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本編 絶倫男爵に取り憑かれた王子と見鬼の私
100回までの道のり
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恐ろしく気持ち良かった。
どうしよう……
ハンナはベッドの中で愕然としていた。
義務的に取り組もうと思っていたお役目なのに、これでは不味いんじゃないか。
「広瀬さん、平気?」
背後から此原が訊ねる。
その腕はハンナのお腹に回されており、優しく撫でている。
そして、足は絡められていた。
行為後も甘くて優しい。
「広瀬さん?激しくし過ぎたかな」
「ひょっ、いえっ、全然」
慌てて答えてから、羞恥に身体をすくめた。
「お腹空かない?何か作ろうか、料理は得意なんだ」
ご飯も作れる……。
此原さん、スパダリ。
……困る。
ハンナはため息をついた。
もっと好きになっちゃうじゃん。
どっぷり浸かって期待して諦めきれなくなっちゃうじゃん!
「いや、あの、私はこれでお暇します」
「えっ?!まだ一回しかしてないのに?!」
驚愕したような此原の声に、ハンナは焦る。
そうだった。
協力すると決めたからには、可能な限り回数を稼がなければ。
だが、回数を重ねれば確実に囚われる。
けれど、百回やらないと終わらない。
厄介な案件に首を突っ込んだことに改めて気付き、ハンナは途方に暮れた。
「続けてやるのは身体に負担がかかるし、取り敢えず一度休もうよ、ね」
「はい」
のめり込まないように予防線を張って、可能ならそれとなく他の相手を勧めてみるとか。
とにかく、心を強く持たなければと、ハンナは気合いを入れた。
「あのあとどうだったの~? 王子と」
週明けユカに訊かれ、ハンナはすかさずポーカーフェイスを装う。
「別に何にもないよ。家まで送ってもらっただけ」
「えー面白くないの!あの博愛主義者が珍しく特定の人物にだけ優しくしてたから、てっきり気があるのかと思ったのに」
「私だけが泥酔してたからでしょ。それより、ユウト君のお引っ越し上手く行きそう?」
「うん、さっそく週末に荷物まとめさせたわ」
ハンナは、なんとか話題を逸らせてホッとした。
此原とのことはバレる訳にはいかない。
妖怪から逃げるために百回性交に協力している、などと知れたら、ユカは間違いなく呆れて憤るだろう。
「ねえ、王子となんにもなかったんならさ、今回のお礼に良さげな男を呼んで飲み会を設定しようと思うんだけど、どう?」
ハンナは直ぐに返事をすることが出来なかった。
決して此原を裏切る訳じゃない。
此原とハンナは恋人ではないのだから。
けれど、なんだか乗り気になれない。
「といっても、多分来月以降になると思うんだけどね」
「……じゃあ、決まったら教えてよ」
「りょうかーい」
……結局、受けた感じになってしまった。
けど、別に良いよね。
他の異性との付き合いについての制限をお互いに設けている訳じゃない。目的を果たせば解消される臨時の繋がりで、いずれは他人同士に戻る。
ハンナには、その時感じるだろう虚無感が、既に想像できる。
ならば、保険を掛けさせて貰っても良いだろう。
ハンナは小さく息を吐くと、パソコンの画面に集中した。
ハンナは総務で鍵を受け取り、旧社屋の隅にある資料室へ向かっていた。
人が常駐しない旧社屋は、節約の為に消灯されている。昼間でも薄暗くしんと静まり返り、ゾーンに入ったら間違いなく何か見てしまいそうな雰囲気だ。
怯えながらも資料室にたどり着き、鍵を差し込む。
扉を開けて電灯のスイッチを探して押せば、真っ暗な室内に明るい光が注がれ、ひとまずホッとした。
滅多に人が来ない部屋だ、ついでに換気もしておこうと換気扇のスイッチも押す。
怖いので扉は開けたままにし、目当ての棚へと足を踏み出した。
