31 / 35
決闘
しおりを挟む
「広瀬 蒼士です」
…なんてこった…。
モカはすかさず視線を逸らし、斜め下の床を見た。
明らかにおかしいモカの様子に気付き、先輩が小突く。
「玉森、名前、自己紹介!」
「もかもり たまえです」
「なんで偽名?」
「お久しぶりです、たまえさん」
「え?知り合い?てか、たまえ?!」
先輩はモカと蒼士を交互に見るが、だんだんと混乱してきたらしく、助けを求めるように眼鏡スーツの彼氏に視線を向けた。
「なんだ、知り合いだったのかぁ」
眼鏡スーツは人が良さそうな笑顔を浮かべた。
どうやら、ちょっぴり天然が入っているらしい。
「ああ。もう一度会いたいって、ずっーーーーと思っていたんだ。会えて良かったなあ!」
蒼士の少々異質な攻めの言葉に、先輩と眼鏡スーツ彼氏が息を呑み、視線をモカに向ける。
モカは居心地の悪さに縮こまる。
「ま、まあ、そういうことなら後輩に感謝しなきゃな、アイツが青い顔をしてお前を連れてきた時は、どうしようかと思ったけど」
「アイツな、どうせ変なものでも食ったんだろう、運がなかったんだな」
蒼士は視線を逸らさず真っすぐにモカを見ている。
絶対裏で手を回したよね?
後輩くんに毒を盛った、なんてこと無いよね?
モカの背中を冷汗が伝う。
「たまえさん、出ませんか」
蒼士はいきなり直球で誘ってきた。
「お、お前いくらなんでもそれは性急すぎ…」
「お話があります。二人きりになりたいんですが」
「た、玉森、ど、ど、どうなって」
先輩が焦ってモカの腕をつかむ。
モカは挑むように蒼士を睨んだ。
「いやだと言ったら?」
蒼士はニンマリ笑い、身を乗り出して囁いた。
「切ろうか?お隣の二人のあれ」
顎を逸らし、人差し指と中指を立てて動かして見せる。
「良縁まで切るわけ?」
「縁なら大概のものは切れるんだぜ」
「それでも神主か!」
「今は違うし」
モカは奥歯を噛みしめ、ぎゅっと目を瞑った。
そして再び目を開くと、思い切りよく立ち上がった。
「よい度胸だ!表へ出ろ!」
先輩と眼鏡スーツ彼氏が唖然と見送る中、蒼士とモカは店の外へ出た。
営業妨害になってはいけないので近くにある公園まで歩くことで話がつく。
蒼士は当たり前のようにモカの手を掬い上げて握った。
「なんで手を繋ぐ」
「逃げられたら困るからだよ。ま、逃がさねえけど」
蒼士が不敵に笑う。
モカは高鳴る鼓動を誤魔化すように蒼士を睨んだ。
やがて公園の入口が見えてきた。
入口に並ぶ車止めにぶつからないように、蒼士がそっとモカを誘導する。
そのさりげない優しさにも、ときめく。
モカは蒼士に対する気持ちが僅かも消え去っていないことを自覚して、思わず胸を押さえた。
「お前、懲りもせず男を紹介してもらうつもりだったわけ?」
蒼士はモカの手を引いて歩きながら、薄いグレーのワイシャツの襟元を緩めている。
「…相変わらず失礼だね。今回は先輩の顔を立てるために仕方なくだよ」
「どうせ無理なのに」
モカはムッとして繋がれた腕を引いた。
蒼士がカクンと身体を揺らして振り向く。
「無理だなんてひどい!」
