは、赤髪の騎士にはないようだ。

「でも、なかなか心開いてくれなくて。出会った時から変わらないんだよ」
「確か、売り物の花を盗まれたのを助けたんだっけ?」
「そうそう。姫様のパレードの時に街角で売っててね。髪に花飾りしてて、似合ってたなあ」
「……助けたのに、なんで嫌われてんの?」

 不思議そうな同僚の言葉に、ギルバートは落ち込んだ。

「それが、わからないんだよねー……」
「ギルって、平民からの叩き上げだから、根性あるしさ。愛想だっていいのにね」
「うん……盗人を捕まえて引き渡した後に駆け寄ったら、不安そうにしてて、でも俺を見たらほっとして笑ってくれて」
「うん」
「その笑顔があまりにも可愛いから、言ったんだよね」

 そこで嫌な予感をしながらも、同僚は先を促すべく頷いた。

「結婚してくださいって!」
「それだよ、バカ!」
「いたっ!」

 同僚からの鋭い拳を頭に受け、ギルバートはしゃがんだ。

「何すんのー?」
「バカだバカだと思っていたけど、本当にバカだった!」

 同僚はさっさと歩き出す。巡回は時間が命だ。
 ギルバートはぐううと呻きながらも、立ち上がり後に続く。

「やっぱり、お付き合いからのが良かったのかなあ」
「……まず、初対面という時点だよ、バカ」
「バカバカ言わないでよ」
「お前、本当に二十歳超えてんの?」
「うん。二十二だよー」
「嫌味も通じないとか……」

 頭が痛いとばかりにため息をついた同僚は、ギルバートの恋路は前途多難だなと思った。


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