「広瀬さん」
「ひいっ!は、はいっ」
急に名前を呼ばれ、ハンナは飛び上がる。
「ごめんね、驚かせちゃったな」
恐る恐る振り向いた先には、申し訳なさそうな笑みを浮かべる此原がいた。
「渡り廊下を歩く広瀬さんを見掛けてね、追ってきちゃった」
「そ、そうですか」
「身体は辛くない?久しぶりだったのに、二日続けて無理させたよね」
ハンナは頬を染めて俯く。
「いえっ、平気です。丈夫なのが取り柄なので!」
実は、土日はあのままずっと此原のマンションで過ごしたのだ。
既に合わせて六回致した。
「ふうん、そっか」
此原は扉を閉めて内鍵を掛ける。
ハンナは此原の不可解な行動に首をかしげた。
「じゃあ、お願いしても良いかな」
此原がハンナにゆっくり近付いてくる。
その目に浮かぶものに気付き、ハンナは驚愕し、後退った。
「此原さん、まさか……」
「ごめんね、本当はトイレで抜こうかと思ったんだけど、広瀬さんの姿を見ちゃったらもう……我慢できなくて」
壁際に追い詰められたハンナを、此原が壁に両手をついて囲いこむ。
ハンナは唖然として此原を見上げた。
「今ここでやれば七回だね。協力してくれる?」
ハンナはごくりと唾を呑みこむ。
「で、でも、だ、誰か来ちゃう……」
「誰も来ないよ。鍵も閉めたし」
キッパリと言い切った此原は、その綺麗な顔をハンナに近付けた。
「此原さ……」
上げた声を塞ぐように、此原がハンナの唇を食む。
「広瀬さん、ほら、舌を出して」
何故か抗えないハンナはおずおずと舌を出し、此原はそれに吸い付いた。
ぺちゃぺちゃと唾液が鳴る。
昨晩まで不埒な行為に耽っていた二人の身体は、快楽を瞬く間に思いだし、まるで呼応するように急速に昂っていく。
快楽に朦朧としてきたところで腰を掴まれ、くるりと回転させられる。ハンナは、慌てて壁に手をついた。
背後の此原が、ハンナの腰を引き寄せて股間を擦り付ける。それが固く張りつめていることを知り、ハンナは震えた。
「もう、こんなになってるんだ。困っちゃうよね」
そう話しながら両手を伸ばし、ハンナのシャツのボタンを手早く外していく。
器用な長い指が、ハンナのシャツを開き、キャミソールを捲り上げ、ブラを下げた。
晒された胸に外気を感じ、ハンナは身動ぎする。
此原は背後からそれを揉みしだいた。
「こんなとこで勤務中に……駄目だよね、だけど、なんだか興奮しない?」
熱く問いかけながら、此原の指がきゅと先端を摘まむ。
「ん、ん、んんっ」
「声を我慢してるの?」
クリクリと捏ねられて、ハンナは込み上げる快感に耐えた。
腰から太股にかけて既にじくじく疼いている。
「大丈夫、換気扇の音にかき消されて聞こえないよ。ほら、可愛い声を聞かせて」
片手は胸を弄んだまま、後ろから回りこんだ此原の手がスカートを捲り上げてショーツの中に入った。
「ああっ!」
激し過ぎる快感が全身に走り、ハンナは身体を反らして足を震わせる。
ショーツの中からぐちゃぐちゃと鳴るのは自ら濡らした蜜の音だ。
「ふ、凄い、広瀬さん」
「は、はあ、や、やぁ」
「もう良いかな」
背中からごそごそする気配がした後、再び腰を掴まれたかと思うと、ぐぐっと後ろから押し付けられた。
「あ、はあっ、嘘」
「広瀬さん、バックは初めてなの?」
ハンナは壁に肘を付いたまま、コクコクと頷く。
「そうなんだね。最初はちょっと強めに感じるかもしれないけど……」
「や、やあっ、そこ……っ」
擦られたことのない場所にグリグリ押し付けられて、ハンナは堪らず足を震わせた。壁に縋い、強すぎる快感に喘いだ。
「ああ、良い、凄く良いよ広瀬さん」
此原はハンナの腰を固定して、ぐっと腰を突き上げる。ハンナは爪先立ちになりながら、快感に耐えた。
「ふっ、凄く締まってる」
「う、あ、そんな奥まで……」
「そんな奥まで入っちゃってるの?」
