幸せな脇役

文月ゆうり

文字の大きさ
8 / 14

第八話 寝不足の理由

しおりを挟む
 お嬢様の誕生日が、あと数日まで迫ってきた。
 運命の日が近付いてきたのだ。
 村では村長の孫娘の誕生日とあり、お祝いの準備が進んでいる。
 十六歳は成人の証。皆、気合いを入れている。
 ……騎士様達も、お嬢様が神託を授かるかもしれない大事な日とあり、妙に緊張している。 
 何故十六歳の誕生日に神託を授かると確定しているかというと、十六歳は女神と一番近付く事が出来る日だと信じられているからだ。実際、過去に聖人や聖女と呼ばれた方達は皆、十六歳の誕生日に神託を受けている。歴史が証明しているのだ。
 家事に勤しんでいたり、時には凶暴化した動物を退治したりしていても、彼等は特務騎士。世界の異変の理由を知る為に、精霊の森にお嬢様と共に行かねばならない。
 彼等との別れも、近い。
 寂しさが沸き上がるのを、何とか堪え私はベッドから起き出す。
 朝日は登った。今日も一日が始まるのだ。
 気合いを入れないと!

「おはようございます、お嬢様」
「おはよう」
 部屋から出ると、お嬢様が廊下を歩いているところだった。
 お嬢様は、あくびを噛み殺している。何だか眠たそうだ。お嬢様にしては、珍しい。
「お嬢様、夜眠れてないのですか?」
 聞いてみると、お嬢様はあからさまにギクリと身を震わせる。実に分かりやすい。
「ね、眠れてるわよ?」
「嘘ですね。私には分かっちゃいますよ」
「う……」
 お嬢様は言葉に詰まる。やはり眠れてないようだ。
「三日後の誕生日、緊張、しちゃってたり?」
 嘘だ。お嬢様は、誕生日だからといって緊張したりする人じゃない。そんな柔な神経を持っていたら、最初のジャスティ様の態度で立ち直れなくなってる筈だ。
 それに、お嬢様は神託の事を知らない。緊張する理由がない。
「お嬢様?」
「うっ、うー……、顔洗ってくる!」
 あっ、逃げた!
 お嬢様は、井戸のある庭へと全力疾走していった。なんて素早い。

「ダンス?」
 朝食の席で、ジャスティ様が不思議そうに言う。
 話を振った旦那様は、穏やかに頷かれる。
「ええ。村人達が、孫娘の誕生日の祝いに、ダンスを催そうと言ってまして。夜に、組み立てた櫓に火を付け、周りを踊り歩くのです。田舎の風習みたいなものですが」
「へー、楽しそう!」
 クウリィ様が目を輝かせる。
「ええ。本当は祭りの日にやるのだけど。とても、賑やかよ」
 皆の心遣いが嬉しいのだろう。お嬢様の声は弾んでいる。私も嬉しくなる。
「いいですね、そういった風習は大切にするべきですよ」
 ジーン様が、微笑む。
「面倒、です」
 クリフ様は素直な本音を出しちゃっている。
「騒がしいのは、あまりな……」
 社交界で令嬢達に揉みくちゃにされた事のあるジャスティ様は、浮かない顔だ。トラウマなのだろう。
 ダンスに積極的じゃないお二人に、お嬢様は寂しそうな顔を見せる。
 その顔を見て、私は勇気を奮い立たせる。
「だ、ダンスは、ただのダンスじゃ、ないんです」
 途端に私に視線が集まり、息が詰まるほどの緊張感が全身を巡る。でも、私負けない!
「最後の締めのダンスは、男女の踊りで……っ! そのダンスを共に踊った二人は、永遠に結ばれっ、るんです!」
 言い切った! 真っ赤になって、吃りながらも。言い切った! でかした私!
 空気が変わる。
「ほう、そんな言い伝えが……」
 ジャスティ様の視線は、お嬢様へと向いている。
「永遠に……」
 クリフ様は俯き呟いた。興味を持ってくださったようだ。良かった!
「へー、いいじゃん!」
「素敵な伝説ですね」
 クウリィ様とジーン様も興味を惹かれたようだ。
 お嬢様、狙われてます。
「え、ええ。そんな話もあった、かな」
 突然空気が変わったことに、お嬢様は驚き気味だ。だけど、これで騎士様は全員参加の筈だ。私、よくやった!
 ……運命の日。お嬢様には、思い出に残る誕生日であってほしいから。

