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23.果たされる約束-1

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無数の星が白い光を放ち天空から流れていた。
空の一点から放射状に降り注ぐ幾つもの光の軌跡が夜の空を埋めつくし、青草の茂る丘を明るく照らす。
圧巻の光景の中にいて、音はまるで聞こえない、光が音をも吸い込んでしまったかのような静寂だ。
カリーナは、アルフレッドの腕に掴まって
ただひたすらに、空をみつめた。
皆、奇跡のようなこの星空に気付いているのだろうか。
ガルシアの王宮や城下町でも大騒ぎだろう。
故郷のジスペインではどうだろう。
もしかしたら、アルフレッドとカリーナの2人がいる、この場所だけで起きている現象なのかもしれない。
そう考えてしまうほど、幻想的で現実味のない空間だった。
次々に流れ落ちるのは、箒星の塵だと説明してくれたのは、天体マニアだと自ら称していた隠れ里の村長だ。
村長も見ているだろうか、だとしたら、きっと狂喜乱舞しているに違いない。
繋いだ手に力が込められ、隣に立つアルフレッドが口を開いた。

「君とこれを見たかったんだ。…まさか、これほどの規模になるなんて予想外だったけど」

カリーナは、隣に立つ男を見上げた。
流星の光に照された美しい横顔は、夢見るような瞳で夜空に魅入っている。
カリーナは涙が込み上げてきた。

「10年前は見逃したものね」

アルフレッドが目を見開いてカリーナを見下ろした。
カリーナは視線を空に向けて、手を握り返す。

「約束したものね」

アルフレッドはしばらく沈黙した後、小さな声で問いかけた。

「覚えていたの?」

カリーナの目から涙が溢れた。

「忘れたことなんてなかった」

アルフレッドに目を合わせて、嗚咽を堪えながら絞り出した。

「ミルト、ごめんなさい」

力強い腕が、カリーナを抱き締めた。
涙が紺色の騎士服を湿らせる。

「何故謝るの」
「だって、貴方を突き放したわ」
「君は制約に従っただけだ」
「でも、貴方を傷つけた」

アルフレッドは腕を緩めると、ポケットから大判のチーフを取り出して草の上に敷き、カリーナを座らせ、自分は隣に腰を下ろした。

「確かに、あの時はショックだったよ。それまでも僕はずっと疎まれて利用されてきたから。大好きだった君にまで拒絶された気がして」

カリーナは、顔を覆って泣きじゃくった。
止めようにも止まらない。
アルフレッドは、そんなカリーナの肩を抱き寄せて、頭を擦り付けた。

「忘れようと思ったんだ。しばらくは思い出すのも辛かった。…でも、いつしか君と過ごしたあの時間は、僕の支えになってた」

辛い気持ちを振り切るように、がむしゃらに鍛練を重ねて騎士副団長に就任した頃には、政権も安定し、余裕も出てきた。

「君の事を思い出すことが増えたんだ。正直言って、もう二度と会えないと諦めていたけど、こっそり持ち帰ったマリカの種を改良したり、隠れ里に似せた庭園を作ったり、天文台を作ろうとしたのも、その頃からで…未練がましいと思いつつも、やっぱり、僕にとって大切な思い出だったから、風化させたくなかったんだと思う」

ようやく落ち着いてきたカリーナは、鼻をすすりながら、訊ねた。

「私がジスペインの王女だと知っていたの?」

アルフレッドは、今度は胸ポケットから白いハンカチを取り出してカリーナの涙を拭う。

「何となくは…。でも、詳しく調べることはしなかったんだ。少し…恐くて。君がすでに誰かと婚姻していたらと思うと。覚悟はしていたけど」
「私はかなり調べたわ。間違えたけど」

アルフレッドは、カリーナを見た。

「探してくれてたの?!」
「うん。でも、カール陛下だと勘違いしてた。昨年、王妃と婚姻されたから、今回はきっぱり諦めるために、お兄様に頼んでガルシアに来たの」

アルフレッドは、あー、と声を上げて天を仰いだ。

「カール陛下と僕は双子だしね。あの頃の僕は、髪色と瞳の色を似せていたから。婚約が消滅したっていうのはそういう意味だったのか」

カリーナは、レイモンドから粗方の話を聞いたことを打ち明けた。

「貴方と一緒に居る内に、もしかして、と思い始めたの。レイモンドに会って確信したわ」

アルフレッドにはレイモンドに会ったことを隠しておくようにお願いしてあったのだ。

「僕は、君がマリカの実をひねり潰した時に確信したけどね」
「…あれは、申し訳なかったわ」

アルフレッドは声を上げて笑った。

「僕は嬉しかったよ。いても立ってもいられなくて、ベールを飛ばした」
「まさか、ミルトが魔術を使えたなんて…あの頃は全く気付かなかった」
「重要機密事項だったからね。使うのは家の中だけに限られてた」
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