此原は焦らすようにゆっくりと腰を動かし、棹を出し入れする。その度に気持ち良いところを刺激され、ハンナは悶えた。
「あ、あ、もう、だめぇっ!」
「はっ、ハンナ、僕も我慢できない」
此原が激しく腰を打ち付ける。
肌がぶつかる音を聞きながら、ハンナは絶頂を迎えて崩れ落ちた。
何食わぬ顔を装って席に戻ったハンナは、抱えていた資料を机に置く。
ペンを片手に資料を捲るが、内容は全く頭に入ってこなかった。
資料室での行為後、此原はハンナを抱きしめ労ったあと、ハンナの衣服を整えた。
「ごめんね広瀬さん、付き合わせて。お願いだから軽蔑しないで」
「だ、大丈夫です。このペースでいけば、思いの外早く達成できそうですね」
「優しいね、広瀬さん」
此原はハンナをじっと見つめる。
ハンナはどぎまぎして俯いた。
「約束しましたから。最後まで付き合います」
「広瀬さんに頼んで良かった」
此原の手がハンナの肩にかかる。
「あ、あの、私、資料を探さないといけないので、此原さんは早く仕事に戻ってください」
そっと身体を離したハンナに、此原は顔を寄せて囁いた。
「今夜も会える?」
ハンナの鼓動が跳ねる。
勘違いするな、此原がハンナを誘うのは、絶倫男爵から逃れるため。
決して好意があるからではない。
がっついて見えるのは、絶倫男爵の妖気のせい。
ハンナに特別欲情している訳じゃない。
本当はハンナじゃなくても誰でも良いのだ。
自分に言い聞かせたその真実に、胸がチクリと痛んだ。
「わかりました。帰りに寄ります」
「待ってるよ、夕飯をご馳走する」
ニッコリ笑う王子を直視できず、ハンナは頭を下げて連立する棚の林に逃げ込んだ。
ハンナは電卓を叩く。
週末に六回として平日に三回、生理の期間を除いて……月に三十回として、三ヶ月と半月……というところか。
こんな頻繁に会って快楽を貪り致して、しかも手作りの料理までご馳走になっていたら、恋人と錯覚してしまいそう。
ハンナは長いため息をついた。
どうしよう……
ハンナはベッドの中で愕然としていた。
義務的に取り組もうと思っていたお役目なのに、これでは不味いんじゃないか。
「広瀬さん、平気?」
背後から此原が訊ねる。
その腕はハンナのお腹に回されており、優しく撫でている。
そして、足は絡められていた。
行為後も甘くて優しい。
「広瀬さん?激しくし過ぎたかな」
「ひょっ、いえっ、全然」
慌てて答えてから、羞恥に身体をすくめた。
「お腹空かない?何か作ろうか、料理は得意なんだ」
ご飯も作れる……。
此原さん、スパダリ。
……困る。
ハンナはため息をついた。
もっと好きになっちゃうじゃん。
どっぷり浸かって期待して諦めきれなくなっちゃうじゃん!
「いや、あの、私はこれでお暇します」
「えっ?!まだ一回しかしてないのに?!」
驚愕したような此原の声に、ハンナは焦る。
そうだった。
協力すると決めたからには、可能な限り回数を稼がなければ。
だが、回数を重ねれば確実に囚われる。
けれど、百回やらないと終わらない。
厄介な案件に首を突っ込んだことに改めて気付き、ハンナは途方に暮れた。
「続けてやるのは身体に負担がかかるし、取り敢えず一度休もうよ、ね」
「はい」
のめり込まないように予防線を張って、可能ならそれとなく他の相手を勧めてみるとか。
とにかく、心を強く持たなければと、ハンナは気合いを入れた。
「あのあとどうだったの~? 王子と」
週明けユカに訊かれ、ハンナはすかさずポーカーフェイスを装う。
「別に何にもないよ。家まで送ってもらっただけ」
「えー面白くないの!あの博愛主義者が珍しく特定の人物にだけ優しくしてたから、てっきり気があるのかと思ったのに」
「私だけが泥酔してたからでしょ。それより、ユウト君のお引っ越し上手く行きそう?」
「うん、さっそく週末に荷物まとめさせたわ」
ハンナは、なんとか話題を逸らせてホッとした。
