星の誓い〜異国の姫はアイスブルーの騎士に溺愛される〜

すなぎ もりこ

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9.謀られた王女-3

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「負けず嫌いだなぁ。でも、僕も負けないよ」

そういって、アルフレッドは素早く身を屈めてカリーナの頬に唇を寄せてキスをした。
カリーナはとっさに身を引いて、真っ赤な顔で叫んだ。
 
「なにするのよ!」

振りかぶった腕を避けてアルフレッドが逃げる、その背中を追った。
王の執務室に繋がる廊下は王宮でもおいそれと立ち入れない区域だ。
そのせいか人の姿は見当たらない。
それをいいことに長く広い廊下を貸しきったかのように、2人は駆けていく。
紺色の制服を纏った長身の騎士をベールを靡かせてドレスをたくしあげて追いかける姫。
誰かが見掛けたら卒倒しそうな光景だ。 

やがて片側が庭に面した外廊に出た。
カリーナは息が上がって膝に手をついて立ち止まった。
そよ風がカリーナのベールを揺らした。

(何をやってるのかしら私は。良い歳をして、子供みたいに) 

でも、こんなに走ったのは久しぶりだ。
心地好い疲れを感じて、カリーナは深呼吸した。
庭の緑が風に揺れて床に落ちた木漏れ日もちらちら揺れている。
改めて庭を見回すと、少し離れた場所で木に凭れてこちらを見ているアルフレッドを見つけた。
アルフレッドは手を振っている。
カリーナの脳裏に昔の光景がふとよぎった。

(ミルトとも良くこうやって追いかけっこしたっけ) 

華奢な割にはしっこい少年には中々追い付けなかった。
いつもカリーナが必死で追いかけてくるのを笑って見ていた。
カリーナは腹を立てて…どうしたっけ。

ふと下を見ると、廊下と庭の間に白い玉石が敷かれているのが目に入った。
カリーナはそれを1つ拾うと庭に足を踏み出した。
アルフレッドは明らかに焦って両手を前に出してガードしている。
カリーナは振りかぶって思いっきり手の中の小石を投げた。
小石はアルフレッドの右肩辺りをギリギリ掠めて木の幹に当たって落ちた。
そう、カリーナはコントロールが相当良かったのだ。
もう1つ玉石を拾おうとすると、アルフレッドが慌てて叫んだ。
 
「カリーナ!悪かった。降参だ」 


「ねえ、カレン、男の方が力も強いし体力もあるものなの。貴女が大きくなるほどにその差も大きくなるわ」

教えてくれたのは誰だったろう。
多分、隠れ里で唯一の機織りだったアンナだ。

「それを解っていてわざと抵抗しないのは優しさなの。ミルトは貴女を大切に思っているから、傷つけたくないのよ。悔しい気持ちを受け止めてくれているの」
 
カリーナは、アルフレッドに投げた石を拾った。

「貴方なら跳ね返すことも出来たでしょ。魔術が使えるんだし」

アルフレッドは、首を傾げた。
 
「カリーナはわざと外したろう?それに下手に跳ね返して君に当たったら困るよ」 
「それにしても、石を投げるなんてあんまりよね」 
「…悔しがらせたのは僕だから、甘んじて受けるよ」
 
カリーナはちらっとアルフレッドを見てから俯いてため息をついた。
 
「アルフレッドは優しいのね。私は駄目だわ。ちっとも成長していない」

アルフレッドはカリーナに駆け寄った。

「僕はその君の負けん気の強いところを好ましいと思っているんだ。それと、僕が優しいとしたら、君にだけだ。どこぞの令嬢に追いかけられたら、本気でまくし、石を投げられそうになったら、魔術で捕縛して放置する」

カリーナは呆気にとられて真顔のアルフレッドを見上げた。
 
「捕縛に放置はやりすぎでしょ?」
 
アルフレッドは首を左右に振った。

「君は彼女らの執拗さを知らないんだ。僕も最初は黙って耐えていたが、女を笠に着てえげつないことこの上ない。本気で振り払わないと僕の身が危ない」 
「へ、へぇ…」
 
大国の貴族子女はそんな肉食なのか。辺境の小国で良かった…というか、
 
「ちょっと待って!私は園遊会で貴方と一緒に居るところを見られてるのよ。肉食令嬢達から確実に敵認定されてるじゃないの」
 
アルフレッドはにっこり笑った。
 
「僕が護衛するんだから大丈夫だよ」

それが尚更に不安なんだってばぁぁぁ、煽るだけじゃないのよぅ。
味方も居ない上に敵だらけって、辛すぎるよ! 
カリーナはガックリ項垂れた。 
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