婚約者の幼馴染に婚約者を奪われた前世を思い出した女の子の話他短編集

文月ゆうり

文字の大きさ
25 / 26
ローズベルク王国の騎士物語

彼の気持ちは届くのか(騎士×街娘)

しおりを挟む



 店の扉を開けて、外に出た。
 ローズベルク王国は、今日も平和なのだけど。
 王都に店を構える花屋の店員である私は、笑顔の道行く人々を見てため息をついた。
 あー、平和だなあ。店の売上も好調だ。
 なのに、私は心底困り果てている。

「はあ……また来るのかなあ」

 王家の姫君が婚姻式を挙げてから、半年。しばらく騒がしかった王都も、ようやく本来の姿に戻っていた。
 そんななか、私には悩みがあるのだ。
 またため息をつく私。

「そんなにため息ばかりだと、可愛い顔が台無しだよー?」
「ひっ!」

 横から顔をのぞき込まれて、思わず悲鳴が出た。
 飛び退くと、そこにはふわふわの金髪に優しそうな垂れ目を和ませた、騎士服を着た青年が笑っている。

「メルったら、相変わらず可愛い反応するね」
「ギルバート様……!」
「ギルって呼んでってば! メル」

 頬を膨らませても、可愛らしく見えるずるさのある青年騎士を私はめいいっぱい睨んだ。

「ならば、私もメルティナと呼んでください!」
「つれないなあ、メルは」
「メルティナです!」

 愛称を呼ぶ許可は出していない。
 そもそも、馴れ馴れしいのだ! この騎士様は!

「うーん、メルティナも良いけどー。メルの方が可愛いよ。ギルにメル! お似合いじゃん!」
「意味がわかりません……」

 何を言っても前向きな彼に、私は疲れを感じ始めてきた。
 出会った時から、彼はこんな様子で。人の話を聞かないのだ。
 ちらっ見れば、青年騎士は上機嫌に口笛を吹いている。

「……何か良いことありました?」
「わかるの!?」
「えっ」

 いきなり体ごと私を向いた彼は目がきらきらと輝いていた。
 まるで夜空に瞬くお星様みたいだ。

「え、と?」
「だって、メルと話せたんだもの! こんな嬉しいことないよ!」
「あの、毎日話してますよね……?」
「うん! だから、いつも幸せだよー!」

 ああ、本当に、本当に、質が悪い!
 私みたいな平凡な街娘をからかって楽しいのだろうか?
 騎士様などという高貴な立場の方に、平民の私が本気になったらどうするの! ならないけど! ならないからね!

「そろそろ忙しくなる時間ですので」
「あ、そうだったね。今日も頑張ってねー!」

 そう言って足取り軽く騎士様は去って行く。
 本当になんなのだろう。
 
「……本気になんか、しないんだから」

 雑踏のなかに消えた姿から目を逸らし、呟いた。


「まーた、口説いてたの?」

 巡回に戻ったギルバートに、小柄な赤髪の少年騎士が近づく。
 ギルバートは照れたように頬を染める。

「今日も、すっっっごくねー、可愛かったんだよー!」
「いつも言ってんね、それ」

 呆れたように言う同僚に、ギルバートはにへらとだらしなく笑った。

「だって、可愛いんだもん。ちっちゃいのに、頑張り屋でねー。王都には、出稼ぎで来たんだってー」
「ふうん」

 メルは小柄だが、十六歳である。ちっちゃいは言い過ぎだ。それを指摘するつもりは、赤髪の騎士にはないようだ。

「でも、なかなか心開いてくれなくて。出会った時から変わらないんだよ」
「確か、売り物の花を盗まれたのを助けたんだっけ?」
「そうそう。姫様のパレードの時に街角で売っててね。髪に花飾りしてて、似合ってたなあ」
「……助けたのに、なんで嫌われてんの?」

 不思議そうな同僚の言葉に、ギルバートは落ち込んだ。

「それが、わからないんだよねー……」
「ギルって、平民からの叩き上げだから、根性あるしさ。愛想だっていいのにね」
「うん……盗人を捕まえて引き渡した後に駆け寄ったら、不安そうにしてて、でも俺を見たらほっとして笑ってくれて」
「うん」
「その笑顔があまりにも可愛いから、言ったんだよね」

 そこで嫌な予感をしながらも、同僚は先を促すべく頷いた。

「結婚してくださいって!」
「それだよ、バカ!」
「いたっ!」

 同僚からの鋭い拳を頭に受け、ギルバートはしゃがんだ。

「何すんのー?」
「バカだバカだと思っていたけど、本当にバカだった!」

 同僚はさっさと歩き出す。巡回は時間が命だ。
 ギルバートはぐううと呻きながらも、立ち上がり後に続く。

「やっぱり、お付き合いからのが良かったのかなあ」
「……まず、初対面という時点だよ、バカ」
「バカバカ言わないでよ」
「お前、本当に二十歳超えてんの?」
「うん。二十二だよー」
「嫌味も通じないとか……」

 頭が痛いとばかりにため息をついた同僚は、ギルバートの恋路は前途多難だなと思った。


しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径
ファンタジー
婚約破棄から始まる国の崩壊 『知らなかったから許される』なんて思わないでください。 それ自体、罪ですよ。 ⭐︎他社でも公開します

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

処理中です...