此原とのことはバレる訳にはいかない。
妖怪から逃げるために百回性交に協力している、などと知れたら、ユカは間違いなく呆れて憤るだろう。
「ねえ、王子となんにもなかったんならさ、今回のお礼に良さげな男を呼んで飲み会を設定しようと思うんだけど、どう?」
ハンナは直ぐに返事をすることが出来なかった。
決して此原を裏切る訳じゃない。
此原とハンナは恋人ではないのだから。
けれど、なんだか乗り気になれない。
「といっても、多分来月以降になると思うんだけどね」
「……じゃあ、決まったら教えてよ」
「りょうかーい」
……結局、受けた感じになってしまった。
けど、別に良いよね。
他の異性との付き合いについての制限をお互いに設けている訳じゃない。目的を果たせば解消される臨時の繋がりで、いずれは他人同士に戻る。
ハンナには、その時感じるだろう虚無感が、既に想像できる。
ならば、保険を掛けさせて貰っても良いだろう。
ハンナは小さく息を吐くと、パソコンの画面に集中した。
ハンナは総務で鍵を受け取り、旧社屋の隅にある資料室へ向かっていた。
人が常駐しない旧社屋は、節約の為に消灯されている。昼間でも薄暗くしんと静まり返り、ゾーンに入ったら間違いなく何か見てしまいそうな雰囲気だ。
怯えながらも資料室にたどり着き、鍵を差し込む。
扉を開けて電灯のスイッチを探して押せば、真っ暗な室内に明るい光が注がれ、ひとまずホッとした。
滅多に人が来ない部屋だ、ついでに換気もしておこうと換気扇のスイッチも押す。
怖いので扉は開けたままにし、目当ての棚へと足を踏み出した。
「広瀬さん」
「ひいっ!は、はいっ」
急に名前を呼ばれ、ハンナは飛び上がる。
「ごめんね、驚かせちゃったな」
恐る恐る振り向いた先には、申し訳なさそうな笑みを浮かべる此原がいた。
「渡り廊下を歩く広瀬さんを見掛けてね、追ってきちゃった」
「そ、そうですか」
「身体は辛くない?久しぶりだったのに、二日続けて無理させたよね」
ハンナは頬を染めて俯く。
「いえっ、平気です。丈夫なのが取り柄なので!」
実は、土日はあのままずっと此原のマンションで過ごしたのだ。
既に合わせて六回致した。
「ふうん、そっか」
此原は扉を閉めて内鍵を掛ける。
ハンナは此原の不可解な行動に首をかしげた。
「じゃあ、お願いしても良いかな」
此原がハンナにゆっくり近付いてくる。
その目に浮かぶものに気付き、ハンナは驚愕し、後退った。
「此原さん、まさか……」
「ごめんね、本当はトイレで抜こうかと思ったんだけど、広瀬さんの姿を見ちゃったらもう……我慢できなくて」
壁際に追い詰められたハンナを、此原が壁に両手をついて囲いこむ。
ハンナは唖然として此原を見上げた。
「今ここでやれば七回だね。協力してくれる?」
ハンナはごくりと唾を呑みこむ。
「で、でも、だ、誰か来ちゃう……」
「誰も来ないよ。鍵も閉めたし」
キッパリと言い切った此原は、その綺麗な顔をハンナに近付けた。
「此原さ……」
上げた声を塞ぐように、此原がハンナの唇を食む。
「広瀬さん、ほら、舌を出して」
何故か抗えないハンナはおずおずと舌を出し、此原はそれに吸い付いた。
ぺちゃぺちゃと唾液が鳴る。
昨晩まで不埒な行為に耽っていた二人の身体は、快楽を瞬く間に思いだし、まるで呼応するように急速に昂っていく。
快楽に朦朧としてきたところで腰を掴まれ、くるりと回転させられる。ハンナは、慌てて壁に手をついた。
背後の此原が、ハンナの腰を引き寄せて股間を擦り付ける。それが固く張りつめていることを知り、ハンナは震えた。
「もう、こんなになってるんだ。困っちゃうよね」
そう話しながら両手を伸ばし、ハンナのシャツのボタンを手早く外していく。
器用な長い指が、ハンナのシャツを開き、キャミソールを捲り上げ、ブラを下げた。
晒された胸に外気を感じ、ハンナは身動ぎする。