生ぬるい夏の風がモカの髪に絡まる。
蒼士は手を伸ばし、モカの顔にかかった髪を指で整えた。
その甘いそぶりにきゅうきゅうと胸が鳴る。
モカは頬を染めて俯いた。
やがて、少しひんやりした掌が頬をそっと覆う。
「悪あがきは止めろって」
「ほ、ほんと、蒼士って失礼だよ」
「そうじゃねぇの」
蒼士は身を屈めてモカと額を合わせた。
モカはどぎまぎしながら視線を上げ、目の前の整った顔を見つめた。
「ど、どういう意味よ」
「お前の相手は決まってる」
「……それって」
蒼士はモカと目を合わせる。
その瞳は真剣な光を帯びていた。
「お前の縁は俺に繋がっているからだ」
モカは瞬きした後、下を向いた。
「えっと、それはいつから?今はもう無いんじゃない?」
「ずっと前からだ。今もガッツリ繋がってる。他の奴らと一緒にするな、俺とお前を繋ぐ糸は特別なんだ!絶対切れねぇ!」
モカの肩を掴み、蒼士は懸命に訴える。
モカの顔に熱がどんどんと集まっていく。
「と、特別なんだ…へえ、そうなんだ。蒼士と私が、切れない縁で繋がってる、と」
「そうだ!」
「ええ、でもなぁ、私には見えないしなぁ」
モカはちら、と蒼士を窺う。
蒼士は身体を反らして胸を叩いた。
「馬鹿野郎、田出呂神社宮司と祭神様のお墨付きだぞ!信じろ!」
モカはモジモジと手を握り合わせた。
馬鹿なのは蒼士だよなぁ。
言って欲しい言葉はそんなんじゃないんだよなぁ。
「…蒼士はさぁ、縁が繋がってるから私を専属にしたわけ?」
「は?そうじゃねぇよ!」
「縁が繋がってるから、一緒にいなきゃならないと思い込んでるのかもしれないよ」
「違うし!」
「だってさぁ……」
蒼士はモカの両手をバッと握ると胸の前に引き寄せた。
園内灯に照らされた顔が真っ赤に染まっている。
「お前のことが好きだからだ!好きで好きでたまらねぇんだよ!悪いか!」
モカは蒼士の胸に飛び込んだ。
…なんてこった…。
モカはすかさず視線を逸らし、斜め下の床を見た。
明らかにおかしいモカの様子に気付き、先輩が小突く。
「玉森、名前、自己紹介!」
「もかもり たまえです」
「なんで偽名?」
「お久しぶりです、たまえさん」
「え?知り合い?てか、たまえ?!」
先輩はモカと蒼士を交互に見るが、だんだんと混乱してきたらしく、助けを求めるように眼鏡スーツの彼氏に視線を向けた。
「なんだ、知り合いだったのかぁ」
眼鏡スーツは人が良さそうな笑顔を浮かべた。
どうやら、ちょっぴり天然が入っているらしい。
「ああ。もう一度会いたいって、ずっーーーーと思っていたんだ。会えて良かったなあ!」
蒼士の少々異質な攻めの言葉に、先輩と眼鏡スーツ彼氏が息を呑み、視線をモカに向ける。
モカは居心地の悪さに縮こまる。
「ま、まあ、そういうことなら後輩に感謝しなきゃな、アイツが青い顔をしてお前を連れてきた時は、どうしようかと思ったけど」
「アイツな、どうせ変なものでも食ったんだろう、運がなかったんだな」
蒼士は視線を逸らさず真っすぐにモカを見ている。
絶対裏で手を回したよね?
後輩くんに毒を盛った、なんてこと無いよね?
