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15.誘惑-3
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「すみません。カリーナ姫、マルコ殿がまさかあのような思惑を持っておられたとは気付きませんでした」
マルコが侍従に呼ばれて去った後、フランツ王子は申し訳なさそうに眉を下げた。
「フランツ王子が気に病まれる必要はございませんわ。まあ、ちょっとびっくりしましたけど」
カリーナは片手で火照った顔を扇ぎながらテーブルの果実水を一口飲んだ。
喉がからからだ。
フランツ王子は少し赤面してうつむきがちに打ち明けた。
「僕も良い縁談を見付けるように、せっつかれているのですが、あの方のように積極的にはなれなくて」
「フランツ王子はその誠実で正直なところが良いのです。それは誰でも持てるものではないと思いますわ。焦らずともきっと素敵なお相手が現れます」
行き遅れの自分が言っても説得力はないかもしれないが、心よりそう思う。
腹芸ばかり身に付けて小賢しいのが当たり前の王族、貴族の中において、心の真っ直ぐさを失わないフランツ王子は、きっとその優しい見かけによらず強いのだ。
「ありがとうございます。そうおっしゃっていただけると勇気がでます。カリーナ姫はやっぱりお優しい方ですね」
フランツ王子ははにかんで笑ったあと、心配そうにカリーナを見た。
「マルコ殿はあの若さで大臣に任命されるだけあって、他国でもその交渉術が高く評価されている方です。加えてあの容姿なので女性の扱いにも長けているようで、そちらの方面での噂も良く耳にします」
カリーナはマルコの所作を思い返す。確かに手慣れた風だった。
「何を仕掛けてくるかわかりません。貴女のエスコート役の騎士にも、お伝えした方がよろしいと思いますよ」
展望台にはノーラを始め、数人の騎士が警備にあたっていたのだから、アルフレッドにはカリーナが説明するまでもなく筒抜けだった。
フランツ王子と別れた後、手摺のそばで祭りに沸く城下町を見下ろしているところ、背後から近付いてきたアルフレッドにいきなり腰を引き寄せられた。
「あ、あら、アルフレッド。早かったのね」
別に疚しいことはないのだが、何故か狼狽える自分がいる。
「プール国の大臣に何を言われたの?」
片手で腰を抱かれ、手を絡められる。
当然、身体は密着する。
「ねえ、近いってば。皆見てるでしょ」
カリーナが小声で抗議すれば、アルフレッドは無表情で言葉を返した。
「わざと見せつけてる。でないと煩いハエが寄ってくる。君が1人になるのを狙っている輩があちこちにいるようだからね」
カリーナは、マルコも同じような事を言っていたことを思い出した。
「珍しいだけよ。同盟国の来賓の中に未婚の王女なんてほとんどいないし、私は同伴者もいないから声が掛けやすいんでしょ」
アルフレッドは目を伏せた。
「そうだね。僕のせいだ。引き留めたくせに守りきれてない」
とたんにしゅんとした子犬のようになったアルフレッドを繋がれた手で引っ張って、カリーナはずんずん歩き出した。
「もう!いちいち落ち込まないの!私はそんなに柔じゃないし、誰にでもホイホイ付いていくほど警戒心のない人間じゃないんだから!」
「そうかなぁ」
アルフレッドは引っ張られるまま疑わしげにカリーナを見ている。
カリーナはムッとして繋いだ手を振り離した。
「信用しないんならいいわよ!もう、一緒にランチは食べないからね!」
アルフレッドは慌てて離れた手を掴んでカリーナを引寄せ、背後から腰を抱くと、耳元で謝罪し宥めた。
と、いう一連の恋人同士のじゃれあいにしか見えない様子を、展望台にいた人々に余すことなく見られていたことを、カリーナは全く気付いていなかった。
マルコが侍従に呼ばれて去った後、フランツ王子は申し訳なさそうに眉を下げた。
「フランツ王子が気に病まれる必要はございませんわ。まあ、ちょっとびっくりしましたけど」
カリーナは片手で火照った顔を扇ぎながらテーブルの果実水を一口飲んだ。
喉がからからだ。
フランツ王子は少し赤面してうつむきがちに打ち明けた。
「僕も良い縁談を見付けるように、せっつかれているのですが、あの方のように積極的にはなれなくて」
「フランツ王子はその誠実で正直なところが良いのです。それは誰でも持てるものではないと思いますわ。焦らずともきっと素敵なお相手が現れます」
行き遅れの自分が言っても説得力はないかもしれないが、心よりそう思う。
腹芸ばかり身に付けて小賢しいのが当たり前の王族、貴族の中において、心の真っ直ぐさを失わないフランツ王子は、きっとその優しい見かけによらず強いのだ。
「ありがとうございます。そうおっしゃっていただけると勇気がでます。カリーナ姫はやっぱりお優しい方ですね」
フランツ王子ははにかんで笑ったあと、心配そうにカリーナを見た。
「マルコ殿はあの若さで大臣に任命されるだけあって、他国でもその交渉術が高く評価されている方です。加えてあの容姿なので女性の扱いにも長けているようで、そちらの方面での噂も良く耳にします」
カリーナはマルコの所作を思い返す。確かに手慣れた風だった。
「何を仕掛けてくるかわかりません。貴女のエスコート役の騎士にも、お伝えした方がよろしいと思いますよ」
展望台にはノーラを始め、数人の騎士が警備にあたっていたのだから、アルフレッドにはカリーナが説明するまでもなく筒抜けだった。
フランツ王子と別れた後、手摺のそばで祭りに沸く城下町を見下ろしているところ、背後から近付いてきたアルフレッドにいきなり腰を引き寄せられた。
「あ、あら、アルフレッド。早かったのね」
別に疚しいことはないのだが、何故か狼狽える自分がいる。
「プール国の大臣に何を言われたの?」
片手で腰を抱かれ、手を絡められる。
当然、身体は密着する。
「ねえ、近いってば。皆見てるでしょ」
カリーナが小声で抗議すれば、アルフレッドは無表情で言葉を返した。
「わざと見せつけてる。でないと煩いハエが寄ってくる。君が1人になるのを狙っている輩があちこちにいるようだからね」
カリーナは、マルコも同じような事を言っていたことを思い出した。
「珍しいだけよ。同盟国の来賓の中に未婚の王女なんてほとんどいないし、私は同伴者もいないから声が掛けやすいんでしょ」
アルフレッドは目を伏せた。
「そうだね。僕のせいだ。引き留めたくせに守りきれてない」
とたんにしゅんとした子犬のようになったアルフレッドを繋がれた手で引っ張って、カリーナはずんずん歩き出した。
「もう!いちいち落ち込まないの!私はそんなに柔じゃないし、誰にでもホイホイ付いていくほど警戒心のない人間じゃないんだから!」
「そうかなぁ」
アルフレッドは引っ張られるまま疑わしげにカリーナを見ている。
カリーナはムッとして繋いだ手を振り離した。
「信用しないんならいいわよ!もう、一緒にランチは食べないからね!」
アルフレッドは慌てて離れた手を掴んでカリーナを引寄せ、背後から腰を抱くと、耳元で謝罪し宥めた。
と、いう一連の恋人同士のじゃれあいにしか見えない様子を、展望台にいた人々に余すことなく見られていたことを、カリーナは全く気付いていなかった。
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