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反動とは何ぞや
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祈祷が終わると、縁切りを請け負った一人はさっさと離れに姿を隠す。
未だに離れで何が行われているかわからない。
しかし、モカは見てしまった。
浅緋がいる離れに女性が向かうのを。
初夏とは言えまだ朝夕は肌寒い。
にもかかわらず、その女性はかなり薄着で、というより露出の激しい派手な出で立ちだった。
オフショルダーの丈の短いワンピース、明るい色の長い髪から大振りのリングピアスが覗いていて、白くて細い足に高いヒールのミュールサンダル…つまり、神社にそぐわない格好のお姉さまだった。
扉を開けた浅緋が彼女を迎える。
女性はヒラヒラと手を振って、高いヒールで器用に飛び石の上を歩いて離れの中へ消えていった。
モカは覗いていた窓の下にサッと身を屈め、そのままヨチヨチと移動しつつ考えた。
あの女性は浅緋の彼女なのだろうか。
確かにとても親しそうではあったが、何故接近禁止であるはずの離れに居たのだろう。
彼女なら良いのか?
結婚してたら良いのか?
そういえば蒼士の儀式を初めて見たあの夜……
「何をやってるんだ、お前は」
結局、ヒヨコのように丸まった姿を蒼士に見つかり、モカは控室に引きずって連れていかれた。
巫女服を脱いで普段着に着替えたモカを蒼士は玄関前で待っている。
そう、蒼士は車で送迎してくれているのだ。
そのせいなのか、蒼士の祈祷担当は送迎に影響のない午前中に確定している。
モカはシートベルトを締め、運転席の蒼士をちらと見てから思い切って訊いてみることにした。
「あのさあ、反動の事だけどさぁ」
「……何だよ」
明らかに不機嫌になる蒼士だったが、めげずに続けた。
「離れで何してんの?」
蒼士は、ブレーキロックを外してアクセルを踏むと、少し笑った。
「ストレート過ぎるだろ」
「だって、気になるんだもん!」
「……俺は、水被って鎮めてる」
「みずぅ?!冷たいじゃん!」
「冷たいのが良いんだよ」
「じゃあさ!私が鈴払いすれば良いんじゃない?あれはさ、清める効果があるんでしょ?」
「お前ごときの鈴払いなんかじゃ無理だよ」
モカはムゥと唇を引き結んだ。
「私も役に立ちたい」
「まだ駄目」
「まだ、ってどういう意味?そのうち出来んの?」
蒼士は黙った。
モカは返事を辛抱強く待つ。
車は坂道を下り県道に出た。
ハンドルに腕を掛けて左右を確認しながら、蒼士は漸くボソッと呟いた。
「お前次第だな」
「ほらきたよ、意味がわかんない。蒼士はほんっと言葉が足りないよね?!」
「うるせぇ」
モカはシートに背中を押し付けた。
蒼士はあの夜、突然モカを抱き締めてキスをした。
未だに思い出すだけで赤面する程の濃厚な。
そして、
「またあんな目に合いたくないだろ」
とも言った。
「別にキスぐらい良いのに」
思わず口から出た声に蒼士が反応し、ブレーキを踏んで路上に車を寄せた。
「お前、ふざけんな。運転中だぞ、事故らす気かよ!」
「ふざけてんのは蒼士じゃない?あんなキスまでしといてさ、結局理由は説明されてないし」
蒼士はハンドルに顔を伏せた。
「あれは…不可抗力だ」
「あそこじゃ水も被れないしね」
「…あそこであんなお節介焼かなきゃ」
「人助けでしょ。見て見ぬふりしてたらちょっとガッカリだったよ」
「…とにかく、不用意な発言は慎めよ」
蒼士は身体を起こすと窓の外を見た。
「私の想像で合ってる?反動の症状」
モカが畳み掛けると、蒼士はため息をついた。
「知らねぇよ、お前の想像なんか」
「そうやって、はぐらかすんだ。別に良いけど。私は所詮ただのバイトだしね」
「…拗ねんなよ」
「だってさ」
蒼士はウィンカーを出すと車を発信させた。
モカは会話を打ち切られたことに少し傷付き、窓の外に顔を向けた。
県道を10分も走って脇道に入れば直ぐにモカの自宅だ。
この時間ならまだお店も営業している。
帰宅してから少し店頭に立ち、そのまま明日の仕込みを手伝うのが神社のバイトを始めてからの習慣だ。
両親は巫女のバイトについて概ね賛成しているが、余計な心配をさせないように縁切りの儀式を手伝っていることは伏せてある。
密かなチャレンジのつもりで始めた事だが、今は遣り甲斐を感じているし楽しみでさえある。
清閑とした空気の中にある神社は居心地が良いし神社のスタッフは皆穏やかで優しい。
特に浅緋と蒼士には特別な仲間意識のようなものを感じていた。
だから、未だに反動の詳細を明かしてもらえないことを寂しく思う。
モカの予想が正しければ言いづらい理由もわからなくはない。
けれど、知ったところで軽蔑するつもりはない。
それほど縁切りの儀式は身体に負担がかかるものだと理解しているからだ。
「なあ」
蒼士が家に着く直前に口を開いた。
「今週、平日予定あんの?」
「今んとこ特に無いけど?」
突然の質問にモカは戸惑う。
蒼士は家の前で停車するとモカに顔を向けた。
「飯行かね?奢るから」
モカは少々面食らいながらも承知した。
「また連絡する」
頭を掻いて俯く蒼士の表情は良く見えなかった。
未だに離れで何が行われているかわからない。
しかし、モカは見てしまった。
浅緋がいる離れに女性が向かうのを。
初夏とは言えまだ朝夕は肌寒い。
にもかかわらず、その女性はかなり薄着で、というより露出の激しい派手な出で立ちだった。
オフショルダーの丈の短いワンピース、明るい色の長い髪から大振りのリングピアスが覗いていて、白くて細い足に高いヒールのミュールサンダル…つまり、神社にそぐわない格好のお姉さまだった。
扉を開けた浅緋が彼女を迎える。
女性はヒラヒラと手を振って、高いヒールで器用に飛び石の上を歩いて離れの中へ消えていった。
モカは覗いていた窓の下にサッと身を屈め、そのままヨチヨチと移動しつつ考えた。
あの女性は浅緋の彼女なのだろうか。
確かにとても親しそうではあったが、何故接近禁止であるはずの離れに居たのだろう。
彼女なら良いのか?
結婚してたら良いのか?
そういえば蒼士の儀式を初めて見たあの夜……
「何をやってるんだ、お前は」
結局、ヒヨコのように丸まった姿を蒼士に見つかり、モカは控室に引きずって連れていかれた。
巫女服を脱いで普段着に着替えたモカを蒼士は玄関前で待っている。
そう、蒼士は車で送迎してくれているのだ。
そのせいなのか、蒼士の祈祷担当は送迎に影響のない午前中に確定している。
モカはシートベルトを締め、運転席の蒼士をちらと見てから思い切って訊いてみることにした。
「あのさあ、反動の事だけどさぁ」
「……何だよ」
明らかに不機嫌になる蒼士だったが、めげずに続けた。
「離れで何してんの?」
蒼士は、ブレーキロックを外してアクセルを踏むと、少し笑った。
「ストレート過ぎるだろ」
「だって、気になるんだもん!」
「……俺は、水被って鎮めてる」
「みずぅ?!冷たいじゃん!」
「冷たいのが良いんだよ」
「じゃあさ!私が鈴払いすれば良いんじゃない?あれはさ、清める効果があるんでしょ?」
「お前ごときの鈴払いなんかじゃ無理だよ」
モカはムゥと唇を引き結んだ。
「私も役に立ちたい」
「まだ駄目」
「まだ、ってどういう意味?そのうち出来んの?」
蒼士は黙った。
モカは返事を辛抱強く待つ。
車は坂道を下り県道に出た。
ハンドルに腕を掛けて左右を確認しながら、蒼士は漸くボソッと呟いた。
「お前次第だな」
「ほらきたよ、意味がわかんない。蒼士はほんっと言葉が足りないよね?!」
「うるせぇ」
モカはシートに背中を押し付けた。
蒼士はあの夜、突然モカを抱き締めてキスをした。
未だに思い出すだけで赤面する程の濃厚な。
そして、
「またあんな目に合いたくないだろ」
とも言った。
「別にキスぐらい良いのに」
思わず口から出た声に蒼士が反応し、ブレーキを踏んで路上に車を寄せた。
「お前、ふざけんな。運転中だぞ、事故らす気かよ!」
「ふざけてんのは蒼士じゃない?あんなキスまでしといてさ、結局理由は説明されてないし」
蒼士はハンドルに顔を伏せた。
「あれは…不可抗力だ」
「あそこじゃ水も被れないしね」
「…あそこであんなお節介焼かなきゃ」
「人助けでしょ。見て見ぬふりしてたらちょっとガッカリだったよ」
「…とにかく、不用意な発言は慎めよ」
蒼士は身体を起こすと窓の外を見た。
「私の想像で合ってる?反動の症状」
モカが畳み掛けると、蒼士はため息をついた。
「知らねぇよ、お前の想像なんか」
「そうやって、はぐらかすんだ。別に良いけど。私は所詮ただのバイトだしね」
「…拗ねんなよ」
「だってさ」
蒼士はウィンカーを出すと車を発信させた。
モカは会話を打ち切られたことに少し傷付き、窓の外に顔を向けた。
県道を10分も走って脇道に入れば直ぐにモカの自宅だ。
この時間ならまだお店も営業している。
帰宅してから少し店頭に立ち、そのまま明日の仕込みを手伝うのが神社のバイトを始めてからの習慣だ。
両親は巫女のバイトについて概ね賛成しているが、余計な心配をさせないように縁切りの儀式を手伝っていることは伏せてある。
密かなチャレンジのつもりで始めた事だが、今は遣り甲斐を感じているし楽しみでさえある。
清閑とした空気の中にある神社は居心地が良いし神社のスタッフは皆穏やかで優しい。
特に浅緋と蒼士には特別な仲間意識のようなものを感じていた。
だから、未だに反動の詳細を明かしてもらえないことを寂しく思う。
モカの予想が正しければ言いづらい理由もわからなくはない。
けれど、知ったところで軽蔑するつもりはない。
それほど縁切りの儀式は身体に負担がかかるものだと理解しているからだ。
「なあ」
蒼士が家に着く直前に口を開いた。
「今週、平日予定あんの?」
「今んとこ特に無いけど?」
突然の質問にモカは戸惑う。
蒼士は家の前で停車するとモカに顔を向けた。
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モカは少々面食らいながらも承知した。
「また連絡する」
頭を掻いて俯く蒼士の表情は良く見えなかった。
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