モカの背中を冷汗が伝う。
「たまえさん、出ませんか」
蒼士はいきなり直球で誘ってきた。
「お、お前いくらなんでもそれは性急すぎ…」
「お話があります。二人きりになりたいんですが」
「た、玉森、ど、ど、どうなって」
先輩が焦ってモカの腕をつかむ。
モカは挑むように蒼士を睨んだ。
「いやだと言ったら?」
蒼士はニンマリ笑い、身を乗り出して囁いた。
「切ろうか?お隣の二人のあれ」
顎を逸らし、人差し指と中指を立てて動かして見せる。
「良縁まで切るわけ?」
「縁なら大概のものは切れるんだぜ」
「それでも神主か!」
「今は違うし」
モカは奥歯を噛みしめ、ぎゅっと目を瞑った。
そして再び目を開くと、思い切りよく立ち上がった。
「よい度胸だ!表へ出ろ!」
先輩と眼鏡スーツ彼氏が唖然と見送る中、蒼士とモカは店の外へ出た。
営業妨害になってはいけないので近くにある公園まで歩くことで話がつく。
蒼士は当たり前のようにモカの手を掬い上げて握った。
「なんで手を繋ぐ」
「逃げられたら困るからだよ。ま、逃がさねえけど」
蒼士が不敵に笑う。
モカは高鳴る鼓動を誤魔化すように蒼士を睨んだ。
やがて公園の入口が見えてきた。
入口に並ぶ車止めにぶつからないように、蒼士がそっとモカを誘導する。
そのさりげない優しさにも、ときめく。
モカは蒼士に対する気持ちが僅かも消え去っていないことを自覚して、思わず胸を押さえた。
「お前、懲りもせず男を紹介してもらうつもりだったわけ?」
蒼士はモカの手を引いて歩きながら、薄いグレーのワイシャツの襟元を緩めている。
「…相変わらず失礼だね。今回は先輩の顔を立てるために仕方なくだよ」
「どうせ無理なのに」
モカはムッとして繋がれた腕を引いた。
蒼士がカクンと身体を揺らして振り向く。
「無理だなんてひどい!」
生ぬるい夏の風がモカの髪に絡まる。
蒼士は手を伸ばし、モカの顔にかかった髪を指で整えた。
その甘いそぶりにきゅうきゅうと胸が鳴る。
モカは頬を染めて俯いた。
やがて、少しひんやりした掌が頬をそっと覆う。
「悪あがきは止めろって」
「ほ、ほんと、蒼士って失礼だよ」
「そうじゃねぇの」
蒼士は身を屈めてモカと額を合わせた。
モカはどぎまぎしながら視線を上げ、目の前の整った顔を見つめた。
「ど、どういう意味よ」
「お前の相手は決まってる」
「……それって」
蒼士はモカと目を合わせる。
その瞳は真剣な光を帯びていた。
「お前の縁は俺に繋がっているからだ」
モカは瞬きした後、下を向いた。
「えっと、それはいつから?今はもう無いんじゃない?」
「ずっと前からだ。今もガッツリ繋がってる。他の奴らと一緒にするな、俺とお前を繋ぐ糸は特別なんだ!絶対切れねぇ!」
モカの肩を掴み、蒼士は懸命に訴える。
モカの顔に熱がどんどんと集まっていく。
「と、特別なんだ…へえ、そうなんだ。蒼士と私が、切れない縁で繋がってる、と」
「そうだ!」
「ええ、でもなぁ、私には見えないしなぁ」
モカはちら、と蒼士を窺う。
蒼士は身体を反らして胸を叩いた。
「馬鹿野郎、田出呂神社宮司と祭神様のお墨付きだぞ!信じろ!」
モカはモジモジと手を握り合わせた。
馬鹿なのは蒼士だよなぁ。
言って欲しい言葉はそんなんじゃないんだよなぁ。
「…蒼士はさぁ、縁が繋がってるから私を専属にしたわけ?」
「は?そうじゃねぇよ!」
「縁が繋がってるから、一緒にいなきゃならないと思い込んでるのかもしれないよ」
「違うし!」
「だってさぁ……」
蒼士はモカの両手をバッと握ると胸の前に引き寄せた。
園内灯に照らされた顔が真っ赤に染まっている。
「お前のことが好きだからだ!好きで好きでたまらねぇんだよ!悪いか!」
モカは蒼士の胸に飛び込んだ。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
4番目の許婚候補
富樫 聖夜
恋愛
愛美は家出をした従姉妹の舞の代わりに結婚することになるかも、と突然告げられた。どうも昔からの約束で従姉妹の中から誰かが嫁に行かないといけないらしい。順番からいえば4番目の許婚候補なので、よもや自分に回ってくることはないと安堵した愛美だったが、偶然にも就職先は例の許婚がいる会社。所属部署も同じになってしまい、何だかいろいろバレないようにヒヤヒヤする日々を送るハメになる。おまけに関わらないように距離を置いて接していたのに例の許婚――佐伯彰人――がどういうわけか愛美に大接近。4番目の許婚候補だってバレた!? それとも――? ラブコメです。――――アルファポリス様より書籍化されました。本編削除済みです。
カモフラ婚~CEOは溺愛したくてたまらない!~
伊吹美香
恋愛
ウエディングプランナーとして働く菱崎由華
結婚式当日に花嫁に逃げられた建築会社CEOの月城蒼空
幼馴染の二人が偶然再会し、花嫁に逃げられた蒼空のメンツのために、カモフラージュ婚をしてしまう二人。
割り切った結婚かと思いきや、小さいころからずっと由華のことを想っていた蒼空が、このチャンスを逃すはずがない。
思いっきり溺愛する蒼空に、由華は翻弄されまくりでパニック。
二人の結婚生活は一体どうなる?
