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15.誘惑-2
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「プール国の外交大臣のマルコ=ヴォクシーです」
少し垂れ気味の瞳の下には泣き黒子が2つ並んでいる。
レッドブラウンの髪は緩やかにカールされていて、流石ガルシア王国に次ぐ大国の大臣、洗練された身なりに、大人の色気を漂わせた美男子だ。
「カリーナ姫からプール産の蜂蜜の話を聞いたものだから、早速交渉させていただいたのです」
その隣で緑の目を輝かせて話すフランツ王子。
この方は見るからに善良だなぁ、癒されるなぁ。
「それは宜しかったですわ」
カリーナはベール越しに微笑んだ。
マルコは、興味津々というふうにカリーナを見つめている。少々居心地が悪い。
「何か?」
マルコは身を乗り出してベールの奥を覗き込むように話し出した。
「先日の舞踏会でお見掛けしてから、カリーナ姫と是非お話ししたかったんです!私に限らず、来賓の独身者はすべてそう思っているに違いありません」
カリーナはマルコから距離を取ると、ため息をついた。
「淑女にあるまじき行動でしたわ。つい、調子に乗ってしまいました。お忘れ下さい」
マルコとフランツ王子は、慌てて、いや、あれは素晴らしいダンスだった、見惚れたと褒めそやした。
「それだけではありません。フランツ王子からお聞きしましたが、カリーナ姫は流通に関して広く知見を得ておられるようだ」
カリーナは謙遜する。
それに関しては、目的が不純だから胸を張れる事ではないと思っている。
「ジスペインは、流通の中継点に位置していますので。情報が得やすいだけですわ」
「確かに両隣に港があるし、ジスペインを経由しないと内陸部には行けませんからね」
マルコはうんうんと頷いた。
「それでも、フランツ王子から聞く限り、貴女の知識量は驚異的だし、アイデアもお持ちだ。それを惜しみ無く他国に与える姿勢も私は評価したい」
フランツ王子も頷いている。
「趣味なんです。好きでやっていることなので。単なる小国の王女の暇潰しですわ」
マルコはテーブルの上にあったカリーナの手を取った。
カリーナは驚いて、マルコを見た。
フランツ王子もそのいきなりの行動にギョッとしている。
「カリーナ姫、私は国に帰ったら皇帝に貴女との縁談を願い出るつもりです」
「はあ?」
カリーナは唖然としてマルコを見つめた。
「私は外交大臣です。正直、貴女のその知識が是非とも欲しい。勿論、それだけではありません。先日の妖精のように可憐なダンス!更に今日お話しして貴女の奥ゆかしい人柄に触れ、思いを強くしました」
マルコはカリーナの手を引き寄せて、口付けを落とした。
「貴女はたいへん魅力的な女性だ」
上目遣いで良い声で囁かれ、カリーナは思わず赤面した。
何故か隣のフランツ王子もマルコの色気に当てられ、真っ赤になっている。
「貴女をエスコートしていた騎士の存在も気になりますが、負けはしません」
カリーナは熱烈なアプローチに為す術がなく狼狽えた。
「えーと…買いかぶり過ぎだと思いますわ。私、自国では引き取り手が無いので神殿に入れと言われる始末で……」
何故こんな場所で恥をさらさないといけないのか…
「そんな!勿体ない」
マルコはカリーナの手を両手で握りしめ、完全に及び腰になっているカリーナに身体を寄せてくる。
(ひぃぃー)
人目がある中で、あからさまに邪険に扱う訳にもいかず、カリーナは背中に汗をかいていた。
「私なら貴女を退屈させませんよ。色々な場所にお連れできる。貴女と共にあれば私の未来はきっと満ち足りたものになるでしょう」
カリーナはふと考えた。
マルコの申し出はカリーナの商人に嫁ぐという望みに近い。大国の大臣と繋がりが持てれば、ジスペインとしても利になる。
