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その感情がなにを意味するのか気づかぬまま、己の性別に疑問を抱くこともなくスノウは女の子であり続けた。一向に丸みを帯びない身体を意味なくコルセットで締め付け、胸に綿を詰めて、理想のお姫様になりきることに、ただ夢中になっていたのである。
一方、グリンバルドは日に日に洗練されていった。
父の教えを忠実に守り、知識や儀礼を瞬く間に吸収し、屋敷の中での存在感を増していく。艶やかなシルバーブロンドを撫でつけかっちりとした家令服を身に着ける少年は、凛々しく美しく、そして、そこはかとない色気を放っていた。
まるで甘い蜜に引き寄せられる蝶々のように、スノウはグリンバルドに纏わりついた。グリンバルドは嫌な顔一つせず、スノウの我儘を聞き入れる。
グリンバルドは庭に生えた林檎の枝から、赤く色づいた、いっとう大きな実を摘み、清潔なハンカチでピカピカに磨いてくれる。差し出された果実はまるで宝石のように美しかった。スノウはそれをはにかみながら受け取り、頬擦りをして唇を寄せる。
いつまでも齧ろうとしないスノウに困ったような笑みを浮かべるグリンバルド。「殿方の前で大きな口を開けるのはマナーが悪い」と膨れて見せれば、「それではあとで擦りおろしてさしあげましょう」と優しく微笑んだ。
グリンバルドは、スノウの生きる世界の中で最も魅力的な人間だった。
まさに、麗しくも高潔な理想の王子様だったのである。
そう、あの夜、あの光景を目にするまでは。
一方、グリンバルドは日に日に洗練されていった。
父の教えを忠実に守り、知識や儀礼を瞬く間に吸収し、屋敷の中での存在感を増していく。艶やかなシルバーブロンドを撫でつけかっちりとした家令服を身に着ける少年は、凛々しく美しく、そして、そこはかとない色気を放っていた。
まるで甘い蜜に引き寄せられる蝶々のように、スノウはグリンバルドに纏わりついた。グリンバルドは嫌な顔一つせず、スノウの我儘を聞き入れる。
グリンバルドは庭に生えた林檎の枝から、赤く色づいた、いっとう大きな実を摘み、清潔なハンカチでピカピカに磨いてくれる。差し出された果実はまるで宝石のように美しかった。スノウはそれをはにかみながら受け取り、頬擦りをして唇を寄せる。
いつまでも齧ろうとしないスノウに困ったような笑みを浮かべるグリンバルド。「殿方の前で大きな口を開けるのはマナーが悪い」と膨れて見せれば、「それではあとで擦りおろしてさしあげましょう」と優しく微笑んだ。
グリンバルドは、スノウの生きる世界の中で最も魅力的な人間だった。
まさに、麗しくも高潔な理想の王子様だったのである。
そう、あの夜、あの光景を目にするまでは。
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