禁断溺愛
流月るる
恋愛
親同士の結婚により、中学三年生の時に湯浅製薬の御曹司・巧と義兄妹になった真尋。新しい家族と一緒に暮らし始めた彼女は、義兄から独占欲を滲ませた態度を取られるようになる。そんな義兄の様子に、真尋の心は揺れ続けて月日は流れ――真尋は、就職を区切りに彼への想いを断ち切るため、義父との養子縁組を解消し、ひっそりと実家を出た。しかし、ほどなくして海外赴任から戻った巧に、その事実を知られてしまう。当然のごとく義兄は大激怒で真尋のマンションに押しかけ、「赤の他人になったのなら、もう遠慮する必要はないな」と、甘く淫らに懐柔してきて……? 切なくて心が甘く疼く大人のエターナル・ラブ。
うちの幼馴染がデレすぎてて俺の理性はもう限界。でも毎日が最高に甘いからもうどうでもいいや
静内燕
恋愛
相沢悠太の日常は、規格外の美少女である幼馴染、白石葵によって完全に支配されている。
朝のモーニングコール(ベッドへのダイブ付き)から始まり、登校中の腕組み、そして「あーん」が義務付けられた手作り弁当。誰もが羨むラブラブっぷりだが、悠太はこれを「家族愛」だと頑なに誤解(無視)している。
「ゆーたは私の運命の相手なんだもん!」と、葵のデレデレは今日も過剰の一途。周囲の冷やかしや、葵を狙う男子生徒のプレッシャーが高まる中、悠太の**「幼馴染フィルター」**はついに限界を迎える。
この溺愛っぷり、いつまで「家族」で通せるのか?
甘すぎる日常が、悠太の鈍感な理性を溶かし尽くす――最初からクライマックスの、超高濃度イチャイチャ・ラブコメ、開幕!
秘められた薫り
La Mistral
恋愛
エブリスタにて、トレンド#恋愛で最高位
55位を獲得した作品です。
「愛しているよ」という夫の言葉が、今の美咲には虚しい空気にしか聞こえない。
欠けていたのは、理性を焼き尽くすような衝動。
クライアントの慎吾と交わす視線。ビジネスという仮面の下で共有される、剥き出しの欲望。
指先が触れる。名前を呼ばれる。ただそれだけで、美咲の積み上げてきた「良き妻」としての世界は音を立てて崩れ去る。
完璧なアリバイ、塗り固めた嘘。
夫の隣で微笑みながら、心は別の男の指先を求めている。
一度知ってしまった濃厚な「薫り」は、もう彼女を元の場所へは戻してくれない。
守るべき家庭と、抗えない本能。
二つの世界の境界線で、美咲が選ぶ「最後の一線」とは――。
欲望の熱に浮かされた女の、美しくも残酷な堕落の記録。
一目惚れ婚~美人すぎる御曹司に溺愛されてます~
椿蛍
恋愛
念願のデザイナーとして働き始めた私に、『家のためにお見合いしろ』と言い出した父と継母。
断りたかったけれど、病弱な妹を守るため、好きでもない相手と結婚することになってしまった……。
夢だったデザイナーの仕事を諦められない私――そんな私の前に現れたのは、有名な美女モデル、【リセ】だった。
パリで出会ったその美人モデル。
女性だと思っていたら――まさかの男!?
酔った勢いで一夜を共にしてしまう……。
けれど、彼の本当の姿はモデルではなく――
(モデル)御曹司×駆け出しデザイナー
【サクセスシンデレラストーリー!】
清中琉永(きよなかるな)新人デザイナー
麻王理世(あさおりせ)麻王グループ御曹司(モデル)
初出2021.11.26
改稿2023.10
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる