おむすび娘と縁切り侍

すなぎ もりこ

文字の大きさ
2 / 35

失礼な男

しおりを挟む
「すいません、強引に誘って」

明るい店内で改めて目にする男性は、相当なイケメンだった。
はにかむように笑う表情に、胸がきゅんとなる。

「いえ、私もあのまま帰るのは正直虚しかったので、ありがたいかも」
「あそこで会えて良かった」

そういえば、何故、モカが飲み会のメンバーだと気付いたのだろう。
同じ年頃の女性なんて他にもたくさん歩いていたと思うのだが。
聞こうと思い口を開きかけるが、イケメンに先を越されてしまった。

「俺は広瀬と言います。貴女は?」
「あ、玉森です」
「下の名前は?俺は蒼士(あおし)です。草冠に倉、武士の士」
「は、モカです。カタカナでモカ」
「へえ、カタカナなんだ。変なの」

変なの……?
小学生レベルにデリカシーのない感想。
久しぶりに言われたわ。

「モカさんはああいう飲み会に良く参加するの?」
「そうですね。良く誘われるので」
「良く誘われるか。……それなのに相手は見つからないのか」

低い声で呟かれ、モカは傷付いた。
失礼な人だな。

「見たところ普通なのに、やっぱりそうなんだな」

更に傷付くんだけど。
異常だとでも言ってほしいのか。
そりゃ、確かにちょっと特殊だけど。
それに、やっぱりってなんだよ。
恋愛運の無さが透けて見えるとでも言うのか。

「広瀬さんこそ、彼女がいないのが不思議なくらいのイケメンじゃないですか」
「あ、俺?まあ、見かけで寄ってこられる事はあるけど、モテないよ。口調がキツイらしくって」
「キツイというより、失礼ですよね」

モカは思わず口にしてしまった。
広瀬はどうやら遠慮がない性格のようだ。
ズケズケと失礼な事をいうので敬遠されているのだろう。
何となく察した。

「見た目だけで好きです、なんて言われても信用出来ないし。別に好かれようとも思ってないし」
「じゃあ、何で飲み会に参加したんですか?その言い方じゃ、別に彼女なんて欲しくなさそうなんですけど」
「あー……」

広瀬はジョッキに口をつけて三口ほどごくごく呑むと、カウンターテーブルに置いて俯いた。

「まあ、それは、ちょっと事情があって」
「事情?」

広瀬は後頭部を掻いた。

「うん、その…」

言葉を濁すイケメンを訝しげに見るモカだったが、突然聞こえた怒号に、肩を跳ねさせた。

「ふざけんじゃねぇぞ!早く来い!」

声の出所を探れば、奥にある個室に続く廊下から、男が女性の腕を掴み引きずって現れた。

「何が会社の打ち上げだ!男がいるなんて聞いてないぞ!」

さして広くない店内に男の声が響く。
客も従業員もしんと静まり返り、固唾を呑んで見守っている。

「皆、同じ職場のメンバーだって言ってるじゃない!こんなとこまで来るの止めてよ!」
「うるせえ!男の隣で酒を飲むなんて許さねぇ」
「やだやだもうやだ止めてぇ、アンタおかしいよ」
「何がおかしい!!お前は俺の女だろう、自覚がねえお前がおかしいだろうが!」

抵抗する女性に男が激昂し、手を振り上げた。
広瀬が立ち上がり、モカに早口で訊いた。

「モカちゃん、何か刃物を持ってない?ハサミとかカミソリとか」
「えっ?!何するつもり、止めなよ!」
「大丈夫、危ない事には使わないから。持ってない?」

モカは慌てて鞄の中を探り、折り畳み式の小型のハサミを取り出し、組みあげて広瀬に手渡した。
広瀬はそれをジャケットのポケットに入れると、迷いなく男女の元へ向かった。

男の背後から近付き、振り上げた腕を握ると、男が言葉を発するより早く、反対側の首の付け根を手刀で払う。
すると、男は身体の力が抜けたのか、膝を折り、崩れ落ちた。

どこからか、おお…と感嘆の声が上がる。

モカは広瀬の行動をじっと見守る。
放心している女性を真っ直ぐ立たせ、何事かを囁けば、女性はハッとして広瀬を見た後、頷き、店を走り出ていった。
次に、近くにいた店のスタッフに声をかけ、警察に連絡するように促す。
スタッフは慌ててポケットからスマートフォンを取り出して操作した。
大声で状況を説明する若いスタッフに視線が集まる。
しかし、モカは広瀬から視線を離さなかった。

広瀬は男を床に横たえ、傍らに腰を下ろす。

そこで、モカは目撃してしまったのだ。
広瀬の何とも不可解で奇妙な行動を。

広瀬は何事かを呟きながら、ポケットからモカの渡したハサミを取り出した。
そして、男の背中から少し離れた空を、パチンと切ったのだ。
しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

4番目の許婚候補

富樫 聖夜
恋愛
愛美は家出をした従姉妹の舞の代わりに結婚することになるかも、と突然告げられた。どうも昔からの約束で従姉妹の中から誰かが嫁に行かないといけないらしい。順番からいえば4番目の許婚候補なので、よもや自分に回ってくることはないと安堵した愛美だったが、偶然にも就職先は例の許婚がいる会社。所属部署も同じになってしまい、何だかいろいろバレないようにヒヤヒヤする日々を送るハメになる。おまけに関わらないように距離を置いて接していたのに例の許婚――佐伯彰人――がどういうわけか愛美に大接近。4番目の許婚候補だってバレた!? それとも――? ラブコメです。――――アルファポリス様より書籍化されました。本編削除済みです。

カモフラ婚~CEOは溺愛したくてたまらない!~

伊吹美香
恋愛
ウエディングプランナーとして働く菱崎由華 結婚式当日に花嫁に逃げられた建築会社CEOの月城蒼空 幼馴染の二人が偶然再会し、花嫁に逃げられた蒼空のメンツのために、カモフラージュ婚をしてしまう二人。 割り切った結婚かと思いきや、小さいころからずっと由華のことを想っていた蒼空が、このチャンスを逃すはずがない。 思いっきり溺愛する蒼空に、由華は翻弄されまくりでパニック。 二人の結婚生活は一体どうなる?

禁断溺愛

流月るる
恋愛
親同士の結婚により、中学三年生の時に湯浅製薬の御曹司・巧と義兄妹になった真尋。新しい家族と一緒に暮らし始めた彼女は、義兄から独占欲を滲ませた態度を取られるようになる。そんな義兄の様子に、真尋の心は揺れ続けて月日は流れ――真尋は、就職を区切りに彼への想いを断ち切るため、義父との養子縁組を解消し、ひっそりと実家を出た。しかし、ほどなくして海外赴任から戻った巧に、その事実を知られてしまう。当然のごとく義兄は大激怒で真尋のマンションに押しかけ、「赤の他人になったのなら、もう遠慮する必要はないな」と、甘く淫らに懐柔してきて……? 切なくて心が甘く疼く大人のエターナル・ラブ。

一目惚れ婚~美人すぎる御曹司に溺愛されてます~

椿蛍
恋愛
念願のデザイナーとして働き始めた私に、『家のためにお見合いしろ』と言い出した父と継母。 断りたかったけれど、病弱な妹を守るため、好きでもない相手と結婚することになってしまった……。 夢だったデザイナーの仕事を諦められない私――そんな私の前に現れたのは、有名な美女モデル、【リセ】だった。 パリで出会ったその美人モデル。 女性だと思っていたら――まさかの男!? 酔った勢いで一夜を共にしてしまう……。 けれど、彼の本当の姿はモデルではなく―― (モデル)御曹司×駆け出しデザイナー 【サクセスシンデレラストーリー!】 清中琉永(きよなかるな)新人デザイナー 麻王理世(あさおりせ)麻王グループ御曹司(モデル) 初出2021.11.26 改稿2023.10

秘められた薫り

La Mistral
恋愛
エブリスタにて、トレンド#恋愛で最高位 55位を獲得した作品です。 「愛しているよ」という夫の言葉が、今の美咲には虚しい空気にしか聞こえない。 欠けていたのは、理性を焼き尽くすような衝動。 ​クライアントの慎吾と交わす視線。ビジネスという仮面の下で共有される、剥き出しの欲望。 指先が触れる。名前を呼ばれる。ただそれだけで、美咲の積み上げてきた「良き妻」としての世界は音を立てて崩れ去る。 ​完璧なアリバイ、塗り固めた嘘。 夫の隣で微笑みながら、心は別の男の指先を求めている。 一度知ってしまった濃厚な「薫り」は、もう彼女を元の場所へは戻してくれない。 ​守るべき家庭と、抗えない本能。 二つの世界の境界線で、美咲が選ぶ「最後の一線」とは――。 欲望の熱に浮かされた女の、美しくも残酷な堕落の記録。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

処理中です...