25 / 26
ローズベルク王国の騎士物語
彼の気持ちは届くのか(騎士×街娘)
しおりを挟む店の扉を開けて、外に出た。
ローズベルク王国は、今日も平和なのだけど。
王都に店を構える花屋の店員である私は、笑顔の道行く人々を見てため息をついた。
あー、平和だなあ。店の売上も好調だ。
なのに、私は心底困り果てている。
「はあ……また来るのかなあ」
王家の姫君が婚姻式を挙げてから、半年。しばらく騒がしかった王都も、ようやく本来の姿に戻っていた。
そんななか、私には悩みがあるのだ。
またため息をつく私。
「そんなにため息ばかりだと、可愛い顔が台無しだよー?」
「ひっ!」
横から顔をのぞき込まれて、思わず悲鳴が出た。
飛び退くと、そこにはふわふわの金髪に優しそうな垂れ目を和ませた、騎士服を着た青年が笑っている。
「メルったら、相変わらず可愛い反応するね」
「ギルバート様……!」
「ギルって呼んでってば! メル」
頬を膨らませても、可愛らしく見えるずるさのある青年騎士を私はめいいっぱい睨んだ。
「ならば、私もメルティナと呼んでください!」
「つれないなあ、メルは」
「メルティナです!」
愛称を呼ぶ許可は出していない。
そもそも、馴れ馴れしいのだ! この騎士様は!
「うーん、メルティナも良いけどー。メルの方が可愛いよ。ギルにメル! お似合いじゃん!」
「意味がわかりません……」
何を言っても前向きな彼に、私は疲れを感じ始めてきた。
出会った時から、彼はこんな様子で。人の話を聞かないのだ。
ちらっ見れば、青年騎士は上機嫌に口笛を吹いている。
「……何か良いことありました?」
「わかるの!?」
「えっ」
いきなり体ごと私を向いた彼は目がきらきらと輝いていた。
まるで夜空に瞬くお星様みたいだ。
「え、と?」
「だって、メルと話せたんだもの! こんな嬉しいことないよ!」
「あの、毎日話してますよね……?」
「うん! だから、いつも幸せだよー!」
ああ、本当に、本当に、質が悪い!
私みたいな平凡な街娘をからかって楽しいのだろうか?
騎士様などという高貴な立場の方に、平民の私が本気になったらどうするの! ならないけど! ならないからね!
「そろそろ忙しくなる時間ですので」
「あ、そうだったね。今日も頑張ってねー!」
そう言って足取り軽く騎士様は去って行く。
本当になんなのだろう。
「……本気になんか、しないんだから」
雑踏のなかに消えた姿から目を逸らし、呟いた。
「まーた、口説いてたの?」
巡回に戻ったギルバートに、小柄な赤髪の少年騎士が近づく。
ギルバートは照れたように頬を染める。
「今日も、すっっっごくねー、可愛かったんだよー!」
「いつも言ってんね、それ」
呆れたように言う同僚に、ギルバートはにへらとだらしなく笑った。
「だって、可愛いんだもん。ちっちゃいのに、頑張り屋でねー。王都には、出稼ぎで来たんだってー」
「ふうん」
メルは小柄だが、十六歳である。ちっちゃいは言い過ぎだ。それを指摘するつもりは、赤髪の騎士にはないようだ。
「でも、なかなか心開いてくれなくて。出会った時から変わらないんだよ」
「確か、売り物の花を盗まれたのを助けたんだっけ?」
「そうそう。姫様のパレードの時に街角で売っててね。髪に花飾りしてて、似合ってたなあ」
「……助けたのに、なんで嫌われてんの?」
不思議そうな同僚の言葉に、ギルバートは落ち込んだ。
「それが、わからないんだよねー……」
「ギルって、平民からの叩き上げだから、根性あるしさ。愛想だっていいのにね」
「うん……盗人を捕まえて引き渡した後に駆け寄ったら、不安そうにしてて、でも俺を見たらほっとして笑ってくれて」
「うん」
「その笑顔があまりにも可愛いから、言ったんだよね」
そこで嫌な予感をしながらも、同僚は先を促すべく頷いた。
「結婚してくださいって!」
「それだよ、バカ!」
「いたっ!」
同僚からの鋭い拳を頭に受け、ギルバートはしゃがんだ。
「何すんのー?」
「バカだバカだと思っていたけど、本当にバカだった!」
同僚はさっさと歩き出す。巡回は時間が命だ。
ギルバートはぐううと呻きながらも、立ち上がり後に続く。
「やっぱり、お付き合いからのが良かったのかなあ」
「……まず、初対面という時点だよ、バカ」
「バカバカ言わないでよ」
「お前、本当に二十歳超えてんの?」
「うん。二十二だよー」
「嫌味も通じないとか……」
頭が痛いとばかりにため息をついた同僚は、ギルバートの恋路は前途多難だなと思った。
363
あなたにおすすめの小説
よかった、わたくしは貴女みたいに美人じゃなくて
碧井 汐桜香
ファンタジー
美しくないが優秀な第一王子妃に嫌味ばかり言う国王。
美しい王妃と王子たちが守るものの、国の最高権力者だから咎めることはできない。
第二王子が美しい妃を嫁に迎えると、国王は第二王子妃を娘のように甘やかし、第二王子妃は第一王子妃を蔑むのだった。
聖女を怒らせたら・・・
朝山みどり
ファンタジー
ある国が聖樹を浄化して貰うために聖女を召喚した。仕事を終わらせれば帰れるならと聖女は浄化の旅に出た。浄化の旅は辛く、聖樹の浄化も大変だったが聖女は頑張った。聖女のそばでは王子も励ました。やがて二人はお互いに心惹かれるようになったが・・・
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。
今、私は幸せなの。ほっといて
青葉めいこ
ファンタジー
王族特有の色彩を持たない無能な王子をサポートするために婚約した公爵令嬢の私。初対面から王子に悪態を吐かれていたので、いつか必ず婚約を破談にすると決意していた。
卒業式のパーティーで、ある告白(告発?)をし、望み通り婚約は破談となり修道女になった。
そんな私の元に、元婚約者やら弟やらが訪ねてくる。
「今、私は幸せなの。ほっといて」
小説家になろうにも投稿しています。
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる