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つないだ手
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祐と店の前で別れた後、モカは再び店に戻った。
そして、カウンターに座る蒼士の隣に腰掛けた。
「疲れた」
「お疲れ~」
「軽い!」
「で?よりを戻そうって?」
「まあねぇ、予想通りっちゃあそうなんだけど、何だか複雑」
「どうすんの?結構長く付き合ってたんじゃねぇの、アイツと」
「二年間だよ。まさか、見てたの?」
「神社に連れてきてたよな、何回か。男の方は大概神門の手前で待ってたけど」
モカは呆気に取られて蒼士を見た。
「暇か」
「うるせぇ、その通りだよ。寂れた神社の参拝者なんてお前と近所のお婆さんくらいだったんだよ。そんなとこで長時間番をさせられてる身になってくれ。変な趣味の女子高生を観察するぐらい良いだろ」
「変な趣味とは何だ」
「神社参拝が趣味の女子高生なんて滅多にいねぇよ」
モカはグラスビールを頼むと、ため息をついた。
そして、祐と話した内容をポツポツと蒼士に打ち明けた。
「まあ、うっすらと紐は繋がってたけど悪いものではねぇよ。…だけど今の段階ではたいしたものには見えなかったな」
「そうだろうね、なんたって6年ぶりだよ?…もちろん、祐のことは嫌いではないけど。それよりさ、二人が上手くいかなかった原因が私にあるっていう事の方がショックだよ」
蒼士は、モカの頭をぽんぽんと叩いた。
「気にすんなよ。お前は縁を結んだけど、その後どうするかはそいつら次第なんだから。責任を感じる必要はねえよ」
「まさか二人がそんな風に思ってたなんて知らなかった」
「それだけ二人にとってはお前が大事な存在だったんだろ」
モカはじわりと滲んできた涙を堪えた。
「どうせなら、幸せになって欲しかった」
「そういうところが愛されてたんだろ」
「蒼士が柄にもないクサいこと言う~」
涙腺が決壊して涙が溢れた。
「そこで泣くか?」
蒼士はモカの頭を引き寄せて撫でる。
「思う存分泣けよ、涙は心の汗だ」
「クサ過ぎる~今どきないわ~」
モカは鼻を啜りながら訊ねた。
「もう比奈と祐の糸は切れちゃったのかな?私の縁結びの力って、相性の良い人同士を結び付けるんじゃなかったの?」
蒼士はモカの髪を撫でながら考え込み、ゆっくりとした口調で答えた。
「その二人の縁が全く失くなった訳じゃないよ、細くなったか形を変えただけでさ。出会って過ごした時間が無駄だってことは絶対ない」
「そうなのかな」
蒼士は小さく頷く。
「人の縁ってさ、単純じゃないんだよ。出会った時の環境や心情によって左右されるんだ。成長すれば周りに集まる縁も格上げされるし、その逆もある。……もちろん、例外もあるけど」
「何となくわかるよ。しかも蒼士は見えるんだもんね、説得力ある」
「いや、普段から見えてる訳じゃない。集中すれば見えるだけで。努めて見ないようにしてるよ、特に自分のは」
蒼士はグラスを手にとってコクリと飲んだ。
「…卑怯だもんな。自分の感覚と気持ちが大事なんだよ、やっぱり」
店を出て、二人で並んで歩く。
見上げた空には目映い三日月と星が煌めいていた。
気付けば、蒼士がモカの手を握っている。
「何で手を繋ぐの」
「お前が危なっかしいから」
「そんなに酔ってないし」
「良いから繋がれとけ」
伝わる温かさに何だか不思議に安心して、モカはそのまま少し遅れてついていく。
「タクシー拾うか」
「もうちょっと歩こうよ」
蒼士が振り向いた。
モカは顔を上げずにボソッと付け加えた。
「酔いを覚ましたいから」
「やっぱり酔ってんじゃん」
蒼士はからかうように言うとモカの手を引いた。
「駅一つ歩くか、今日は暖かいし」
「そう言えばさ、何で食事に誘ってくれたの」
「そりゃ、親交を深めるためだよ。バイト仲間として」
「ほほう」
「俺だって仲良くなりたいと思ってるんだよ」
「へぇー」
「ムカつく返しだなぁ」
突然、蒼士に肩を掴んで抱き寄せられ、モカは驚いて顔を上げその視線を辿る。
そこには標識のポールにくくりつけられたベニヤの看板が風に揺れていた。
「下向いて歩くなよ、ぶつかるとこだったぞ」
「あ、はあ、すみません」
薄いブルーのワイシャツから触れていた頬を離し身体を引くが、蒼士はまだ肩を掴んだままだ。
「なあ、付き合うの、アイツと」
その質問に、モカの胸が疼いた。
何故そんな事を訊くのだろう。
気になるのか?