 それからの一週間は、私も村の人達とお嬢様のお誕生日パーティーの準備に追われるようになった。お屋敷のお仕事は、クリフ様がやってくださっている。有難いことです。
 主役であるお嬢様ですが、睡眠不足な日々が続いているようです。時折、大きなあくびをなさっていますし。夜も遅くまで起きているみたい。大丈夫でしょうか。
 そういった心配事もありつつ、準備は進んでいきます。
 とうとう前日となった夜。
 私はお嬢様の部屋に呼ばれました。なんだろう。

「じゃーん!」
 と言って見せてくださったのは、白を基調としたワンピースでした。
 凄い。袖とスカートの裾のレースは、細かい細工が施されている。なんて、綺麗なワンピースだろう。
「これは……?」
「私が作ったの。毎日こつこつと!」
「お嬢様が!?」
 凄い! さすがお嬢様! 器用です!
 お嬢様な、笑顔でワンピースを差し出してきた。なんでしょう?
 お嬢様は、暖かな笑みを浮かべています。
「これ、貴女の為に作ったのよ」
「え……」
 私の、ため……?
 お嬢様は、ワンピースを私に充てる。
「うん、ぴったり。毎日頑張った甲斐があったわね」
 お嬢様は、私の為に……?
 じゃあ、最近の寝不足は……。
 お嬢様は、私を見る。その瞳は、慈愛に満ちている。幼い頃から、注がれてきた愛情の瞳。
「受け取ってくれる?」
 私は震える手で、ワンピースに触れる。滑らかな手触りだ。
「はい、はい……っ、お嬢様……っ」
 私はそっとワンピースを抱き締める。
 自然と目からは、涙が溢れてくる。お嬢様の心が余りにも嬉しくて。
「や、やだなぁ。泣かないでよ! そ、そんなにたいしたものじゃないんだから! ね!」
 慌てるお嬢様に、私は否定するように頭を振る。
「いいえ、いいえ。お嬢様、最高の贈り物です……っ」
「ま、参ったなぁ」
 私は、何とか笑みを作る。
「明日、これを着たいと思います」
「ええ! 是非そうして! きっと似合うわ!」
 両手を叩いて喜んでくださるお嬢様。
 ……私は、本当に幸福者です。
 女神様。お嬢様を見守ってくださる女神様。私をお嬢様に巡り合わせてくださり、本当にありがとうございます。
 私はもう、これで充分です。
 ……もうすぐ、世界は闇に侵され始めるでしょう。でも、お嬢様という希望の光が存在します。どうか、お嬢様をお守りくださいますよう。
「明日、楽しみね!」
「はい、お嬢様」
 明日、運命は動く。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

【完結・7話】召喚命令があったので、ちょっと出て失踪しました。妹に命令される人生は終わり。

BBやっこ
恋愛
タブロッセ伯爵家でユイスティーナは、奥様とお嬢様の言いなり。その通り。姉でありながら母は使用人の仕事をしていたために、「言うことを聞くように」と幼い私に約束させました。 しかしそれは、伯爵家が傾く前のこと。格式も高く矜持もあった家が、機能しなくなっていく様をみていた古参組の使用人は嘆いています。そんな使用人達に教育された私は、別の屋敷で過ごし働いていましたが15歳になりました。そろそろ伯爵家を出ますね。 その矢先に、残念な妹が伯爵様の指示で訪れました。どうしたのでしょうねえ。

「その他大勢」の一人で構いませんので

和島逆
恋愛
社交界で『壁の花』ならぬ『壁のマンドラゴラ』という異名を持つマグダレーナ。 今日も彼女は夜会の壁に張りつき、趣味の人間観察に精を出す。 最近のお気に入りは、伯爵家の貴公子であるエリアス。容姿・家柄ともに申し分なく、年頃の令嬢たちから熱い視線を送られている。 そんなエリアスが選んだのは、なんと『壁のマンドラゴラ』であるマグダレーナで──? 「いや、わたしはあくまでも『その他大勢』の一人で構わないので」 マグダレーナは速攻で断りを入れるのであった。

