おむすび娘と縁切り侍

すなぎ もりこ

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宮司さん

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闇を背景に灯籠の灯りに照らされてぼんやり浮かび上がる田出呂神社から、ピンと張り詰めた厳かな気が伝わってきた。
モカは車のドアを閉め、砂利を踏みしめながら自宅兼社務所へ向かう。

少し緊張した面持ちのモカを出迎えてくれたのは、一見怖そうに見えるが豪快で陽気な宮司だった。

「おおーっ、やっと会えたな、ささ、上がりなさい」

スリッパを揃えて出してくれる気さくな宮司に少々面食らいながらも、モカは勝手知ったる場所へ上がり宮司の後をついていく。

「実は、私もあの二人もモカさんの事を前から知っていたんだよ」

ちゃぶ台の向こうで宮司がニコニコと微笑む。
こうして見ると精悍な顎のラインや切れ長の瞳が二人と良く似ている。

「あの、蒼士さんから少し聞きました。分社に参拝に来ていたところをご覧になられたんですよね」
「そうそう。あの頃、蒼士と浅緋は学生だったんたが時間に余裕があるようだったんでね、学業の傍ら住み込みで縁切り修行をさせてたんだ」

頻繁に参拝に訪れる女子高生は珍しく、三人の間では良く話題に上っていたらしい。

「特に蒼士は興味津々でね、モカちゃんが来るのを分社の中で心待ちにしてたみたいだよ」
「はあ、そうですか。何だか恥ずかしいです」
「君が彼氏らしき男子学生をつれてきた時は見るからに落ち込んでいて面白かったな」

モカはなんと言って答えたら良いかわからず俯いた。

「そのうちお友達も加わって、三人で現れるようになって…」

モカは膝の上に置いていた手を握った。
そうだ、比奈と祐に何度か付き合ってもらった。
受験生だったから合格祈願も兼ねて三人揃って参拝したりもした。

「修行中はね、色々制約を設けていたんだよ。縁切りの儀式は簡単に会得できるものではないんでね。御神体の力を借りるためには、気を溜め込んで神経を研ぎ澄ます必要がある。まだ未熟な彼らには必要なことだったんだが…」

宮司は苦笑いをした。

「蒼士が制約を破ってしまってね。私は叱りつけた」
「蒼士が?」

モカは顔を上げて宮司を見た。
あの生真面目な蒼士が、言い付けを破って叱られた。
いったい何をしたのだろう。

「結局浅緋も蒼士につられてしまってね。二人には罰として神社内のあらゆるところをピカピカに磨いてもらったわけだが……」

その頃を思い出したのか、宮司はふっふ、と笑った。
それから突然ちゃぶ台に両手を付き、いきなり頭を下げた。

「モカさんを勝手に巻き込んで申し訳なかった。あの二人には再び良く言って聞かせた」

モカはいきなりの事に驚き、慌てる。

「い、いや、あの、謝って頂くようなことは何もありません!」
「いや、遣り方が稚拙で卑怯だ。もっと堂々と向き合えば良かったものを…まあ、焦っていたんだろうな。私の言葉が足りなかったのは確かだ。可哀想な事をした」
「あのぅ、いったいどういう…」

宮司は身を起こして、今度はモカをじっと見つめた。
そして、ウンウン頷き、嬉しそうに笑う。
モカは目の前のおっさんの不可解な言動に、首をかしげるばかりだ。

「モカさん、信じて欲しい。君は決して孤独などではない。君はずっと他人の縁を結んできて、そのせいで疎外感を味わい、この先もずっとそうだと思っているのかもしれないが、諦める必要はないぞ」

モカは宮司の厳つい顔を凝視する。
宮司は目を細め、ゆっくりとモカに告げた。

「分社を通じて田出呂神社の祭神もモカさんのことをずっとご覧になっていた。モカさんは最強の味方を得ているんだよ。不幸になりようがないんだ」
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