確かにそうなのだが…
「南の国の可愛らしい琥珀姫。是非、私との未来を考えて下さい」
少し垂れ気味の瞳の下には泣き黒子が2つ並んでいる。
レッドブラウンの髪は緩やかにカールされていて、流石ガルシア王国に次ぐ大国の大臣、洗練された身なりに、大人の色気を漂わせた美男子だ。
「カリーナ姫からプール産の蜂蜜の話を聞いたものだから、早速交渉させていただいたのです」
その隣で緑の目を輝かせて話すフランツ王子。
この方は見るからに善良だなぁ、癒されるなぁ。
「それは宜しかったですわ」
カリーナはベール越しに微笑んだ。
マルコは、興味津々というふうにカリーナを見つめている。少々居心地が悪い。
「何か?」
マルコは身を乗り出してベールの奥を覗き込むように話し出した。
「先日の舞踏会でお見掛けしてから、カリーナ姫と是非お話ししたかったんです!私に限らず、来賓の独身者はすべてそう思っているに違いありません」
カリーナはマルコから距離を取ると、ため息をついた。
「淑女にあるまじき行動でしたわ。つい、調子に乗ってしまいました。お忘れ下さい」
マルコとフランツ王子は、慌てて、いや、あれは素晴らしいダンスだった、見惚れたと褒めそやした。
「それだけではありません。フランツ王子からお聞きしましたが、カリーナ姫は流通に関して広く知見を得ておられるようだ」
カリーナは謙遜する。
それに関しては、目的が不純だから胸を張れる事ではないと思っている。
「ジスペインは、流通の中継点に位置していますので。情報が得やすいだけですわ」
「確かに両隣に港があるし、ジスペインを経由しないと内陸部には行けませんからね」
マルコはうんうんと頷いた。
「それでも、フランツ王子から聞く限り、貴女の知識量は驚異的だし、アイデアもお持ちだ。それを惜しみ無く他国に与える姿勢も私は評価したい」
フランツ王子も頷いている。
「趣味なんです。好きでやっていることなので。単なる小国の王女の暇潰しですわ」
マルコはテーブルの上にあったカリーナの手を取った。
カリーナは驚いて、マルコを見た。
フランツ王子もそのいきなりの行動にギョッとしている。
「カリーナ姫、私は国に帰ったら皇帝に貴女との縁談を願い出るつもりです」
「はあ?」
カリーナは唖然としてマルコを見つめた。
「私は外交大臣です。正直、貴女のその知識が是非とも欲しい。勿論、それだけではありません。先日の妖精のように可憐なダンス!更に今日お話しして貴女の奥ゆかしい人柄に触れ、思いを強くしました」
マルコはカリーナの手を引き寄せて、口付けを落とした。
「貴女はたいへん魅力的な女性だ」
上目遣いで良い声で囁かれ、カリーナは思わず赤面した。
何故か隣のフランツ王子もマルコの色気に当てられ、真っ赤になっている。
「貴女をエスコートしていた騎士の存在も気になりますが、負けはしません」
カリーナは熱烈なアプローチに為す術がなく狼狽えた。
「えーと…買いかぶり過ぎだと思いますわ。私、自国では引き取り手が無いので神殿に入れと言われる始末で……」
何故こんな場所で恥をさらさないといけないのか…
「そんな!勿体ない」
マルコはカリーナの手を両手で握りしめ、完全に及び腰になっているカリーナに身体を寄せてくる。
(ひぃぃー)
人目がある中で、あからさまに邪険に扱う訳にもいかず、カリーナは背中に汗をかいていた。
「私なら貴女を退屈させませんよ。色々な場所にお連れできる。貴女と共にあれば私の未来はきっと満ち足りたものになるでしょう」
カリーナはふと考えた。
マルコの申し出はカリーナの商人に嫁ぐという望みに近い。大国の大臣と繋がりが持てれば、ジスペインとしても利になる。
確かにそうなのだが…
「南の国の可愛らしい琥珀姫。是非、私との未来を考えて下さい」
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