此原は背後からそれを揉みしだいた。
「こんなとこで勤務中に……駄目だよね、だけど、なんだか興奮しない?」
熱く問いかけながら、此原の指がきゅと先端を摘まむ。
「ん、ん、んんっ」
「声を我慢してるの?」
クリクリと捏ねられて、ハンナは込み上げる快感に耐えた。
腰から太股にかけて既にじくじく疼いている。
「大丈夫、換気扇の音にかき消されて聞こえないよ。ほら、可愛い声を聞かせて」
片手は胸を弄んだまま、後ろから回りこんだ此原の手がスカートを捲り上げてショーツの中に入った。
「ああっ!」
激し過ぎる快感が全身に走り、ハンナは身体を反らして足を震わせる。
ショーツの中からぐちゃぐちゃと鳴るのは自ら濡らした蜜の音だ。
「ふ、凄い、広瀬さん」
「は、はあ、や、やぁ」
「もう良いかな」
背中からごそごそする気配がした後、再び腰を掴まれたかと思うと、ぐぐっと後ろから押し付けられた。
「あ、はあっ、嘘」
「広瀬さん、バックは初めてなの?」
ハンナは壁に肘を付いたまま、コクコクと頷く。
「そうなんだね。最初はちょっと強めに感じるかもしれないけど……」
「や、やあっ、そこ……っ」
擦られたことのない場所にグリグリ押し付けられて、ハンナは堪らず足を震わせた。壁に縋い、強すぎる快感に喘いだ。
「ああ、良い、凄く良いよ広瀬さん」
此原はハンナの腰を固定して、ぐっと腰を突き上げる。ハンナは爪先立ちになりながら、快感に耐えた。
「ふっ、凄く締まってる」
「う、あ、そんな奥まで……」
「そんな奥まで入っちゃってるの?」
此原は焦らすようにゆっくりと腰を動かし、棹を出し入れする。その度に気持ち良いところを刺激され、ハンナは悶えた。
「あ、あ、もう、だめぇっ!」
「はっ、ハンナ、僕も我慢できない」
此原が激しく腰を打ち付ける。
肌がぶつかる音を聞きながら、ハンナは絶頂を迎えて崩れ落ちた。
何食わぬ顔を装って席に戻ったハンナは、抱えていた資料を机に置く。
ペンを片手に資料を捲るが、内容は全く頭に入ってこなかった。
資料室での行為後、此原はハンナを抱きしめ労ったあと、ハンナの衣服を整えた。
「ごめんね広瀬さん、付き合わせて。お願いだから軽蔑しないで」
「だ、大丈夫です。このペースでいけば、思いの外早く達成できそうですね」
「優しいね、広瀬さん」
此原はハンナをじっと見つめる。
ハンナはどぎまぎして俯いた。
「約束しましたから。最後まで付き合います」
「広瀬さんに頼んで良かった」
此原の手がハンナの肩にかかる。
「あ、あの、私、資料を探さないといけないので、此原さんは早く仕事に戻ってください」
そっと身体を離したハンナに、此原は顔を寄せて囁いた。
「今夜も会える?」
ハンナの鼓動が跳ねる。
勘違いするな、此原がハンナを誘うのは、絶倫男爵から逃れるため。
決して好意があるからではない。
がっついて見えるのは、絶倫男爵の妖気のせい。
ハンナに特別欲情している訳じゃない。
本当はハンナじゃなくても誰でも良いのだ。
自分に言い聞かせたその真実に、胸がチクリと痛んだ。
「わかりました。帰りに寄ります」
「待ってるよ、夕飯をご馳走する」
ニッコリ笑う王子を直視できず、ハンナは頭を下げて連立する棚の林に逃げ込んだ。
ハンナは電卓を叩く。
週末に六回として平日に三回、生理の期間を除いて……月に三十回として、三ヶ月と半月……というところか。
こんな頻繁に会って快楽を貪り致して、しかも手作りの料理までご馳走になっていたら、恋人と錯覚してしまいそう。
ハンナは長いため息をついた。
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※特別編6が完結しました!(2025.11.25)
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