僕のお姫様~愛情のない両親と婚約者に愛想を尽かして婚約破棄したら平民落ち、そしたら目隠しをした本当の末姫に愛された~

うめまつ
恋愛
もう我が儘な婚約者にうんざりだ。大人しかった僕はとうとうブチキレてしまった。人前で、陛下の御前で、王家の姫君に対して大それたことを宣言する。 ※お気に入り、栞ありがとうございました。 ※婚約破棄の男視点→男に非がないパターン

死を回避するために筋トレをすることにした侯爵令嬢は、学園のパーフェクトな王子さまとして男爵令嬢な美男子を慈しむ。

石河 翠
恋愛
かつて男爵令嬢ダナに学園で階段から突き落とされ、死亡した侯爵令嬢アントニア。死に戻ったアントニアは男爵令嬢と自分が助かる道を考え、筋トレを始めることにした。 騎士である父に弟子入りし、鍛練にいそしんだ結果、アントニアは見目麗しい男装の麗人に。かつての婚約者である王太子を圧倒する学園の王子さまになったのだ。 前回の人生で死亡した因縁の階段で、アントニアは再びダナに出会う。転落しかけたダナを助けたアントニアは、ダナの秘密に気がつき……。 乙女ゲームのヒロインをやらされているダナを助けるために筋トレに打ち込んだ男装令嬢と、男前な彼女に惚れてしまった男爵令嬢な令息の恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。表紙は、写真ACよりチョコラテさまの作品(作品写真ID:23786147)をお借りしております。

おにょれ王子め!

こもろう
恋愛
レティジアは公爵令嬢で、王子フリードの婚約者。しかし現在、フリードとの関係はこじれまくっている。 見た目は気が強そうだが実は泣き虫なレティジアは人知れず毎日涙を流し、フリードはなんだかイライラしている。 そんな二人の前に現れるのは……!

貧乏子爵令嬢は両片思いをこじらせる

風見ゆうみ
恋愛
「結婚して」 「嫌です」 子爵家の娘である私、アクア・コートレットと若き公爵ウィリアム・シルキーは、毎日のように、こんなやり取りを繰り返している。 しかも、結婚を迫っているのは私の方。 私とウィルは幼馴染みで婚約者。私はウィルと結婚したいのだけど、どうやらウィルには好きな人がいるみたい。それを知った伯爵令息が没落しかけた子爵家の娘だからと私の恋を邪魔してくるのだけど――。 ※過去にあげたお話のリメイク版です。設定はゆるいです。

たいした苦悩じゃないのよね?

ぽんぽこ狸
恋愛
 シェリルは、朝の日課である魔力の奉納をおこなった。    潤沢に満ちていた魔力はあっという間に吸い出され、すっからかんになって体が酷く重たくなり、足元はふらつき気分も悪い。  それでもこれはとても重要な役目であり、体にどれだけ負担がかかろうとも唯一無二の人々を守ることができる仕事だった。  けれども婚約者であるアルバートは、体が自由に動かない苦痛もシェリルの気持ちも理解せずに、幼いころからやっているという事実を盾にして「たいしたことない癖に、大袈裟だ」と罵る。  彼の友人は、シェリルの仕事に理解を示してアルバートを窘めようとするが怒鳴り散らして聞く耳を持たない。その様子を見てやっとシェリルは彼の真意に気がついたのだった。

妹のために愛の無い結婚をすることになりました

バンブー竹田
恋愛
「エミリー、君との婚約は破棄することに決まった」 愛するラルフからの唐突な通告に私は言葉を失ってしまった。 婚約が破棄されたことはもちろんショックだけど、それだけじゃない。 私とラルフの結婚は妹のシエルの命がかかったものでもあったから・・・。 落ちこむ私のもとに『アレン』という大金持ちの平民からの縁談が舞い込んできた。 思い悩んだ末、私は会ったこともない殿方と結婚することに決めた。

処理中です...