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気付けば、部屋の中は橙色に満ちていた。いつの間にか頬を伝っていた涙を、スノウは胸から取り出したハンカチで拭う。鼻をくすんと鳴らし、唇を噛んだ。
理想の王子様などどこにもいない。父の堅実で穏やかな顔も見せかけだった。
この世に蔓延るのは欲だけだ。皆、それをお綺麗に磨き上げた皮で包んで隠しているのだ。
赤い果実の内側は、どろどろに腐り悪臭を放つ汚物。口にするのもおぞましい毒だ。
その後、どうやって自室に戻ったのか覚えていない。気づけば鏡台の前に座っていた。
引き出しから鋏を取り出したスノウは、黒髪をひと房掴む。そして、鏡の中の自分に見せつけるように切り落とした。
鋏から伝わる感触と落下する髪がたてる音、重さをなくした頭。初めて経験する凶暴な衝動と開放感がスノウを虜にした。
まるで何かに憑かれたようにスノウはざくざくと髪を刈る。髪だけでは飽き足らず、クローゼットを開け、ドレスもリボンもすべてずたずたに切り刻んだ。
翌朝、スノウと部屋の惨状を見た母は泣き崩れた。
スノウはこの世の真実を知り、己もまた身の内に毒を宿した。
毒に侵された瞳は他の人間が抱える毒をも見抜く。
そうして、スノウの取り巻く世界は色を変えた。あっけなく。
理想の王子様などどこにもいない。父の堅実で穏やかな顔も見せかけだった。
この世に蔓延るのは欲だけだ。皆、それをお綺麗に磨き上げた皮で包んで隠しているのだ。
赤い果実の内側は、どろどろに腐り悪臭を放つ汚物。口にするのもおぞましい毒だ。
その後、どうやって自室に戻ったのか覚えていない。気づけば鏡台の前に座っていた。
引き出しから鋏を取り出したスノウは、黒髪をひと房掴む。そして、鏡の中の自分に見せつけるように切り落とした。
鋏から伝わる感触と落下する髪がたてる音、重さをなくした頭。初めて経験する凶暴な衝動と開放感がスノウを虜にした。
まるで何かに憑かれたようにスノウはざくざくと髪を刈る。髪だけでは飽き足らず、クローゼットを開け、ドレスもリボンもすべてずたずたに切り刻んだ。
翌朝、スノウと部屋の惨状を見た母は泣き崩れた。
スノウはこの世の真実を知り、己もまた身の内に毒を宿した。
毒に侵された瞳は他の人間が抱える毒をも見抜く。
そうして、スノウの取り巻く世界は色を変えた。あっけなく。
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