上 下
25 / 95

10.ガルシア王宮-1

しおりを挟む
プライベートガーデンのガゼボでアルフレッドとカリーナは朝食を取っていた。
 
「正直、舞踏会なんて出たくないけど」

兄が帰国してしまった今、国の代表としての出席は免れないだろう。
 
「舞踏会用のドレスは用意していないから、お借りするしかないわよね。出来れば1人で着れる簡単なものが良いけど……」 

ガルシア王国の令嬢はきっちりコルセットで腰を締め上げてペチコートを重ねた重そうなスカートを引きずっていた。
ジスペインは温暖な気候にあるので衣服はシンプルで軽いものが主流だ。
コルセットなど着けたことがない。
カリーナは憂鬱になった。

「侍女長に聞いてみるよ。僕は女性の衣装には詳しくないからね」

手を煩わせるのは申し訳ないなぁ、きっと今日だって凄く忙しいに違いないのに。
 
「エスコート役のチェンジは出来ないの?」

オムレツを口に運ぼうとしていたアルフレッドはフォークを置いてカリーナを睨んだ。

「それは出来かねます。姫」

答えは予想していたが、一番厄介なのは、国王より注目を集める美形騎士がエスコート役だということだ。
とは言え、もう覚悟を決めるしかない。
出来るだけ敵を作らないように穏便に過ごすにはどうしたらよいだろう? 
カリーナは、思いを巡らせながら、緋色のサイダーの入ったグラスを手に取って乾いた喉を潤した。
ああ、マリカの果汁が入っているのだな、美味しい…
鼻に抜ける甘い独特の香り。
カリーナはこの風味が好きだった。
気付けば、アルフレッドがじっと見つめている。

「なに?」 
「いや、そのサイダー気に入ったのかなって思ってね。結構癖があるから、初めて飲む人は大抵顔を歪めるんだ」

カリーナは一瞬ヒヤリとした。
アルフレッドに他意はないだろう。
しかし、マリカの実のことは良く知らない設定を貫くべきだ。

「そう?私は好きだけど。ジスペインでは香草や花を好んでお茶や料理に使うから、風味の強いものには慣れているのかもね」 
「それ、庭園でカリーナな捻り潰した実の果汁が入ってるんだ」 
「ああ、そうなの?」 
「原種は平地では中々育たないのだけど、品種改良したんだよ。その際に、元々種にあった苦味も取り除いたんだ」 
「へ、へぇぇ」

苦い種をわざと味あわせようとしているなどと勝手に邪推して、挑発した私って…。
カリーナは申し訳無さにアルフレッドを直視出来ずに再度グラスに口を付けた。
それにしても、何故わざわざそうまでしてマリカの実を栽培する必要があったのだろう。
疑問に思ったが、下手に探れば墓穴を掘ることにも繋がる。
カリーナはさりげなく話題を変えた。 
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

病んでる僕は、

BL / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:451

浮遊感

現代文学 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

命の番人

歴史・時代 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

1人の男と魔女3人

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:468pt お気に入り:1

いろはにほへとちりぬるを……

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

不撓不屈

現代文学 / 連載中 24h.ポイント:2,585pt お気に入り:1

俺の番 番外編

BL / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:47

処理中です...