だとしたら、それはどうして…
モカは早口で答えた。
「今のところそのつもりはないよ。祐が私とよりを戻したいって気持ちは、多分、恋愛感情というより罪悪感とか後悔の方だと思うし。なんていうか、やり残した事を達成して次に進みたい的な」
「何だよ、それ」
「とかく向上心が高いんだよね、祐って」
蒼士は肩から手を離して、ポケットに突っ込み、プイと前を向いた。
何だか機嫌を損ねたらしい。
「…お前、今度から男と会うときは俺に教えろ」
「はあ?ねえ、それはさすがに過保護すぎるよ」
「お前は男を見る目がない」
「なんだと」
モカは前を歩く蒼士のつむじを睨んだ。
蒼士はガクリと首を下げて大きなため息をつき、ブツブツ呟いた。
「…ったくよ、放っとけねぇんだよ。解ってたけどよ、だからって付け込むのも嫌だし」
何の事だろう。
モカは眉を寄せ、首を傾げた。
「とにかく、俺の心の安寧のためにそうしてくれ、わかったな!」
振り向いた蒼士が強い口調で言う。
頼んでんのか脅してんのか、どっちだ。
モカは呆れながらも渋々頷いた。
また、流されちゃったなぁ、と頭の隅で思いながら。
そして、カウンターに座る蒼士の隣に腰掛けた。
「疲れた」
「お疲れ~」
「軽い!」
「で?よりを戻そうって?」
「まあねぇ、予想通りっちゃあそうなんだけど、何だか複雑」
「どうすんの?結構長く付き合ってたんじゃねぇの、アイツと」
「二年間だよ。まさか、見てたの?」
「神社に連れてきてたよな、何回か。男の方は大概神門の手前で待ってたけど」
モカは呆気に取られて蒼士を見た。
「暇か」
「うるせぇ、その通りだよ。寂れた神社の参拝者なんてお前と近所のお婆さんくらいだったんだよ。そんなとこで長時間番をさせられてる身になってくれ。変な趣味の女子高生を観察するぐらい良いだろ」
「変な趣味とは何だ」
「神社参拝が趣味の女子高生なんて滅多にいねぇよ」
モカはグラスビールを頼むと、ため息をついた。
そして、祐と話した内容をポツポツと蒼士に打ち明けた。
「まあ、うっすらと紐は繋がってたけど悪いものではねぇよ。…だけど今の段階ではたいしたものには見えなかったな」
「そうだろうね、なんたって6年ぶりだよ?…もちろん、祐のことは嫌いではないけど。それよりさ、二人が上手くいかなかった原因が私にあるっていう事の方がショックだよ」
蒼士は、モカの頭をぽんぽんと叩いた。
「気にすんなよ。お前は縁を結んだけど、その後どうするかはそいつら次第なんだから。責任を感じる必要はねえよ」
「まさか二人がそんな風に思ってたなんて知らなかった」
「それだけ二人にとってはお前が大事な存在だったんだろ」
モカはじわりと滲んできた涙を堪えた。
「どうせなら、幸せになって欲しかった」
「そういうところが愛されてたんだろ」
「蒼士が柄にもないクサいこと言う~」
涙腺が決壊して涙が溢れた。
「そこで泣くか?」
蒼士はモカの頭を引き寄せて撫でる。
「思う存分泣けよ、涙は心の汗だ」
「クサ過ぎる~今どきないわ~」
モカは鼻を啜りながら訊ねた。
「もう比奈と祐の糸は切れちゃったのかな?私の縁結びの力って、相性の良い人同士を結び付けるんじゃなかったの?」
蒼士はモカの髪を撫でながら考え込み、ゆっくりとした口調で答えた。
「その二人の縁が全く失くなった訳じゃないよ、細くなったか形を変えただけでさ。出会って過ごした時間が無駄だってことは絶対ない」
「そうなのかな」
蒼士は小さく頷く。
「人の縁ってさ、単純じゃないんだよ。出会った時の環境や心情によって左右されるんだ。成長すれば周りに集まる縁も格上げされるし、その逆もある。……もちろん、例外もあるけど」
「何となくわかるよ。しかも蒼士は見えるんだもんね、説得力ある」
「いや、普段から見えてる訳じゃない。集中すれば見えるだけで。努めて見ないようにしてるよ、特に自分のは」
蒼士はグラスを手にとってコクリと飲んだ。
「…卑怯だもんな。自分の感覚と気持ちが大事なんだよ、やっぱり」
店を出て、二人で並んで歩く。
見上げた空には目映い三日月と星が煌めいていた。
気付けば、蒼士がモカの手を握っている。
「何で手を繋ぐの」
「お前が危なっかしいから」
「そんなに酔ってないし」
「良いから繋がれとけ」
伝わる温かさに何だか不思議に安心して、モカはそのまま少し遅れてついていく。
「タクシー拾うか」
「もうちょっと歩こうよ」
蒼士が振り向いた。
モカは顔を上げずにボソッと付け加えた。
「酔いを覚ましたいから」
「やっぱり酔ってんじゃん」
蒼士はからかうように言うとモカの手を引いた。
「駅一つ歩くか、今日は暖かいし」
「そう言えばさ、何で食事に誘ってくれたの」
「そりゃ、親交を深めるためだよ。バイト仲間として」
「ほほう」
「俺だって仲良くなりたいと思ってるんだよ」
「へぇー」
「ムカつく返しだなぁ」
突然、蒼士に肩を掴んで抱き寄せられ、モカは驚いて顔を上げその視線を辿る。
そこには標識のポールにくくりつけられたベニヤの看板が風に揺れていた。
「下向いて歩くなよ、ぶつかるとこだったぞ」
「あ、はあ、すみません」
薄いブルーのワイシャツから触れていた頬を離し身体を引くが、蒼士はまだ肩を掴んだままだ。
「なあ、付き合うの、アイツと」
その質問に、モカの胸が疼いた。
何故そんな事を訊くのだろう。
気になるのか?
だとしたら、それはどうして…
モカは早口で答えた。
「今のところそのつもりはないよ。祐が私とよりを戻したいって気持ちは、多分、恋愛感情というより罪悪感とか後悔の方だと思うし。なんていうか、やり残した事を達成して次に進みたい的な」
「何だよ、それ」
「とかく向上心が高いんだよね、祐って」
蒼士は肩から手を離して、ポケットに突っ込み、プイと前を向いた。
何だか機嫌を損ねたらしい。
「…お前、今度から男と会うときは俺に教えろ」
「はあ?ねえ、それはさすがに過保護すぎるよ」
「お前は男を見る目がない」
「なんだと」
モカは前を歩く蒼士のつむじを睨んだ。
蒼士はガクリと首を下げて大きなため息をつき、ブツブツ呟いた。
「…ったくよ、放っとけねぇんだよ。解ってたけどよ、だからって付け込むのも嫌だし」
何の事だろう。
モカは眉を寄せ、首を傾げた。
「とにかく、俺の心の安寧のためにそうしてくれ、わかったな!」
振り向いた蒼士が強い口調で言う。
頼んでんのか脅してんのか、どっちだ。
モカは呆れながらも渋々頷いた。
また、流されちゃったなぁ、と頭の隅で思いながら。
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